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落語百選05

时间: 2019-09-15    进入日语论坛
核心提示:浮世床《うきよどこ》江戸時代、ちょん髷《まげ》という、海苔巻《のりまき》のようなものを頭の上につけていた時分には、町内の
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浮世床《うきよどこ》

江戸時代、ちょん髷《まげ》という、海苔巻《のりまき》のようなものを頭の上につけていた時分には、町内の若い衆が、髪結床《かみいどこ》へ集まって、一日中、遊んでいた。床屋で遊ぶというのはおかしいが、ここには、四畳半とか、六畳ぐらいの小室《こま》があって、将棋盤に碁盤、貸本のようなものが備えてある。看板もいまとちがっていて、油障子に奴《やつこ》の絵を描いたのが奴床、天狗の下に床の字が書いてあると、これが天狗床、おかめの絵の下に床の字がついていると、おかめ床というぐあいに……。
「おいおい、ごらんよ」
「なに?」
「あの、海老床の看板、よく描けたじゃあねえか。海老がまるで生きてるようだな」
「え?」
「あの海老、生きてるな?」
「いや、生きちゃあいねえや」
「生きてるよ」
「生きてるもんか。どだい、絵に描いた海老だよ、生きてるわけがねえだろ」
「いや、生きてるよ。見てごらんよ。ひげを、こう、ぴーんとはねて……たしかに生きてるよ」
「うそを言え、死んでらい」
「生きてるってえのに……こん畜生、なぐるぞ」
「なにをっ」
「おいおい、お待ち、お待ち、おまえたちは、なんだって喧嘩してるんだ?」
「へえ、ご隠居さん、いまね、この髪結床の障子に描いてある海老が、じつによくできてるんで、まるで生きてるようだと言いますとね、この野郎が『死んでる』と、こうぬかしやがる、ねえ、ご隠居さんがごらんになって、あの海老は、どう見えます? 生きてるでしょう?」
「生きちゃあいないなあ」
「ざまあみやがれ、生きてるわけがねえじゃあねえか。ねえ、ご隠居さん、死んでますね?」
「いや、死んでもいないな」
「へえー、生きてなくて、死んでもいねえっていうと、どうなってるんです?」
「ありゃ、患《わずら》ってるな」
「患ってる?」
「ああ、よくごらんよ。床についてる」
変なところで、落ちをとられたりする。
「だれだい、むこうの隅で、壁に頭をおっつけて本を読んでるのは、銀さんかい……おい、銀さん、なにしてんだい?」
「うん、いま、本を読んでるんだ」
「いったい、何の本?」
「戦《いく》さの本」
「ほーう、なんの戦さだ?」
「姉さまの合戦」
「え? 変な戦さだなあ、姉さま?」
「あの、本多《ほんだ》と真柄《まがら》の一騎討ち」
「ああ、それなら姉川の合戦じゃないか?」
「ああ、それ……」
「そりゃ、おもしろそうだな。本を読むなら声を出して、読んで聞かしておくれよ」
「だめ」
「どうして?」
「本てえものは、黙って読むところがおもしろい」
「そんな意地のわりいことを言わねえでさ、みんなここにいるやつは退屈しているんだからさ、ひとつ読んで聞かしておくれよ」
「じゃあ読んでやってもいいが、そのかわり、読みにかかると、止まらなくなる」
「そんなに早えのかい?」
「立て板に水だ」
「へえー」
「さーってやっちまうよ。途中で聞きのがしても、おんなしとこは、二度と聞かれねえからな」
「そうかい、じゃあ、そのつもりで聞くよ」
「静かにしろ」
「うん」
「動くな」
「うん」
「息をとめろ」
「冗談言うない、息をとめりゃ死んじまわな」
「よし、はじめるぞ。……えー、えーえーッ」
「ずいぶんえ[#「え」に傍点]が長いね」
「柄が長いほうが汲みいいや。……ううゥ……ん」
「なんだい、うなされてるようだな」
「いま調子を調べているところだ……ひと……ひとつ……ひとつ……ひとつ……」
「なんだい、いつまでたってもひとつだね。ふたつになんねえかい?」
「黙って聞きなよ……ひとつ、あね、あね、あね川……あね川かつ……かつせん、のことなり」
「なんだか、あやまり証文みてえだな。『一《ひとつ》、姉川合戦のことなり』からはじめられちゃあかなわねえ。本多と真柄の一騎討ちのところから読んでくれよ」
「じゃあ、真ん中から読むよ。……えへん、このとき真柄ッ」
「調子が上がったね」
「ここんとこから二上がりになる」
「おあとは?」
「このとき、真柄じゅふろふさへへ……さへへ……さへへ……」
「おいっ、どこかやぶれてるんじゃねえのか。おまえのは『立て板に水』じゃねえ、『横板にモチ』だよ。……そりゃ真柄十郎左衛門だろ?」
「ああ、そうだ、そうだ……で、どうなるんだい?」
「おめえが読んでるんじゃあねえか」
「ああ、そうそう……真柄十郎左衛門が、敵にむかつ……むかつ……むかついて……むかついて……」
「おい、だれか金だらいを持ってこいよ。むかつくてえから……」
「なにをよけいなことをするんだよ。ここに書いてあるからよ……敵にむか……ああ、むかって……だ」
「ああ、心配したぜ。むかってならわかるが、むかついてって言うからよ」
「戦さなんてものは、両方の大将がむかついてはじまるもんだ……敵にむかって、一尺二寸の大太刀を……まつこうッ」
「おい、松公、呼んでるぜ」
「まつこうッ」
「なんだい?」
「なんで、そこで返事をするんだ?」
「いま、おまえ、松公ッて呼んだろう?」
「ちがうんだ。本に書いてある……敵にむかって、真ッこう……だ。真っこう、お、お、じょう、だん、に、ふり、ふりかぶり……」
「なんだい、だらしがねえなあ。ところでおまえ、……一尺二寸の大太刀を真っこう、大上段《だいじようだん》にふりかぶり……って言ったけど、一尺二寸といえば、こんなもんじゃあないか。真柄十郎左衛門といえば、北国随一の豪傑だぜ、長えから大太刀だろう? 一尺二寸の大太刀ってえのはないだろう?」
「横に断わり書きがしてあらあ」
「なんとしてあるんだ」
「もっとも一尺二寸は刀の横幅なり」
「え? 横幅かい?……しかし、そんなに横幅があったんじゃあ、ふりまわしたときにむこうが見えなくなるだろう?」
「ああ、それだから、また、断わり書きがしてある」
「また、断わり書きかい?」
「うん……もっとも、ふりまわしたときに、むこうが見えないといけないから、ところどころに窓をあけ……」
「へーえ、こりゃあおどろいた。刀に窓があいてんのかい?」
「ああ、この窓からのぞいては敵を斬り、窓から首を出しては、本多さん、ちょっと寄ってらっしゃい……」
「なにを言ってやがるんだ。もうおよしよ。そんなばかばかしいものを聞いていられるかい」
「どうしたい、みんなで銀さんをからかったりして……」
「からかってるんじゃない。逆にからかわれちまった」
「おい、どうだい、ぼんやりしててもしょうがねえから、やるかい?」
「なにを?」
「前へ将棋盤が出ていて、やるかいって聞いてるんじゃあねえか、将棋だよ」
「将棋か……やってもいいが、将棋の駒のならべ方だってわかっちゃいないんだろう?……ええ、ならべられるものならならべてみろいッ、一番、教えてやるから」
「大きく出やがったね。将棋の駒のならべ方なんてものは、名人上手がならべたって、習いたてのやつがならべてもちがいがあるかってんだ」
「おいおい、みんなごらんよ。知らねえ証拠がこれだよ。飛車と角があべこべだ」
「ほう、気がついたか。はじめこうしておいて、あとで直すのがおれの流儀だ。そんなことを言ってねえでてめえのほうを早くならべろい」
「おれのは早いよ。まばたきする間にならべちゃうからよく見ていろよ。いいかい、はじめにこうやって、両手で盤を持ち上げるんだ。こうしておいて、こう、ぐるっと半回りさせちゃうんだ」
「おいおい、なにをするんだ? おれのならべたのを……ひどいや」
「文句を言ってねえで、早くもう一度ならべちまえ。無精だなあ」
「どっちが無精だ。一番で二度駒をならべたのははじめてだ。どうもあきれたもんだ」
「まあ、いいやな。ぐずぐず言うなよ。さあ、やろう」
「うん……先手、どっち?」
「金、歩……金が出れば金が先手、歩が出れば歩が先手」
「じゃあ、金と歩」
「両方はだめだよ。どっちかだよ。金か歩かい?」
「まあ待ちなよ。そうおまえのようにせっかちに言われると、どうも迷う性分で……」
「じれってえなあ。どっちでもいいじゃあねえか」
「勝負ごとは最初《はな》が肝心だから……うふふふふ、どっちが出る?」
「わからねえよ。わからねえからやってみるんじゃねえか」
「けれども、おめえが振るんだから、どっちらしいかわかるだろう?」
「わかりゃあしねえよ。気の長え男だなあ、どっちでもいいじゃねえか、金かい?」
「と言われると、歩にも未練があるし……」
「じゃあ、歩にするの?」
「おめえが歩だよって言うと、歩のような気もするし……」
「なにを言ってるんだ。ひっかくよ。どっち? 金、歩?」
「じゃあ、金だ」
「金だな? いいんだな? じゃあ、おれは歩だよ」
「ああ」
「畜生め、手数ばかりかけやがって……さあ、駒を振るよ……ほら、歩だ」
「うーん、やっぱり歩か……歩にしておけばよかった……はァ……」
「なんだ溜息なんかついて、指《さ》すまえからがっかりして、この野郎は……おまえは愚痴が多くっていけねえな。……さて、まず角の腹へ銀あがりといくか」
「ああ、どうも、弱ったな。角の腹へ銀があるのはおれはいやなんだ。そいつは、弱った。ところで、手はなにがある」
「なぐるぞ、おい。手にもなんにもいま一つ動かしたばかりじゃあねえか」
「ああ、そうか……じゃ、しょうがないから、おれも角の腹へ銀があがらあ」
「真似《まね》をしたね」
「ああ、最初は真似《まね》のおどり(亀の踊り)なり……」
「なんだい、それは……洒落かい? そうだ。ただ将棋を指すのはおもしろくねえ。しゃれ将棋といこう」
「なんだい、しゃれ将棋てえのは?」
「駒を動かすたびに、駒でしゃれるんだよ。しゃれが出なかったら一手、飛び越し。いや、むずかしいことはないよ。……歩を突いて『ふづき(卯月《うつき》)八日は吉日よ』ってえのは、どうだい」
「あ、なるほど、うまいね。じゃあ……あたしも歩を突いて、『ふづき八日は……』いまやったね。『九日十日は金比羅さまのご縁日』と……」
「なんだい、それは?」
「しゃれ」
「どうです、角道《かくみち》をあけて『角道(百日)の説法|屁《へ》ひとつ』」
「じゃあ、あたしも角道をあけて『角道の説法屁ふたつ』」
「ばかだね。屁をふやしてやがら……角のはな[#「はな」に傍点]に金があがって『金角(金閣)寺の和尚』」
「じゃあ、おれのほうも金があがって『金角寺の……』」
「おっと真似はだめだよ」
「真似じゃない。和尚でなくて『金角寺の味噌すり坊主』」
「だめだよ。そんなのは……歩をさして『ふさし(庇《ひさし》)の下の雨宿り』」
「うまいッ。くやしいねえ。じゃあ、あたしも歩をさして、ふさしの下の……」
「おまえは真似ばかりしているね。雨宿りはいけないよ」
「じゃあ、『ふさしの下の首くくり』と……」
「ろくなことを言わないな。じゃあ、もうしゃれはなしだ。さあ、これをとって王手飛車とり」
「どっこい、そうはいくものか」
「そこを逃げたら、こいつをとって、こうやったらどうする?」
「ああ、ばかにさみしくなっちまった。手になにがある?」
「いまごろになって聞いてやがる。両手に持ちきれねえほどあらあ、貸してやろうか」
「なにがある?」
「金、銀、桂、香、歩に王」
「王?」
「さっき、おれが、王手飛車とりとやったら、『どっこい、そうはいくものか』って、おまえの飛車が逃げたじゃねえか。だから、そのとき王さまをとったんだ」
「ああ、そうか。油断がならねえや……だけど、おれの王さまは、おまえがとったんだけど、おまえの王さまが見えねえじゃあねえか」
「おれのほうは、最初《はな》からとられるといけねえから、じつは、ふところへ隠しておいたんだ」
「こんな将棋を指してたって、いつまで勝負のつくわけがねえや、もうやめだ」
「おや、この最中《さなか》に、だれかいびきをかいて寝てやがる……おや、半公じゃあねえか。見なよ、こいつの寝てるざまは、どうもいい面《つら》じゃあねえな……おやおや、鼻から提灯を出しゃあがったぜ……あれッ、消しゃあがった。またつけたよ。こんどは、少し大きいや。提灯をつけたり、消したり……うん、お祭りの夢なんかみてやがるんだな。おい、半公起きろよ、おいっ半公っ」
「おいおい、だめだよ。そんなことを言ったって起きるもんか」
「じゃあ、どうすりゃあいいんだい?」
「なにしろ、こいつは食いしん坊だ。『半ちゃん、ひとつ食わねえか?』と言やあ、すぐに目をさまさあ」
「そうかい……おい、半ちゃん、ひとつ食わねえか?」
「ええ、ごちそうさま」
「おやっ、寝起きがいいな。じつは、いまのはうそだ」
「おやすみなさい」
「現金な野郎だな……いいからもう起きなよ」
「あ、あ、あーあ」
「大きなあくびだな。みっともねえ野郎だ。よく寝るなあ、てめえは……」
「ああ、眠くてしようがねえ。なにしろ、身体が疲れてるんでね」
「そうかい、仕事が忙しいんだな」
「いや、どういたしまして、仕事どころの話じゃあねえんだ。女で疲れるのは、しん[#「しん」に傍点]が弱ってしょうがねえ」
「あれっ、変な野郎を起こしちゃったな。寝かしといたほうが無事だった。起きて寝言を言ってやがらあ……なんだい、その女で疲れるのはしん[#「しん」に傍点]が弱るてえのは? 女でもできたのか?」
「うふふふふ、まあな」
「おやっ、オツに気どりやがったな。なにを言ってやがるんだ。てめえなんぞ女のできる面かい」
「なあに、人間は面で女が惚《ほ》れやあしねえよ。ここに惚れるのさ」
「おや、胃が丈夫なのかい?」
「なにを言ってんだ、胸三寸の心意気てえやつよ」
「笑わせるんじゃねえぜ。てめえが、なにが胸三寸の心意気だ。ひとから借りたものは、忘れるか、しらばくれるのか知らねえが、めったに返《けえ》したことはねえし、貸したものはいつまでも覚えてるし……」
「そんなことはどうでもいいや。こう見えても、おれは、たいへんな色男なんだ」
「ふーん、世の中には、よっぽど酔狂な女がいるもんだな。でなきゃあ、おめえに惚れるはずがねえや。器量がわるくっても、身なりがいいとか、どっか垢《あか》ぬけしてるとか、読み書きができるとか、遊芸ができるとか、金があるとか、人間には、ひとつぐれえ長所《とりえ》があるもんだが、おめえてやつは、面はまずいし、人間がいやしいし、身なりはみすぼらしいし、金は持ってたためしがねえし、しゃれはわからず、粋なことは知らず、食い意地が張って、助平で、おまけに無筆ときているから、ひとつだって長所《とりえ》なんぞありゃあしねえ」
「そねむな、そねむな。そんなにおれの悪口をならべ立てることはねえ……じつは、きょう芝居の前を通ったんだ。別に見るつもりはなかったんだが、看板を見ているうちに、急にのぞいて見たくなったんで、木戸番の若え衆と顔見知りのやつがいたもんだから、そいつに頼んで、立ち見でいいからってんで、一幕のぞかせてもらったんだ」
「うん」
「おれが、東の桟敷《さじき》の四つ目あたりだったかな……そこへ立って見てたんだ。すると、前に座っていたのが、年ごろ二十二、三かなあ……しかし、女がいいと年齢《とし》を隠すから、まあ二十五、六……いや、よく見ると、もう七、八……そうだなあ、かれこれ三十に手がとどいてやしねえかとおもうが、ちょいと白粉《おしろい》をつけているから、あれをはがすと、もうあれで三十四、五……小皺《こじわ》の寄ってるぐあいで四十二、三……声のようすでは五十一、二……かれこれ六十……」
「なにを言ってやがるんだ。それじゃあ、まるっきりばばあじゃねえか」
「まあ、二十三、四といやあ、あたらずといえども遠からずだ。持ち物といい、身装《なり》のこしらえといい、五|分《ぶ》の隙もねえてなああれだね。五十二、三のでっぷりふとった婆やを供につれて、一間《いつけん》の桟敷を買い切ってよ、ゆったりと見物だ。どこを見たって、肩と肩と押しあっているなかで、ぜいたくなことをしてやがるなとおもって見ていた。そのうちに、音羽屋のすることにオツ[#「オツ」に傍点]なところがあったんで、おれが、大きな声で『音羽屋!』って褒《ほ》めたんだ。すると、女が振りむいて、おれの顔を見上げて、にっこり笑った。むこうで笑うのに、こっちが恐《こえ》え面《つら》ァしてるわけにもいかねえから、なんだかわからねえが、おれもにこりっと笑った。むこうでに[#「に」に傍点](二)こりっ、こっちでに[#「に」に傍点](二)こりっ……合わせてし[#「し」に傍点](四)こりっ……」
「なにつまらねえことを言ってるんだ」
「『あなたは、音羽屋がご贔屓《ひいき》でいらっしゃいますか?』って女から声をかけたから、『いいえ、贔屓というわけにはいきませんが、贔屓のひき倒しでございますよ』『わたくしも音羽屋が贔屓でございまして、褒《ほ》めたいところはいくらもございますが、殿方とちがって、褒めることができませんから、あなた、どうぞ褒めてくださいましな』てえから『ええ、お安いご用でございます。あっしが、褒めるほうだけは、万事お引き受けいたしやしょう』と、こう言った」
「つまらねえことを引き受けたな」
「ああ、銭がかからねえこったから損はねえとおもってね……と、女が、『もしおよろしければ、どうぞお入りくださいまし』と言うから、『それじゃあ、まあ、隅のほうをちょいと貸していただきます』ってんで……」
「入《へえ》っちゃったのか? ずうずうしい野郎だな」
「女が、おれの膝をつっついて、『お兄さん、ここがよろしいではございませんか?』と言うから、ここが褒めてもらいてえというきっかけ[#「きっかけ」に傍点]だから、『音羽屋!』と褒めた。女がよろこんでね、『お芝居が引き立ちますから、もっと大きな声でお願いします』ってえから、うんと声を張り上げて、『音羽屋!』……『もっと大きな声で……』と言うから、『これより大きな声はでません。これが図抜《ずぬ》け大《おお》一番でございます』と言って……」
「早桶《はやおけ》をあつらえてるんじゃあねえや」
「それから、大きな声で、『音羽屋!』『音羽屋!』『音羽屋!』」
「うるせえな、この野郎」
「のべつに[#「のべつに」に傍点]膝をつっつくんだよ。ここが忠義の見せどころだとおもったからね、夢中になって、『音羽屋!』『音羽屋!』てんでやってると、まわりのやつが笑ってやがる。女が、おれの袖をひっぱって、『もう幕が閉まりました……』」
「まぬけな野郎だな。幕の閉まったのも気がつかねえのか?」
「おれもばつ[#「ばつ」に傍点]がわりいから、『幕!』……」
「ばかっ、幕なんぞ褒めるなよ」
「そのうちに、女がふたありで、なにかこそこそしゃべっていたが、『どうぞごゆっくり……』ってんで、すーっと下へおりてって、それっきり帰ってこねえ」
「ざまあみやがれ。てめえが幕なんぞ褒めたもんだからあきれ返《けえ》って逃げ出したんだろう?」
「うん、おれもそうだとおもったから、帰ろうかなとおもっているところへ、若え衆がやって来て、『お連れさまが、お待ちかねでございますから、どうぞ、てまえとご一緒に……』と、こう言うんだ」
「へーえ」
「『人ちげえじゃあねえか?』『いいえ、おまちがいではございません。どうぞご一緒に……』って言うんだ。若え衆の案内で茶屋の裏二階へいくと、さっきの女がいて、上座に席ができていて、『さきほどのお礼と申すほどのことでもございませんが、一献《いつこん》さし上げたいと存じまして……』と、きた」
「へーえ、一献てえと、酒だな?」
「そうよ。水で一献てえなあねえからな……『婆や、お支度を……』と、目くばせをすると、婆やが心得て階下《した》へおりる。入れちがいに、トントンチンチロリン……」
「なんだい、それは?」
「どこかで三味線でも弾いてたのかい?」
「わからねえ野郎だな。女中が酒を運んで来る音じゃあねえか」
「へーえ、ずいぶん派手な音がするじゃあねえか。そのトントンというのは?」
「女中が、梯子段《はしごだん》を上がる音だ」
「へーえ……チンチロリンてえのはなんだい?」
「そりゃあ、おめえ、トントンと上がるから、盃洗《はいせん》の水が動くじゃあねえか。すると、浮いてる猪口《ちよこ》が盃洗のふちへあたる音が、チンチロリンというんだ。これが、トントンと上がって来るから、トントンチンチロリン、チンチンチリテンシャンというのは、猪口が盃洗の中へ沈んだ音だ」
「こまけえんだな。で、どうしたい?」
「酒が来て、やったり、とったりしてるうちに、女はたんと[#「たんと」に傍点]いけねえから、目のふちがほんのり桜色」
「ふーん」
「おれも、空《すき》っ腹へ飲んだから、目のふちがほんのり桜……」
「やい待て、畜生め。ずうずうしいことを言うない。相手の女は、色の白いところへぽーっとなるから桜色てんだが、おめえは、色がまっ黒じゃあねえか。おめえなんぞ、ぽーっとなったって、桜の木の皮の色よ」
「なに言ってやんでえ。よけいなことを言うない……飲んでるうちに、酒はわるくなかったけれども、身体の調子だとおもうんだ。頭が痛くなってきやがった」
「うん」
「どうにも頭が痛くてしょうがねえ。そこで、『ねえさん、ご馳走になった上に、こんなことを言っては申しわけございませんが、少し頭が痛くなりましたから、ごめんをこうむって、失礼させていただきます』と言って、おれが帰ろうとするとね、『とんでもないことになりました。たくさんあがらないお酒をおすすめいたしまして申しわけございません。少しおやすみになったらいかがでございますか?』と言うから、『そうでござんすね、ここへ横になったところで直りますまいから、家へ帰って寝ます』と言ったら、『おなじやすむなら、ここでおやすみになっても、おなじことじゃありませんか』と、こう言うんだ。言われてみれば、もっともだから、『じゃあ、まあ、そういうことにお願いしましょう』『よろしゅうございますわ』てんで、しばらく経《た》つと、『さあ、こちらへ……』と言うんで、行ってみると、隣座敷へふとんを敷いてあるんだ。それから、『失礼させていただきます。頭の直るまで……』ってんで、おらあ、そこへ入《へえ》って寝ちまった」
「うん」
「すると、女が、すーっと行っちまったから、こりゃあいけねえ。女が帰っちまっちゃあ大変《てえへん》だ。ここの勘定はどうなっているんだろうとおもって……」
「しみったれたことを考《かん》げえるなよ」
「けれどもよ、そうおもうじゃねえか。ところがね、しばらくすると、すーっと音がした」
「なんだい?」
「障子が開いたんだ」
「だれが来たんだい?」
「だれだって、わかりそうなもんじゃあねえか。その女が入《へえ》って来たんだ」
「ふーん、どうしたい?」
「女が枕もとで、もじもじしていたが、『あのう……わたしもお酒をいただきすぎて、たいそう頭が痛んでなりませんので、やすみたいとは存じますが、ほかに部屋がございませんので、おふとんの端《はじ》のほうへ入れていただいてもよろしゅうございましょうか?』って、こう言うんだ」
「えっ、そいつぁ大変なことになっちゃったなあ。おーい、みんな、こっちへ寄ってこいよ。ぼんやりしてる場合じゃねえぞ……で、おめえなんと言ったんだ?……『早くお入んなさい』かなんか言ったろう?」
「どうもそうも言えねえから、『どうなさろうとも、あなたの胸に聞いてごらんなすっちゃあいかがでございましょう?』と、おれが皮肉にぽーんと、ひとつ蹴ってやった」
「うめえことを言やがったな。それからどうしたい?」
「そうすると、女の言うには、『ただいま胸にたずねましたら、入ってもよいと申しました。では、ごめんあそばせ』ってんで、帯解きの、まっ赤な長襦袢《ながじゆばん》になってずーっと……」
「畜生めっ、入《へえ》って来たのか?」
「入《へえ》って来たとたんに、『半ちゃん、ひとつ食わねえか』って、起こしたのはだれだ?」
「なに?」
「『半ちゃん、ひとつ食わねえか』って、起こしたのはだれだ?」
「起こしたのはおれだ」
「わりいところで起こしやがった」
「なーんだ、畜生め、夢か?」
「うん、そういう口があったら世話してくんねえ」
「静かにしてくださいよ。あんまりこっちがにぎやかなんでね。気をとられていたら、いまの客、銭を置かずに帰っちまった」
「性質《たち》のわるいやつだな、どんな……」
「いまそこで髭《ひげ》をあたってもらっていた印絆纏《しるしばんてん》を着た、痩《や》せた男かい」
「ああ、ありゃ、町内の畳屋の職人じゃあねえか?」
「それで、床屋《とこ》(床畳)を踏みに来たんだ」
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