日语童话故事 日语笑话 日语文章阅读 日语新闻 300篇精选中日文对照阅读 日语励志名言 日本作家简介 三行情书 緋色の研究(血字的研究) 四つの署名(四签名) バスカービル家の犬(巴斯克威尔的猎犬) 恐怖の谷(恐怖谷) シャーロック・ホームズの冒険(冒险史) シャーロック・ホームズの回想(回忆录) ホームズの生還 シャーロック・ホームズ(归来记) 鴨川食堂(鸭川食堂) ABC殺人事件(ABC谋杀案) 三体 失われた世界(失落的世界) 日语精彩阅读 日文函电实例 精彩日文晨读 日语阅读短文 日本名家名篇 日剧台词脚本 《论语》中日对照详解 中日对照阅读 日文古典名著 名作のあらすじ 商务日语写作模版 日本民间故事 日语误用例解 日语文章书写要点 日本中小学生作文集 中国百科(日语版) 面接官によく聞かれる33の質問 日语随笔 天声人语 宮沢賢治童話集 日语随笔集 日本語常用文例 日语泛读资料 美しい言葉 日本の昔話 日语作文范文 从日本中小学课本学日文 世界童话寓言日文版 一个日本人的趣味旅行 《孟子》中日对照 魯迅作品集(日本語) 世界の昔話 初级作文 生活场境日语 時候の挨拶 グリム童話 成語故事 日语现代诗 お手紙文例集 川柳 小川未明童話集 ハリー・ポッター 新古今和歌集 ラヴレター 情书 風が強く吹いている强风吹拂
返回首页
当前位置: 首页 »日语阅读 » 日本名家名篇 » 作品合集 » 正文

落語百選06

时间: 2019-09-15    进入日语论坛
核心提示:長屋の花見四季を通じて人の心持ちが浮き浮きするのが、春。春は花なんてえことを申しまして、まことに陽気でございます。「銭湯
(单词翻译:双击或拖选)
 
長屋の花見

四季を通じて人の心持ちが浮き浮きするのが、春。春は花……なんてえことを申しまして、まことに陽気でございます。
「銭湯で上野の花の噂かな」
花見どきはどこへ行きましても、花の噂でもちきり……。
「おう、きのう飛鳥《あすか》山へ行ったが、たいへんな人だぜ、仮装やなんか出ておもしろかった」
「そうかい、花はどうだった?」
「花? さあ……どうだったかなあ?」
してみると、花見というのは名ばかりで、たいがいは人を見に行くか、また騒ぎに行くらしいようで……。
「よう、おはよう。さあさあみんな長屋の者はちょっとここへ揃ってくんねえ。いやね、みんなを呼んだのはほかでもねえが、けさ、みんなが仕事に出る前に、家主《おおや》のとこへ集まってくれという使いがきたんだ」
「なんだい、月番」
「さあ、行ってみなけりゃわからねえが、てえげえは見当はついてる」
「なんだろうな。朝っぱらから家主から呼びにくるのは、ろくなことじゃあねえぜ」
「店賃《たなちん》の一件じゃあねえかな」
「店賃? 家主が店賃をどうしようってえんだ」
「どうしようってえことァない。催促だってんだよ」
「店賃の?……ずうずうしいもんだ」
「ずうずうしいったって……おめえなんぞ、店賃のほう、どうなってる?」
「いや、面目ねえ」
「面目ねえなんてところをみると、持ってってねえな」
「いや、それがね、一つだけやってあるだけに、面目ねえ」
「そんならいいじゃねえか。店賃なんてものは、月々一つ持ってくもんだ」
「月々一つ持ってってありゃ、ここで面目ねえなんて言うことはねえ」
「そりゃそうだな、先月のをやったのか、一つ?」
「なに、先月のをやってありゃあ、大いばりじゃねえか」
「じゃ、去年一つやったきりか?」
「去年一つやってありゃあ、なにもおどろくことはねえ」
「すると、二、三年前か?」
「二、三年前なら、家主のほうから礼に来るよ」
「よせよ。いってえおめえ、いつ持ってったんだ」
「おれがこの長屋へ引っ越してきたときだから、指折りかぞえて十八年にならあ」
「十八年、仇討だな、まるで……そっちはどうなってる?……おめえはこの長屋の草分けだが店賃のほうはどうなってる?」
「ああ、一つやってあるよ」
「いつやったね」
「親父の代に」
「うわ手が出てきたね。……そっちはどうだ、店賃……」
「へえー、こんな汚《きたね》え長屋でも、やっぱり店賃とるのかい?」
「おうおう?! 出さねえでいいとおもってんのか、ひでえやつがあるもんだ。……おいおい、おまえさんはぼんやりしているが、店賃の借りはねえだろうな?」
「え、ちょっとうかがいますが、店賃というのはなんのことで……」
「おやおや、店賃を知らないやつが出て来やがった。店賃というのは、月々家主のとこへ持って行くお銭《あし》だ」
「そんなもの、まだもらったことがねえ」
「あれ、この野郎、店賃もらう気でいやがる。どうも、しようがねえ。一人として満足に店賃を払っているやつがいねえんだから……まま、これじゃあ、店立《たなだ》てぐれえのことは言うだろう。けれどもな、もののわかるおもしろい家主だ、ああいう家主に金を持たしてやりてえなあ」
「そうよ。そうすりゃあ、ちょいちょい借りに行ける」
「おーやおや、店賃を払わねえ上に、借りる気でいやがる。ま、ともかく、みんな揃って、行くだけは行ってみようじゃねえか」
「家主さん、お早うございます」
「え、お早うございます」
「え、お早うござい」
「お早う」
「お早う」
「おいおい、そんなに大勢でいっぺんに言うと、うるさくていけねえ。一人言やあいい。一人」
「ええ、それではあっしが月番でございますから、総名代で、お早うございます、と」
「総名代がいちばんあとから言っちゃあ、なんにもならねえ」
「お言いつけどおり、長屋の連中そろってまいりましたが、なんかご用でしょうか?」
「なんだ、そんな戸ぶくろのところへかたまって……そんな遠くからどなってねえで、もっとこっちへ来な」
「いいえ、ここで結構です。すいませんが、店賃のところは、もう少し待っていただきたいんですがねえ……」
「ははは、おれが呼びにやったので店賃の催促とおもったのか。しかし、そう思ってくれるだけでありがてえな。きょうは店賃のことで呼んだんじゃあないよ」
「そうですか。店賃はあきらめましたか」
「あきらめるもんか」
「まだ未練があるな……わりに執念深い人だね、ものごとはあきらめが肝心だあ」
「おい、冗談言っちゃあいけねえ。雨露をしのぐ店賃だ。ひとつ精出して入れてもらわなくちゃ困る……まあ、いいからこっちへ来な。じつはな、おまえさんたちを呼んだのはほかじゃない。いい陽気になったな。表をぞろぞろ人が通るじゃないか……」
「どこへ行くんですかねえ?」
「きまってるじゃないか。花見に行くんだ。うちの長屋も世間から貧乏長屋なんていわれて、景気がわるくってしかたがねえ。今日はひとつ長屋じゅうで花見にでも行って、貧乏神を追い払っちまおうてえんだが、どうだ、みんな」
「花見にねえ……で、どこへ行くんです?」
「上野の山はいま見ごろだってえが、どうだ」
「上野ですか? すると、長屋の連中がぞろぞろ出かけて、ただ花を見てひとまわりして帰ってくるんですか?」
「歩くだけなんて、そんなまぬけな花見があるもんか。向島の三囲《みめぐり》土手へ酒、さかなを持ってって、わっと騒がなくっちゃあ、向島まで行く甲斐《かい》がねえじゃあねえか。なまじっか女っ気のねえほうがいい。男だけでくり出そうとおもうんだが、どうだい?」
「酒、さかな……ねえ、そのほうは?」
「そのほうは、おれがちゃんと用意したから安心しな」
「へえー、家主さんが酒、さかなを心配してくれたんですか?」
「ごらんよ。ここに、一升びんが三本あらあ。それに、この重箱のなかには、かまぼこと玉子焼きが入ってる。おまえたちは、体だけ向こうへもってってくれりゃいい。どうだい、行くか?」
「行きます、行きますよ。みんな家主さんのおごりとなりゃ、向島の土手はおろか、地の果てまでも……」
「そうと決まれば、これからくり出そうじゃあないか……今月の月番と来月の月番は幹事だから、万事骨を折ってくれなくちゃあいけねえ」
「はい、かしこまりました。おい、みんな、家主さんに散財をかけたんだから、お礼を申そうじゃねえか」
「どうもごちそうさまです」
「どうも、ありがとうござんす」
「へい、ごちになります」
「おいおいおい、そうみんなにぺこぺこ頭を下げられると、どうも、おれもきまりが悪い……まあ、むこうへ行ってから、こんなことじゃあ来るんじゃなかったなんて、愚痴が出てもいけないから、さきに種あかしをしとこう」
「種あかし?」
「ああ……じつはな、この酒は酒ったって中味は本物じゃねえんだ」
「えっ?」
「これは、番茶……番茶の煮だしたやつを水でうすめたんだ。ちょっと酒のような色つやをしているだろう」
「いいですよ。番茶なんぞは、向こうへ行けば茶店もいくらもありますから」
「これを酒とおもって飲むんだ。あまりガブガブ飲んじゃあいけないよ」
「なんだ、よろこぶのは早いよ。おい、様子がかわってきたよ。こりゃ、お酒じゃなくて、おチャケですか。おどろいたね。お酒盛りじゃなくて、おチャカ盛りだ」
「まあ、そういったところだ」
「おれも変だとおもったよ……この貧乏家主が、酒三升も買って、おれたちを花見に連れて行くわけはねえとおもった……でも、家主さんかまぼこと玉子焼きのほうは本物ですか?」
「それを本物にするくらいなら、五合でも酒のほうにまわすよ」
「すると、こっちはなんなんで?」
「それもなんだ、重箱のふたをとってみりゃわかるが、大根に沢庵《たくあん》が入っている。大根のこうこ[#「こうこ」に傍点]は月型に切ってあるからかまぼこ、沢庵は黄色いから玉子焼きてえ趣向だ」
「こりゃ、おどろいた。ガブガブのポリポリだとさ」
「まあいいじゃあねえか。これで向こうへ行って、『ひとつ差し上げましょう、おッとっと』というぐわいに、やったりとったりしてりゃあ、はたで見てりゃ、花見のように見えらあね」
「そりゃそうでしょうけど……どうする? しょうがねえなあ、こうなったらやけで行こうじゃないか。まあ、向こうへ行きゃあ、人も大勢出てるし……」
「ガマ口の一つや二つ……」
「そうそう、落っこってねえとも限らねえ、そいつを目当てに……」
「そんな花見があるもんか」
「じゃ、みんな出かけようじゃあねえか。おいおい、今月の月番と来月の月番、おまえたち二人は幹事だから、さっそく働いてもらうよ」
「こりゃ、とんだときに幹事になっちまったなあ……へい、家主さん、なんでしょうか?」
「そのうしろの毛氈《もうせん》を持ってきておくれ」
「毛氈? どこにあるんです?」
「その隅にあるだろう」
「家主さん、これはむしろ[#「むしろ」に傍点]だ」
「いいんだよ。それが毛氈だ。早く毛氈、持ってこい」
「へいッ、むしろの毛氈」
「よけいなことを言うんじゃねえ。いいか、その毛氈を巻いて、心ばり棒を通して担ぐんだ」
「へえー、むしろの包みを担いでね……こいつぁ花見へいく格好じゃあねえや、どう見たって猫の死骸を捨てに行くようだ」
「変なことを言うんじゃねえよ……さあ、一升びんはめいめいに持って……湯飲み茶碗も忘れるなよ。重箱は風呂敷に包んで、心ばり棒の縄に掛けちまえ。さあ、支度はいいかい。今月の月番が先棒で、来月の月番が後《あと》棒だ。では、出かけよう」
「じゃあ、担ごうじゃねえか。じゃあ、家主さん、出かけますよ。よろしいですね。ご親戚のかた揃いましたか?」
「おいおい、葬《とむら》いが出るんじゃねえや……さあ、陽気に出かけよう。それ、花見だ、花見だ」
「夜逃げだ、夜逃げだ」
「だれだい、夜逃げだなんて言ってるのは?」
「なあ、どうもこう担いだ格好はあんまりいいもんじゃねえなあ」
「そうよなあ、しかし、おれとおめえはどうしてこんなに担ぐのに縁があるのかなあ?」
「そういえばそうだなあ、昨年の秋、屑《くず》屋の婆さんが死んだときよ」
「そうそう、冷てえ雨がしょぼしょぼ降ってたっけ……陰気だったなあ」
「だけど、あれっきり骨揚げにいかねえなあ」
「ああいう骨はどうなっちまうんだろう?」
「おいおい、花見へ行くってえのに、そんな暗い話なんかしてるんじゃねえよ。もっと明るいことを言って歩け」
「へえ……明るいって言えば、きのうの晩よ」
「うん、うん」
「寝てると、天井のほうがいやに明るいとおもって見たら、いいお月さまよ」
「へーえ、寝たまま月が見えるのかい?」
「燃すものがねえんで、雨戸をみんな燃しちまったからな、このあいだ、おまんまを炊くのに困って天井板はがして燃しちまった。だから、寝ながらにして月見ができるってわけよ」
「そいつは風流だ」
「おいおい、そんな乱暴なことをしちゃあいけねえ。家がこわれてしまうじゃねえか。店賃も払わねえで……」
「へえ、すいません……家主さん、たいへんなもんですね。ずいぶん人が出てますねえ」
「たいへんなにぎわいだ」
「みんないい扮装《なり》をしてますね」
「みんな趣向をこらしてな。元禄時分には、花見踊りなどといって紬《つむぎ》で正月小袖をこしらえて、それを羽織って出かけた。それを木の枝へかけて幕の代わりにしたり、雨が降ると傘をささないで、それをかぶって帰ったりしたもんだそうだ」
「へえ、こっちは着ているから着物だけれど、脱げばボロ……雑巾にもならねえな」
「ばかなことを言うんじゃねえ。扮装でもって花見をするんじゃねえ。『大名も乞食もおなじ花見かな』ってえ言うじゃねえか」
「おい、後棒、向こうからくる年増《としま》、いい扮装だな。凝った、いい扮装しているなあ。頭のてっぺんから足の先まで、あれでどのくらいかかってるんだろうな?」
「小千両はかかってんだろうなあ、たいしたもんだ」
「おめえとおれとを合わせて、二人の扮装はいくらぐらいだ?」
「二人が素ッ裸になったところで、まず二両ぐれえのもんだろう」
「それは安すぎたな。向こうが千両で、こっちが二人、合わせて二両、どうだ、家主さん褌を二本つけるが、五両で買わねえか?」
「よせよ、ばかばかしい。通る人が笑ってるじゃねえか。……それ、向島だ。花は満開だ。どうだ、土手の上なんざ、川の見晴らしもいいぞ」
「見晴らしなんてどうでもいいよ。なるべく土手の下のほうへ行きましょうよ」
「下はほこりっぽい」
「いいえね。下のほうが……上のほうでみんな本物を食ってますからね。ひょっとすると、うで玉子なんか、ころころっと転がってくる。それを、あたしは拾って、皮をむいて食っちまう」
「そんなさもしいことを言うなよ……まあ、どこでも、おめえたちの好きなところへ陣どって、毛氈を敷くがいいや」
「へい。毛氈……毛氈どうしたい、毛氈の係、いなくなっちゃったじゃねえか」
「あれ、あんなところでぼんやりつっ立って、本物をうらやましそうに見てやがら……見てたって飲ませてくれるわけじゃねえや。おーい。毛氈、毛氈を持っといで」
「だめだよ。いくら呼んだって……おい、むしろの毛氈持ってこいッ」
「おいおい、両方言うやつがあるか」
「だって、そうでも言わなくちゃ気がつきませんから……おうおう、こっちだ、こっちだ」
「さあ、ここへ毛氈を敷くんだ。あれっ、どうするんだ、こんなに横に細長くならべて敷いて?」
「こうやって、一列に座りましてね。通る人に頭をさげて……」
「おい、乞食の稽古するんじゃねえや。みんなでまるく座れるように敷け——そうだ、あの、重箱を真ん中に出してな、湯飲み茶碗はめいめいがとるんだ。さあ、一升びんはいっぺんに口を抜かないで、粗相《そそう》するといけないからな。一本ずつ抜くようにしてな。酌《しやく》はめいめいに……みんな茶碗は持ったか、さあ、今日はみんな遠慮なくやってくれ。おれのおごりだとおもうと気づまりだから、今日は無礼講だ。さあさあ、お平《たい》らに、お平《たい》らに……」
「ちえッ、こんなところでお平らにしたら、足が痛えや、ほんとうに」
「さあ、遠慮しないで、飲んだ、飲んだ」
「だれがこんな酒を飲むのに遠慮するやつがあるものか、ばかばかしい」
「なに?」
「いえ、こっちのことで……」
「じゃ、わたしがお毒味と、一杯いただきましょう」
「いいぞ、いいぞ」
「なるほど、色はおなじだね。色だけは本物そっくりだ。これで飲んでみるとちがうんだから情けねえや」
「口あたりはどうだ? 甘口か、辛口か?」
「渋口ッ」
「渋口なんて酒があるか……これは灘の生一本だから、いい味だろう」
「そうですね。いろいろ好き好きがありますが、あたしゃ、なんと言っても、宇治が好きですね」
「宇治の酒なんてのはあるかい……さあ、やんなやんな、ぼんやりしてないで……」
「ええ、ふだんあんまり冷《ひ》やはやったことがないもんですから」
「燗《かん》をしたほうがよかったかな。土びんでも持ってきて、燗でもすればよかったな」
「燗なんてしなくたって——焙《ほう》じたほうがいい」
「よさねえか、なんでも酒らしく飲まなくちゃいけないよ。もっと、一献、けんじましょうとかなんとか言ってやってごらん。みんな傍《はた》で見てるじゃないか」
「あ、そうですか。じゃあ、金ちゃん、一献けんじよう」
「いや、けんじられたくねえ」
「おい、断わるなよ。みんな飲んだじゃねえか。おめえ一人がのがれるこたあできねえんだよ。これもすべて前世の因縁だとあきらめて……なむあみだぶつ……」
「おい、変なすすめ方するない」
「おう、おれに酌《つ》いでくれ」
「そう、その調子……」
「いや、さっきからのどがかわいてしょうがねえんだ」
「おい、いちいち変なことばかり言ってちゃいけねえ。それで、ひとつ酔いのまわったところで、景気よく都々逸《どどいつ》でもはじめな」
「こんなもんで唄ってりゃあ、狐に化かされたようなもんだ」
「どうも困った人たちだな。さあ、幹事はぼんやりしてねえで、どんどん酌をしてまわらなくちゃしょうがねえじゃないか」
「悪いとき幹事をひき受けちゃったな。おう。じゃあ、一杯いこう」
「じゃあ、ちょいと、ほんのおしるしでいいよ……おいおい、ほんのおしるしでいいって言ってんのに、こんなにいっぱいついでどうするんだ? おめえ、おれに恨みでもあんのか? おぼえてろ、この野郎ッ」
「なんだな、一杯ついでもらったら、よろこべ」
「よろこべったって、冗談じゃねえ。あっしゃあ、小便が近えから、あんまりやりたくねえ。おう、そっちへまわせ」
「おっと、あっしは下戸なんで……」
「下戸だって飲めるよ」
「下戸なら下戸で、食べるものがあるよ」
「一難去ってまた一難」
「なに?」
「いえ、なんでもないんです。こっちのひとり言……」
「それじゃ、玉子焼きをお食べ」
「ですが……あっしは、このごろすっかり歯がわるくなっちまって、いつもこの玉子焼きはきざんで食べるんで……」
「玉子焼きをきざむやつがあるもんか……それじゃあ、今月の月番と来月の月番、玉子焼きを食べな」
「じゃあ、なるたけ小さいのを……尻尾《しつぽ》でねえところを……」
「玉子焼きに尻尾があるか。よさねえか……寅さん、おまえ、さっきから見てるけど、なんにも口にしないな、食べるか飲むかしなさい」
「すいません。じゃあ、その白いほうをもらいますか」
「色気で言うやつがあるか……かまぼこならかまぼこと言いなよ」
「そう、そのぼこ[#「ぼこ」に傍点]」
「なんだそのぼこ[#「ぼこ」に傍点]たあ。おい、かまぼこだそうだ。とってやれ」
「おお、ありがとう。へええ、どうも、家主さんの前ですが、あっしはこの、かまぼこが大好きでね。けさもこのかまぼこを千六本《せんろつぽん》にして、おつけの実にしましたよ。ええ、胃の悪いときにはまた、かまぼこをおろしにしましてね」
「なに?」
「かまぼこの葉のほうは、糠味噌《ぬかみそ》に漬けると……」
「気をつけて口をききなよ。かまぼこに葉っぱがあるかい……おいおい、音をたてねえで食えねえか」
「えっ? 音をたてねえで? このかまぼこを音をたてずに食うのはむずかしいや」
「そこをなんとかひとつやってくれ」
「うーん、うーん」
「おい、どうした、どうした?」
「うーん」
「おい、寅さん、しっかりしろ」
「うーん、かまぼこを鵜《う》飲みにして、のどへつっかえたんだ」
「そーれ、背中をひっぱたいてやれ、どーんとひとつ……」
「あー、たすかった。このかまぼこを音をさせずに食うのは命がけだぜ」
「お、お花見なんだよ。なんかこう花見にきたようなことをしなくちゃあ……向こうを見ねえ、甘茶でカッポレ踊ってらあ」
「こっちは番茶でさっぱりだ」
「しょうがねえ……そうだ、六さん、おまえさん、俳句をやってるそうだな、どうだ、一句吐いてくれねえか」
「へえへ、そうですな『花散りて死にとうもなき命かな』」
「なんだかさびしいな。ほかには?」
「『散る花をなむあみだぶつというべかな』」
「なお陰気になっちまうよ」
「なにしろ、ガブガブのボリボリじゃ陽気な句もできませんから……」
「だれか陽気な句はないかい?」
「そうですね。いまわたしが考えたのを、書いてみました。こんなのはどうでしょう?」
「ほう、弥太さんかい。おまえ、矢立てなんぞ持ってきて、風流人だ。いや感心だ……どれ、拝見しよう『長屋じゅう……』うん、うん、長屋一同の花見というところで、頭へ長屋じゅうと入れたのはいいね、『長屋じゅう、歯をくいしばる花見かな』え? なんだって、よくわからないな、『歯をくいしばる』ってえのはどういうわけだい?」
「なに、別にむずかしいことはない。いつわりのない気持ちをよんだまでで……つまり、どっちを見ても本物を飲んだり、食ったりしている。ところがこっちはガブガブのボリボリだ。ああ、情けねえと、おもわずばりばりと歯を食いしばったという……」
「しょうがねえなあ。じゃあ、こうしよう、今月の月番、景気よく酔っぱらっとくれ」
「いえね、家主さん、酔わねえふりをしてろってえならできますけど、酔えったってそりゃ無理だよ」
「無理は承知だよ。だけど、おまえ、それぐらいの無理は聞いてくれたっていいだろう? そりゃ、あたしゃ恩にきせるわけじゃあないが、おまえの面倒はずいぶんみたよ」
「そ、そりゃわかってますよ。そう言われりゃ一言もありませんから、ええ、ひとつご恩返しのつもりで……覚悟して酔うことにきめました」
「ああ、ご苦労だな、ひとつまあ、威勢よくやってくれ」
「ええ、では家主さん」
「なんだ」
「つきましては、さてはや、酔いました」
「そんな酔っぱらいがあるか。いやあ、おまえはもういい。じゃ、来月の月番、丼鉢《どんぶりばち》かなんか持ってひとつ派手に酔ってくれ」
「はっは、しょうがねえ。どうしても月番にまわってくらあ、手ぶらじゃ酔いにくい、その湯飲み茶碗かせ。さあ、酔ったぞ、だれがなんて言ったって、おれは酔ったぞッ」
「ほう、たいそう早いな」
「その代り醒めるのも早いよ。ほんとうにおれは酒飲んで酔ったんだぞ」
「断わらなくてもいいよ」
「断わらなかったら、狂気とまちがえられるよ。さあ、酔った。貧乏人だ、貧乏人だってばかにするない、借りたもんなんざぁどんどん利子をつけて返してやらあ」
「その調子、その調子」
「ほんとうだぞ、家主がなんだ。店賃なんぞ払ってやらねえぞ」
「わりい酒だな。でも、酒がいいから、いくら飲んでもあたまにくるようなことはないだろう?」
「あたまにこない代り、腹がだぶつくなあ」
「どうだ、酔い心地は?」
「去年の秋に井戸へ落っこったときのような心地だ」
「変な心地だなあ、でもおめえだけだ、酔ってくれたのァ。どんどんついでやれ」
「さあ、ついでくれ、威勢よくついでくれ。とっとっとと、こぼしたって惜しい酒じゃあねえ……おっと、ありがてえ」
「どうしたい?」
「ごらんなさい。家主さん、近々長屋に縁起のいいことがありますぜ」
「そんなことがわかるか?」
「わかりますとも……」
「へえ、どうして?」
「湯飲みのなかに、酒柱が立ってます」
轻松学日语,快乐背单词(免费在线日语单词学习)---点击进入
顶一下
(0)
0%
踩一下
(0)
0%