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落語百選12

时间: 2019-09-15    进入日语论坛
核心提示:明烏《あけがらす》「婆さんや、うちの伜《せがれ》にも困ったね、なんという堅人《かたじん》だろう。世間では、伜が道楽をして
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明烏《あけがらす》

「婆さんや、うちの伜《せがれ》にも困ったね、なんという堅人《かたじん》だろう。世間では、伜が道楽をして困ると、親御さんが愚痴をこぼすのがあたりまえだが、うちでは伜が堅くって、愚痴をこぼすのもおかしな話じゃないか」
「ほんとうにそうでございますね」
「少しぐらい道楽をしてくれるほうが心配がなくていいなあ。ああやって毎日部屋へ籠《こも》って本ばかり読んでいたら、身体《からだ》のためにもよくなかろうし、しまいに病気にでもなっちまうだろうよ」
「小さいうちから、ああやって病身でございますから、このごろのように、青白い顔をして本ばかり読んでいられますと、心配でなりません」
「ときに、伜はどこへ行ったんだい?」
「きょうは初午《はつうま》だものでございますから、横町のお稲荷《いなり》さまへお詣りに行きました」
「そうかい、いい若い者がお稲荷さんへお詣りに……少しは色気でも出てくれなくちゃあ困りますね」
「あっ、あの子が帰ったようですよ」
「おとっつぁん、ただいま帰りました」
「はい、お帰んなさい」
「どうも遅くなって申しわけございません」
「申しわけないことはないよ。おまえだってもう二十一だ。勝手に出歩いたっていい年ごろだよ……で、初午の人出はどうだった?」
「ええ、たいへんにぎやかで、地口行燈《じぐちあんどん》というものがたくさんかかっておりまして、いろいろな絵や文句が描いてありましたが、ずいぶん変わったのがございました」
「どんなのがあった?」
「なかに、天狗の鼻の上に烏《からす》がとまっている絵がありました。これに、『鼻高きが上に飛んだ烏』と書いてありましたが、あれは、たしか実語教のなかにある『山高きがゆえに貴《たつと》からず』のまちがいではなかろうかと、おもいますが……」
「まちがいはよかったね。そこが地口というものだ。つまり言葉の遊びなのだからまちがいではない。わざとそう洒落《しやれ》てるんだよ」
「それからお稲荷さまへ参詣《さんけい》をいたしましたら、善兵衛さんがいらっしゃいまして『若旦那お赤飯をめしあがれ』と申しましたから、ご馳走になってまいりましたが、煮しめの味がまことに結構でございますから、お代わりいたしまして、三膳頂戴いたしました」
「あきれたな、どうも……地主の息子が町内の稲荷祭りへ行って、お赤飯のお代わりをしてくるなんて……おまえ、少し自分の年齢《とし》を考えなさいよ。……そりゃあ、おまえはまことに堅くって、親孝行で、おとっつぁんはよろこんでます。けどね、いいかい、商人《あきんど》というものは、この世の表面《おもて》ばかり知っていてもなにもならないよ。遊びのひとつもして、裏を知ってなけりゃあ、お客さまのおもてなしもできやしないよ。これからは、世のなかの裏も見るようにしなさい。ねえ、これも商売のためだ。世渡りなんだから……おまえみたいに青白い顔をして本ばかり読んでいると、だいいち、身体のためによくないよ。いまに病気でもしないかなんて、親なんてつまらないところに心配する。たまには気晴らしにどっかへ行っておいで」
「では、ただいま、表で源兵衛さんと多助さんに会いましたら、たいそうはやるお稲荷さまがあるそうで、ぜひお詣りに行かないかと誘われましたが、参ってもよろしゅうございますか」
「源兵衛と多助が? あっははは……そんな話がちらりとあった。お稲荷さまはどっちの方角だって?」
「なんでも浅草の観音さまのうしろの方角だそうでございます」
「ああ、そうか、あっははは……行っといで行っといで。うん、あのお稲荷さまはばかに繁昌するお稲荷さまでね、おとっつぁんなんざあ若い時分には日参したもんだ。あんまり日参が続いたもんだから、親父に叱言を言われて、蔵のなかへ放りこまれたことがある。行ってきな行ってきな。おまえは初めてだから、なんならお籠《こも》りをしてきな」
「あのー、お籠りと申しますと、あの、定吉に掻巻《かいまき》かなんか持たし……」
「掻巻なんざあ持ってっちゃいけません。向こうに講部屋《こうべや》てえもんがあって、おまえは知るまいが源兵衛さんや多助さんがご存知だ。あちらにまかしておけばいい……婆さん、心配することはないよ……おっと、そのまんまじゃあまずいな。着がえて行きなさいよ」
「信心に参りますのに、身なりなんぞはなんでもよろしゅうございます」
「いいや、そうでないよ。あのお稲荷さまは、たいそう派手なことがお好きでいらっしゃるから、身なりがわるいとご利益《りやく》が少ない……おい婆さんや、なにをクスクス笑っているんだい。早く着物を出してやりなさい。そうだ、このあいだ出来てきた結城のお召しを出しておやり……それから、帯はお納戸献上にしてやっておくんなさいよ。それから、お賽銭《さいせん》が少ないとご利益がないから、たっぷり持たせてやりなさいよ。えーと、それから……中継《なかつ》ぎということになるんだが……」
「中継ぎといいますと、どんなことで?」
「途中で一杯飲むんだ……おまえは飲まないが、源兵衛と多助はいける口なんだから、少しは酒の相手をしなくちゃあいけない……若旦那といって、おまえに盃をさす。そのとき、わたしは飲めませんなんてことを言っちゃいけない。座がしらけてしまうから……一応、盃洗《はいせん》へあけるまでも、一杯は頂戴しなくちゃあいけませんよ……それから手をたたいて勘定というのは、野暮《やぼ》だから、ほどのいいところで、おまえが裏梯子《うらばしご》からそおっと、厠《はばかり》へ行くふりをして降りてって、みなさんの会計を、おまえが全部払ってしまうんだ」
「帳面につけておきまして、あとで、おふたりから割り前を頂戴する……」
「とんでもない。割り前なんかもらっちゃいけないよ。あの二人は町内の札付きだ。割り前なんかとったらあとがこわい」
「はい、わかりました」
「あとは、源兵衛と多助にまかして……万事勘定だけはおまえが払うようにしなさい。家のことなんぞ心配しないで、今夜はゆっくり、遊んでおいで」
「では、おとっつぁん、おっかさん、行ってまいります」
「おいおい、源さん。もう行こうじゃねえか。あの伜が来るもんか。よく考えてごらんよ。堅気の家だよ、いくらもののわかった親父でも、てめえの伜を吉原へ連れてってくれなんて、そんなばかなこたあないよ」
「おいおい、抽出しをちがえちゃあいけないよ。そういう意味じゃあないんだ。こないだ親父に床屋であったんだ。すると、『うちの伜は堅すぎて困ります。あれでは、あたしが死んで伜の身代になって、ああ世間知らずでは将来《ゆきさき》がおもいやられます。あたしが承知するから、一晩連れ出してくれ』とこう言うんだ」
「ふーん、親なんてものはつまらねえな。だってそうじゃねえか。柔らかければ苦労だし、堅きゃあ心配する」
「そうそう……だから、おれは人助けだとおもってね、『ええ、旦那よろしゅうございます。そりゃ、柔らかいものを堅くしてくれってのはむずかしいが、堅いものを柔らかくするのはわけございません。すぐぐちゃぐちゃにして差しあげますから……』と、胸をたたいて請けあった」
「変な請けあい方だな」
「おっ、来たよ、来たよ。若旦那、こっちですよ」
「どうも、お待たせをいたしました。親父が身なりがわるいとご利益がないから着がえて行けと申しますので手間どりました」
「いやあ、結構、結構、この身装《なり》ならご利益疑いなしだ」
「で、親父が、今晩は、あの、ぜひお籠りをしてくるようにと、お賽銭も充分に持ってまいりました」
「へえー、おい聞いたかい、多助……お籠りだなんて、いいじゃあねえか、なあ」
「そう、お籠り、結構」
「では、若旦那、さっそく出かけましょう」
「あなたがたは途中で、中継ぎとかいうものをするんだそうで」
「おや、心得てるね。恐れ入りました。それじゃどこかで一杯やっていきましょう」
「あたしはお酒は飲めませんが一応、一杯だけいただきます。あとお注《つ》ぎになっても、盃洗へあけてしまいますから」
「いや、下戸は下戸でまたほかに食べるものもありますから、そんな心配はいりませんよ」
「それから、そこで手をたたいて勘定というのは野暮だそうで、ほどのいいところで、裏梯子からそおっと、厠《かわや》へ行くふりをして降りてって、会計はわたしが全部払います」
「いやあ、そいつはわるいや。割り前は出しますよ」
「いいえ、とんでもないことで……あなた方は町内の札付きであなた方から割り前なんかとったら、あとがこわい」
「おや? かたなしだよ……なんかおとっつぁんに言われてきたんだな……このほうがざっくばらんでいいじゃねえか、かわいいじゃあねえか」
宵のうち、小料理屋で一杯飲んで、土堤《どて》へ出ると、たいへんな人の往来……。
「こんなにぞろぞろと、この人たちもみなさん、お稲荷さまへお籠りの方でしょうか?」
「さあね……みんなお籠りとはきまっちゃいませんがね。なかにはお詣りだけで帰る方もあります」
「あそこに、大きな柳の木がありますね」
「ええ、あれが名代の見返り柳……いえ、その……お稲荷さまのご神木で……」
「もしわたくしはぐれましたら、この柳の木の下に立っておりますから……」
「お化けだね、まるで……若旦那、さあ着きました。これが有名な大門《おおもん》……いや、鳥居なんで……」
「へー、これが鳥居でございますか。めずらしゅうございますね」
「どうして?」
「お稲荷さまの鳥居というものは、みんな赤いものだとおもっていました」
「いや、ここの稲荷さまは……弱ったね、ちょっとこれからお籠りのおねがいに……お巫女《みこ》さんの家にたのみに行ってきますから、多助とふたりで待ってください」
「おい、源さん、おれひとりおいてきぼりにするなよ。心細いじゃねえか」
「いいってことよ。どうせ向こうへ行けばわかっちまうよ……茶屋にいるうちだけでもばら[#「ばら」に傍点]したくねえから、ちょいと女将《おかみ》に吹きこんでおきてえんだよ」
「よし、心得た」
「こんばんは、女将《おかみ》」
「まあ、おめずらしいじゃございませんか。どうなすったんですの、この節ずっとおみかぎりで……このごろはなんですって、品川のほうへ……いけませんよ。花魁《おいらん》に言いつけますよ」
「それどころの話じゃないんだよ。ほら、こないだちょっと話したろう、例の田所町の堅物の一件さ。あれを今日連れてきたんだ。堅《かて》えの堅くねえのって、堅餅の焼きざましみてえな人間だ。年齢《とし》が二十一なって、吉原の大門を一歩も踏み入れたこともねえという変わり者。お稲荷さまのお籠りという筋書きで連れてきたんだが……なにしろ見返り柳をお稲荷さまのご神木、大門を鳥居だとおもいこんでるくらいなんだから……」
「まあ、ご冗談を……いまどきそんな方が……」
「嘘じゃねえよ。だから、この家《うち》をお茶屋だなんて言っちゃあいけないよ。まず、お稲荷さまの巫女の家だとか、神主の家だとか……たのむよ」
「まあいやですよ、そんなご冗談を……」
「おいおい、来たよ、来たよ……万事、巫女さま……たのむよ。多助のやつはしょうがねえなあ、もう連れてきちゃって……さあ、若旦那、いらっしゃい。さあ、どうぞ……ここは巫女さんの家でして、ここに座ってるのがお巫女がしらで……」
「さようでございますか。これはこれは……お初にお目にかかります。あたくしは、日本橋田所町三丁目、日向屋《ひゆうがや》半兵衛の伜《せがれ》、時次郎と申します。本日は三名でお籠りにあがりました。まことに行き届きません者で、よろしくおねがい申しあげます」
「これは、まあ、ご丁寧に恐れ入ります……まあ、よくいらっしゃいました。お待ち申しておりました。それではお話ができませんから、どうぞお手をおあげくださいまし、まあ、若旦那、ご器量がよくってらっしゃるから、お巫女さんたちも、さだめし大よろこびでございますよ……まあ、なんですよこの娘《こ》は……クスクス笑ったりして、失礼じゃありませんか。おまえが笑うから、あたしだっておかしいじゃないか。しょうがないね。あの、若旦那、すぐにお送りしますから……」
お茶屋のほうでも、女将が心得ていてぐずぐずしていて化けの皮がはがれてはたいへんだというので、急いで大楼《おおみせ》に送り込んでしまう。稲本《いなもと》、角海老《かどえび》、大文字《だいもんじ》、中米《なかごめ》、品川楼などが大楼で、茶屋から大提灯で送られる……そして、まず、ひきつけ[#「ひきつけ」に傍点]に通される。ひきつけ[#「ひきつけ」に傍点]ったって、なにも目をまわすところじゃない……そこで待っていると、文金《ぶんきん》、赤熊《しやごま》、立兵庫《たてしようご》なんて髪を結《ゆ》いまして、部屋着というものを着た花魁《おいらん》が、左手で張り肘《ひじ》して、右手で褄《つま》をとって、厚い草履《ぞうり》をはいて、廊下をパターン、パターンと通る。これを見れば、どんな堅物だって、女郎屋だってえことはすぐわかります。
「源兵衛さーん、多助さーん」
「なんですよ、若旦那、大きな声を出して……こういうところで、そんな大声を上げちゃあいけませんよ」
「ここは、あなた、女郎屋じゃありませんか。あたくしはお稲荷さまのお籠りだてえから来たんじゃありませんか。人を騙《だま》してこんなところへ連れてくるなんて……」
「若旦那、泣いちゃあ、いけません……ねえ、そらね、騙して連れてきたのは、わるい。だから、謝ります。この通り……堪忍してくださいよ。でもねえ、このことは、あなたのおとっつぁんも心得てなさることなんだから、なにも心配しなくてもいいんですよ」
「いいえ、とんでもないことです。うちの親父はああいう人間でございますから、なにを申したか存じませんが、親類はみな堅いのでございますから、親類へこんなことが知れたひには、あたくしは顔向けができませんから、すぐ帰らしていただきます」
「困ったな、どうも……じゃあ若旦那、こういたしましょう、いま上がったばかりですから、ここへ酒がきて、そうして一杯飲んで、女の子がずらりとならんで、陽気にわーっと騒いでお引けになります。そのとき、あなたを大門まで送って行きますから、それまで辛抱してくださいな」
「いいえ、あなた方はどうぞ勝手にお遊びになってください。あたしは帰らしていただきます」
「まあ、そんなことを言わずにさ……付き合いってえものがあるでしょう。せめて酒を飲むあいだぐらい……」
「いいえ、もうあたくしは……」
「ねえ、そんなこと言わずに、さあ……」
「おいおい、源さん、なにを言ってるんだよ。帰りてえものは帰したらいいじゃねえか。なにもそれほどたのんで居てもらうことはあるめえ……なに言ってやがるんだ。さっきだってそうだ。町内の札付きで、割り前をもらうとあとがこわいだってやがら……なにぬかしやがんでえ。おもしろくもねえ……帰ってもらおうじゃねえか。若旦那、帰りたければお帰んなさい。だけど、ただ帰すんじゃあないよ。あなたは吉原の法をご存知ないでしょう。いいですか、さっきあなたにお稲荷さまの鳥居だっていったのは、じつをいえば、あれが吉原の大門というところだ。あそこは一本口だよ。あの門のところへ髭《ひげ》の生えたこわいおじさんが立ってたでしょう? あのそばに番所があって、お役人が、三人がどこの店へ登楼《あが》ったか、ちゃーんと帳面につけているんですよ。さっき入ったとき三人連れなのに、いま時分若旦那が一人でひょこひょこ出てごらんなさい。あいつは胡散《うさん》くせえやつだってんで、あの大門で留めとくてえのが、この吉原の法だ。なあおい」
「へー、そうかね。はじめて聞い……」
「こら、にぶいやつだな……だから、ひとりで出ていきゃあ大門でふんじばられるだろう?……てんだ」
「うーん、そうだとも」
「そうなりゃあ、なかなか帰してくれねえな」
「そうとも、このまえなんか、元禄時分からしばられたままのやつがいた」
「それはたいへん困ります。人間と生まれて縄目の恥をうけたとあっては、世間さまに顔向けができません。まことに恐れ入りますが、おふたりで、あたくしを大門まで送ってくださいな」
「若旦那、あなた、それが身勝手というもんですよ。こうなりゃあこっちも依怙地《いこじ》なんだから一と月でも二た月でも帰りませんよ、こっちは。これから一杯やって、陽気に騒ごうてんだ。それなのに、遊びなかばで送り迎えなんかしていられますか……遊びは気分なんだから、せめて酒を飲むあいだぐらい付き合ったっていいじゃあありませんか」
「じゃあお飲みください。早いとこ大きなもんであがってくださいな、そこの兜鉢《かぶとばち》かなんかで……」
「ふざけちゃいけねえや」
座敷がかわって、飲めや唄えの大騒ぎになった。このとき若旦那の敵娼《あいかた》になったのが、浦里という花魁で、ことし十八の吉原きっての美人、そんな初心《うぶ》な若旦那ならば、こちらから出てみたいという、花魁のほうからのお見立てで……ところが、若旦那の時次郎のほうは、床柱に寄りかかって、下うつむいて、涙をぽろぽろこぼしてる。
「おいおい、源さん、向こうをごらんよ。酒飲んだってうまかねえや。女郎買いじゃないね。まるでお通夜だよ……あれ、女将《おかみ》はよろこんでやがらあ、初心でいいとかなんとか……おいおい、女将、その駄々っ子をなんとかしてくれよ。酒がまずくてしょうがねえや」
「あの、若旦那、花魁の部屋が空《あ》いてますからあちらへ行って、ごゆっくりおやすみなさいな」
「へえ、どうぞおかまいなく……」
「そんなことをおっしゃらずに、どうぞ花魁の部屋で……」
「よしてください。そんな部屋で寝てごらんなさい。瘡《かさ》ァかきます」
「おいおい、源さん、聞いたかい? いいせりふじゃないねえ。瘡ァかくてえのはいけません。ますます酒がまずくなっちまったぜ」
「さあ、若旦那、ね、世話焼かせないで……ねえ、わたくしと、ねえ、こう……」
「いいえ、いけませんよ。あたくしの手をひっぱっちゃあ、助けてください。源さーん、多助さーん」
唐紙をこわす騒ぎ……そこは餅は餅屋、なんとかなだめすかして、花魁の部屋へ送り込んでしまう。あとは厄介者がいなくなったというので、飲めや唄えのどんちゃんさわぎ——ほどよろしいところで、お引けという声がかかります。
  女郎買い振られたやつが起こし番
あくる朝、他人《ひと》の部屋をがらがら開けて、変なことを言ってる方に、あんまり成績のいい方はないようで……。
「おい、おはよう。どうだったい、ゆうべのできは?」
「うん、フワフワフワ」
「なんだい、おい、その総楊枝《ふさようじ》をどうにかしろよ。おい、歯磨きがぼろぼろこぼれるじゃねえか」
「フワフワフワ……来ない」
「来ない? そうだろう。来やぁしめえ、ざまあみやがれ、振られやがった」
「じゃあ、おめえんとこはどうだったい?」
「おれんとこか、来たよ。『あたし、厠《はばかり》へ行ってきますから、待っててくださいな』って、それっきり来ねえんだ。小便の長えの長くねえのって、いまだに帰って来ない。ことによったら、あの女は丑《うし》年かもしれねえ」
「なに言ってやんでえ……まあ、お互いに顔を洗ったら帰ろうじゃねえか」
「若旦那はどうしたい?」
「駄々っ子おさまってるとさ」
「ゆうべ帰っちまったんじゃねえのか」
「それが帰らねえんだとさ」
「叱言がきいたんだなあ。かわいそうになあ……それで、まだ起きてこないのか?」
「ちょっと心配だね。部屋はわかってんだ……えーと、角の部屋、角の部屋と……ああ、この部屋、この部屋……若旦那、おはようございます。開けますよ……どっこいしょ……開けてすぐ寝床が見えないてえのは、大楼《おおみせ》の身上だねえ……次の間つきだ。おや、敵の守りは厳重だね。ふすまの向こうに屏風をはりめぐらして……若旦那、若旦那、おや、ご返事なし……無言とはひどいね。源兵衛と多助でござんすよ。では、屏風をとりますよ。それっ……あははは、ごらんよ。おい、真っ赤になって布団のなかへもぐっちゃった……おい、どうでもいいけど、なに食ってるんだい?」
「うん、いま茶箪笥《ちやだんす》を開けたらね、甘納豆があるんでね。朝の甘味は乙《おつ》ですよ」
「女に振られて甘納豆食ってりゃ世話ァねえや」
「どうでもいいけど、おまえ、少しうるさいよ。こっちはもう食うよりほかに手がねえや」
「よせよ。おい……うまいかい? じゃおれにも少しくれよ……若旦那、ゆうべさんざ世話ァ焼かしときながらひどいねえ。どうです? 若旦那、お籠りのぐあいは?」
「ええ、まことに結構で……」
「おい、聞いたかい、結構なお籠りだとさ……ねえ、若旦那、まごまごしているうちに陽《ひ》が上がってきちまいます。ねえ……遊びというものはおもしろうござんしょ。おもしろいけど、切りあげどきが肝心ですよ。きょうのところは、ひとつ、きれいに引き上げて、また来るということにしようじゃありませんか」
「ええ……」
「花魁《おいらん》、かわいいでしょう? また連れてきますよ。その人の身体《からだ》は、ふたりの胸中にあり……いいですか。支度ができてるんだ。さあ、若旦那を起こしてくださいよ」
「若旦那、みなさんがああおっしゃるんですから、お起きなさいましな」
「花魁が起きろ起きろって言ってるのに若旦那、起きたらどうなんです。ずうずうしいね」
「えっへっへ、花魁は口では起きろと言ってますけど、布団のなかでは、あたくしの手をぐーっと抑えて……」
「おーい、聞いたかよ。おまえ、甘納豆食ってる場合じゃねえぞ」
「ちえっ、なにを言ってやんでえ。ばかにしやがって……ゆうべのざまあ見ろい、女郎の部屋で寝ると、瘡ァかくって言いやがって……くそおもしろくもねえ。おりゃ、帰《け》えるッ」
「おい、おい、そう怒るなよ。いま一緒に帰るからさ。そうあわてなくたって……待てよ、待てったら……あっ、階段からおっこちやがった。……じゃあ若旦那、あなたはひまな身体だ。ゆっくり遊んでらっしゃいよ。あっしたちは、これから仕事に出かけなくちゃあならないんでね。先に帰りますからね」
「あなた方、帰れるもんなら帰ってごらんなさい。大門でしばられる」
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