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落語百選15

时间: 2019-09-15    进入日语论坛
核心提示:蟇《がま》の油むかしは、神社の境内や縁日、人のにぎわう場所には、いろいろな物売りがでていて、口上をのべたり、芸当を披露し
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蟇《がま》の油

むかしは、神社の境内や縁日、人のにぎわう場所には、いろいろな物売りがでていて、口上をのべたり、芸当を披露したりして、人を集めていました。なかでの大立物は、なんといっても蟇《がま》の油売りだったようで……これは立師《たてし》といって、仲間ではかなりはば[#「はば」に傍点]のきいたもので、黒紋付きの着物に袴《はかま》をはき、白鉢巻、白|襷《だすき》なんていう格好で、蟇の干《ひ》からびたのを台の上へのせて、わきの箱のなかには、蟇の膏薬《こうやく》が入っている。蛤《はまぐり》の貝がらが積み上げてあって、横を見ると、なつめ[#「なつめ」に傍点]があり、大刀がある。
「さあさ、お立ちあい、ご用とお急ぎのない方は、ゆっくりと聞いておいで、遠目《とおめ》山越し笠のうち、ものの文色《あいろ》と理方《りかた》がわからぬ。山寺の鐘は、ごうごうと鳴ると言えども、童児|来《きた》って鐘に撞木《しゆもく》をあてざれば、鐘が鳴るやら撞木が鳴るやら、とんとその音色《ねいろ》がわからぬが道理。だがお立ちあい、てまえ持ちいだしたるなつめ[#「なつめ」に傍点]のなかには、一寸八分の唐子《からこ》ぜんまいの人形。人形の細工人はあまたありと言えども、京都にては守随《しゆずい》、大坂おもてにおいては竹田縫之介《たけだぬいのすけ》、近江の大椽藤原《だいじようふじわら》の朝臣《あそん》。てまえ持ちいだしたるは、近江のつもり細工。咽喉《のんど》には八枚の歯車を仕掛け、背なかには十二枚のこはぜを仕掛け、大道へなつめ[#「なつめ」に傍点]を据え置くときは、天の光と地の湿りをうけ、陰陽合体して、なつめ[#「なつめ」に傍点]のふたをぱっととる。つかつかすすむが、虎の小ばしり、虎ばしり、すずめ駒鳥、駒がえし、孔雀《くじやく》、霊鳥の舞い、人形の芸当は十二通りある。だが、しかし、お立ちあい、投げ銭や放り銭はお断わりだ。てまえ、大道に未熟な渡世をいたすといえど、投げ銭や放り銭はもらわないよ。では、なにを稼業《かぎよう》にいたすかと言えば、てまえ持ちいだしたるは、これにある蟇蝉噪四六《ひきせんそうしろく》の蟇の油だ。そういう蟇は、おのれのうちの縁の下や流しの下にもいると言うお方があるが、それは俗にいうおたまがえる、ひきがえると言って、薬力《やくりき》と効能の足しにはならん。てまえ持ちいだしたるは、四六の蟇だ。四六、五六はどこでわかる。前足の指が四本、あと足の指が六本、これを名付けて四六の蟇。この蟇の棲《す》めるところは、これよりはるーか北にあたる、筑波山の麓《ふもと》にて、おんばこ[#「おんばこ」に傍点]という露草を食らう。この蟇のとれるのは、五月に八月に十月、これを名付けて五八十《ごはつそう》は四六の蟇だ、お立ちあい。この蟇の油をとるには、四方に鏡を立て、下に金網をしき、そのなかに蟇を追い込む。蟇は、おのれの姿が鏡に写るのを見ておのれとおどろき、たらーり、たらりと脂汗をながす。これを下の金網にてすきとり、柳の小枝をもって、三七二十一日のあいだ、とろーり、とろりと煮つめたるがこの蟇の油だ。赤いは辰砂椰子《しんしややし》の油、テレメンテエカにマンテエカ、金創《きんそう》には切り傷、効能は、出痔《でじ》、いぼ痔、はしり痔、よこね、がんがさ、そのほか、はれものいっさいに効《き》く。いつもは、一貝《ひとかい》で百文だが、こんにちは、披露《ひろめ》のため、小貝をそえ、二貝《ふたかい》で百文だ。まあ、ちょっとお待ち。蟇の効能はそればかりかというと、まだある。切れ物の切れ味をとめるという。てまえ持ちいだしたるは、鈍刀《どんとう》たりと言えど、先が斬れて、元が斬れぬ、なかばが斬れぬと言うのではない。ごらんのとおり、抜けば玉散る氷の刃《やいば》だ、お立ちあい。お目の前にて白紙を一枚切ってお目にかける。さ、一枚の紙が二枚に切れる。二枚が四枚、四枚が八枚、八枚が十六枚十六枚が三十二枚。春は三月落花のかたち、比良《ひら》の暮雪《ぼせつ》は雪ふりのかたちだ、お立ちあい。かほどに切れる業物《わざもの》でも、差《さし》うら差《さし》おもてへ蟇の油をぬるときは、白紙一枚容易に切れぬ。このとおり、叩《たた》いて切れない、引いて切れない。拭《ふ》きとるときはどうかと、鉄の一寸板もまっ二つ。さわったばかりでこのくらい切れる。だがお立ちあい、こんな傷はなんの造作《ぞうさ》もない。蟇の油をひとつけつけるときは、痛みが去って血がぴたりととまる……」
というような口上を言って売っている。
この蟇の油売り。景気がいいってんで、居酒屋で一杯やり、いい心持ちでふらふら戻ってくると、まだ人通りがあるし、時刻も早いから、もうひと商《あきな》いしようと欲を出したが、なにしろ酔っぱらってるから、うまくいかない……。
「さあ、お立ちあい……ご用とお急ぎの方は……いや、ご用とお急ぎでない方は、ゆっくりと聞いておいで。いいかい……遠目山越し笠の……そと……いや、笠のうちだ……ものの文色《あいろ》と理方《りかた》がわからない。山寺の鐘はこうこう……あれっ、口ンなかから鰯《いわし》の骨が出てきやがった。どうも鰯の骨は歯へはさまっていけねえや……さてお立ちあい、てまえ持ちいだしたるは、鰯……いや、鰯ではない……えーと……蟇蝉噪《ひきせんそう》一六の蟇……一六じゃなかった。そうそう、四六、四六の蟇だ。四六、五六はどこでわかる。前足が二本で、あと足が八本だ……」
「なに言ってやんでえ。八本ありゃあ、蛸《たこ》じゃあねえか」
「その蛸で一杯やって……いや、よけいなことを言いなさんな……この蟇の棲《す》めるところは、これからはるーか……東にあたる高尾山のふもと……」
「おいおい、いつもは、はるか北で、筑波山てえじゃあねえか」
「あっ、そうだったか。まあ、どっちでもかまわねえ。山にはちがいねえんだから……で、とにかくこれは蟇だよ。そこでだ、この蟇の油の効能は、金創《きんそう》には切り傷、出痔、いぼ痔、よこね、がんがさ、そのほか、はれものいっさいに効く。ああ、効くんだよ……いつもは、二貝で百文だが、こんにちは、披露《ひろめ》のために一貝で百文だよ、お立ちあい」
「それじゃあ、あべこべじゃあねえか」
「まあ、だまってお聞き。蟇の油の効能はまだある。切れ物の切れ味をとめるよ。てまえ持ちいだしたるは、鈍刀たりといえども……とにかくよく斬れるよ。お目の前にて白紙を切ってお目にかける……あーあ……」
「あくびなんかしてねえで、さっさとやれっ」
「いや、これは失礼……お立ちあい、一枚が二枚になる。二枚が四枚……四枚が五枚……六枚……七枚……なに? よくわからねえ? そうだろう、おれにだってわからねえんだ。まあ、とにかくこまかに切れる。なあ、お立ちあい……春は八月、いや、三月、三月は弥生で、比良《ひら》の暮雪は雪ふりのかたちだ……なあ、きれいだろう?……このくらい切れる業物でも、差うら差おもてへ蟇の油をひとつけつけるときは、白紙一枚容易に切れない。このとおり、ぱっと切れ味がとまる。さあ、この刀で、腕をこう叩いて切れない。どうだ、おどろいたか? なあ、お立ちあい、引いて切れ、いや、えへん、えへん……お立ちあい、切れないはずなのに、切れちまったが、どういうわけだろう?」
「そんなこと知るもんか」
「いや、おどろくことはない。このくらいの傷はなんの造作もない。さ、このとおり、蟇の油をひとつけつければ、痛みが去って、血がぴたりと……とまらないな……うん、ひとつけでいけないときは、ふたつけつける。こうつければこんどはぴたりと……あれっ、まだとまらないね。切りすぎたかな……こりゃ弱ったな。かくなる上は、しかたがないから、またつける。まだとまらないな。とまらなければ、いくらでもつける。こんどこそ、血がぴたりと……あれあれ、血がとまらないぞ、お立ちあい……」
「どうするんだ?」
「お立ちあいのうちに、どなたか血どめをお持ちの方はござらぬか?」
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