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落語百選26

时间: 2019-09-15    进入日语论坛
核心提示:百年目「おいおいっ、なにをしてるんだ、定吉」「へーい、番頭さんいま、こより[#「こより」に傍点]をこしらえております」「
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百年目

「おいおいっ、なにをしてるんだ、定吉」
「へーい、番頭さん……いま、こより[#「こより」に傍点]をこしらえております」
「観世より[#「観世より」に傍点]を? ふうん、何本できた」
「ええ、あと九十二本で百本になります」
「百本のうちの九十二本できたのか?」
「いえ、あと、九十二本こしらえますと、百本になります」
「まるっきりできちゃあいない……なんだ? そっちにあるのは」
「えへへ……こりゃよろしいんで」
「よろしかあない、見せなさい。こっちへ出しなさい」
「へっ」
「なんだ、こよりで馬なんぞこしらいて、畳の上へのっけてとんとんとたたいて馬が動く、そんなことをして、なにがおもしろい?」
「へえ……これ馬じゃあない、角《つの》がありますから鹿です。へえ……(小声で)鹿と馬とまちがえるなんてえのは馬鹿《ばか》だ」
「こらッ……なんだあたしにむかって馬鹿とは……どうも、役に立たないし、いたずらばかりして……おまえのような小僧は旦那に申しあげて、帰してしまいますよ、暇《ひま》をだします。……なんだ、常吉っ、鼻の穴へ火箸を突っこんで……首を振って……ちんちん音をさして、なにがおもしろい。前を通る方が笑っている。みっともないから、やめなさいっ」
「へえ、あいすいません」
「商売に少し身を入れなさい、言いつけられた用は早くしなさい、どうも困ったもんだ。それから……兼どん、おまえは、なにしてる?」
「へえ、お店《みせ》にご用がございませんから、手習いをいたしております」
「手習い……結構だな、商人《あきんど》は筆が立たなくてはいけません。どれどれ見せなさい」
「へい」
「これが手習いか、なんだこれは?」
「それは高島屋、こっちが音羽屋で、そのとなりが成駒屋……」
「だれが役者の似顔を書けと言った」
「これは首づくしです」
「ばかなことを言ってないで、早く手習いをしなさい。しょうのないやつだ……助どん」
「へえ」
「なにしてる、おまえは」
「ええ、お得意さまへ出す手紙を書いております」
「ああそうか。手紙といえば、あの硯《すずり》の抽出しに手紙が二本、三日ばかり前から入っているが、ありゃおまえの筆蹟《て》だな」
「へ」
「硯箱のなかへしまっておいて、手紙が先方へ届きますか」
「いえ……入れようとおもっておりましたが、つい小僧の手がふさがっておりまして……」
「これこれなにを言うんだ。おまえさん一人前だとおもっているのか。おまえさんの肩上げのとれたのは一人前になったからじゃない。おまえなんぞはなんの役にもたたないが、あまり身体ばかり大きくなって、世間にみっともないから、まだ早いというのを旦那さまに申しあげて、肩上げをおろして若い者にしたんだ。え? おまえの一人前にできることがありますか、居眠りと、ご飯を食べるくらいじゃあないか。手紙ぐらいは自分で入れに行きなさい。しようがない、それから……佐助。おまえね、こないだから言おうとおもってたんだが、どういうわけで店で、その……本を読むんだ。向こうから見た方が、さもさも閑暇《ひま》なようにおもう。稼業《しようばい》に身の入ってない証拠だ。本が読みたければ、お店《みせ》が閉まってから読みなさい」
「へ……あいすみません」
「忠七どん」
「へい」
「わたしがこっちへ叱言を言っていたら、おまえ……なんか、いま肩をちょいと、こうゆすって、ふふんと言って笑ったな。おかしいことがあるなら、ふふんと笑わずにはははと笑いなさい。人のことが笑える義理か……おまえは。おまえさんもなにかその、懐中《ふところ》へ本を入れているが、なんだ」
「へ」
「出してみせなさい」
「……えへん、……これでございます」
「なんだこれは……『落人《おちびと》』と書いてあるが、なんだ」
「えへ……『落人《おちびと》』じゃない……『落人《おちうど》』」
「なんだ『落人《おちうど》』てえのは?」
「ええ……『お軽・勘平』の道行でございます、へえ。清元で……」
「清元?……おまえかいあの厠所《はばかり》でときどき、変な声で唄を唄ってるのは……芸事は自分が一軒の主人《あるじ》になって、商売ももうこれで、どうやらめど[#「めど」に傍点]がついて、さてそれから楽しみに、遊芸の一つも稽古しようというのは、まことに結構なことだ。おまえなんぞはなんです、奉公中に。旦那のお目にとまったら叱られますよ。だいいち、おまえのは清元をやる声じゃない。あひるが喘息《ぜんそく》をわずらったような声で、近所迷惑だ。そんなことをするぐらいなら、もう少し商売のほうへ身を入れなさい、どいつもこいつも役に立たない。どうもしようがない。それから……吉兵衛どん」
「そーら、おいでなすった」
「なんだ?」
「え、いえ……ええ……へえ」
「なんだ、いまおまえ、そらおいでなすったと言ったな? なにがおいでなすった。……おまえさんにも困ったもんだ。わたしがこんなにほかの者に叱言を言っているんだ、おまえさんいちばん年長《としかさ》じゃないか、なかへはいって謝るくらいなことをするのがあたりまいじゃあないか、朋輩は相身たがいだ、それがなんだ、そらおいでなすったとは……おまえも若い者《もん》と一緒に叱言を言われたいというのか?」
「いえ別にそういうわけじゃあございませんが、しかしお叱言があるというんならば、あたくしもうかがいます。へえ……ええ、うかがいます、さ、うかがいましょう」
「おまえ、開き直ったね……たいそう前へ出てきたね、うかがいましょう? そうか……ではおまえさんに申しあげることがある。あれは、さき……おとといの晩だったな」
「しまったっ」
「なんだ?」
「いいえ……へえ」
「夜分冷えたから、あたしはどうも……寝つきが悪い。厠《かわや》へ二度目に行ったときに、うちから五、六軒はなれたところで、がやがや女の声がした、『それじゃあ、またお近いうちに』『きっと来てくださいましよ、お近いうちに』という声が……どこの家だろうとおもっていると、うちの戸を雨だれの落ちるように、とんとんとんとんと、叩いた。すると……ここにいる兼吉らしい。そうッと表をあけて『お帰んなさいまし』と言ったら『しィ…ッ』と言った。なにかものをもらったとみえて『ごちそうさまでございます』と言ったら『しィ…ッ』と言う。あれはおまえさんだったな、帰って来たのは」
「……へッ」
「どこへおいでになった?」
「ええ……えへん……お湯へまいりました」
「お湯ゥへ? ほう……あの時分になんですか、お湯ゥがあるのか?」
「いえ……えへん……ええ、お湯は早くまいりましたんで、あの……紀伊国屋の番頭さんにお目にかかりましたところ、今晩うちの主人が謡曲《うたい》をやるので、まことに迷惑ではあろうが一番だけ聞いてもらえないだろうかと、こう申しますんで、へえ。どうもあまり……むげ[#「むげ」に傍点]にお断わりもできませんので、お謡曲をその……えへん……ええ、聞きにまいりましたんで」
「ああ謡曲を……おーお、それは結構ですが、それから帰って来なすったか、たいそう遅かったな」
「いえ……ェ、それからその……あまり固いものを聞かして、まことに迷惑だったろうから、これからまあ……ちょっとこのォ……なにして、ェェ……にぎやかに、ま、わッと……いうような……なんで、したら……ェェよかろうかという、へへッ……でございましてな」
「なんだかちっともわかりません。はっきりものを言ったらどうだ。どこへ行ったんだ」
「お茶屋ィ……というなんで、な」
「お、茶、屋?」
「へえ」
「ほほう、お茶屋というと葉茶屋ですか?」
「……いえ……そうではございませんで、この……芸者、幇間《たいこもち》をその……へへ」
「芸者、幇間……? げいしゃ[#「げいしゃ」に傍点]というのは何月に着る紗《しや》だ」
「へ?」
「どういう織り方の紗です」
「へえ」
「たいこもちというのは煮て食うのか焼いて食うのか」
「へへへ、どうもそうおっしゃられては恐れ入りますが……。芸者、幇間を……番頭さんもご存知のないことはなかろうかとおもい……」
「お黙んなさい……わたしはね、本年|四十三《しじうさん》になりますが、料理屋というものはどういうふうにできているか、あたくしは自分にそういう働きがないからとんと存じません。わたしの前でよくそんなことが言えたもんだ……なんです」
「へえ」
「グゥとでも言えるなら言ってみなさい」
「……グゥ」
「なんだ、グゥとは」
「……あいすみませんで、今後は気をつけますでございますから、どうぞご勘弁を願いまして……」
「よし、こんどはわたしも見て見ないふりをしますが、二度とこういうことがあると、わたしから旦那さまに申し上げるよ。いいかい」
「へ……あいすみませんで……」
「じゃ用が済んだら、そちらへおいでなさい」
「へ」
「なにをしている?」
「へえ……ちょっと痺《しび》れがきれました」
「おまえ何歳になる、ええ? あきれてものが言えない。おまえさん方に商売を任しておいたら、なにをするかわからない。わたしはこれからちょっと、お得意まわりをして来ますから、もし旦那がたずねたら、日暮れまでには帰りますと伝えてくれ。留守のあいだは店にまちがいのないよう……お願いをしますよ、いいかい」
「へえ、よろしゅうございます、行ってらっしゃいまし」
「行ってらっしゃいまし」
「行ってらっしゃいまし」
「行ってらっしゃいまし」
番頭さん苦虫を噛みつぶしたような顔で、すゥーとお店を出て……半町ばかり来ると、ひょいと横丁から出てきたのは、荒いお召しの着物に紋付の色変わりの羽織、くりくり坊主の、白足袋をはいた男が、扇をぱちぱちさせて……どこからみても、幇間……。
「もしもし、大将……、大将ッ」
「えへん、えへん……おや、これはこれはええ、伊勢六のご隠居さまで、どうも。せんだっては、いや、ええ、ほんのもうこころばかりのお祝いのしるしでございまして、まことにどうも結構なことでございまして、近ごろはとんとお見えになりませんが、宅の主人もお相手を欲しいところでございますから、ちと、またお出かけになりますように。は、それではこれで失礼を、へ、ごめんくださいまして」
「もしもし、もし……もし」
「ばかっ」
「へえ?」
「へえじゃない、ちっ、うちの近所でむやみに口をきくんじゃあない……店の者にでも見られたらどうするっ、うちの近所へ来るなら来るで、そんな扮装《なり》をして来るやつがあるもんか、芸人のくせに気の利かない男だ」
「へへへへへ……そうあなたにまで叱言を言われちゃあ、あたしは立つ瀬がない、船へ行きゃ芸者衆に早く呼んでこいこいと言われ、こっちへ来りゃああなたに叱られる。しょうがないからお店の前へ行ったんでげすが……」
「いっぺん通ればわかりますよ。二度も三度も通って……なおわたしが出にくくなる」
「へえ、しかしどうも、あなたも遊んでいらっしゃるときはずいぶん粋な方だが、お店に座ってるときは怖い顔をしていますね、まるで閻魔《えんま》さんが煎じ薬を飲んだような……」
「なにを言うんだ……どうだい、みんな揃ったか?」
「えええ、揃ったかどこじゃあありませんよ。ええ……蔦《つた》の家のおかみに黙っていたでしょ、それが耳に入ったからたまりませんよ。『なぜあたしに言わないんだ、とんでもないことだ、こっちも押しかけるから』ってんで、あのいちまき[#「いちまき」に傍点]が、蔦奴《つたやつこ》さん、それから里奴さん、歌奴さん、吉奴さん、冷奴さんやなんかもみんな来て、船はいっぱいでげす」
「そうかい、まあまあ、いいや、船は?」
「日本橋に着けてあります」
「ばかっ、わたしが日本橋から船に乗れるとおもうか」
「あっ、なるほど、じゃあどこへ?」
「柳橋へ着けといてくれ」
「へえ、かしこまりました。どうぞお早く」
番頭は幇間に別れて二、三町くると、路地へすゥーと入って行く……一軒の駄菓子屋がある。
「お婆さん、ごめんなさいよ」
狭い梯子《はしご》をぎしぎし上がって行く。三畳の座敷に箪笥が預けてある。ここで着ていた木綿《もめん》物をすっかり着替えた。織目《め》の詰《つ》んだ天竺《てんじく》木綿の下襦袢、その上へ長襦袢……鼠色へちょっと藤色がかかっている。これへ京都の西陣で別染めにした大津絵の『釣鐘弁慶』『座頭』『藤娘』『鬼の念仏』などが染め抜いてある。結城|縮《ちぢみ》の対服《つい》に、帯は綴織《つづれ》の結構なもので、紙入れ……雪踏《せつた》などは香取屋へ別誂えという……上から見ても下から見ても一分の隙のない大家《たいけ》の旦那という服装《こしらえ》で、柳橋へ来る。船の中では芸者衆が待ちかねている。
「あら、清《せい》さん」
「まあ、清さん」
「ちょいとォ、早くお乗んなさいよ、こっちですよ」
「大きな声を出しちゃいけないよ。静かに静かに。船頭さん、ちょっと手を貸しとくれ……はい、ありがとう、じゃね、すぐに船を出しておくれ」
「へいッ」
舫《もや》いを解いて柳橋から漕ぎ出す。
「さ、障子を閉めておくれ、ぴったり閉めて……酒の支度はできてるか? じゃあ、こっちへ持って来ておくれ」
「障子を閉めろったって暑いじゃあありませんか、あんまり閉めきっちゃあ」
「いいんだよ。岡のほうから見えなくとも、すれちがう船で、もし知ったお方に顔でも見られたひにゃあ困るから……」
「そんなことを言ったって……向こうへ行ってどうなるんです。向島でお花見をなさるんでしょ?」
「花なんざ、どうだっていいよ。花の匂いかいでりゃいい。去年咲いた花と今年とかたちがちがうわけじゃあないんだから」
「だってお花見に来たのに、花も見ないってえのは、つまらないじゃありませんか」
「どうしても花が見たけりゃ、障子へ穴をあけて、そこからのぞけばいいじゃあないか」
「そんな……花見なんてあるもんですか」
「うるさいな、おまえたちは花見がしたかったら、勝手に上がって、あたしは船ン中で飲んでいる……さあ、酌いどくれ」
番頭は一人、ぐびぐび飲んでいる。船は上手へ……吾妻橋を越え……枕橋のあたりへくる時分には、すっかりいい心持ちになってくる。
「ああ、暑いっ、暑い……」
「そうですか……じゃあ、障子を開けますよ」
土堤は、いまが満開。一面にうす紅《くれない》のかすみがかかったように……天気はよし風はなし。桜の木の下では緋毛氈を敷いて、重箱を囲んで静かに酒宴をしている品のいい花見もあれば、そのとなりでは、空《から》になったひょうたんをふりまわして、わけのわからない唄を唄っている人、こちらでは丼鉢《どんぶりばち》を叩いてかっぽれ[#「かっぽれ」に傍点]を踊っている人、その向こうでは、女の子が鬼ごっこをして、きゃっきゃと騒いでいる……土堤の上はたいへんなにぎわい。
「船をつけて土堤を散歩しましょうよ」
「あたしは奉公人だから顔を見られるといけない、だめだよ」
「一緒にお花見をしたいじゃありませんか……ちょいと、一八《いつぱち》っつぁん、なんとかしてよ」
「じゃ、大将、こうしましょう。顔さえ見られないようにすればいいでがしょ……あのう……小しん姐《ねえ》さんの腰紐をちょっとほどいて貸してください……へ、へ、へ、で、この扇をひろげて、逆さまにこう……顔にあてて、ぐるぐるっと巻いて……うしろで、結《い》わきます。どうです、骨のあいだから表がちょいと見えるでしょ? ね? それで鬼ごっこでもしていたら、だれも気がつきゃあしません、どうでげす?」
「うーん、なるほど……うーん、いいだろ、じゃあ土堤へ上がろう……お、船頭さん、船をつけてくれ」
河岸へ船がつく。一座がわあわあ言いながら土堤へ上がる。
「じゃ、これから鬼ごっこしましょう」
「よーし、じゃおれが鬼ンなる。さ、つかまえたやつは大きなもんで飲ませるぞ、いいか、そらっ行くぞ」
「あらいやだわ」
「うわァ……」
という騒ぎ。いままで殺していた酒がいっぺんに出た……番頭は片肌脱ぐと長襦袢、芸者の三味線に合わせ、土堤をあっちふらふら、こっちふらふら……。
こちらは旦那、玄伯というお幇間《たいこ》医者を一人連れて、これも向島へお花見に来た。
「きょうはいいお日和で、ほんとうに。ああ、桜の花は満開。もう花もきょうで、これからは散るんだろうが……あーあいい時に来ましたな。いや、やっぱりお花見てえものは人が大勢出て騒いでないと、なにか花見に来たような心持ちがしないてえな、妙なものだね。そろそろ帰ろうかね。ええ? あああ、みんなおもいおもいの扮装《いでたち》で……おっ、玄伯さんごらん、向こうから……ああ、たいそう派手な花見だなあ……ええ? どこの旦那か知らないが大勢の芸者、幇間にとり巻かれて踊ってるが……。あれを見るとあたしの若い時分を思い出しますよ。傍《はた》から見てると、ばかげて見えるが、さてやって見るとおもしろくってね、本人は夢中ですね……あたしもおもしろくって、おやじに勘当されそこなってね。ははははは、いやあどうも楽しそうだなあ」
「旦那」
「ええ?」
「あの、あれはお宅の番…頭さんによく似てらっしゃるが、清吉さんとちがいますか?」
「どれ、あれがかい? いやいや、いや、そりゃあね似ていたって人ちがいですよ。うちの番頭はああいうことはけしてやりません。商人《あきんど》は少しはああいうこともやってくれないと困るが、うちの番頭は堅すぎますよ。きょうなんぞも店の者に叱言を言うのを聞いていましたが、うちの番頭にこんなところを見せたら目をまわす。おお、こっち……ああ、来る、ああ、あぶないあぶない、酔っぱらいになに[#「なに」に傍点]するとあぶないから、玄伯さん、もっと端《はし》のほうを通ろう」
旦那のほうは端《はじ》のほうへ寄って歩く……。
向こうが酔っているから、よけたほうへひょろひょろひょろひょろ、よろけてくる。こりゃいけないとおもうから、右へよけると、向こうが右へくる、左へよければ左、そのうち小砂利の上へ乗って、つるッとすべって、とんとんとんとん……のめってきた。旦那といきなり番頭とぽーんとぶつかった。
「さあ……つかまいた、さあ……つかまいたぞ」
「いや、これこれ人ちがいで、もし人ちがい……」
「なあに卑怯なこと言うな、貴様、善六だろう、ええ? 人ちがいもなにもあるか、さ、一杯飲ませるぞいいか、なにを、糞でも食らえ、貴様ァそんな卑怯な……さ、顔を見てやる、さあ、どうだ」
扇をとって……ひょいっと見る。ぴたっと顔があった。
「わーッ」
そこへ、ぺたぺたぺたッと座りこむ。
「こ、これは旦那さまでございますか、ご機嫌よろしゅうございます。いつもお変りなく……どうもお久しぶりでございます。ご無沙汰を申しておりまして、なんとも申しわけがございません」
「おいこれこれこれ、番頭さん、なにを言いなさる。そんなところへ座ったら着物が汚《よご》れる。困ったなあどうも。あの……たいそう酔っているようだから、みなの衆、どうか怪我をさせないようにおもしろく遊ばせてやってくださいよ。あまり遅くならないうちに帰してくださいよ。いいかい。玄伯さん行こう」
「……どうなすったんですよ。そんなところへ座って、お立ちなさいよ、ちょいと」
「うるさいっ……。はあ……とんでもないことをした……」
「どうなすったの」
「どうなすった……じゃないっ」
「どなたです、いまあの……話をしていらした方は?」
「あれがうちの旦那だ」
「あらッ、まあ、そうですか……粋な方だわねえ……まだそこいらにいらっしゃるでしょうから、ちょっと呼んで来ましょうよ」
「ばか言うな……これだからあたしは……船から上がるのは嫌だと言ったんだ。うーん、もうこんなことしちゃあいられない。ここに紙入れがあるから、これで後始末をつけておくれ、頼むよ、いいか?」
「あらもうお帰り」
急いでもとの駄菓子屋へ来て、着物を着替えて、表へ出た。
「ああ……きょうはなんたる悪い日だ……えらいことをしたなあ……しかし他人の空似《そらに》ということもある。ああ……さっきのが旦那でなく人ちがいだったら……いや、ま、とにかく、うちへ帰ってみて……ただいま、いま帰った」
「お帰んなさいまし」
「お帰んなさいまし」
「お帰んなさいまし」
「お帰んなさいまし」
「あの……旦那はおいでになるだろうな」
「あの、玄伯さんをお連れになりまして、向島へお花見にいらっしゃいました」
「え?……やっぱりそうか……」
「なんでございます?」
「い、いや、いい……ええ、あたしゃ風邪を引いたのかどうも頭が痛む、心持ちが悪いから二階へ上がって寝るから、あの、薬を買って来ておくれ。旦那がお帰りになったら、わたしは、『少し気分が悪うございますから、すみませんが勝手にやすませていただきます』とこう言っておくれ」
「へい」
番頭は二階へ上がると布団をかぶって寝てしまう。そこへ旦那が帰ってきた。
「ああ、ご苦労さん、玄伯さんきょうはすみませんでしたねえ。この包みのほうは奥さんに持って行ってくださいよ。まだ手がついていませんからね、ご面倒でしょうけど。あしたでもまた来てくださいよ。じゃあご苦労さま、はいはいごめんよ……いま帰りました」
「お帰んなさいまし」
「お帰んなさいまし」
「お帰んなさいまし」
「お帰んなさいまし」
「あの、番頭さんは?」
「あのう、さきほどお帰りになりました」
「ああそうか……、さきほどお帰りか……」
「あの、風邪を引いて……少し気分が悪いから先へやすましていただきたいと申しました。ただいまあの……寝ております」
「風邪を引いた、そうか……お医者さまは?……そりゃいけない。店の大事な番頭さんだ、買い薬ではいけません……お医者さまにでも診《み》せたほうがよかろう」
二階で聞いている番頭の耳の痛いこと。
「旦那も皮肉だなあ……もっともなんと言われてもしかたがない。こっちが悪いんだ。(大きく溜息)いよいよ首になる……ああ、あんなところを見られて無事で済むわけがない。いま迎いがくるだろう……なんとおっしゃるかしら『おまえも長いあいだご苦労だったが……さて、うちの都合でこんど暇を出しますから、どう……』そうは言わないかなあ。『清吉ッ、そこへ座れ……貴様と言うやつは、なんたる……、これだけ面倒を見たのをなんたること……』そうは言うまいかなあ、とにかく……無事じゃあ済まない、もうくるかしらッ」
コトッと音がしても、ビクッととび上がるよう、まんじりともしない。そのうちに、迎いにくるだろうとおもったが音沙汰なし。
がらがらがらがら、がらがらがらがらと、戸を閉める音で。そのうち家の者は寝静まったとみえて、シーンとした。
「ああ、あしたの朝までこれは寿命がのびた。しかし……どっちみち[#「どっちみち」に傍点]あしたになれば暇を出されるにきまっている、嫌なことを聞いて暇を出されるよりは……出て行っちまったほうがいい。ああ嫌なことを聞くだけつまらない。もう二度とこの店へは帰ってこられないから、着るだけのものは着て出よう」
これから起きあがって襦袢を二枚着て……その上へ着物を六枚……羽織を三枚……帯を二本締め、煙草入れをさして、
「こら、たいへんだなこりゃ。こんなに着ちまったら動けない……。しかし……これでおれが出てしまって……あした請人《うけにん》を呼んで『さてこんどは初めてのことだから大目にみるが、この後こういうことのないように』というような話になって、わたしのところへ迎いにくる。姿が見えない……それじゃあ前々から、もう店にはいないこころだったのかと、なお憎しみがかかる……逃げちゃあやっぱり損かしら、よそう……落ち着いていたほうがいい。じゃそうしよう」
着物をたたんで、
「……そうはいうようなもんの……あれだけのことをしたのを見られたんだから、しょせん首のつながるわけもない。やっぱり逃げたほうがいいかしら」
着物を着てみたが、
「……逃げたところでしょうがない……この商売はもうできないし、小《こ》商人《あきんど》になろうか、子供相手の芋屋、これは色気がないな……それよりやっぱり叱言を言われてもいいから……ここにいようかしら……逃げようかしらン」
着物を着たり脱いだり、しまいにはもうくたびれて、
「うーんうん、なるようにしきゃならない、しょうがない……寝よう」
枕についたが寝られません。あっちへごろり、こっちへごろり、どうしても寝つかれない、そのうちに疲れがでてとろとろっとする。きのうまでは鼻の先で叱言を言っていた若い者や小僧が立派な主人になって商売をやっている。そこへ乞食のような姿で自分がたずねて行く、
「番頭さんじゃあありませんか、むかしにひきかえて、まあたいそうあなたも落ちぶれたもんですねえ」
わッと笑われる。はッとするとたんに目が覚める、
「ああ……夢でよかった、早く寝よう」
またとろっとする。高い山の上からドォーんと、突き落とされてぐゥーッと下へ落ちてくる、はッとおもうと目が覚める。こんどは追いはぎに出逢って、刀で腹をえぐられるなんてえ……いや、ろくな夢は見ない。一晩じゅう七顛八倒の苦しみ……。
かあ、かあ……。
夜が明けたんで、もう意地にも我慢にも寝ていられないからとび起きる。がらがらがらがら戸をあける。箒《ほうき》を持って表へ出て、せっせと掃きはじめたんで……小僧がおどろいてとび出した。
「番頭さんどうもあいすみませんで……あたくしが掃きますから」
「あーあ、いいいい、いいんだ、あたしがここいらを掃除をするから、おまえは帳場へ座って帳面をつけておくれ」
って、なんだか言うことがわけがわからない。朝のお膳へ向かったが、一膳のご飯が、咽喉へ通りません。やっと流しこんだが、出るのは溜息ばかり帳場へ座って帳面を開いたが字がかすんで、ぼう…ッと、大きくなったり小さくなったり……。
そのうち、奥でもお目ざめになった様子で、うがい手水《ちようず》をして神仏へお詣りを済まして、食事も済み、離れの居間の縁側の障子を開けて煙草をのんでいる。吸がらを灰吹きでコツーン、コツーンと叩く音が、番頭の胸へ、カチーン!
「えへん……これこれ、だれかいないか……これ」
「へーい、お呼びでございますか」
「あ、兼どん、おまえな、番頭さんがお店においでだったら、ちょっとお話があるから、お手間はとらせませんがと言って、ここへ来るように……。もし、あんまりお忙しいようならば、のちほどでもよろしゅうございます、と言って、ちょっとうかがってきなさい」
「へい……番頭さーん」
「あっ……とうとう……」
「番頭さん」
「……しょせん助からない」
「番頭さんッ」
「ああびっくりした、なんだ大きな声を出して」
「いえ、さっきから呼んでいるんで……あのう、旦那がちょっとお話がありますんで、奥へおいでが願えませんでしょうかって」
「……そら……来たッ」
「……? なにが来たんで」
「……いよいよ来た」
「で、もしお忙しいようなら、あの……のちほどでもよろしいそうですが、どうします……?」
「うるさい」
「へ?」
「……うるさいッ」
「いえ……あの……どういたします……?」
「ちッ……いま行くと、そいっとけ」
「へえい……行ってまいりました」
「はい。ご苦労さま、番頭さんはおいでになるか?」
「ええ……『いま行くと、そいっとけ』ってました」
「だれがそんなことを言った?」
「番頭さんがそう言ったんで」
「嘘をつきなさい……そんなことを番頭さんが言うわけがない」
「いえ、わけがないったって、そう言ったんです」
「これ、たとえそう言ったにもしろ、貴様はここへちゃんと手をついて『ただいま申しあげましたら、番頭さんはおいででございます』と、なぜ言わない……そら叱言を言えば、またふくれっ面をした。少しかわいがってやれば増長をする。米の飯が、てっぺんへ上がったてえのは貴様のことだっ」
うしろで聞いている番頭のつらいこと。
「そっちへ行きなさい……しょうのない……だれだそこに……ああ番頭さんか、さあさ、こっちへお入り」
「へえ」
「入っておくれ、ええ……まあまあその敷居越しじゃあなんだから、こっちへ入って、どうぞ布団を敷いておくれ」
「いいえ」
「いいえったっておまえ、あたしも敷いているんだからどうか敷いておくんなさい、え? いいえかまわないから、遠慮をすることはない……遠慮は外でするもんだ」
「へえ」
「いま……お茶を入れようとおもったが、あいにく水をさしたばかりで、もうちょっと……待っておくれ。……ああどうも、いまも小僧に叱言を言ったんだが困ったものだ、ああいう行儀作法を知らないものを、おまえが育てて行くのはなかなか、なみたいていのことじゃあない、ええ……さぞ骨の折れることだろうとお察しをしますよ。いまなにかい、お店のほうは少しぐらいはかまいませんか、いいかい?」
「へっ」
「もし差し支えがあるなら遠慮なく言っておくれ、かまわないから……? そうか。話というのは……ま、妙なことを言うようだが、よく一軒のうちの主人《あるじ》を旦那と言うな? ありゃどういうわけで旦那と言うか知ってなさるか?」
「存じません」
「そうだろう、わたしもじつは知らなかったが、このあいだ物識りの人からうかがった。ほんとうか嘘かは知らないが、天竺《てんじく》、天竺といっても五天竺《ごてんじく》あるそうだ。そのなかの南天竺《なんてんじく》に栴檀《せんだん》という大木があって、その根のところに難延草《なんえんそう》という汚い草が生えていた。人がこれを見て、難延草を刈っちまったら、もっと栴檀に美しい花が咲くだろうとおもって、難延草を刈りとると、一晩のうちに栴檀が枯れてしまったという。それというのは、この難延草の汚い根が栴檀にとってのなによりの肥料《こやし》になり、で、また難延草は栴檀から露《つゆ》をもらって生きていた。と、したがってこの……栴檀の木が栄えていくという、こりゃお互いにもちつ、もたれつというわけだ。それで栴檀のだん[#「だん」に傍点]と難延草のなん[#「なん」に傍点]をとって、だんなん[#「だんなん」に傍点]……だんな[#「だんな」に傍点]となったという。こりゃま少しこじつけでおかしいが……ま、そんなことはどうでもいいが、あたしゃたいへんいい話だとおもう」
「へえへえ」
「そこで、この家でいうのはおこがましいが、わたしが栴檀で、おまえさんは難延草だ。わたしの栴檀という木が大きくなっていく、それはおまえという難延草が店でどんどん稼いでくれる。ま、おまえさんの気にもいるまいが、わたしもずいぶんできるだけの露をおまえさんにおろしているつもりだ。これが、店へ出れば、こんどはおまえさんが栴檀で、店の若い者、小僧はさしずめみんな難延草だ。栴檀ばかり威張って繁っていちゃいけない。これはね、あたしのおもいちがいかもしれないが、近ごろ、店の難延草がちょっとしおれているんじゃあないかと……まあ、これを枯らしてしまえば、おまえさんという栴檀も枯れる、したがってあたしも枯れなくってはならない。だから店の者も少しは大目に見てやらなくてはね、どうかおまえからもできるだけ露をおろしてやってもらいたい」
「まことにどうも……行き届きませんで申しわけがございませんで……」
「いーやいや、とんでもないこと、行き届かないなんてえことはない。おまえさんのしていることは、じつにどうも、隅々までよーく、行き届いている。しかしねえ、世の中というものは、これでむずかしいものだ。よく無駄をしちゃいけないてえことをいう。なるほど無駄はいけないには相違ない。しかし、あれも無駄これも無駄といって、無駄のなくなった世の中がよくなるかというと、そう一概にも言えないとおもう。ま、かりにお膳へ鯛という魚をつける、頭と尻尾はこりゃいらないものだ、なにも頭を食べる人はなし、尻尾を噛じるものはない、しかしまん中の切り身だけで、それじゃあよさそうなもんだが、やはり頭と尾がない鯛というものは値打ちがない。これは無駄のようだが、けっして無駄でないというわけだ。店にいる者も、こんな者は役に立たないとおもうこともあるだろうが、やっぱりそれも育てようで、なにかの役に立たないとも限らない。ううん、話はちがうが、おまえがうちへ奉公に来たときは、たしか十一だった、あの時分のことはおまえも覚えているだろう? 葛西《かさい》からうちへ来る惣兵衛という掃除屋の世話で来たんだが、そのとき来た、おまえ……色のまっ黒な、やせっこけた、目ばかりぎょろぎょろさして、汚い子だった……ま、どうも困ったのは……下性《げしよう》が悪い、寝小便というやつだ。いくら叱言を言ってもなかなか直らない。死んだお婆さんてえ人が癇症《かんしよう》だ、いろいろ薬を飲ましてみたがいけない、こりゃお炙《きゆう》をすえたらよかろうというので……腰へ炙をすえるんだが、墨でしるしをつけたが色が黒いんでわからない、しかたがないからお白粉でしるしをつけて、お炙をすえたことがある。使いにやれば、まあ三つ用を言いつけると必ず一つは忘れて帰ってくる。金を落として泣いて帰る。二桁のそろばんをふた月かかってまだおぼえない。こんな者は置いたとこで、役に立たないから暇を出したらと言うのを、わたしが、いやいや見どころがあるからと言って丹精をした……それが今日《こんにち》のおまえさんだ。立派になってくだすって、あたしは自分の年の老いるのも忘れてよろこんでいます。だから役に立たないとおもう者でも、育てておけばまた、なにかの役に立たないとも限らない。さぞおまえさんも骨の折れることだろうが、一つ店の難延草を、よろしく頼みますよ、お願いしますよ」
「……まことに恐れ入りました」
「いやどうもとんだつまらん話をして……あ、いま湯ゥがよくなりました。お茶を入れるからちょっと待っとくれ……こんなつまらないお菓子だが、つまんでおくれ……ううん、話はちがうが……きのうはまた、たいそうお楽しみだったね」
「へえ……あれはこの、なんでございます……ええ、お得意さまの……お供をいたしまして……」
「いいやいや……そんな言いわけをしなくてもいい、おまえが金を出して遊んでいるか、他人《ひと》のお供か見てわからないことはないが……しかしまあ、きのうは、おまえがお供で遊んでいたんでしょう。どうかね、他人《ひと》さまと付き合って遊ぶときには、じゅうぶんに金は使っておくれ、いいか? 向こうで二百両出して遊んだときはおまえは三百両お出し、五百両使ったら千両お使い。どうかそうしてくれないと、いざというときに商売の切ッ先が鈍《なま》っていけない。……そんなことでつぶす身代なら、あたしはなんとも言わない」
と、言いながら、旦那は敷いていた布団をとって番頭の前へ両手をつかえ、
「番頭さん、しかしこのとおりお礼を言います。よく勤めてくださった。おまえさん、ゆうべ寝られましたか、え? あたしはね、ゆうべは一睡もしなかった。いままで、ふだんおまえさんが店で忙しくしている、のぞいてみて、ああ気の毒だ、さぞ忙しかろう、わたしが手伝おうとおもって店へ出かけたが、いやこりゃいけない、いったん任したものをわたしが出しゃばっていくようじゃあ、おまえがさぞ商売もやりにくいだろうとおもうから、どんなに忙しくしていようと、わたしは店へ顔は出しません。『お閑暇《しま》なときにお調べを願いたい』と言っておまえの持ってくる帳面も、ただの一度もわたしは見たことがなかった。しかし、ゆうべは見せてもらいましたよ。あんなことをしてどんな欠損《あな》をあけているかと、さぞ気の小さい主人だとおもって、おまえ笑うかもしれないが、わたしも自分の身上《しんしよう》は大事だ。調べて見たところ、これっぱかりの欠損《あな》もない、わたしァね……ほんとうにうれし涙がこぼれた(と、涙ぐみ)、番頭さん(と、手をついて)おまえさんに改めてあたしは……お礼を言いますよ。わたしは、いい家来を持った。よくたとえにいう……『沈香《じんこ》も焚《た》かず、屁《へ》も垂《た》れず』なんという、人間そんなことじゃあいけない。人のおどろくような金を使うような人は、またびっくりするような儲けもする。おまえは自分の力で儲けて、その金で遊ぶ。だいたいおまえにいままで店を持たさなかったのは、あたしが悪い、しかし後《あと》を任す者がないので、ついついのびのびになってしまった。ほんとうにすまないことをしました。来年は約束どおり、おまえを分家させて、ちゃんと店を持たす。どうかそれまで、もう少しの辛抱……お店のほうはいままで通り、おまえさんにやってもらいますから、辛抱しておくれ、いいかい?」
「へえ……へへへへへへ(と、すすり泣き)あ、ありがとう存じます」
「……ふふふ、ふふふ、いやあどうも、とんだ、話が理《り》に詰《つ》んだ。お忙しいところを、すまなかった、さあさ、店へ行っとくれ。あたしゃおまえさんは、世にも不器用な人だとおもっていたが、きのうの踊りを見たときはおどろいたな。どこでいつ稽古をしたかしれないが、あのとんとんとんとんと、こう……前へ出てくる足どりなぞはどうも、なかなかどうして素人《しろうと》ばなれがしているが、え? ここに孫の太鼓がある。これを叩くから、おまえちょいと、ここで踊って見せてくれないか?……はっはははは、嘘だ嘘だ、うろたえることはない。……これは冗談だが、あ、ちょっとお待ち。きのうわたしに逢ったとき、おまえ、変な挨拶をしたね、『お久しぶりでございます、ご無沙汰を申しあげて……』と、まるで何年も会わなかったようだが、毎日毎日、烏の鳴かない日はあっても、おまえさんの顔を見ない日はないはず、ありゃおまえ、いったいどういうつもりだったんだ?」
「へえ、いつもは堅いとおもわれているわたくしが、こんなところを見られて、しまった、ああもう、これが百年目とおもいました」
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