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落語百選29

时间: 2019-09-15    进入日语论坛
核心提示:出来心落語のほうに出てくる泥棒は、あまり後世に名を残すような立派[#「立派」に傍点]な泥棒はいない。もっとも泥棒で成功し
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出来心

落語のほうに出てくる泥棒は、あまり後世に名を残すような立派[#「立派」に傍点]な泥棒はいない。もっとも泥棒で成功して功なり名を遂げたなんていうのは、あまり、おだやかではない。やはり、これをやりそこなうところが噺のネタになるようで……。
「どうもてめえには、あきれけえってものが言えねえ。なにをしても満足なことは一つとしてできゃあしねえんだからなあ……。ええ? 仲間が言ってるぜ、もうとても見込みがねえ、いまのうちに足を洗わして、堅気にしたほうがいいってえが、おめえ、どうするんだ」
「いえ、せっかくまあ、縁あって親分子分の盃をいただいたんですから、あたしもこれからは、心を入れかえて、一所懸命悪事にはげみますから、どうかいままでどおり置いてください」
「そうか。おまえが真心に立ちかえって、泥棒の修行にはげむと言うなら、置いてやらねえこともねえ。けど、少しは人にほめられるような仕事をしてみろい」
「へえ、どうも考えてみると、人にばかり教わっていたんじゃあだめだと、このあいだ、自分でおもいきって一つやっつけてみようとおもってね」
「そいつは感心だ、なにをやった?」
「土蔵破りをやりました」
「たいへんなことやりやがったな、でっけえ土蔵か?」
「へえ、一町半ばかりもあったかな」
「一町半? たいへんなもんだな。どこか河岸かなにかの土蔵か?」
「へえ、屋敷の土蔵で……」
「ふーん、うまくいったか?」
「雨が宵の口から降っていやした。道具でぶちこわして身体の入《へえ》れるだけ穴をあけましてね」
「それは豪儀だ」
「中へ入《へえ》ってみると、いっぺえ草が生えてますんで……」
「蔵ン中がか?」
「石ころなんかごろごろしてまして……」
「おかしいじゃねえか」
「そのうちに雨がやんだんで、上を見ると、星が見える」
「変じゃねえか、土蔵のなかで……」
「あたしもおかしいなとおもって、よくよくみたら親分の前ですが、こいつが大笑い……」
「なんだ?」
「土蔵じゃなくて、お寺の土塀を破って、墓場へしのびこんだんで……」
「ばかっ、土蔵か、土塀だかわかりそうなもんじゃねえか」
「それが、どうも、あいにく暗くってわからなかったんで……」
「なんか盗んだか?」
「いや、隅のほうの墓石を持ってこうとおもったが、重くって重くって持ちあがらねえから、よした」
「まぬけな野郎だ。……土蔵破りなんてそんな仕事でなく、おめえには、とてもまともな盗みはできそうもねえから、空巣《あきす》でもやってみろ」
「空巣ってなんです?」
「なんだ、泥棒のくせに空巣を知らねえのか」
「自慢じゃありませんが……」
「そんなことが自慢になるか……空巣というのはな、人のいねえ留守をねらって家へ入《へえ》ることだ」
「そいつはたち[#「たち」に傍点]がよくねえ」
「ばかっ……たち[#「たち」に傍点]のいい泥棒がいるか……なあ、早え話が、夫婦っきりかなんかで、亭主は稼ぎに出ている。夕方、かみさんのほうは夕飯の支度をしようって、ちょいと小買物《こがいもの》に出かけらあ、すぐ帰ってくるからいいだろうってんで、締まりをしねえで出るやつだなあ。ここをつけこんで入るんだ」
「はあはあ、なるほど。でも、表からここの家は留守だか留守でねえか、わかりませんねえ」
「うん、はじめはわからねえ。表から当たりをつけろ」
「提灯を持ってって?」
「なにを言ってやがる。灯りをつけるんじゃあねえ、当たりをつける。閉まっている家があったら、当たってみるんだ。新道とか抜け裏で戸が閉まってる家があったら、『ごめんください』と二、三度声をかけて、中で返事がなければ、門口を開《あ》けて中へ入《へえ》って、また声をかける、いいか。でも返事がねえからって、安心しちゃあいけねえ。厠《はばかり》へ入《へえ》ってねえともかぎらねえ、いいな。あわてるんじゃあねえ、落ち着かなくちゃいけねえよ、といってあまり落ち着いてもいられねえ、すぐ帰ってくるんだから、逃げ道から調べて、表口から帰ってきたら、裏口を開けて、裏口から帰ってきたら表口へ逃げるということにするんだ……おめえみてえなドジな野郎はつかまらないともかぎらねえ」
「そういうときはどうします?」
「盗みをしているところを見つかったんだからしかたがねえな。そんなときには、むやみに逃げまわったりしねえであやまっちまうんだ」
「ごめんなさい、このつぎは見つからないように盗みますからって……」
「そんなことを言うやつがあるか……そういうときは泣き落としという手をつかうんだ……盗んだものはみんなそこへ出して『まことに申しわけありません。じつは職人のことで、親一人子一人、おふくろが三年越しわずらっておりまして、このごろどうも様子が悪うございますから、もしも留守にまちがいでもあってはならねえと、仕事を休み、きょうは少しいいとおもって出かけましても、なにぶん病人のことが気になって仕事が手につきません。半日で帰るというようなわけで、間を欠いたところから、親方をしくじってしまい、仕事をしねえで家にいれば、だんだん食いこむばかり、病人に薬をのませることもできません。あ、これを質にでもおいて、おふくろに薬をのませたり、うまいものの一つも食べさせられるとおもいまして、ほんのつい出来心でございます』と、涙の一つもこぼしてみれば、『それはかわいそうに、ああ、出来心じゃあしかたがねえ』と勘弁してくれらあ。うまくいきゃあ小遣いの少しもくれて、逃がしてくれようてえ寸法だ。どうだ、わかったか」
「くれねえときは、親分がくれますか?」
「ずうずうしいことを言うなよ……おれのいま言ったことがわかったかてんだ?」
「ええ……つまりですね……ごめんくださいと言葉をかけて、返事がなかったら留守だから仕事をする、返事があればいるんだから、どうも申しわけありません。出来心で……」
「おいおい、まだ盗まねえうちから名乗りをあげるやつがあるものか。もし返事があったら、そこはしらばっくれてものをたずねるんだ」
「近ごろの世の中をどうおもうかなんか……」
「いきなりそんなことを聞けば、相手はびっくりすらあ……そんなことでなく『この近所になに屋なに兵衛さんてえ人はいませんか?』とか『なに町のなん番地はどのへんでしょうか?』とか聞いてみろ、相手が知ってても、知らなくてもいいから『ああそうですか、ありがとうございます』と、礼を言って出てくればいいんだ」
「ああ、なるほど、そうすれば泥棒とわからないわけだ……では、さっそく出かけますから、風呂敷を貸してください」
「どうするんだ?」
「盗んだものを包んできます」
「どうせ盗みに行くんだから、向こうの風呂敷で包んでくればいいじゃねえか」
「でも、返しに行くのが面倒だから」
「ばかっ、返さなくてもいいんだ」
「それでは義理が悪い」
「なにを行ってるんだ、まぬけめ、早く行けっ」
「では親分、空巣ねらいに出かけます」
「大きな声を出すんじゃねえ。そっと出かけろ」
「では、行ってきます……えー、少々うかがいます」
「おーい、となりからやるんじゃねえ。町内をはなれろ」
「あははは……さすがの親分も、となりは気がさすとみえるな、町内をはなれろと言ったな……では、はなれたところで……このへんはどうかな?……えー、ごめんください、こんにちは」
「おーい」
「へい、へい」
「そこは、空家《あきや》だよ」
「空家ですか……なるほど、造作つき貸家と紙が貼ってあらあ」
「貸家捜しか?」
「いいえ、留守捜しで……」
「留守捜し?……変な野郎だな」
「そう見えますか」
「あやしい野郎だ」
「ごもっともさまで……」
「なんだと、この野郎?」
「さようなら……空家はまずかったなあ……人が住んでいねえんじゃ盗みようがありゃあしねえや……この家はどうかな?……えー、ごめんください」
「はい」
「さようなら」
「おい、気をつけなさいよ。おかしいのがうろついてるから……下駄でもなくならないかい」
「やれ、やれ……下駄泥棒なんかとまちがわれちゃあしかたがねえや……あわてたからいけなかったんだな。ごめんください、はい、さようならって言えば、だれだってあやしむよ……こんどはぐっと落ち着いて、向こうの様子をうかがわなくちゃいけねえや。どうしようかな……ごめーんくださーい、しょーしょーものーをうかがいますとゆっくりきいてやろう……では、この家でやってみようかな」
「ごめんくださーい」
「はい、なんのご用ですか?」
「おや、そこにおいでになりましたか」
「ええ、さっきからここに座っておりました」
「それはあいにくでした。いつごろお留守になります」
「留守にはしません」
「それは用心のいいことで……では、またお留守のころにうかがいます。さようなら」
「なんだい、あの人は……」
「いけねえ、いけねえ。目の前に座っていたとは気がつかなかったな。なかなかうまくいかねえもんだ……えー、ごめんください」
「へえ、おいでなさい」
「おや、おりますね」
「いるから返事をするんだ」
「なるほど」
「なんだ、おまえは?」
「えー、少々ものをうかがいますが……」
「なんだ」
「えー、お宅には裏がありますか?」
「なんだ、裏はあるよ……言うことがわからないな」
「いいえ、あの……なに屋なに兵衛さんはご近所で?……」
「なんだと?」
「いえ……その……なに町のなん番地てえのはどのへんでございましょうか? ……いえ、よろしいんです。もうわかりましたから……」
「なにがわかったんだ。この野郎、おかしなことばっかり言いやがる」
「いえ、あの……なんでございます。このご近所に、なんです……さ、さ、さいご兵衛さんてえ方をご存知ないでしょうか?」
「さいごべえ? そんないたち[#「いたち」に傍点]みてえな人は知らないね」
「あたしも知らない」
「なにをッ」
「さよなら……わー、おどろいた、おどろいた。なにをッてまっ赤ンなって怒りやがった……でも、さいご兵衛はよかったね、そんなまぬけな名前のやつはいないもんなあ。そうだ、これからみんなこれでいこう……やっ、この家は少し開《あ》いてるじゃねえか。ごめんくださーい、少々うかがいまーす……お留守でしょうか?……泥棒が入りかかってますよ、……ぶっそうですよ……戸締まりはしっかりしなくてはいけませんね……厠《はばかり》から出てきて、バァなんてのはいけませんよ……しめ、しめ……いないんだ、ほんとに……こうなればこっちのもんだ。上がっちまおう……あれ、いい道具が揃ってるじゃあねえか。あっははは、いい長火鉢だ。欅《けやき》だなあ、落としもいい、銅壺《どうこ》もいいなあ。湯が沸いてらあ、いい鉄瓶だ、いい形だ、南部かなあ……お、煙草《たばこ》入れがあらあ、いっぷくさしてもらおうかな……親分が落ち着かなくちゃいけねえてえから、ぐっと落ち着こう。泡食って出世したのは鯔《ぼら》ばかりてえから、落ち着きが肝心だ……ああ、いい煙草だ、口がおごってやんなあ。ははは……こう落ち着いてしまえばこっちのもんだ、これより落ち着くのにはこの家に泊まっちまわなくちゃならねえ、へへ、なあ……菓子盆があらあ、ふふふ、ああ、羊羹《ようかん》だよ……ずいぶん薄く切りやがったな、けちな野郎だ。これで数をよけいにみせようってんだ。よし、敵がそういう手をもちいるならば、こちらは計略のウラをかいて、三切《みき》れいっぺんに食うという手をもちいて……あー、はは、うーん、うまい羊羹だ、こいつはいいや……」
「おーい、下へだれか来ているのか?」
「ううっ、くーっ……すみません。ちょっと背中をたたいてください……苦しいッ」
「こうか……どうだ……」
「……羊羹が胸へつかえて……」
「なんだ、おめえさんは?」
「あっ、直りました。どうもご親切さまにありがとうございました」
「なんだ、見なれない人だね?」
「へえ、……二階においでになったんですか?」
「あたしゃ上で片づけものをしていたんだが、あんただれだ?」
「あの、ちょっと、ものをうかがいたいんですが……」
「冗談じゃない。ものを聞く人間が、人の家へ上がりこんで、羊羹を食うって話がどこにある」
「いえ、あの、落ち着きました」
「落ち着く? いったいなにを聞きてえんだ?」
「この近くにおいでになりますまいなあ」
「だれが?」
「いえ、たしかにいないんです」
「たしかにいねえ……だれがいないんだ?」
「へえ、あの……さ、さいご兵衛さんてえ方をご存知ないでしょうか?」
「そんならそうと早く言えばいいじゃないか。さいご兵衛はわたしだ」
「ええっ、あなたが? そんなことはないでしょ」
「なにを言ってるんだ。わたしがさいご兵衛だ」
「いいえ、いえ、あなたでないさいご兵衛さんなんで……もっといい男のほうのさいご兵衛さん」
「なにを?」
「よろしく申しました」
「だれが?」
「あたしが……」
「なんだ、ふざけるな」
「さよなら……いやあ、おどろいたね、どうも……世の中にはまぬけな名前のやつもいるもんだ、あっは……二階があるのを気がつかなかったよ。こんど二階を気をつけなくっちゃあいけねえ、ああ、おどろいた……でもまあいいや、羊羹を食って煙草をのんだだけでももうけもんだ……あっ、いけねえ、買いたての下駄ぬいできちまった。羊羹と煙草ぐらいじゃあわねえや、どこで損するかわかりゃあしねえ……ここまで逃げてくりゃ、もう大丈夫だ……おや、なんだい……ずいぶんまあうす汚《ぎたね》え長屋へまよいこんじゃった……あれ? ここの家は少し戸が開《あ》いてるぞ……ごめんください、ごめんください……いねえな、ごめんくだ……ああ、敷居が腐ってやがる……ああ、開いた開いた……なかに障子もなんにもねえ、こら、空家か? いや、人が住んでるらしいな……あんなところへ越中|褌《ふんどし》を干したりして、汚え家だな。さてと、外から帰ってきたときにしょうがねえから逃げ道を先へ考えておかなくちゃあいけねえ……おやこりゃだめだ、地境《じざかい》が裏の蔵の土塀で出られねえ。たいへんな家へ入《へえ》っちゃったぞ、こりゃ……畳もぼろぼろで、畳というほどのもんじゃあねえ、たた[#「たた」に傍点]がなくってみ[#「み」に傍点]ばかりだ。目ぼしいものは一つもねえ。弱ったなあ。あッ、あんなところに七輪が鉢巻きして、今戸焼の土鍋がかかってらあ。……きょうは縁起だからなんか持って行きてえなあ、せっかく入ったんだから……でも、こんなものしょうがねえなあ、百にもならねえや、これでも盗みゃあ泥棒の罪はおなじだ。ばかばかしいな……土鍋のなかになにか煮てやがる……あ、おじやだ……あああ、しけてやがるな、こんなものをくらってるんだからろくなものはねえ……ちょうど腹がへってんだから、このおじやをいただこうじゃねえか……それとこの褌を盗まねえよりはいいから、懐中《ふところ》へ……と、うん、この茶碗に……と、うん、腹がへってるときにまずいものなしってえが、こいつはうめえや……ずずずずずっ、ずずずずず……いい商売だなあ、泥棒なんて元手がいらねえんだから……ああ、うめえ、うめえ」
と、泥棒がおじやを食べていると、表で声がした。さあ、たいへんと裏から逃げ出そうとしたが裏は行きどまり。とっさに開《あ》いている根太《ねだ》板をあげて縁の下へ隠れた。
「しょうがねえな、だれか来やあがって開けっぱなしにしやがって……あれっ、大きな足跡があるぜ。ははあ、泥棒が入《へえ》りやがったな、さあたい……たいへんでもなんでもねえや、こりゃなんにもとられるものはねえんだからな、こういうときは貧乏人は安心だあ……おやおやおや、冗談じゃあねえや、おれのおじやを食っちゃったじゃねえか、どうもおどろいたねえ……あれ、おれの越中褌を持ってっちまった。けちな泥棒じゃあねえか。世の中はしけ[#「しけ」に傍点]だなあ、おれの家にまで泥棒が入《へえ》るようじゃなあ……だけど待てよ。ええ? 差配《さはい》から店賃の催促をされているんだが、これでもって、言いわけになるなあ。ありがてえことになったなあ、差配のところへ持っていこうとしていた店賃を盗まれたと言えば、まさかそれでもよこせとは言うまい。そうだ、そうだ。差配を呼んでこう……差配さーん、差配さーん、早く来てくださいよう、たいへんですよう、泥棒ですよう、泥棒が入《へえ》ったんで、差配さーん、泥棒ですよう、差配さん、泥棒差配……」
「なんだ、なにが泥棒差配だ」
「いえ、いま、差配さん、泥棒が入りましたと言おうとしたら、入りましたをぬかしたんで泥棒差配……」
「この野郎、あたしを呼ぶのに泥棒というやつがあるか」
「へえ、すいません、いまうちへ帰ると泥棒が入ってたもんですから……」
「なにか置いてったか?」
「まさか……泥棒ですから、持って行きました」
「おめえの家でも、なにか持って行かれるようなものがあったか」
「へえ、みんな盗《と》られちまったんで、それに差配さんのところへ持ってくつもりの店賃も盗られちまったんで……どうか店賃のところは、ひとつ待っておくんなせえ」
「うーむ、それじゃ店賃どころじゃあなかろう」
「へえ、店賃なんかどうでもかまわねえんで……」
「かまわないということはないが、そりゃ盗まれたならしかたがねえ、待ってやるから……」
「しめた」
「なに?」
「いえ、こっちのことで……では、もう結構ですから、お帰りください」
「なに言ってるんだ。どんなものを盗られたかは知らねえが、お上《かみ》へ早く届けなければいけねえよ」
「なに、ようがす、届けねえでも……」
「よかあねえ。届けておけば品触れといって、お上から諸方へ触れるから品物が出ることがある。またお上へ届けておかないとこっちの手落ちになるからな」
「へえ、品物が出るんですか?」
「ああ、出ることもあるよ」
「そりゃありがてえ、よそで盗られたものでも出たらくれますか?」
「よそのものまでくれるか。おまえの盗られたものだけだ、なにを盗られたんだ?」
「えッへへへ……もう、そっくり持ってかれちゃったんで……」
「そっくりとは書けねえ。品物を一々な、ひと品ずつ、ここに書いてやるから言ってみろ」
「いいえ、ようがす」
「ようがすって、おまえ、言ってみなよ」
「ああ、そうですか?……じゃ、すいません、越中褌が一本とねがいます」
「褌? そんなものがここへ書き出せるか?」
「へえ、差配さんの前ですけれども、泥棒なんてえ者は、いったいどういうものを持って行くもんでしょうね」
「どういうものを持ってくったって、わたしは泥棒じゃあなし、わからねえが、まずおもに目につけるのは着類《きるい》だな」
「あ、そうそう、きるいきるい、四分板《しぶいた》、六分板、松丸太……」
「そのきるいじゃあない。材木じゃあないよ、身体へつける着物だ」
「そう、着物」
「どんな着物だ?」
「だから、越中褌」
「そんなくだらないことはどうでもいいって言っただろう。もっと重々しいものはないか」
「ああ、そうですか、へえ……じゃ、沢庵石が三つ」
「その重いんじゃあないよ。もっと金目のものだ」
「へえへえ、金目なもの」
「どんなものだ?」
「金の茶釜」
「そんなものがあったのか?」
「ねえから盗られねえ」
「盗られねえものはいいんだ」
「それなら、夜具布団なんかを……」
「ずいぶん大きなものを持ってったな……きっと二人組か三人組だな……で、どんな布団だ?」
「いえ、おかまいなく……」
「おかまいなくじゃねえ……いったいどんな布団だ?」
「へえ、綿の入《へえ》ってる布団」
「綿の入らねえ布団があるかい、厚い、薄いはあってもみんな綿が入ってるもんだ」
「へえ、いい布団で……」
「いい布団じゃあわからない。表はなんだ?」
「表はにぎやかですねえ」
「表通りのことをきいてるんじゃねえ、布団の表だ」
「あの、差配さんとこでよく干してあるやつとおんなじなんで……」
「ありゃあ唐草だ。べつに上等じゃねえ。唐草模様だな」
「ええ、あっしンところも唐草模様で……たいした布団じゃあねえ」
「真似をしなくてもいい……裏はなんだ?」
「裏は行きどまり」
「この路地のをきいてるんじゃねえ。布団の裏だよ」
「差配さんとこのは?」
「うちのは、丈夫であったかで、寝冷えをしねえように、花色木綿《はないろもめん》だ」
「ええ、あっしンとこも、丈夫であったかで寝冷えをしねえとこで花色木綿」
「なんだ、じゃおなじじゃねえか」
「ええ、うらみっこのねえように」
「なん組だ?」
「五十組」
「五十組? そんなにこの家に入《へえ》るかい?」
「あっしのところにゃあねえけれど、宿屋に……」
「ふざけるな、おまえの盗られたのはなん組だ?」
「なん組にもなんにもあっしが寝るだけなんで……」
「じゃあ一組じゃねえか……それからあとは……そうだな、絹布《やわらか》ものかなんかなかったか?」
「へえ、せっかくつくっておいたおれのおじやを食われた」
「おいおい、そのやわらかものじゃあねえや、まあ絹物だ、たとえば羽二重《はぶたえ》とか……」
「へえ、羽二重羽二重、黒羽二重……」
「お、黒羽二重、そんなものを染めたのか?」
「へえ、染めたんで」
「小袖《こそで》か?」
「大袖《おおそで》」
「袖の大きい小さいをいうんじゃねえ、綿の入ってる絹布《やわらか》ものを俗に小袖というんだ」
「綿入の小袖」
「わからないやつだな、紋はなんだ?」
「唐草」
「唐草という紋があるか、おまえのところの定紋があるだろう」
「そんなモンはねえ、文なしで……」
「定紋がない? 紋があれば品物がみつかったときのいい目印になる」
「ああ、おもいだした、うちの紋は、うわばみ」
「うわばみ? そんなものはない。どんな形をしている」
「お尻《けつ》のようなものが三つついてる」
「お尻のようなものが三つ?」
「差配さん、うちの先祖はおわい屋ですかねえ?」
「そんなことを知るもんか……うん、それはかたばみだ。うわばみってえやつがあるか。この紋は三所紋《みところもん》だな?」
「いえ、六所紋《むところもん》」
「なんだ、紋が多いなあ、いったいそりゃどこへつけるんだ?」
「えー、お尻について、こう紋[#「こう紋」に傍点]てんで……」
「なにをばかなことを言っている」
「裏は花色木綿」
「おいおい、羽二重の裏へ花色木綿てえのはおかしいな……あとは?」
「あとは、はだかの帯」
「なんだ、そのはだかの帯てのは? 博多か? ほう、いいものを持ってたなあ、博多の帯だな? どんなんだ?」
「ええ、表が唐草模様で、裏が花色木綿」
「なんだと……唐草の帯なんてあるか、帯に裏なんかあるもんか。帯芯にでも使ったんだろう」
「そうなんで……芯は花色木綿」
「あと帯は?」
「岩田帯」
「おいおい、だれか子供でも出来たのか?」
「熊公ンところの牝犬が……」
「犬が岩田帯をしめるか、あとはなんだ?」
「ええ、唐桟《とうざん》の半纏《はんてん》……裏が花色木綿」
「そうか。おめえはなんでも花色木綿だ……冬物ばかりで夏物なんかなかったか?」
「夏物は、うちわに蚊取線香」
「そんな夏物じゃねえ。単衣《ひとえ》とか帷子《かたびら》とか」
「うん、帷子」
「どんな帷子だ」
「経《きよう》帷子」
「経帷子を持ってるやつがあるかい」
「差配さんがよそへ行くときよく着て行きますね、あれは?」
「あれは上布《じようふ》だ」
「あっしも上布なんで……」
「そうか、たいしたものを持ってるな、で、上布は縞《しま》か絣《かすり》か?」
「橙《だいだい》かあ」
「なにを言ってるんだ。どっちなんだ?」
「縞」
「どんな縞だ?」
「佃島」
「そんな縞があるか」
「ええ、縦の縞が細《こま》けえんで」
「おう、じゃあ大名だ」
「えへ、大名までいかねえで、旗本です」
「なにを言ってやがる。縦の縞の細けえのを大名てんだなあ」
「表は唐草で、裏は花色木綿」
「帷子に裏をつけるやつがあるか」
「丈夫であったかだから……」
「なにを言ってる、暑いから着るんだ、おい、変なことを言ってちゃしょうがねえ、ええ? あとは?」
「あとは蚊帳《かや》が一枚」
「蚊帳は一張《ひとはり》というもんだ。大きさは?」
「一人前」
「一人前てえやつがあるか、食物《くいもの》でも誂えているようだな……まあ、五六か六七だろ」
「一六だい」
「そんな細長え蚊帳があるかい……ま、五六ぐらいにしておこう」
「裏が花色木綿」
「おい、蚊帳に裏をつけてどうする」
「えへへ、丈夫であったかで寝冷えをしねえ」
「冗談じゃねえ、むれちゃうよ」
「あとは宝物《ほうもつ》」
「大げさなことを言うな、なんだ宝物というのは?」
「先祖代々伝わっている刀が一張《ひとはり》」
「おまえに先祖代々なんてあるか……刀は一張ではなく、一振だ、または一本でもいい」
「刀が一本」
「長剣か短剣か?」
「じゃんけん」
「じゃんけんなんてえのはない。長いか短いか?」
「いいかげん」
「いいかげん? 道中差しとでもしておくか。飾《かざ》りはなんだ?」
「表は唐草模様、裏は花色木綿」
「なにをばかなことを言ってやがる。あとはなんだ?」
「ええー、あとは、箪笥《たんす》です」
「箪笥なんか持ってったのか……ふーん、こりゃあやっぱり二人組とか三人組とかいうやつだな。で、箪笥はなにか、前桐か三方桐か、それとも総桐か?」
「ざんぎりだい」
「ざんぎりなんてえのはあるかい」
「山桐」
「下駄じゃあねえ、ばかなことを言って……三方桐とでもしておくか」
「裏が花色木綿」
「くだらないことを言うと腹を立てるよ。ばかばかしい、ほんとうのことを言え」
「ほんとうのことと言えば、あとは紙幣《さつ》にしようか、銀貨にしようか……」
「なに? 紙幣《さつ》、どのくらい?」
「へえ、畳二帖敷ぐらいの……」
「敷物じゃあるまいし、そんな大きな紙幣があるか?」
「裏は花色木綿」
「やいっ、こん畜生ッ、なにを言いやがる。さあ、勘弁できねえ、この泥棒めッ、さっきから聞いていれば、ばかばかしいったらありゃあしねえ。なんでも裏が花色木綿だってやがら……あははは笑わせるない」
「なんだ? だれだ? おかしな野郎が縁の下から出てきたじゃねえか……いったい何者だ、おめえは? 泥棒か?」
「あはははは……冗談言っちゃあいけねえ、泥棒だっておれはなんにも盗《と》りゃあしねえ。この野郎は差配つかまえて、でけえことばかり言いやがって、この家に盗っていくもんなんぞなに一つありゃあしねえじゃねえか……黒羽二重も先祖代々の刀もねえもんだ、腐った半纏一枚ねえじゃねえか」
「ああっ、痛え、痛えっ……咽喉《のど》をしめやがって……ばかにしてやがる。おれが泥棒だ? てめえのほうが泥棒じゃねえか。泥棒のくせにこの野郎ッ」
「まあ待ちなよ。らんぼうするな。なにも盗らなくったって縁の下から出てきたおまえさんは泥棒だろう。黙ってひとの家へ入《へえ》りゃあ、それだけで盗っ人だ。この野郎は、そうだろう」
「へえ、さようで……」
「なにがさようだ……逃げるといけねえ、差配さん、ふんづかまえましょう」
「あっ、いけねえ……どうも、まことに申しわけありません。じつは職人のことで、親一人子一人、おふくろが三年越しわずらっておりまして……ほんの、つい出来心でございまして……と涙の一つもこぼし……」
「なんだ素人の泥棒だな、まあ、出来心というのならゆるしてやってもいいが……わたしもこの長屋からべつに縄つきを出したくはない、勘弁してやる。それにしてもどうも、おかしいとおもったんだ。八公の野郎、まるっきり形のねえことを言いやがって、盗んだやつ……じゃあねえ盗まなかったやつがここで謝ってるじゃねえか……おいッ、八公……どこへ行ったんだ、はあッ、この野郎、おまえが縁の下へ入ってどうするんだ、なにしてる……こっちへこいっ」
「へッ……どうもかわりあいまして……」
「なんだ……噺家《はなしか》みたいなことを言って……おい、八公、てめえはなんにも盗られてねえじゃあねえか。なんだっておれにこんな嘘を書かせやがったんだ?」
「へえ、これもほんの出来心……」
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