返回首页
当前位置: 首页 »日语阅读 » 日本名家名篇 » 作品合集 » 正文

落語百選52

时间: 2019-09-15    进入日语论坛
核心提示:麻のれん「どうも、ひどい降りでござんしたな」「そうだね、まあ、夏の雨は降るがいいや。でも雷がよく鳴ったね」「さいでござい
(单词翻译:双击或拖选)
 
麻のれん

「どうも、ひどい降りでござんしたな」
「そうだね、まあ、夏の雨は降るがいいや。でも雷がよく鳴ったね」
「さいでございます。雷ってえやつが、あたしは見えませんもんで、もうなによりも怖《こわ》ござんす」
「いやあ、雷の怖くないものはいないよ。杢一《もくいち》っつぁん、おかげでとても楽んなったよ、うーん、やっぱりおまえさんでないと按摩《あんま》はだめだね、おまえさん、急所を知ってんだね」
「そりゃどうも、へへ、旦那にそう言われるてえと、わたしは、いちばんうれしゅうございます」
「杢一っつぁん、今夜はもうおそいよ、うちへ泊まっておいきよ」
「ええ、いや、そんなにご厄介になっちゃあ……」
「泊まってもらったって、なんのおかまいもできないが、おまえさん一人ぐらい寝る部屋はある。それともなにかい、だれか待っている人でもあるのかい?」
「いいえ。そんなものはいやあしません、ええ。待ってるのは、天井裏の鼠ぐらいのもんで……」
「それならいいじゃないか。え、泊まっておいき」
「ええ」
「おいおい、……おきよ。今夜、杢一っつぁんが泊まる。ああ、離れの八畳をね、あそこへ布団を敷いてあげとくれ。ああ、布団はね、なるたけやわらかいのを敷いておあげ。それからね、枕もとへ、土瓶《どびん》に番茶のさましたのをいれておいとくれ、あ、それから麻の蚊帳《かや》があったろう。あれを吊《つ》んなさい、いいかい。うん……いま、支度ができるから、杢一っつぁん、目が不自由だと、困ることも多いだろう?」
「いいえ、困りませんとも。あたしに言わせれば、目あきの方のほうが気の毒だとおもいますねえ」
「ほう、どういうわけで?」
「どういうわけったって、旦那、目があいてりゃあ、なんか見えましょ。見えりゃあ欲しくなってくるでしょ。どんなもの見ても欲しいから、買いたくなります。買えればようがすよ、買えないとなると、自分のおもったことが通らねえで、情けないじゃありませんか。目が見えなきゃあ、欲しいものがなにも見えませんからね。ですから、これがいちばんいいんですよ。あははは、目あきは気の毒だ」
「なるほどなあ」
「それにね、旦那の前でございますがね、どうも目あきくらい、そそっかしいものはありませんな」
「そうかい」
「そうですとも、うちのなかで柱にぶつかり、往来で人にぶつかったりするのは、みんな目あきですよ、盲人《めくら》のほうはめったにないですからな」
「なるほど、そう言やあ、目あきは油断があるからなあ」
「あたしなんぞ、療治の帰りにね、よく暗闇で突きあたられるが、みんな目あきですよ。どうも目あきに突きあたられてしょうがないんで、こないだ、目あきよけの提灯《ちようちん》を持って歩きました」
「ほほう、按摩さんが提灯を持って? そんならみんなよけてくだろう」
「ところがそれがまた、おかしい……そそっかしいのがドーンと突きあたりましたから、あたしゃ言ってやったんですよ。『なんだって突きあたるんだっ』すると『しょうがねえ、お互いさまだ』ってえから『なにがお互いだいっ、あたしゃ、目が見えないんだ』『ああ按摩さんか、そりゃ気の毒だったなあ』『気の毒じゃあねえや、こっちはね、おまえさんみたいな、そそっかしい目あきに突きあたられんのがいやだから、こうやって提灯持ってるんだ、この提灯が目にはいんねえか』って言ったら、『按摩さん、灯《あか》りが消えてるよ』って……えへへっへ……」
「なんだ、消えてちゃあ、なんにもならないじゃないか」
「へっへっへ、やっぱり盲人《めくら》はだめですね、あっははは、どうもね」
「ああ、そうか、うん……うん。じゃあ、杢一っつあん、支度ができたそうだ。……あー、手を引いて連れてってもらいな」
「いいえ、手なんぞ引かなくても結構、いりませんよ」
「いや、それがいけないんだよ。おきよ、手を引いてっておあげ」
「いいえ、いいえ、結構、わかります、わかります。……いえ、わたしは、この家はもうなんどもうかがってますから、よくわかっておりますから。結構、結構……こう廊下へ出て、お隣がお嬢さんのお部屋……こっちに厠所《はばかり》があって……ここが階段……ここがずーっと縁側になっていて、こっち、こっちがお庭で……ね、わかっておりますから……おやすみなさい……と、ねえ、おきよさんに手を引いてもらえば、ありがたいけど、ね。杢一っつぁんが泊まると手数がかかる、なんて嫌《きら》われちゃあつまらねえ……いいんですよ……おっと、このつきあたりが離れ、さあーと、これが蚊帳……えっ? なんだいこりゃ、蚊帳が吊ってあるのに、布団が敷いてねえじゃあねえか。いったい、どこへ寝るんだい? 枕もとだってなんにもありゃあしねえ。……なんだい、こりゃ、また、ずいぶんせまい蚊帳だね、こうやって両方へ手がとどくよ。どうでもいいけど、蚊が入ってきたよ。しょうがねえ、どうも、あっ、また入ってきた、畜生めっ、う、うーん、うわッ、えらい蚊だ。う、うーん……」
一晩じゅう、ピシャピシャ蚊にくわれながら夜が明けた。
「え、お早うございます」
「あ、お早う、早いね」
「え、お早うございます」
「あたしも朝早いほうだけどもね、おまえさんも早いな。なにかい、床が変わったんで寝られなかったのかい?」
「いえ、寝られないってわけじゃないんですけどもね……。ちょっと旦那にうかがいますけどね、あのゥ、お宅の蚊帳は天井がないんですか」
「天井のない蚊帳ってのはありませんよ」
「そうですか。いやもうひどい蚊でござんしてね、へえ、こんなにくわれました」
「おやっ、なんだい、頭が金平糖《こんぺえとう》みたくなっちゃった、しょうがないなあ、きよ[#「きよ」に傍点]は?」
「ええ、そいで布団もなにも敷いてないんですよ」
「しょうがないな、奉公人てえものは……おきよ、おまえかい、離れの八畳の蚊帳を吊ったのは? えー、見てごらん、気の毒に……杢一っつぁんの頭が、こんな、金平糖みたいになっちゃったじゃないか。ほんとうに、しょうがない、蚊帳というものは、吊ったからいいってえもんじゃない。よく、ほうぼうに気をつけて……あのね、この人は、目が不自由なんだから……おいっ、なにがおかしいんだ。笑う人がありますか」
「ほほほ……だって、旦那、今朝早く、見に行ったら、杢一っつぁんは、麻のれんと蚊帳のあいだに寝ているんですよ」
「うぷっ……おい、杢一っつぁん、おまえさんは、ゆうべ、麻のれんと蚊帳のあいだにいたんだって、もうひとつまくらなきゃ、蚊帳の中入れないよ」
「さようでございますか、どうりでひどい蚊だとおもいました。いやあ、あっははは、これはめんぼくない」
と、帰って……それからまた後日、旦那の療治にやってきて、夜おそくなった。
「杢一っつぁん、泊まっといで」
「いやあ、泊まれっと言われると、そこいらが、かゆくなってきます、旦那、よします」
「そりゃ、こないだはおまえさんが悪いんだよ。だから、手を引いて連れてってもらいなって言っただろう? そうすりゃあ、あんな目にあわずにすんだんだから、おまえさんは少し強情だから……今夜はそういうことのないように」
「いや、おいとまをします」
と言っているうちに、雷がゴロゴロはじめて、ザーッという雨……。
「ほら、帰れやあしないっ、雷が鳴り出したよ、泊まっていきなさい」
「へえ……あたくしは、この雷が大嫌いで、じゃあ旦那、やすましていただきます」
「そうしなさい、そうしなさい……ああ、支度はできてる? そうか……支度はできてるそうだ。こないだのところだ。手を引いてってもらいなさい」
「いや、もう大丈夫でございます」
「またはじまった、それがいけないんだよ、おまえさんは」
「いや、いや、大丈夫ですよ、……ええ、こんどはまちがいっこありません、ええ大丈夫、旦那、おやすみなさい。……ええーお隣がお嬢さんの部屋、こちらが厠所《はばかり》……ここが階段……ここが、ずーっと縁側で、こっちがお庭……」
女中が、離れの入口の麻のれんを、按摩さんが蚊帳とまちがえないようにと、その晩は気をきかしてはずしておいた。
「おっと、このつきあたりが離れ、さあー、これが、麻のれん、……これじゃあ蚊帳とだれだってまちがえるよ、……これが、麻のれんで、(と、まくり)、これが蚊帳だ」
こんどは、蚊帳の向こうがわに出た。
轻松学日语,快乐背单词(免费在线日语单词学习)---点击进入
顶一下
(0)
0%
踩一下
(0)
0%