日语童话故事 日语笑话 日语文章阅读 日语新闻 300篇精选中日文对照阅读 日语励志名言 日本作家简介 三行情书 緋色の研究(血字的研究) 四つの署名(四签名) バスカービル家の犬(巴斯克威尔的猎犬) 恐怖の谷(恐怖谷) シャーロック・ホームズの冒険(冒险史) シャーロック・ホームズの回想(回忆录) ホームズの生還 シャーロック・ホームズ(归来记) 鴨川食堂(鸭川食堂) ABC殺人事件(ABC谋杀案) 三体 失われた世界(失落的世界) 日语精彩阅读 日文函电实例 精彩日文晨读 日语阅读短文 日本名家名篇 日剧台词脚本 《论语》中日对照详解 中日对照阅读 日文古典名著 名作のあらすじ 商务日语写作模版 日本民间故事 日语误用例解 日语文章书写要点 日本中小学生作文集 中国百科(日语版) 面接官によく聞かれる33の質問 日语随笔 天声人语 宮沢賢治童話集 日语随笔集 日本語常用文例 日语泛读资料 美しい言葉 日本の昔話 日语作文范文 从日本中小学课本学日文 世界童话寓言日文版 一个日本人的趣味旅行 《孟子》中日对照 魯迅作品集(日本語) 世界の昔話 初级作文 生活场境日语 時候の挨拶 グリム童話 成語故事 日语现代诗 お手紙文例集 川柳 小川未明童話集 ハリー・ポッター 新古今和歌集 ラヴレター 情书 風が強く吹いている强风吹拂
返回首页
当前位置: 首页 »日语阅读 » 日本名家名篇 » 作品合集 » 正文

落語百選58

时间: 2019-09-15    进入日语论坛
核心提示:つるつる「お清《きよ》さん、ちょいと手拭《てぬぐい》そっちィ掛けとくんな、あァ、あの師匠は出かけた? ああそう。お梅ちゃ
(单词翻译:双击或拖选)
 
つるつる

「お清《きよ》さん、ちょいと手拭《てぬぐい》そっちィ掛けとくんな、あァ、あの師匠は出かけた? ああそう。お梅ちゃんまだお湯から帰りませんか? あァようがす、あッはァどうもね、昨夜《ゆんべ》のお客さまにァおどろいた。いえ『今晩ありがと存じます』って座敷へ入るとたんだよ、柔道に凝ってるんだってさ、お客さまがさ。いきなり、だァんって投げられちゃった。尻《けつ》っぺたこんな大きな痣《あざ》ッ、昨夜《ゆんべ》っからいままで飲み続けってんだ、どうもおどろいた、なんぼ商売とはいいながら身体《からだ》が続きません。これから一杯飲んで寝ますゥ、ああ。ああちょっとォ……三河屋の小僧さんちょっとすまない、いつもの五合ね、えッへッ、内証で台所の方へ忍ばしといてくんないか。そいからあのね、すまないが、魚金へことづけしてくんないか、刺身を持ってくるように、ああ、とろ[#「とろ」に傍点]のところをぶつ[#「ぶつ」に傍点]に切ってね、山葵《わさび》を余計利かして、ああそう? お頼申します、ご苦労さん。……おやッ、お梅ちゃん、お帰んなさい。へへッ、あァたがねェお湯から上がんのをね、あたしァ男湯の方で待ってたン、いっしょに帰ってこようとおもって……それがあたしが待ちきれないてえやつ、先ィ帰ってきちゃったン。たいへんなんですねェ、今日《こんち》はこの鬢《びん》の具合いがねェ、な……なんだい、お言葉なしときたね。すうゥっと向こうの部屋ィ入っちゃった。けどいい女だなァ、あのくらいな芸者てなァいないねェ、おれァ四年半|岡惚《おかぼ》れしてるんだがなァ。『岡惚れも三年すれば色のうち』てえことがある。一年半超過してるんだからね。師匠はいないしと、ひとつご機嫌《きげん》をうかがって見るかな、あは。……お梅ちゃん、えッへッへッ、あァたァ、鏡台の前で、諸肌《もろはだ》脱いで、えへェ、お化粧《けえけえ》ですか? いい肌ですねェ……あァたの肌てえものは。餅肌、羽二重肌ァ」
「そっちィ行ってらっしゃいよォ。男の入って来るとこじゃあないのよ」
「うッふッふゥなんですよォ、いいお乳房《ちち》ですなァあァたのお乳房《ちち》てえものは。え? 麦|饅頭《まんじゆう》へこの隠元豆をのせたようですな、えッへッへ、ちょいと……」
「お師匠さんに言いつけてよッ」
「なんですよう、あァた大きな声で。あたくしはねェ、ほんとうのことを申し上げるとねェ、あァたに四年半岡惚れしてン。え? ままになるなら三日《みつか》でもいいからどっか静かなところへ行って、あたくしとあなたと差し[#「差し」に傍点]でもってご飯をいただきたいとおもってる。……ただの三日《みつか》。で、三日《みつか》がいけなければ二日《ふつか》でもよござんす。二日があァたいやだとおっしゃれば一日《いちんち》でもいいんだ。だから半日にしようじゃございませんか。どうです? 三時間……二時間にしましょう。一時間……三十分……十五分……十分……五分……三分……二分……一分……なし……」
「なにを言ってんの一八ッつァん、おまえさんほんとうにそんなことォ言ってんの?」
「真剣……まったく、ほんとうに」
「そおォ? そうならうれしいけど、あたしゃおまえさんみたいにね、色だの恋だのなんて、そんな浮気っぽい話ならごめんこうむるのよ、曲がりなりにもあたしみたいなものでも、女房にしてくれるッていう話なら、ほんとにあたしうれしいとおもってんのよ」
「へえ?! あたくしはねェ、あァたが女房ンなってくれればねェ……あたくしはもうそのばかなよろこび……」
「一八ッつァんおまえさん自惚《うぬぼ》れちゃあ嫌《いや》ァよ。吉原《なか》にはねェ、大勢|幇間衆《たゆうしゆ》はいる。けれどもおまえさんあんまりいい男じゃァない、けれどもおまえさんは親切だ。あたしゃあ忘れないことがあった。いつだったか、この前|大患《おおわずら》いしたことがあった。おまえさん寝ずに看病してくれてうれしいとおもって忘れないの。どうせ亭主を持たなくちゃァならないんだから、邪慳《じやけん》な亭主を持って、おッかさんに苦労させんの嫌だと思《も》ってそいであたしァおまえさんに話をすんのよ」
「へえッ! あたくしァねェ、あァたが女房ンなってくれればねェ、そりゃァもう親切にしますよ。もう親切株式会社の頭取ンなろうとおもって……いえほんとうに。あァたがねェ、朝、目が醒めるでしょ、とたんにあたくしァねェ、あァたに煙草をつけて出すってえやつだ。ねえッ、あァたが『もう起きたいわァ』ッとくりゃすぐあたくしァもう床をたたんで、へえ、あァたが厠《はばかり》へ行く、あたくしィあとから紙を揉《も》んで……」
「汚いね、この人ァ」
「いえほんとうに、まったく……」
「そおォ? うッふゥ、うれしいわねェ、だけども一八ッつァんあたしァおまえさんのことについて、少ォし気に入らないことがあんのよ」
「気に入らないことおっしゃってくださいな、うかがおうじゃござんせんか、直そうじゃありませんか、なにが気に入らない?」
「おまえさんはお酒を飲むとずぼら[#「ずぼら」に傍点]だからね、どっちがお客さまだかわからなくなっちまって、時間のことはめっちゃくちゃだし、もう芸人はいまいちばんそのずぼら[#「ずぼら」に傍点]がだめよ」
「へッ、大丈夫。一所懸命|真面目《まじめ》ンなって、あたくしァ稼ぎます」
「そう、じゃあわかった。じゃあこうして? 今夜二時を打ったらねェ、あたしの部屋へ来て、いろいろな話があるから。そのかわり、二時が五分遅れても、『あァッ、おまえさんいつものずぼら[#「ずぼら」に傍点]がはじまったんだなァ』ッとおもってあたしもあきらめちまうから、おまえさんもない縁とあきらめてくださいよ」
「へッ、二時が五分? あ、ようがす。二時ンなってねェ、そのかわりねェ、おたく……」
「あっちィ行ってらっしゃい、だれかに見《め》っかるといけないわよ」
「へいッ……へッへッェどうも、ええ? こうとんとォんと運ぼうたァおもわなかったな。『案ずるより生むが易《やす》い』てえのァこのこったな、なんでも男てえ者は度胸がなくっちゃいけませんね、えッ? ものは当たって砕けろてえやつだ……『チンチン……』ッてえとおれが行くてえやつだ。『お梅ッ、二時を打ったから来たよう』ッと、こう言うと怒るかしら?『なんだお梅だなんて。まだおまえさんの女房ンなったわけじゃあないじゃあないか。嫌なやつだよォ』ッてんで、どおォん(と、肘鉄砲)と蹴《け》られちゃっちゃァいけねえからなァ。ここんとこァ丁寧にいこう丁寧に。『お梅さま、一八でございます。二時を打ったからまいりました』『嫌なやつだよ、キザなやつだよ』ッてんで、どおォん(と、肘鉄砲)、こりゃいけねえなァ……軽くいこう軽く、『お梅ちゃん、二時を打ったから来たよう』ッてン、えへェ、『まァよく来てくれたわね。その意気ようッ、忘れちゃあいやァようッ』ってえんで……おや、いらっしゃいまし」
「なァんだ……ばかだなァこいつァ踊ってやァがら」
「あッははは、どうも、大将、おめずらしい、どうなさいましたァ? いいえあんまりお出《い》でがないからねェ、どうなすったかとおもってお案じを申して……」
「なにを言ってやがんだ。吉原ァもう飽きたよ。今日はな、河岸《かし》を替えてな、こいから[#「こいから」に傍点]柳橋で遊ぼうてえんだ」
「柳橋? 柳橋は乙《おつ》ですな、ェェどういうことになるんですゥ?」
「夜っぴて騒ごうてえんだ、いっしょに来いよ」
「あ、さいですか……へえへえ……なるほどォ、ェェ結構ですなッ。えッへッへェ、では、ェェ、今晩ひとつ、手前は助けていただきましょう」
「よせよ。そんなこと言うない、いっしょに来いよ」
「えへッ、それが今晩ちょいと具合いが悪いン、今晩だけ、大将ねェ? 他《ほか》の者《もん》で間に合わしてください」
「よせよ、そんなこと言うな、おもしろくねえじゃねえか、おまえ、お約束でもあんのか?」
「約束てえわけじゃァないんですがな、今、夜は、ちょいと……、へえ。今夜だけ大将ね? 他の者で間に合わしてください」
「そうかい、よォしッ、一八ッ」
「え?」
「おまえいい芸人だなァ、いい幇間《たいこもち》ンなったなァ、おめえァ? そうじゃあねえか言いたくなるじゃあねえか。てめえがこの土地ィ、はじめて出たときなんてッた?『木から落ちたなんとかと同様でござんす。身寄り頼りもございません、どうか一人前の、芸人にしていただきたい』おれァずいぶんおめえを贔屓《ひいき》にしてるつもりだぜ、なあ、ずいぶんおめえをかわい……」
「な、なんですよう……怒っちゃァいけませんよ。あァたにお世話ンなってることはねェ、この土地でだれ一人知らない者《もん》はありません。あたくしはねェ、あなたのためなら真剣に勤めようとおもってますよ」
「じゃ、いっしょに来ねえなァ」
「えへッ……それがね、へッへッ、行かれないわけがあるんですよ」
「わけを言いなよ、な? おれが聞いて『なるほどもっともだ』ってえことがわかりゃあ、おまえにきれいに暇ァやろうじゃねえか」
「さいですか、えへッ、ェェそれでは、お話を申し上げますがね、大将、これは大秘密ですよ……(周囲《まわり》を気にし小声で)当家にねェ、当家に小梅てえ芸者がおりましょ?」
「なにを言ってやんだ、ばかッ。そんなことおまえに聞かなくったってわかってらァ。あのくらいの芸者はないな。どうだ三味線は達者だし、咽喉《のど》は光ってて、とことん[#「とことん」に傍点]がいけて、親孝行で客扱いがよくって、女っぷりがいいし、淑《しと》やかで、あれがほんとうの一流の芸者てえんだ」
「うゥッ、それがだァッ」
「な、な、なんだい、大きな声を出しやァがって」
「それですよ、その小梅なる者がね、あたくしの女房ンなるン。いいえほんとッ、あたくしはねェ、お恥ずかしいお話ですがね、四年半岡惚れしてン……ここの家ィ弟子に来るとたんにあたくしは惚れてるんだ。で、いつか一度はとおもったんだ。今日ァだァれもいないからひとつ当たってみたン、言うことがうれしいやな。『色だの恋だのなんてそんな浮気っぽい話ならごめんこうむる、曲がりなりにもあたしみたいな者《もん》でも、女房にしてくれる話ならば……』どうです、言うことが本筋でしょ? えッへッそいで『今夜ねェ、二時を打ったら来い』って。あたしゃァ行くんだ。『おまえさんはお酒を飲むとずぼら[#「ずぼら」に傍点]だから、二時が五分遅れても、おまえさんのいつものずぼら[#「ずぼら」に傍点]がはじまったんだなァとおもってあたしもあきらめちまうから、おまえさんもない縁とあきらめてくださいよ』と、……あれが、あは、くれぐれも、おほほ、ほほ、申すんですよ。えへ、で、手前が行くてえやつなんだ。チンチンッ……てえと、手前がこのつうッ……、へッへッ、チンチン、つうゥッ……、てえん、きゅうッ……」
「ばかだなこいつァ泣いてやがら」
「へえ、そのような次第でござんすから、今日《こんち》ンところは手前にお暇をいただき……」
「よォしッ、わかった、いいよ。おめえのめでてえことを邪魔したってしょうがねえや、あァいいともいいとも、じゃあこうしな、十二時までつきあえ、な? 十二時ンなったらきれいに暇ァやろうじゃねえか」
「あッ、なるほどッ、いろいろ手があるもんですねェ。十二……それがねェ、えッへッへェ、いまあなたそうおっしゃるんだ。さて十二時ンなって『大将時間がまいりましたから、暇をいただきます』とこう申し上げるでしょ、てえと、あなたがねェ、素面《しらふ》のときならいいんですよ。一杯召しあがってるとそうはいかねえんだあなたってえものァ。『そうァいかねえッ、なんだ、とんでもねえやつだァ』なァんてんであァた怒る性分だよ。あたしゃァ永年ついてんだよわかってんだよ。あッははは、拝むよあなた……堪忍してください。そのかわりねェ、もうほかのことについてはね……もう一心不乱ッ……」
「わかったよ、こん畜生、拝みやがって嫌《いや》なやつだな畜生め、一八ッ」
「へえ?」
「おめえいい芸人だなァ。いい幇間だなおめえは……てめえはなにか、客を断わって、小梅ンとこィ今夜……」
「くわッ、なんッ……なんてえいうことを言うんですよ、あァた、言っていいことと悪いこと……」
「(さらに大きな声で)てめえはなァッ……」
「あなたはねェ、なんてえ方なんですゥ。あたしゃあなたが憎いよあなたが。腫物《おでき》の上を針で突っつくようなことをするねあァたァ……(やけになって)だからまいりますよ、お供をしますよゥ、大将、断わっときますよ、時間がきて、お暇《ひま》をいただくときに、嫌な顔ォしたり怒ったりなんかしちゃァいけませんよ」
「大丈夫だよ、早くしたくしろいッ」
「へいッ、ただいまッ」
「へいどうも……先夜はどうも、へい、一八でございます、樋《ひ》ィさんをお連れ申しました」
「いらっしゃいまし」
「いらっしゃいまし、……どうぞお上がりくださいまし」
「ェェお座敷は? あァ竹の間? あ、さいですか。ェェ大将、竹の間の方で、ただいまご案内をいたします。へえッ、手前ちょっと階下《した》ィご挨拶に……すぐお二階へうかがいますから、へえッ。ェェ、おやッ、どうも女将《おかみ》ィ、ご機嫌《きげん》よろしゅう、お変わりもござんせんで……あいかわらず太ってらっしゃいますな、あッはッはッはァ、お暑いでしょ? へえ、あなたがねェ、このお帳場にいらっしゃらないと形がつかない、妙なもんですねェ。大将は? レキ[#「レキ」に傍点]は? へッ、競馬ですか? お好きですね、この間ね、大きな穴を取ったってッてうかがいました。あッはァどうも、お宅の馬が出たって? おめでとうございます。やりますねェ大将は、じっとしてない、まめ[#「まめ」に傍点]だねェ、へ? 撞球《たま》は突く麻雀《マージヤン》はするゴルフをやる釣りをやる。あたくしもねェ、釣りぐらいはやるんですよ、どうでもかまいませんが、あれ、色が黒くなるんでねどうも……おや? 嬢《じよう》ちゃァん、えへへェ、お湯ゥから上がって、お化粧《けえけえ》ができてェ、えへェお髪《ぐし》がいいからお可愛いなどうも。……坊っちゃァん、なにか持ってますねェ、大きな刀を差して。どなたに買っていただいたン? へ? おとうさんに? へ? 一八を斬《き》るゥ? あッはァッはァッこわいねこりゃどうも。……おやッ、お花|姐《ねえ》さん、先夜はどうも。樋ィさんをお連れ申しました。ェェ、なにをなすってらっしゃるんで? え? 布団の綿《わた》を取り替えてるんですか? あァたが? ははァ恐れ入ったなどうも、じつにあァたには敬服をするなァ。あァたがそんなことォなさらなくてもいいんだ、お針《はり》さんてえものがいるんだから。それを先立《さきだ》ちンなってあァたがその布団の綿を取り替える、そこですよあァたのお偉いところァ、いいえほんとうに。たいへんに銀行の方へ貯金のほうが、へッへッへェ、なんでも人の噂《うわさ》では……なんでも通い帳のほうが、ェェこの、七《なな》、零《れえ》々々々……やなんかんなってると。……おやァ、金ちゃァん、こんにちはァ、樋ィさんをお連れ申しました。いつものお腕前を見せてねェ、おいしいものを、食べさしてあげてくださいよ。お客がほめてますよォ、大きい声では言えませんがね、あァたがいるんでここの家は繁昌するんだって。ほんとにまったく、いい腕。……おやッ……かわいい猫ですなどうも……いいお毛並で……」
「ちょいとォ、一八ッつァん、樋ィさんお呼びだわよ」
「へえい、……ェェどうも、大将、遅くなりました」
「どうしたい? たいへん手間がとれたなァ」
「へッ、ちょっと階下《した》へご挨拶……ええ、へッへッ、ぱらぱらッと……えッへッへェ、申しつけました。えッへェ、繰りこんできますよ、へッ、いつもの連中が、へッ、きれいどこが……いえほんとうに、まったくゥ、えッへッへッへッ、え、ただいま何時でござんしょう?」
「いま来たばかりじゃねえかッ」
「ェェ手前気ンなる」
「気ンなるっておまえ、時計持ってんじゃねえか、時計」
「これ……大将ね、えへッ、時計と見せてね、時計じゃないんですよ。先ィ天保銭《てんぽうせん》が付いてるやつ、えッへッ『一八ッつァんいま何時?』ッてやしょ?『いま八厘《はちりん》』」
「ばかだね、こいつァどうも」
「先夜はどうも……」
「樋ィさん先夜はどうも」
「樋ィさん先夜はどうも」
「さッ、ずっと前へいらっしゃい、ずうゥと前ィいらっしゃい。大将、繰りこんで来ましたよ。どうですおきれいですねェあいかわらずみなさんが……みなさん、大将はねェ、たいへん今日《こんち》はご機嫌がいいんですよ。ねえ大将、あァたご機嫌がいいんでしょ?」
「一八、おまえ働くなよ。いばってろ、てめえ今日、客にしてやるから」
「ありがと存じます。みなさんお聞きのとおり、手前|今日《こんち》はお客。いばってます、働きませんよ。えッへッへェ、みんなに用事《よう》ォ言いつけたりなんかしていばって、えッへッへッへッへへ、ェェどういうことになります?」
「なにかして遊《あそ》びてえなァ」
「そうですなァ、えッへッへッへッへェ、ェェただいま何時で?」
「うるせえなァこいつは、いま来たばかりだい」
「どういうことに……?」
「こうしよう。さァかまわずなァ、おれがここへ紙入れを出そう」
「……どうです、え? 大将はこういうお偉い方ですよ。中座《ちゆうざ》をする幇間《たいこもち》の前へ、『おまえは今夜身祝いがあるから』ってずばりっとこのご祝儀を、くださる……」
「お、おいおい、おめえにやったんじゃあねえや、ただなんの気なしに、ここへ出してみたんだ」
「あ、そうですか。ははァ? くだすったんじゃない? 出してみたン、あなたがなんの気なしに? おやおや、そうかァ……なんでえ……ううん……なんでえ」
「なんだ放り出しやがってばかッ。……これでもってなんかおめえのものを買おう」
「売りますッ、なんでも売るよ、あたしのものァ、え? 羽織、着物、帯、みんなあァたからいただいたもの」
「そんなもの買うんじゃねえ、おめえの頭ァ半分買おう」
「へえッ?」
「半分坊主ンなんねえ、二十円やるから」
「あッはッはァ、半分坊主ゥ? ェェ嫌てえわけじゃァないんですよ、今日《きよう》は、あッはァ……いつもなら飛びつくんだよあたしァ。今夜ァいけませんよ。先方ィ行くんでしょ。で、『一八ッつァん頭半分どうしたの?』ッて、えッへッへッ、『二十円で売ってきた』ってなァ……」
「色っぽい野郎だねこいつァ……、さがって十円、どうだいひとつ、おまえの目の玉へ親指つっこもうじゃねえか」
「む、眼潰《がんつぶ》し? ごめんこうむりましょう」
「さがって五円だ。ひとつ生爪ェはがそう」
「痛いねッ、あなた痛い芸が好きだね? なんかほかに芸はないんですか?」
「さがって一円ッ。てめえひとつ、ぽかァッと殴ろう」
「(ポーンと手を打って)請けあいましょう……請けあうよ、ぽかぽかァッとくると二円でしょ?」
「そうだ」
「ぽかぽかぽかァッとくりゃ三円?」
「そうだ」
「こうなるとあたくしゃァ商法ですからね、一個でもまちがえちゃァたいへんです。あたくしゃァ算盤《そろばん》を持つよあたしゃァ。へえッ、あなたがね、ぽかぽかぽかぽかぽかぽかァッてくるでしょ? あたくしゃァぱちぱちぱちぱちぱちぱちッ(と算盤をはじく手つき)ぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかァッ、ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちッてんで、ぶたれ通しで、死んでいくら?」
「死んじゃっちゃしょうがねえじゃねえか、ばかだね、こんな欲ばったやつァねえな、どうも」
「へッ? はァ……はァはァ、ああさよですか、へえ、ありがとう存じます。ェェ仲間はありがたいですね、軽子《かるこ》姐さんのご忠告です。大将は力自慢だから、ぶちどこをうかがいやしょ、どこをおぶちンなりますゥ?」
「そうさァ、仮におれァ一円でぶつんだからなァ、最初、目と鼻の間いこうじゃねえか」
「あは、……じゃァあなた一個でまいっちまわ、いけませんよ。五十銭でようがすがね、この肩は?」
「按摩《あんま》じゃねえや、ばかッ」
「このねェ、踵《かかと》が二十五銭」
「そんなのいけませんッ」
「拳骨《げんこ》を見たばかりが、ただの五銭」
「ふざけるな、こん畜生。じゃあこうしろ、そのコップで一杯飲めッ、一円やるから」
「はァはァ、一杯飲みの一円いただき? へッ? 息をつかずにぐい飲み[#「ぐい飲み」に傍点]の一円いただき……あッはッはッは、あァたやるねェあァたァ。現金取引でしょうなァ? いけませんよこの前こんな大きな祝儀袋ォいただいて、あたくしァありがたいとおもって、家ィ帰って開けてみたら絵葉書が出たよあァた……あれェいけませんよ。へえ、さいですか、なにも、営業ですからねェ……ェェどうぞ軽子姐さんお酌を願います。ええ、お聞きでしょうけども今日《こんち》は営業でいただくんでござんすから、いっぱいでなくていいんですよ。ここんとこ、ものの八分目ということに願いましてね……ああッと(と、こぼれそうになる)……ううォッと、こりゃおどろいたねェ……こりゃ山盛りンなっちゃった……これァひどいなァ、ですからいまあたくしゃァ申し上げたでしょ? いえ、えへッへ、たいして別に、苦情言ってるわけじゃァない、ただいっぱいだってえ話を、あたくしが、いま……いえ、いいんですよ、いただきゃァいいんですから(と、軽く芸者をにらみ、口をコップに持っていき、きゅうッと一気に飲み)ふうゥッ、へい、いただきました」
「偉いなッ、見事だな、やるぞッ」
「へえいッ、ありがとう存じます。右まさに頂戴つかまつりました。へッ、受取りは差しあげませんよ、へえ。ェェこんだ、照ちゃァん、照奴さん、あァたお酌ゥ願います……えッへッへッへェ、姐さんはだめ、玉ちゃァん、えへへッ近所にいきますよ。お座敷ィ出たら、お互いに助けたり助けられたり、よござんすか? そこんとこをいろいろ按問をいたしまして、ああッ(またいっぱいに酌されて)あ、あァたあァた……押すね? いいえ大将苦情言ってるんじゃないんですよ、嫌だよあァたァにらめちゃァ……照ちゃんおぼえ[#「おぼえ」に傍点]といで。どうしてそういうことをするの? どうしてこうなんだろうなァどうも、こっちが頼んでんのに……みんないじめっ子なんだねェ、そういうあァたの心持ちならいいですよッ……(と、ひと息に飲み)ふうゥッ、はァ……いただきました」
「おい、大丈夫かい? いやならよせよ。やるぞッ」
「へいッ……ありがとう存じます、右まさに頂戴つかまつりました。ェェ受取りゃあ差しあげません。へえ、こんだふうちゃん、あァた、お酌ゥ。いえェェ、もう姐さんと照ちゃんはだめ。もう敵のスパイてえことォちゃァんと心得てるン。ふうちゃん、えッへッへッ、あなた、こないだ歌舞伎《かぶき》でおさらい[#「おさらい」に傍点]しましたねェ、巧《うま》かったねェじつに、おどろいた、え? あの薙刀《なぎなた》ァ持って、揚幕からねェ、とんとんとんとんとんとんとんとんッと出て来たでしょ? あの七三のとこでね、とおォんと極《きま》って見得ンなったときにね、お客さまがねェ、『うわァァ』ッとほめたらね、おッかさんねェ、涙ァこぼして、いえ、あたしの隣で見物してたン。うふゥうまかったねェ、いい形、ほんとうに、お世ェ辞でなく、まったく、えッへェそい[#「そい」に傍点]ですからねェ、そこんとこォねェいろいろねェ……おおッ、痛いッ、あッ、ああそう(と、またいっぱい注がれて)、敵は大勢味方一人、たんと、あなたそういうことをしなさい……ねえ、他人《ひと》の困るのをよろこんで……、あァよござんすよ、そういうあなた方が薄情な了見なら、こっちにも、いろいろ考えがある、いいんです、ねえ? じつに情けない(と、そろそろ酔いがまわって)あたくしゃァ、別に苦情を言うんじゃァ……(と、また飲み)ふうゥッ……い、いただきました」
「おうい、大丈夫かい? やるぞッ」
「へい、ありがとう存じ……へい、右まさに頂戴をつかまつり……さッ、こうなりゃァ破れかぶれだッ、さッ、いっぱいいらっしゃい、もうねェ、あたし卑怯《ひきよう》なことを言いませんよ、山盛りいらしてくださいッ、ええいいですよ、こうなれァもう、冗談言っちゃァいけない(と、なみなみと注がせて)よしよしッ、へへ、いい商売だな、へッへェ、お酒をいただいて、ご祝儀をいただいて、へッへッ、こいで家ィ帰りゃァお梅ちゃんが待ってるッてン。こういう間《ま》のいいときにゃァ帰りになんかあたしゃァ拾うよあたしゃァ……ェェあたしの運勢なんてものァ……(ふた口飲んで息をつき)ただならない[#「ただならない」に傍点]運勢ですからねェ……大将ッ、いいえ、これァねェ、ほんとうのことを申し上げ……長いことォご贔屓《ひいき》をいただいてますねェ、あたしゃァねェ、酔って言うわけじゃァないけれども、え? 十三年。長いね大将、しくじったこともあるけど、え? 朝起きるでしょ、帝釈《たいしやく》さまィ、拝むんだよ、あァたのことを(手を合わせて)『どうか、ェェ大将に、ェェなにごともございませんように。あたくしゃァ大将のために、生きていられます』やなんか……へ? なんですゥ? べらべらおしゃべりして、半分飲んで息をついている? あッはッはァ、あァたねェ、そんなことォ言うんじゃないのあァたァ。息をつくくらい……あァたのことォ芸者衆がほめてますよ、ほんとうに。服装《なり》のこしらい[#「こしらい」に傍点]がうまいッて。またあァたァねェ、お背ェがお高いから、なんでもお似合いだ。ねえ、洋服はもちろんのこと、結城紬《ゆうきつむぎ》が似合って、お召をめしてもにやけ[#「にやけ」に傍点]なくって、紋付羽織袴が立派で、赤い着物で鎖《くさり》を……(気がついて、自分の頬をつねる)いえ、いえ、ですからね、なんでもお似合い。それァもうね……(コップを見て)大将、これァあきれたねェ、あたくし半分いただいたン。これいつのまにかいっぱいンなっちゃったン。これァ五十銭いただきやしょう、へえ? てめえが間抜けだから注がれたんだァ? だれ? これ注いだなァ? どうして、こういうことすんの? お金が賭《かか》ってんだよこれ、さッ、大将これ、あっしァ、警察へ訴えるよ、ええ。営業妨害でしょ? よォし、くすくす笑ってやァらおぼえてやがれ、畜生め。ようしッ、そういうことをするならするで、いえ、こっちのほうにもね、考え……(と、三口ばかり飲み)どいつが注いだかねェ、こんだ犯人を捕縛《ほばく》しますから、ええ、かれらごときにねェ、あたしゃァこの土地の草分けですよ。あ、あッと、大将、ひどいね、どうも、油断も隙《すき》もならないね。……ふう公ッ、ふう的ッ、ふうちゃん、こっちィいらっしゃいッ、こっちィおいでなさいッ、おまえさんそういうことありかい? ありならありでいいよ。そういうこと、すんなら、こないだのこと、大将にばらすよ、あたしゃ。ええ? ひとが知らねえとおもってやがんな? 知ってるぞ、大将ッ、珍談。大珍談。このねェ、ふうちゃんなる者ァ、ふだんねェ、お座敷へ出て、『あたしゃあ男は嫌《きら》いだ』ッてなァことを言ってやしょう? それが大ちがいッ、あなたこないだ鳴尾《なるお》の競馬へいらした、あたくし東京駅へお送り申した、『大将、ご機嫌《きげん》よく行ってらっしゃいよォ』ッてんで汽車がすうゥッと出た。プラットホーム[#「プラットホーム」に傍点]から下ィ降りるとねェ、かのふうちゃんが向こうから来るじゃありませんか。あッ、ふうちゃんが来たなァッとおもうから、『ふうちゃん』ってあっしゃァ呼ぼうとおもったン。するとあたくしの顔を見てねェ、すうゥゥッと逸《そ》れたァ。はて、おかしなことをするなとおもうとねェ、大将、ふッふッふッふッ、逸れるわけ、へッへッへッ、逸れるわけあり。へッへェ、そばにねェ、乙《おつ》な丹次郎なるものがねェ、ステッキをつきの、洋服ごしらえ、それ、それ、あはは、あなたのねェ知ってるひと、あッはは、あなたのねえ、あのねえ、贔屓の役……(者といいかけて)、だめだいッ、いまさら和睦を申しこんだって、みんなしゃべっちゃわ、あのねェ、それがねェ(と袖を払い)あァ、およしなさいよ、おまえは、うッふッふゥ、お、およしだめだよ畜生めェ……くッくッくッくッくッ(うしろから擽《くす》ぐられて)だ、だめだよ、おいッ、擽《くす》ぐっちゃァ、おまえはねェ、あッは(とコップを見て)あ、またいっぱいンなっちゃったこらァ……こりゃァいけない(どオーんとコップを置き)ああ、いいえもう、もういけません……もう、こうなるといけませんからひとつゥあたくしゃァ、……踊りを踊る……」
「お、おいおい、あいつァね、たいへんに酔ってるからな。……おまえの踊りなんざァおい、見たかァないよ」
「そうでないですよォ。あなたはねェあたしの踊りを……そうどうして私《しと》の芸にけちをつける、それ(と、鉢巻をしようとして)、かっぽれを……」
「おいおい、危いよおい、みてやれよ。おい、大丈夫か、……あッ、あァ、あッたッたッ」
「とッとッと(と、前へのめり梯子段《はしごだん》から転がり落ちる)へッ、大丈夫大丈夫、大丈夫ですよォ……いいのッ。落ッこったんじゃァないんですよ、飛び降りたのッ。もうここンとこでドロン(と、忍術の手つき)……えッへッへッ、あのねェ、大将にそうおっしゃってくださいな『一八は落っこちましたけども、たいへんな重傷でございます、あれは、とても……助からないでしょ』って、こうおっしゃってください。そいでね、『ェェ香典を十分にやっていただきたい』ッてこうおっしゃってください、へえ。女将《おかみ》さんにお礼を……えッ? 女将さんお寝《やす》み? ああそうですか、それじゃァ……へ? そうですかァ? おみ折《おり》を? あァすみませんねェ、お目にかかれませんけどよろしくッ……いやッ、源ちゃん、おまえさんにィ……下足《げそ》を出してもらうということはァ、まことにもったい……これね(と、懐中から金を出し)これ、煙草煙草、な、なに言ってんのッ、えへッ、また、このお世話ンなります。じゃあァ、よろしくッ……さいならァッ……ああァいい心持ちンなった。あァありがてえ、ああッ(と、大きく息を吐いて)あァこっちの身体《からだ》ですよッ、こうなれァこっちのもんだね、へッへッ、(口三味線で)チャンチャチャンチャ、チャンチャンとくるね、あァありがてえな……こいで[#「こいで」に傍点]家ィ帰るとねェお梅ちゃん待ってるよ。『どうしたの? 遅いじゃないの』って、えッへッへェ、そいから、う、あたくしがひと言、叱言《こごと》を言いますよ、ええ。『冗談言っちゃァいけませんよ、あたくしは、商売ですよう』『商売だってなんだって、家ィ待ってる者《もん》の身になって、ちょうだいようッ』ッてなことを……言うからねェ、おれァ『なァにを……』(と、ぶら下げている折を振りまわし)あッ、なんだいこらァ折の底が抜けちゃったァ……これァおどろいたなァどうも」
「……ただいまァ、……ただいまァッ」
「いま開《あ》けるわよ。……いま開けるッてえの、どんどんどんどん叩《たた》いて……また酔っぱらって帰って来たんでしょう……臭いわねェ、お入ンなさい」
「ェェ、お土産《みやげ》、おみ折《おり》……」
「お土産ッたって、折の底が抜けてるじゃないの」
「折の、底が抜けてますけどもねェ、あの、蒲鉾《かまぼこ》だのねェ、照焼やなんかァねェあの、ポストの傍《そば》にいます」
「なんだい、いますッて? お上がンなさいよ、早くおやすみなさいッ」
「うふゥ、おやすみなさいッてねェ、師匠は? 寝た? うん。お梅ちゃんも? 寝た? あァ、いい、いいんですよ、ええそう、それをうかがえばァ(と、梯子段を上がる)こうやって、こっちはただ二階へ上がりゃァ、こっちの……もんだッ、やァ、あッはッはァ、これでいいんだよ、ねえ、これでねェ、チィンチーンとくりゃァ、おれがすうゥ……お? こらァまずいなァ。こらァ、お梅ちゃんとこィ行くには、師匠の枕元を通るねェ、師匠は目ざとい[#「目ざとい」に傍点]からねェ、『だれだッそこィ来たのァ?』『へ……一八でございます』『なにしに来たんだ?』『へえい、厠《はばかり》へまいりに』『厠はそっちだァ』……こらァまずいなァこらァ……こらァまずいねェ、ばかまず[#「ばかまず」に傍点]だよ、こう、(ポーンと手を打って)よォッ、天の助けだよ、へッ、ここにねェ、三尺の明り取りがあるってえやつです、ね? この明り取りの格子をねェ、こうあたしがつかむでしょ、(と、格子をつかみ)あたしが、一心、不乱に、なって、こういくでしょ。(と、格子をはずす)ね? えへッ、こっからあたしがどおォん……こら音がするねェ。『なんだなァ、いまの、どおォんてったのは?』『一八でございます』『どうしたんだい?』『へえ……ェェ、明り取りから、どおォんと』『明り取りに格子がはまってらァ』『格子の目から漏《も》りました』ッて、漏るわけァないねェ、これァまずい……(上を見て)あッ、えへッ、ここに、また天の助けだ。ここにねェ、横にこう柱があるでしょ。いろいろ、これをねェ、あたしが帯をほどいてねェ(と、帯を解き)この、柱の上ィ、これを、あたしがねェ、ようッ(と、上へ投げて横木にかける)……あ、たいへんな煤《すす》だねェこらァ……(顔の煤を払って)こォりゃァえらいことだ。こらァ足らないねェ。足らないところは腹巻を……(袖口から腹巻を引き出して、帯とつなげ)あたしがいろいろ苦心をいたしまして、腹巻をこう結《ゆわ》いつけてこう……ああ、まだ足らないねェ。足らないところは六尺の褌《ふんどし》を(と、着物の下に手を入れ)取るってえことについては、(褌をつなげ、たぐり下ろしながら)いろいろこの苦心を、いたしまして、こうやって……こうやって、ね? これで、チィンチーンっていうと、あたしがつるつるつるつる……あ、こりゃいけねえな目がまわるね……この目がねェ、まわらねえように、こう、目隠しを……手拭であたしがねェ、(と、手拭で目隠し)するということについては、ね? こうやって、あたしがねェ(と、手さぐりで、縄にぶら下がる)チィンチーンッとくると、つるつるつるつるつるゥっと、えへッ、えへッ、ここですよ。ここまで苦心、を、するという、ことにねェ、ついては……(と、前へこごみ、いびきをかく)」
一八はそのままいい心持ちで寝てしまった。
 チィンチーンと鳴ったから、一八は、つるつるつるつるッと……。
もうとうに夜が明けていて、階下ではみんなが朝飯の膳《ぜん》を囲んでいる、そのお櫃《ひつ》のそばへぶら下がった。
「あァらッ、一八ッつァん、どうしたの?」
「(目隠しをとって)こらッ、あ! あッ……おはようござんす」
「この野郎、寝ぼけやがってまァ、そのざまァなんだ。まァどうも……」
「うッふゥ、どうも……あいすいません」
「寝ぼけやがったんだろ?」
「えッへッへッへェ、井戸|替《が》いの夢ェ見ました」
轻松学日语,快乐背单词(免费在线日语单词学习)---点击进入
顶一下
(0)
0%
踩一下
(0)
0%