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落語百選59

时间: 2019-09-15    进入日语论坛
核心提示:目黒のさんま江戸時代は、士農工商という身分階級がはっきりと区別されていた。とはいっても、士である武士階級は、四民の上《み
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目黒のさんま

江戸時代は、士農工商という身分階級がはっきりと区別されていた。とはいっても、士である武士階級は、四民の上《みなかみ》に立ち、三民の上席を穢《けが》すなどと、権力をほしいままにしていた。そのなかで、大名は特権階級——先祖は、戦陣のなかを駆け巡って、何万石という禄《ろく》を食《は》む、ところが二代目三代目となって、世の中が平穏になってくると、どうも英雄であったり偉人であったり豪傑であっては具合いが悪い。そこでお側《そば》人が毒にも薬にもならないような育て方をする。
当時の江戸ッ子は、そうした大名をばかにして、いろいろな小噺をつくった。
「ああ、これこれ、三太夫」
「はッ、お呼びでございます?」
「うむ、お月さまは出ておるか?……今宵《こよい》は十五夜であるぞ」
「これは異なことをうかがいます。和歌、敷島《しきしま》の道にても、月は月と呼び捨てでございます。なにとぞ呼び捨てに願いとう存じます」
「おう、さようか。しからば月はどうじゃ?」
「一天|隈《くま》なく冴《さ》えわたっております」
「うむ、して、星めら[#「めら」に傍点]はいかがいたした?」
 江戸市内は、将軍家のお膝元《ひざもと》であるから、「寄れいッ、寄れいッ」という制止《せいし》声、そのときだけ端《はた》へ寄っていればいい……いちいち土下座《どげざ》していたんでは、江戸市民の生活《くらし》は成り立たないから……中には、
「お、お、おい、立派だね、この行列は、ええ? あァ、加賀さま、おゥ、そうかァ」
友だちみたいなことを言って、慣れっこになっている。
「お、おい。お大名のお姫さまだよ、きれいだねえ。どうだい、おい、見ろよ」
「うン、見てるよゥ」
「見てるかい?」
「見てる見てる」
「……いい女だねえ、買いたいねえ」
「おゥ、この野郎、すぐなんでも買えるもんだとおもって、てめえなんぞ淫売《いんばい》買えッ」
この「淫売買え」という言葉が、お姫さまの耳へちらっと入った。……やがて館《やかた》へ帰って……。
「これこれ、さつき[#「さつき」に傍点]」
「お呼びにございますか?」
「ただいま、江戸市中通行のみぎり町人どもが『淫売買え』と申した。あれはどういうわけじゃ?」
「はァ……」
「遠慮のう話して聞かせ」
「……それは……あのゥ、下々《しもじも》の卑しき言葉にて、休め……休息をせよ、とのことにございます」
「おう、さようか」
と、その場をごまかした。……そこへ、当家のお年寄りがご機嫌《きげん》うかがいにやってきた。
「おう、これはこれは、姫君にはいつもながらご尊顔の体《てい》を拝し、爺ィは恐悦至極《きようえつしごく》に存じます」
「そのほうも堅固でよいの……何歳にあいなった?」
「本年とって八十二歳にござります」
「老躯《ろうく》のみぎり大儀である。ここはかまわん。つぎへ退《さが》って淫売買え」
「ああ、これこれ欣弥《きんや》、欣弥はおらぬか?」
「はッ、お呼びにございますか」
「ううン、今日は、日本晴れの上天気であるな」
「御意、秋晴れとはこのことかと存じます」
「ふむ、どうじゃ、ああ、紅葉を愛《め》でに参ろうか」
「はァ、おなじことなれば、武芸鍛練のために、遠乗りが結構かと存じます」
「ううむ、遠乗りか? 久しくせなんだが、いずかたがよいであろうか?」
「下屋敷からほど遠からぬ、目黒のあたりが結構かと存じますが」
「うむ、目黒か。あすこはいいの、うむ。では遠乗りをいたすぞ。支度をいたせ。……あとへ続けッ……参れェッ……」
と、殿様が飛び出した。おどろいたのは、家来、
「えッ、なに? なんか騒がしい……はッ? 殿様が? お出かけになった……遠乗りで?……これはたいへんだ、支度をしろッ」
あわてて、めいめい厩《うまや》へ飛んで行って馬を引き出すと……かあァーッ[#「かあァーッ」に傍点]と、うしろからばあァーッと追っかけた。
殿様のほうは、最初にばあァーッ[#「ばあァーッ」に傍点]と乗り出したが、ふだんあまり馬に乗りつけていないから、木製の鞍《くら》でごんごんごんごん[#「ごんごんごんごん」に傍点]やられるから、目黒に着いたころはもう意地にも我慢にも乗っていられない。だらしなく馬から飛び降りて、尻《しり》をなでているところへ……
「あァァ、遅ゥなりまして……、どうぞご乗馬を……」
「う、うッ……そのほうどもに尋ねるが、もし戦場に出て参り、馬を敵に射《い》られし場合は、そのほうどもはいかがいたす?」
「はァ……されば徒歩《かち》にて戦います」
「ううむ、よう申したな。あァ……向こうに小高き丘がある……松の木が生えておるな。あそこまでそのほうどもと駆け比べじゃ、うむ? 遅れるでないぞ、参れッ」
ばあァーッ[#「ばあァーッ」に傍点]……もうこうなると駄々《だだ》っ子、駆け出した。しょうがないから家来もいっしょになって馬を引きながら、駆け出した。……追い抜こうとすると、
「これこれ、なんだそのほう……なんだそのほう」
「はァ?」
「なんだ?」
「へえ……駆けてる……?」
「主人の前へ出るやつがあるか、無礼なやつだ……退《さが》れッ」
「はァ……」
これでは、家来は勝てっこない。向こうへ着くと……。
「あァ……いや、そのほうども、やはり余にはかなわんな」
「はァ、恐れ入りましてございます」
「あァ、空腹を覚えた……弁当を持て」
「……弁……だれか弁当を持ってきたか?」
「……べん……?」
「エエ、殿に申し上げます。あまり火急のことゆえ、弁当は持参をいたしません」
「なにッ、弁当がない?……(がっかりして)ああ、さようか……さようであるか」
殿様がひと言「どうして弁当を持って来ないんだ」と文句を言えば、家来のだれか一人が罪を背負わなくちゃァいけない。「そういうことは申してはあいならん」と幼い時分からよく言われているから、「おう、さようか」と言ったものの、空腹だけはどうにもならない、それは家来とて同じこと……。
「…………」
がっくり肩を落として、溜息《ためいき》をもらし、ぼんやり松の根元に腰をおろして、澄みきった秋の空を眺める。鳶《とんび》がピィーッと鳴きながらまわっている。
「……あァ、あの鳶は弁当を食したであろうか……」
「お痛わしい……」
そこへ、付近の農家で、ちょうど旬《しゆん》の、秋刀魚《さんま》を焼いている。その匂いが、殿様の鼻へすうゥッと漂ってきた。
「おゥ? これ、欣弥」
「はッ、お呼びにございますか」
「ふんふん……この異《い》なる匂いはなんだ?」
「はッ、異なる匂い?……恐れながら、百姓家にて焼きおります秋刀魚にございます」
「うむ、秋刀魚、なんのことじゃ?」
「秋刀魚と申す魚《うお》にござります」
「ふゥむ、余は、さようなものを食したことがない」
「これは下司魚《げすうお》にござりまして、下民《げみん》の食しますもの、御大身《ごたいしん》のお口に合いませぬが……」
「黙れッ、なにを申しておる。うむ?……戦場へ来て腹がへっては戦《いくさ》はできるか、一朝事あれば、なんでも口にいたさんければならぬ。苦しゅうない、秋刀魚をこれへ持参いたせ、目通り許す……」
「へへッ、かしこまりました」
家来もしかたがないから、匂いを頼りに農家へやって来て……脂肪《あぶら》がのりきっている盛りだから、もうもうと煙が舞いあがって、
「おう、ひどいな……こりゃどうも、あァ、許せよ」
「なにかご用で?」
「あァァ、秋刀魚を焼いておるな」
「へえ、あのゥ、すぐにやめますで……」
「いやいや、やめんでよい。ェェ、じつは、余の儀ではないが、ご主君が、そのほうの家で焼いておる秋刀魚の匂いをおかぎ遊ばして、秋刀魚を食したいと申せられてな……わけてくれるわけにはまいらぬか?」
「ああ、さようでございますか……いいえよろしゅうございます。ェェ、品川まで出ましたら、秋刀魚が安いもんで、ェェ、ひと山買ってまいりまして……」
「おうおう、ひと山あるか?」
「へえ、まだ箸ィつけておりません、そっくり残っておりますがァ……」
「うむ、どのくらいある?……二十匹ばかりある? おうおう、それは重畳《ちようじよう》じゃ……ァァ、めしはどうじゃ? うむ、炊きたてで一升ある、うん、それも譲ってもらいたいが……すまんな……では、これはほんの礼じゃ」
「いやァ、小判なんかァ出されても困りますんで、へえ。この村中探したって釣銭《つり》なんぞございませんで……」
「いやいや、釣銭《つり》はいらん、そのほうに遣わす」
「あれッ、さようでございますか。ありがとう存じます、ええ、あのゥ、なんでしたらもう一ぺん品川へ行って……」
「もう、そんなに秋刀魚はいらん」
縁の欠けた皿へ焼きたての秋刀魚を五、六本載せて、お手のものの大根おろしを添えて、悪い醤油だが、上からちょっとかけて、殿様の前へ差し出した。
殿様は見ておどろいた。……魚というものは、すべからく平べったくて、真っ赤なものだとおもっている。そこへ真っ黒なものが出てきた。だいいち、焼きたてなど食べたことがない。それがもう、チュプチュプチュプチュプと脂肪《あぶら》がたぎっている。横ッ腹のほうへ消炭がささっていて、まだぶすぶす燃えている……。
「うむ……これ、欣弥、これは奇な形をしておる。食して大事ないか?」
「はァ、殿……天下の美味でございます」
「これは天下の美味?……さようか…………」
怪訝《けげん》な顔をしてこわごわ口へ持っていってひと口食べてみると、うまい。お腹が空《す》いているときはなにを食べたってうまい。そこへもってきて、焼きたての旬《しゆん》の秋刀魚、まして野外で食べる。
「うむ、これは美味なものである。代わりを持て、代わりを持て……」
五、六匹、またたく間にたいらげた。
「あァ、美味であった。……そのほうどもには骨を遣わす」
「……ありがたき仕合わせにござります。……恐れながら申し上げます」
「なんじゃ?」
「お屋敷へお立ち帰りののち、ここで秋刀魚を食したということは、ご内聞に願います」
「いかんか?」
「ご重役のお耳に入りましては、われわれ役目の落ち度に相成ります」
「さようか、うむ。……そのほうどもに迷惑になること、余は口外はいたさん」
「ありがたき仕合わせ……」
 さて、帰ってくると、また食膳《しよくぜん》にあいもかわらず鯛《たい》が出てくる。それを見ちゃあ……、
「ああ、秋刀魚はうまかったな……」
しかし、口外してはいけないというので、ぐっとこらえている。ところが、こらえればこらえるほど、想いが募って……秋刀魚に恋い焦がれる……。
「あァ、これ、欣弥」
「はァ……」
「また、目黒なぞに参りたいの」
「はァ、目黒は風光|明媚《めいび》にいたしまして、山あり谷あり……」
「これこれ、景色などどうでもよい。あァあの折出て参った、長やかなる、黒やかなる……」
「えッへん、……おこらえください」
「さようか。……これは口外してはならぬことであった、気のつかんことをいたした……しかし、あの折の秋刀魚はうまかった」
こんなぐあいで、ちょいちょいすっぱぬかれるから、家来のほうでもひやひやしている。
そのうちに、親戚へ客として招《よ》ばれた。
「今日《こんにち》は、なんなりとお好みのお料理をご調達、承ります」
「余は、秋刀魚であるぞ」
「はァ?……ははァ……」
「エエ、お殿様のお料理承って参りました」
「うむ、なんだ?」
「はァ、秋刀魚」
「……秋刀魚?……それは貴公の聞きちがいだ。御大身のお方が秋刀魚をご存じのわけがない、大方あんま(按摩)じゃないかい」
「あんま?……あんまは食えんよ」
それもそうだというので、再度おうかがいをしたところ、
「わからんやつじゃな。余は秋刀魚と申した。黒き長やかなる魚《うお》であるぞ」
「ははァ」
 秋刀魚の用意をしていないので、早馬でもって、日本橋の魚河岸へ仕入れに行って、極上の秋刀魚をあつらえてきたが、料理番が、焼いて脂肪《あぶら》の強い魚だから、もし身体《からだ》にでも障《さわ》ったら一大事と、秋刀魚を開いて蒸器《むし》へかけて、すっかり脂肪《あぶら》を抜いてしまった。小骨も毛抜きで一本一本、丁寧に抜いたから、形がくずれて、そのままでは御前に出せないから、お椀《わん》にして、お汁《つゆ》の中に入れて出した。
「……これは、秋刀魚か?」
「御意……秋刀魚にございます」
「さようか、どれどれ……」
殿様が椀を取り上げて、蓋《ふた》を取ってみると、ぷうーんと微かに秋刀魚の匂いがする。
「おお、この匂いはまさしく秋刀魚じゃ。いやァ懐しかった。そちも堅固でなによりであった」
と、ひと口食してみたが、蒸して、脂肪が抜いてあるからぱさぱさ……うまいはずはない。
「……うむ、これこれ、この秋刀魚、いずかたより取り寄せたのじゃ?」
「はァ、日本橋は魚河岸にございます」
「あァ、それはいかん、秋刀魚は目黒にかぎる」
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