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落語百選62

时间: 2019-09-15    进入日语论坛
核心提示:時そば昔は、夜になると、天秤棒《てんびんぼう》で荷を担いだそば屋が、風鈴を鳴らしながら町々を流して歩いた。このそば屋を俗
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時そば

昔は、夜になると、天秤棒《てんびんぼう》で荷を担いだそば屋が、風鈴を鳴らしながら町々を流して歩いた。このそば屋を俗に「二八そば」と呼んだ。そば一杯の代金《だい》が十六文のところから、二八の十六で、「二八そば」と呼んだ、という……お馴染《なじ》みの噺。
「そばァ…うゥ…い……」
「おゥ、おゥ、そば屋さん」
「へい、いらっしゃいまし」
「おゥ、なにができるんだい? 花巻《はなまき》に卓袱《しつぽく》? 卓袱、ひとつこしらえてくれ。どうでえ、寒いじゃァねえか」
「今晩はたいへんお寒うございます」
「どうでえ、景気は? いけねえか? しかたねえや、そのうちにまたいいときもある。あきねえ[#「あきねえ」に傍点]といってね、飽きずにやらなきゃァいけねえぜ」
「ありがとうございます。親方うまいことをおっしゃいますな」
「おめンとこの看板、変わってるな、これァ。的《まと》に矢が当たってて『あたり屋』……いい看板だなァ、ええ? 縁起を担ぐわけじゃァねえが、ものに当たるッてんで、おれァこれから、他所《わき》へ出かけて友だちが七、八人集まって、ガラッポーンとこんなことをしようてんだ。その前に『あたり屋』へ出ッくわしたなんざァありがてえじゃねえか。今夜おれァ行っておもいっきり当たっちゃおうとおもってね。そばは好きだから、この看板見たらまた来るぜ」
「ありがとうございます。……親方お待ちどおさま」
「(丼《どんぶり》を受けとって)お待ちどおさまじゃァねえや、早《はえ》えじゃねえか、そば屋さん、気が利《き》いてるねェ、江戸っ子は気が短《みじけ》えからねェ、誂《あつら》える、催促をする、できねえとうめえものがまずくなる、しまいにゃあ食いたくなくなっちまう、まったくだよ。(箸を手にして)えらいッ。感心に割箸を使ってる。これァいちばんいいや、きれいごとで……。割ってある箸はだれが使った箸だかわからなくってねェ、心持ちが悪くッていけねえ。やっぱりこう……(口にくわえてパチンと割って)いい丼《どんぶり》だねェ、世辞を言うわけじゃァねえが、このへんの店へ行ってもこんないい丼は使っちゃァいねえだろうな。どうだい、ものは器《うつわ》で食わせるッてねェ、中味が少ゥしぐらいまずくったって、容器《いれもの》がきれいならうまく食えるじゃァねえか……(つゥーと汁を飲んでみて)鰹節をおごった[#「おごった」に傍点]ね。夜鷹《よたか》そばなんてえものァ悪く塩《しよ》ッ辛いもんだが、なかなかこういうふうにね、だし[#「だし」に傍点]をとるのがむずかしい(ちょいとそばをつまみあげて)そば屋さん、おめえとはつきあいてえなァ、太いそばなんざあ食いたくねえや、ねェ。めしの代わりにそばを食うんじゃァねえからねェ、そばは細いほうがいい。そばの太いのは(二、三度箸でたぐったのを、すすゥッとすすりこんで)うン、いいそばだね、腰が強くって、ぽきぽきしてやがら。近ごろこのくらいのそばに出あわねえなァ、うん、いいそばだ……(竹輪をつまみあげて)あ、おめえとはつきあいてえなァ。厚く切ったねェ、竹輪を。なかなかこう厚く切らねえで薄く切りやがってね、うん。食って痛々しいや(竹輪を口に入れ)食ったような気がしねえ、歯のあいだィ入るとそれでおしまい。あのくらいなら食わないほうがいいくらいだ。こう竹輪ァ厚ッぺらに切ってくれると、うん(と呑《の》みこみ)竹輪ァ食ってるような心持ちがする、うん。薄かったひにゃあね、食ってるような気がしねえんだ。歯のあいだィ入っておしまい(ふうふう吹きながら、そばをたぐってはずるずるとすすりこみ、しまいにつゥーと残った汁を丼を傾けて吸い、箸を持った手のひらで、鼻をこすりあげると)うまいッ。もう一杯《いつぺえ》代わりと言いてえんだが、じつは他所《わき》でまずいそばァ食っちゃった、おめえのを口直しにやったんだ。すまねえ、一杯《いつぺえ》で負けといてくれ」
「結構でございます」
「いくらだい?」
「十六文いただきます」
「小銭《こぜに》だァ、まちげえるといけねえな。勘定してやろう(懐中《ふところ》に手を入れて)手ェ出してくンねえ」
「(手のひらを出して)これへいただきます」
「そうかい、(と、小銭をひとつずつ親指で送って)ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ、いつつ、むっつ、ななつ、やっつ、何時《なんどき》だい?」
「へえ、九刻《ここのつ》で」
「とお、十一、十二、十三、十四、十五、十六」
勘定を払って、ぷいッと行ってしまう。
 これを陰で、さっきからじィッと見ていた与太郎。
「やァ、あン畜生、よくしゃべりやがンなァ、最初《はな》っからしまいまでしゃべってやがら、あんなにしゃべらなくっちゃァそばァ食えねえのかなァ。そば屋さん寒《さむ》いねェ……なによゥ言ってやンでえ、そば屋が寒くしたんじゃァねえじゃァねえか……どうでえ景気は? いけねえか? しかたがねえや、世間が悪いんだなァ、商売《あきねえ》といって飽きずにやンなくッちゃァいけねえッてやがる。これァうめえこと言やがったなァ……おめンとこの看板変わってるねェ、的に矢が当たってて『あたり屋』で縁起がいいや、これからおれは他所《わき》ィ行って友だち七、八人集まってガラッポーンと、こんなこと(手でなにかつまんで振る仕草)こんなこと(と、考え)変な格好しやがったな、狐つきみてえな格好しやがら……そこィ行っておれァおもいッきり当たっちまうんだってやがら。なんに当たろうてんだい? 箸が割箸で、丼がきれいで、汁《つゆ》の加減がよくって、そばが細くって、竹輪っ厚ッぺらだってやがら。最初《はな》ッからしめえまで世辞ィ使ってやがら、銭《ぜに》を払うのにあんなに世辞ィ使うことァねえじゃァねえか。あんまりよくしゃべるから食い逃げじゃァねえか、食い逃げなら捕《つかま》えてひっぱたいてやろうとおもったら、銭を払ってやがる。いくらだい、十六文いただきます……てやンでえ、値段|訊《き》くことァねえ、十六文にきまってるもんじゃァねえか。小銭だからまちがえるといけねえ、勘定してやろう。ばか野郎、子供みてえな勘定の仕方しやがる。ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ、いつつ、むっつ、ななつ、やっつ、何刻《なんどき》だい? 九刻《ここのつ》、とお? (ちょっと首をかしげて)十一、十二、十三、十四、十五、十六……変なところで時刻《とき》を訊きやがったな、あんなとこで時刻《とき》なんか訊くとこじゃァねえじゃァねえか、勘定の途中でなんかしゃべりやがって、勘定まちがえちゃうぞ。まちがえりゃァざまがいいんだけど……ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ、いつつ、むっつ、ななつ、やっつ、何刻《なんどき》だい? 九刻《ここのつ》で、とお、十一、十二、十三、十四、十五、十六……どうもここンとこ少ゥしおかしいな、(指を折り、それをひとつひとつ右手の人差指でかぞえながら)ひとつ、(また指を折り数え)ふたつ、みっつ、よっつ、いつつ、むっつ。ななつ、やっつ、何刻だい? 九刻《ここのつ》、(指をたしかめて)とお[#「とお」に傍点]……とお[#「とお」に傍点]じゃァねえじゃァねえか、ざまァみやがれ……ン畜生、勘定まちがえやがった、いい気味だ、なァ。とお、十一、十二、十三、十四、十五、十六……十六じゃァないよ、これァ。ざまァみやがれ、まちがえやがった(指をよく見て)少なくまちがえやがった、じゃァざまァみるのァそば屋がみるんじゃァねえか、おかしいなァ。(と、黙ってひとつふたつと指で折り勘定し)何刻だい? 九刻で、とお、(はたと気づき)あ、ここで一文かすりやがったんだ、うまくごまかしやがったな。これァおもしろいや、おれもやってやろう」
 その晩はあいにく小銭がない。翌《あく》る日、こまかいのを用意して表へ跳《と》び出した。
「おゥい、そば屋さん、さっきから呼んでるじゃァねえか、ずんずん行っちまうない。なにができるんだい? 花巻《はなまき》に卓袱《しつぽく》? 卓袱ひとつこしらえてくンねえ、……寒いねェ」
「へえ、今晩はたいへんお暖《あツた》かいようですなァ」
「……? あァそうだ、今夜は暖《あツた》けえんだ、そうだ、おれもさっきそうおもったんだ、今夜は暖《あツた》えけなとおもったんだ、寒いのァゆうべだ、ねェ? ゆうべ寒かったねェ……どうだい、景気は?」
「ありがとう存じます、おかげさまで」
「おかげさまで? なんだい、おい、いいてえのかい? さからうね、こン畜生め。おめンとこの看板変わってるねェ、これァ、的に矢が……当たってねえや、これァ。ずいぶんあっさりしてやンなァ、丸が書いてある……?『丸屋』? ああ、いい看板だァ。これからおれは他所《わき》ィ出かけて、友だちが七、八人集まってね、こんなことをしようてんだ(壺を振る手ぶり)そこで今夜おれはまァるくなって……看板はまァいいや、ねェ。看板はいいけど、そばはどうしたい? おい、まだかい? おい、早くしろよ、こン畜生、じれッてえなァ。江戸ッ子は気が短《みじけ》えじゃァねえか……もっともおれァ江戸ッ子のうちでもいくらか気が長《なげ》えほうだけどもねェ……まだか?」
「へ、親方お待ちどうさまで」
「(丼を受けとって)おッ、感心におめンとこは割箸を使って……きれいごとでいちばんいいねェ、これが。割ってある箸はだれが使った箸だかわからねえ、心持ちがわる……(と、箸を見て)これァもう割ってあるなァ、これァ。ずいぶん手まわしがいいねェ、おい、先のほうが濡《ぬ》れてるじゃァねえか、洗ったのか? ま、いいや(箸の先を着物の胸のあたりでこすって拭き)こうやっときゃァわからねえや……、おめンとこの、この丼いい丼だよ。いや、このへんの店へ行ったってこんないい丼使ってねえ。ものは器で食わせる、中味が少ゥしぐれえまずくッたっておめえ、容器《いれもん》……(と見て気づき、つくづく眺めて)汚《きたね》え丼だねェ、これァ、ええ? 罅《ひび》だらけだねェ、よくこう(と、左右にまわし)まんべんなく欠けたねェ、これァ……いい丼だ、これは。丼にも使えるし、鋸《のこぎり》にも使えらあ。丼なんぞ欠けたっていいんだよ。丼を食うわけじゃァねえから、少ゥし気をつけて食えばいいんだ。おめンとこじゃあ鰹節をおごって……二八そばなんてなあ悪く塩ッ辛いもんだがねェ、なかなかこういうふうにいい汁《つゆ》加減にいかねえ、だし[#「だし」に傍点]を取ンのがむずかしいからね(ひと口吸って、ぐっとこらえ)おい、湯ゥうめてくンねえ、おい。とてもおれにゃあ食えないよ……もっともおれァ甘好きだから。おめえとはつきあいたいねェ(箸で丼の中をかきまぜながら)おたがいに太いそばァ食いたくねえや、そばは細いほう……(と、つまみあげ)うどん? これ……そば? あァ……太かったねェ、これは……太いほうがいいや、食いでがあって、ねェ? (ずずッとすすって、口の中でぐちゃぐちゃかみ)ねばついてやがら、ずいぶん柔かいねェ、これァ。おそばのおじや[#「おじや」に傍点]だ、これァ、ねェ? こういうほうがこなれはいいけどもね(と食い)うん、だいいちぬるいや、これァねェ……こんどは竹輪のほうへ取りかかろう(丼の中をしきりにかきまわして)おめンとこじゃァやけに竹輪が厚ッぺらに切って、こんな厚く切って、あうのか? よく紙みたいに薄く切ってある竹輪がある、痛々しくって食ったような気が……(丼の中を捜すが見つからないので)おめンとこ竹輪入れないの? 入ってます? 入ってませんよ、これだけかきまわして出てこな……あったッ。あったよ、丼へぴったりくッついてたからわからなかった(箸でつまみあげて、片目をつぶってすかして見て)あァ、これァ薄いや、これァ……竹輪の向こうに月がはっきり見えらあ。よくこう薄く切れたねェ、これ、なかなかこう切れるもんじゃァないんだ、ほんとうは……もっとも厚くッても、まがいの麩を使ってるうちがある。麩なんざいけない、あれァ病人の食い物だ。麩なんざあ食いたくねえ。おめンとこァ本物だろう? いや本物だよ、はン……(と食べてみて)本物の麩だね、これァ……麩のほうがいいや、じつはおれァ少し病気なんだよ、麩が食いてえとおもってたとこなんだよ……(ひと口汁を吸って)おれァもう止すよ、おい、いくらだい?」
「へえ、ありがとう存じます。十六文いただきます」
「(両手を懐中《ふところ》へ入れ)小銭だ、まちがえるといけねえからね、勘定してやるから手ェ出してくンねえ」
「(手を出して)へえ、これへいただきます」
「そうかい(銭を親指でひとつずつ送り)ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ、いつつ、むっつ、ななつ、やっつ、何刻だい?」
「へえ、四刻《よつ》で」
「いつつ、むっつ、ななつ、やっつ……」
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