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落語百選70

时间: 2019-09-15    进入日语论坛
核心提示:返し馬「おゥ、みんな集まったか」「なんだい、兄ィ?」「なんだいじゃあねえや。ここンところ仕事ばかり続いて、働いてばかりい
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返し馬

「おゥ、みんな集まったか」
「なんだい、兄ィ?」
「なんだいじゃあねえや。ここンところ仕事ばかり続いて、働いてばかりいるのが能じゃあねえ、そこで、今晩あたり、仕事の垢《あか》をきれいさっぱり流そうってんだが、どうだ」
「こいつは、ありがてえ、遊《あそ》びに行くのかい?」
「そうよ。湯ゥなんど毎日|入《へえ》ってらァ、あたりめえよ遊びに行くのよ、行くか?」
「行きてえけどねェ、兄ィ、家のかかあがうるさくってしょうがねェ」
「だらしのねえ野郎だ、おめえは。……だからよゥ、そこは、おれが考《かん》げえたんだよ。ひとつ、大師詣りてえことで出かけようじゃあねえか、なァ?」
「あッ、そうか。なるほど、兄ィはうめえところに気がついたなァ」
「そうよ。……こちとらあ、大工《でえく》だ、なあ、いつどこで怪我ァするかわからねえ、いつなんどき災難に遭わねえとも限らねえ。神信心てえことなら、かかあだって大目にみらァ」
「そりゃ、そうだ、うん」
「川崎大師《かわさきでえし》ならどうでえ、どうしたって泊まらなくちゃあならねえ」
「だったらなんじゃあねえか、川崎泊まりかァ、つまらねえ」
「冗談言うねえ、朝|発《だ》ちよ、早く発《た》って、昼過ぎにゃ川崎へ飛びこむのよ。そいで手早く護摩《ごま》あげといて、引っ返しゃあ品川でちょうど日いっぱいよ。なあ。そいで廓《くるわ》でひと晩ゆっくり遊んで、朝、知らん顔の半兵衛で帰《かい》ってくりゃあいいじゃないか」
「そうかァ、大師詣りってえのァ、そういうご利益があるたァ知らなかったねェ、そうなるとなにかい? 大師さまを信心するやつァ、みんな助平?」
「なにを言ってやんでえ。そうとも限らねえが、いい口実にゃあなるだろ?……じゃ、そうと話が決まりゃあ、これからみんな家《うち》ィ帰って、かかあに納得させて、そいから正々堂々と、出かけようじゃあねえか。……わかったか。じゃ、今夜またみんな湯ゥで会おう」
「あァ、いま帰った、おっかァ」
「あァ、お帰り、なんの寄りあいだったんだい?」
「いやァ、兄ィがねェ、ここンとこで仕事もちょいと目鼻ァついたから、ひと晩泊まりで川崎大師へ詣りに行って、『こちとらァ、大工《でえく》だ、なあ、いつどこで怪我ァするかわからねえ、いつなんどき災難に遭わねえとも限らねえ。神信心てえことなら、かかあだって大目にみる……』って……」
「なにが大目にみるんだい? 川崎の大師さま? そりゃあいいねえ。あたしもいっしょに行きたいねェ」
「お、お、ちょっと待ってくれ。女が行ったってしょうがねえ。女が行ったっておもしろかねえ、別に」
「いや、おもしろいってえとこじゃないけどさァ、あたしも一度はお詣りに行きたいとはおもっていたんだよ。でも、家にゃあいろいろ用事《よう》もある、いっしょにくっついちゃ行かれないけどもさ」
「あァ、おめえはまたにしねえ。じゃあ行ってもいいな?」
「あァ、行ってきなよ。……あッ、ちょっと待っとくれよ。大師ってえとどこ通る?」
「なにを言ってやんでえ。……日本橋はなれて江戸、八つ山から品川よ」
「品川にゃあなにがある?」
「江戸の入口じゃあねえか、立《た》て場《ば》がある。なァ、江戸から東海道を旅する者はよ、あそこで馬に豆をたっぷり食わせて、馬に乗って行くか、駕籠へ乗って行くか、旅する人と見送る人が涙ながらに別れる、立て場があらあ」
「立て場は知ってるよゥ、両側になにがあるんだね?」
「……左っ側は、海で、右っ側は、山で……」
「なに言ってんだい、女郎屋があるじゃないか」
「女《じよ》……? あッ……」
「そこで悪いことォしようてんだろ?」
「冗談ァ言うねえ、おめえ。……朝まごまご発《た》ちゃ、川崎へ着くのが日いっぺえよ。その晩はおめえ、川崎泊まりだ」
「川崎へ泊まるてえのかい? おまえさん、あてにならないよ。いざ火事てえと、二里や三里飛んでっちゃう若い連中だもの、品川ときまってらあ」
「そんなこと言ったって、おめえ」
「いいよ。行っても……」
「え? 行ってもいいかい?」
「その代わりお呪《まじな》いしてやるから」
「なんだい?」
「いいから、今晩早く湯へ行って……あした、早|発《だ》ちだろ?……寝ちまい」
「おい、おっかァ、出かけるぜ」
「わかってるよ、もう支度はできてんだよ。……たとえひと晩でも家《うち》ィあけるんだ、旅で粗相があってね、下《しも》の物汚れてると笑われるよ。おまえさん、六尺(褌《ふんどし》)替えてっておくれ」
「おゥ、洗ったのか?」
「洗ったんじゃない、新品《さら》だよ」
「そうか、じゃこっちィ出してくれ」
「その前に、ちょっと待っとくれ。……褌する前に、お呪《まじな》いするから」
「なんだい、お呪いってえのは?」
「だまって……こっちへ、鑿《のみ》を出しなよ」
「鑿は道具箱へ入《へえ》ってるよ」
「その鑿じゃあないよ。自分の持ってる鑿だよ」
「えッ? 鑿たァうめえことを言いやがったな。たしかに突っつくよか用がねえ、こりゃあ鑿だ」
「だまって、こっちィ出しなよ……あたしが、いま鑿へお呪《まじな》いをするからね」
「お呪い? どうしようてんだ?」
「今晩、浮気するといけないから鑿の頭へお呪いをするからね」
「え? なんかふん縛《じば》るのか?」
「ふん縛《じば》りゃあ、大きくなったり小さくなったり痛いだろうから……いいから、お出し」
「……?……あッ、冷《つ》めてェッ。……あれっ、筆でなに書いたんだ?」
「ほらッ、ここに〈馬〉という字を書いた。……これが消えたら、おまえさん、浮気したことになるんだから、いいかい」
「おッほほほ、考《かん》げえやがったねえ、こいつァ」
「いいかい、これを消さないように、わかったね、じゃあ行っておいで……」
「あァ、行ってくるよゥ」
 四、五人連れだって、川崎大師へ手早く護摩あげて、意気揚々と夕方近く品川へ繰りこんだ。一同|敵娼《あいかた》きまって、飲むだけ飲んで騒ぐだけ騒いで、さて部屋へお引けということになる。
「ちょいと、おまえさん、どうしたの? 浮かぬ顔して」
「だめなんだ」
「なにがだめなの?」
「えッ?……使えないんだ」
「使えない? 変だねェ?」
「お呪《まじな》いされちゃったんだ、鑿《のみ》へ」
「鑿?」
「おれの鑿へよ」
「……? あれっ、あたしゃこんな稼業《しようばい》してるけどさ、そんなお呪いあるのかい?」
「あるのかいって……見てくれよ」
「なんだい?……あ、字が書いてあるじゃないか? あらッ〈馬〉って書いてあるじゃあないか?」
「使えば、これが消えちゃうよ」
「ふン、そんなことなにも心配するこたァないじゃないか。かまうことないから、お使いなさいよ、ねェ? あしたの朝、またあたしが書いときゃあいいんだろう?〈馬〉って字をさ」
「そうか。そこへ気がつかなかったなァ。おまえ、書いてくれるか?……そいつは、ありがてえ」
 やっこさん、その晩はいい気持ちンなって、あくる朝ンなると、
「お、お、忘れちゃあいけねえ、〈馬〉って字書いてくれ」
色里、水商売はなにごとも縁起|稼業《しようばい》、〈馬〉も勢《いきお》いがいいので尊《たつと》ばれたが、勢いがよすぎて行きっぱなしじゃあ困る、そこで、また裏を返して、返ってくるようにというので〈馬〉という字を〈|※[#「馬」の左右反転 ]《ひだりうま》〉と書く風習がある。
敵娼《あいかた》もその癖で、筆で〈※[#「馬」の左右反転 ]〉と書いた。
「おゥ、いま帰った、おっかァ」
「あァ、早かったねェ、品川へ泊まったんじゃあないだろうね?」
「泊まりゃしねえよ。おまえのお呪《まじな》いちゃんと守ったよ」
「そうかい……だけどさァ、念のためにちょっと見せてくんないかい?」
「あァいいよ。……どうだい?」
「あらァ、ほんとうだ、消えてないや。……消えてないけど……おかしいねェ、あたしゃあこっちかたへ書いたんだけど、ひっくり返ってるね?」
「え? 往きと帰《けえ》りで、ひっくり返ったんだ」
「そうかねえ?……でも、あたしは行くとき、もっと細く書いたとおもったんだけど、この〈馬〉肥ってるねえ」
「うゥん、そうかもしれねえ、品川の立て場で豆ェ食わせた」
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