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落語百選75

时间: 2019-09-15    进入日语论坛
核心提示:ぞろぞろ昔、浅草|田圃《たんぼ》のまン中に「太郎|稲荷《いなり》」というお稲荷さまが祀《まつ》ってあって、大昔はたいそう
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ぞろぞろ

昔、浅草|田圃《たんぼ》のまン中に「太郎|稲荷《いなり》」というお稲荷さまが祀《まつ》ってあって、大昔はたいそう繁昌をした。しかし、ご多分にもれず、神仏にも栄枯盛衰《えいこせいすい》というものがあって、いまでは参詣人が来なくなった。もとより神社仏閣は参詣人が頼《たよ》りだから、参詣人が来なくなると、お堂のほうも荒れ放題。……だれかが建てた、「正一位太郎稲荷大明神」という旗がもとは赤地に白く染めてあったが、それが雨風のためにすっかり剥《は》げてしまって、いっぺん柿色になって、それから橙《だいだい》色になってまっ白になって、今度は砂埃《すなぼこり》で鼠色になった、という幟《のぼり》がかかっているくらいだから、鳥居は笠木《かさぎ》もとれ、棒ばかり、水屋は倒れたまま……という荒れ方。
その前に茶店が一軒あったが、肝心のご本社のほうがそんなありさまだから、これもともどもさびれて、茶店では成り立たないから、かたわら荒物を並べ、かたわら飴、菓子を商《あきな》って、年寄り夫婦が細ぼそ暮らしている。しかし、この老夫婦は心がけのよい人で、朝起きるとお社《やしろ》の掃除を先にし、水を汲むとお初餞《はつ》を供える。ご飯を炊くときにはお饌米《せんまい》というので、かいがいしく仕えている。
ある日のこと夕立があった。田圃の中の一軒家だから、周辺《あたり》を歩いている人残らずが雨宿りに駆けこんできて、狭い土間は人でいっぱいになった。
「おじいさん、ありがとうござんした、お宅があったんで助かったよ。さもなけりゃあこの一張羅《いつちようら》ァ台なしにするところ。地獄に仏ッてえのァこれですよ。ありがとうござんした。ほんとうに助かったよゥ……降ってやがるなァ……この夕立は少ゥし、こらあ場ちがいだねェ。夕立ってえやつは、さあァッと降って、からッと天気ンなるてえのが身上《しんじよう》で……これァ、さあァ……とは降ってやがるが、なかなかあがる気配がないねェ。場ちがい夕立……こんなものにつきあっちゃあいられねえ……あのねェ、おじさん、ここにお菓子の箱が並んでるがねェ、お茶をいれてくれませんかねェ」
「はい、ただいまなァ、差しあげようとおもっておりましたところで……はなはだ粗末でございます」
「あァ、なんでもいいよ、持ってきておくれ……おッ、うまそうなお茶じゃあねえか。あァ、これァ結構だァ……さァて、このお菓子の箱の中に入っている、この白い菓子ねェ……おじさん、これ薄荷《はつか》かい?」
「へえ、薄荷でございます」
「薄荷の菓子ってえものは、たいてい三角ンなんだがねェ、これァ六角だの八角だの、形はいろいろだね」
「はい、仕入れましたときには三角でございましたがな、ちっとも売れねえもんでございますから、店の掃除のたンびに、菓子の箱をあっちィやりこっちィやりしますとな、ぶつかりあってそんな形に欠けちまったんでござんすよ」
「へーえ、薄荷《はつか》のお菓子も苦労したんだねェ、揉《も》まれたんですなァ、あァ、苦労の末だァ。いくら古くったって薄荷だよ、あたる[#「あたる」に傍点]ようなことはねえだろう? これ頂戴しよう」
菓子をつまんで、お茶を飲んでいると、
「……あァ、お天気ンなった。ありがてえありがてえ……おじいさん、なげえことどうもお邪魔ァしちゃったねェ……これァねェ、お菓子のお代ですよ。これァ少《すくね》えが茶代だァ、取っといてくださいよ。なに? お礼にゃあおよばない。あァ、どうも、ごめんなさい」
茶店をとび出してったが、すぐひっ返してきて、
「だめだめ」
「……?」
「だめだめ、あァ、歩けない」
「歩けない?」
「あァ、いまの雨で、つるつるつるつッ、と滑ってだめだ……あッ、おじいさん、お宅で草鞋《わらじ》を売ってるんだ……これァありがてえ。あの、草鞋、一足くださいよ」
「へえ、ありがとうございます。八文でございます」
「あ、おれにも売ってもらおう」
「おいらにもくンねえか」
一人が草鞋を買うと、雨宿りの人がみな草鞋をばたばたっと買って、履いて帰り、またたくうちに草鞋は品切れになった。
「ありがたいねェ、おばあさん。夕立さまさまだねェ、太郎稲荷さまのご利益だよ。あしたァお稲荷さまへ、赤のご飯を炊いてあげとくれよ。それから尾頭《おかしら》つきねェ、お神酒《みき》……お榊《さかき》も忘れなさんなよ、いいかい?」
「はい、おじいさん……あッ、お店にお客さまですよ」
「おや? 源さん。いまの土砂降りはどうしたい?」
「たいへんだったなァ、大門寺前《だいもんじまえ》の寮の廂間《ひやわい》であの雨は凌《しの》いだがねェ、ここまで来るのになんどつんのめりそうになったか知れやしねえ……あァ、ようやくここィたどりついたよゥ。これから鳥越《とりこえ》まで用足しに行くんだ。すまねえけれども、草鞋を一足売ってくンねえか」
「あァ、おまえさんが来なさることがわかっていれば、一足ぐらいとっとくんだったが、いま雨宿りのお客さまが、残らず買っていっちゃって、品切れンなっちゃってなァ、悪《わり》いことしたよゥ、一足もないよ」
「いえェ、一足だよ」
「ええ、その一足にも半足にも、草鞋は残っちゃあいねえんだよ」
「だって(ちらっと見あげて)そこにあるじゃあねえか、おじいさん」
「あァ、ありゃあしないよ、ねェ、おばあさん、売り切れンなったんだもの」
「なにを言ってんだよゥ。年寄りはどうしてこう強情なんだい。おじいさんや、いいかい? おいらの言ったとおり、雁首《がんくび》をこうひとつひんねじって(と、首をまわし)、天井裏ァ見てごらん。そこに一足だけ草鞋がさがってるよゥ」
「なにを言いなさるんだ。売り切れた草鞋がおめえ、どう雁首をひねろうと(と首をまわし、見あげて)あるはず……がァ、あァ、あ、あったァ」
「なんだい。あるから頼んでるんだよゥ。おいらじゃあ売らねえのかい」
「いいえ、そりゃ悪《わり》いことをした。売るよゥ、あたしのおもいちがいだった、一足残ってたんだねェ、八文だよ」
おじいさんが、草鞋へ手をかけて、すッ[#「すッ」に傍点]と取ったら、あとから、ぞろッ[#「ぞろッ」に傍点]とまた草鞋が出てきた。
「おおッ?!」
お客が帰って、しばらくするとまた買手が来て、これをすッ[#「すッ」に傍点]と抜いて売ると、また草鞋がぞろり[#「ぞろり」に傍点]。一足ぶらさがっている草鞋が、すッ[#「すッ」に傍点]と抜くとあとから、ぞろり[#「ぞろり」に傍点]……ぞろり[#「ぞろり」に傍点]……いくらでも出てくる。
この評判が世間にたちまち広まって、茶店の老夫婦は正直者、太郎稲荷のご利益ということになった……。
 ほど近い田町に、ちっとも流行《はや》らない髪結床があって、ここの親方が店ッ端で大あぐらァかいて髭を抜いていると、
「おゥい、親方、いるかい?」
「親方ッてえのァおれだよゥ、なんだい?」
「あァ、いたな? 今日は暇かい?」
「なァに言ってやンでえ……へへへェ、暇だか、忙しいか、よく見なよゥ、なァ? ひと目で見渡せねえほど広い店じゃあねえ、客の姿は一人もねえや。おれがこうやって、髭ェ抜いてる」
「おゥ、身体《からだ》が暇なら、おいらといっしょに行かねえかい? あの、太郎稲荷の前の茶店、たいへんな人なんだぜ。おもしろいよ。草鞋が一足ッかぶるさがってねえやつを、うェェいッてんで売ると、あとからぞろッ[#「ぞろッ」に傍点]と出やがるんだァ、ああ。あれァご利益だっていってるがねェ、見に行かねえか」
「ご利益? てェェ……聞いたふうなこと言っちゃあいけないよゥ、神仏にご利益なんてえものあるかい。ほんとうに、ばかばかしい。ええ? てェッ、ご利益だとおもって行くのか? おめえは。はァッ、いい玉だなァ。はァ、まァ、おれもねェ、こうやって客はいねえし退屈《てえくつ》だから、いっしょに行ってもいいがね」
来て見ると、太郎稲荷のご利益の評判を聞き伝えて、参詣人も日増しにふえ、幟はもう何十|旒《りゆう》となしにあがり、納め物の小さな鳥居は並べるところがなくなって、空に向けて積みあげるという大繁昌。縁日が出、例の茶店は、
「あァ、土産にするんだから、一足ください」
「お札《ふだ》代わりに、一足ください」
と、朝から晩まで押すな押すなの行列……。
 これを見た髪結床の親方は、
「へえ、なるほどたいへんなんだねェ。こんなに繁昌してやがんのかなァ……おい、おじいさん、この茶店もたいへんだなァ。儲かるだろうなァ、つうッ[#「つうッ」に傍点]と取ると、ぞろッ[#「ぞろッ」に傍点]ときたひにゃあねェ。只《ただ》で、これだけの商売。これがご利益……おゥッ、そうだ、神仏のご利益。ご利益となったら、おれも授かろう……今日から裸足《はだし》詣りをして……(両手を合わせ、拝み)南無太郎稲荷大明神さま、なにとぞあたくしにも、この茶店の年寄り同様のご利益をお授けくださいますように……この茶店の年寄りとおんなしご利益をお授けください、南無太郎大明神さま……」
と、一心に祈って七日目……、
「お帰《かい》んなさい。……ごらんよゥ、一年じゅうのお客が今日いっぺんに来ちゃったよゥ。家ィ入れきれやしない、隣の空店《あきだな》ァ借りて、みんな休んでるよ。早く仕事にかかっておくれよ」
「ありがてえな、ご利益だなァ……いいよ、すぐに仕事にかかるから安心しろい……ェェみなさんお待ちどおさまでございました、あたくしがここの主人《あるじ》でございまして、腕に覚えがございますから、お手間ァとらせません。どなたがお先でございましたか? 順にやらせていただきますが……」
「おゥ、親方、帰ってきたかい。おれがいちばん先手に来てんだ。髭ェやっとくれ」
「へえ、かしこまりました」
その客の頬っぺた、ひょいと見ると、熊の背中のように毛が入り乱れて、びっしり生えている。
「はい、よろしゅうございます。さァどうぞこちらィこちらィ……」
腰かけへ据えといて、十分にこれを湿《し》めした。それへ、剃刀《かみそり》を当てがって、すうゥッ[#「すうゥッ」に傍点]と剃るとあとから毛が、ぞろぞろッ[#「ぞろぞろッ」に傍点]……。
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