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落語百選78

时间: 2019-09-15    进入日语论坛
核心提示:碁どろ「こんばんは」「あや、こりゃあどうも、今日は具合いが悪い、ちょっと使いでもあげればよかったんだ、ついどうも、人手が
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碁どろ

「こんばんは」
「あや、こりゃあどうも、今日は具合いが悪い、ちょっと使いでもあげればよかったんだ、ついどうも、人手がないもんでねえ、お気の毒さま、悪いことをしたね」
「いや、いいんですよ。別に用もないから、ぶらぶら来ました。じゃまた、明晩まいりますよ」
「それがねえ……明日の晩もちょいとねェ……」
「じゃ明後日《あさつて》の晩……」
「明後日《あさつて》にもいつにも、とうぶん碁が打てないことになっちまったんで……」
「へえ、なにか?」
「今朝《けさ》、家内から碁のことについて少し苦情が出ましてね」
「あれ、そうですか。でも、別にねェ、おたがいさまに、碁を打つために、夜ふかしをして、商売をよそにするというわけじゃあなし、昼間一日稼いで、夜のたのしみに打つんで、それも時間がくりゃあちゃんと切りあげて、打ちかけでも止めて、でまた明日《あした》あらためてやるというようなことにしてんですから、おかしいですなァそりゃあどうも、ェェおかみさんのほうから、なんか苦情があるてえのァ……」
「いや、それはねェ、わたしも言ったんですよ、ね? それはいいんだが、家内の言うには、火の用心が悪いから、どうか碁だけは打ってくれるなと言うんで……」
「へーえ、火の用心が?」
「いえ、じつは今朝、奥の八畳へ来てくれというので行ってみますとね……いつもあなたと二人で碁を打つ座敷でさァ、昼間は敷物が敷いてある。この敷物をあげて、このとおりだと言われたときには、われながらぞッとしましたよ」
「どうして?」
「碁盤の周囲《まわり》は焼け焦《こ》げだらけじゃありませんか。因果と二人とも噛《か》むほど煙草が好きで、夢中になって碁を打ちながら喫《の》むので、この吹《ふ》き殻《がら》が畳の上へ落ちる。この吹き殻のために火事になったことが、昔もいまもありがちのことで、いかにも不用心だから、なにかほかに安心のできる慰《なぐさ》みと変えて、碁だけは打ってくれるなと、こう言われてみると、それでもやるというわけにもいきませんしね」
「なるほど、そう言われてみるとごもっともですな、火事を出しても碁さえ打てばいいというわけにもいかず、そうかといって、わたしどもへおいで願うといったところが、子供が多くってうるさくっていけず、ひとつ火の用心をして、これなら安心ということにしてやろうじゃァありませんか」
「そこでだね、安心といったところで、煙草を喫まぬということはできない。なにか名案がありますか」
「じゃあ、庭の池を拝借しましょう」
「池には水がありますよ」
「水があるから吸殻が落ちても、じゅうじゅう[#「じゅうじゅう」に傍点]消えてしまうでしょう」
「冷《つめ》たいですよ」
「冷たいぐらい我慢をしなければいけません」
「我慢するにしても碁盤は?」
「首から紐をさげて両方で吊っていればいいでしょう」
「碁石はどうします? 袂へ入れるのも具合いが悪いでしょう?」
「腰へ魚籠《びく》をさげてその中へ入れる」
「まるで釣り支度だね、ばかばかしい。ほかにいい考えはありませんか?」
「それでは、畳をトタンで張るということにしては……」
「そんなことは、今夜の間に合わない」
「それじゃこうしたらどうですか。今晩はそう寒くもないから、あの座敷へ二人|立籠《たてこも》って……まるっきり火の気のないようにしてやったら……」
「それはいけないよ、おたがいに碁は三日や四日は休んでもいられるが煙草ばかりはものの一分もやめてはいられないんだから……」
「うゥん、それもそうだ」
「してみると、碁より煙草のほうが好きの度が強い」
「もちろん」
「いかに碁がおもしろいといったところで、それより以上に好きな煙草が喫めないということになると、ものにたとえてみれば、頭をさすられて、尻のほうを撲《ぶ》たれる理屈でつまらない」
「いやいや、全然喫まないということはとてもできない話だが、ひと勝負が何時間かかるというものじゃあない。だいたいこりゃあ、どっちが負けだと見切りを立って、半ばで壊《こわ》しちまうような碁ばかり打ってるわれわれだから、十分か、十五分で片がつく。そのあいだは、ぴったり我慢して、一局済んだらば、隣の部屋へ火種を置いといてもらって、そこでまた、煙草を充分に喫《す》っちまうんですね、いくら喫《す》ったってこりゃ腹へ溜まるもんじゃないんだから、充分に喫《す》い溜めをして……」
「そんなに喫《す》っちまったらあァた、目がまわる」
「まァ、目のまわるほど喫《す》っちまうんですよ。そこで煙草を喫《す》いおわったら、こんだ碁盤のほうへかかって碁を打つ。碁は碁、煙草は煙草、と、片ッ方ずつ片づけたらどうです? これなら大丈夫でしょう」
「ほう、なるほどねえ。碁は碁、煙草は煙草……。ああそうだ。火種を置かなきゃいいんだから、こりゃ喫《す》いたくったって喫《す》えるわけがないんだからねえ……ほう、うまいことを考えたなァ。ええ? いえ、あァたね、煙草を喫《の》んじゃいけないってえからさァ、そりゃだめだとおもった。そんなら大丈夫だよ。まるッきり喫《の》めないわけじゃないんだから、ああ……じゃあそうしましょう、そんならまちがいはないでしょう、ね? じゃ、隣の部屋へひとつ、すっかり用意をしておいてもらって、で、一局終わったらこっちィ来て……こりゃうまい考えだァ。碁は碁、煙草は煙草……ええ? なんだいなにを笑ってんだね、なにが? いや、いまおたがいに安全な方法で、打ちたいとおもうから相談をして……なに? それならば差しつかえない? あたりまえですよ、火のないところでやってそれで差しつかえがあってたまるもんか……家内のほうが、それならいいとさァ、ね?」
「じゃ、さっそくやりましょうか」
二人は奥の八畳の部屋へ入って碁盤を囲み……。
「さァさ、いらっしゃい……いやァはッはッはどうも。碁は碁、煙草は煙草なんてことはねェ、こりゃなかなかどうして……」(パチリ)
「そりゃァまァ、ね、碁も煙草も好きですがねェ、去年の歳末《くれ》などは商売が忙しくって、碁のほうは十日ばかり休んだこともありましたがね、碁はそれでもすむけれど、煙草のほうは一日はおろか、三十分だって我慢するってえわけにはいきませんからねえ……碁は碁、煙草は煙草とは、どんなもんですな」(パチリ)
「ふゥ……なるほどなァ、煙草は煙草……いい煙草ですねェ、こりゃァなァ……ああ、あなたはまた今日はいやに考えるねェ」(パチリ)
「え? いや、考えるてえますけどもねェ、今日はちょいとあなたねェ、今日は手きびしいですよ……煙草は煙草……じゃァあたしもひとつ、こっちへ、煙草は煙草と、いきますか」(パチリ)
「ふふゥん? なるほどねェ……ああ、ここンとこィひとつこう……こう、こう……切るかな。……切り煙草なんてなどうだ」(パチリ)
「こりゃしょうがないよ、なァ、こりゃどうしてもこりゃこっちへ継《つ》ぐ一手だ、なァ、継《つ》ぎ煙草だ」(パチリ)
「ははァ……? ここンところはちょいと危いかなァ、こっちのほうへひとつ、継いどくことにするかな、ここへなァ……継ぎ煙草だ」(パチリ)
「ははァ……? そうしたらあたしのほうも、こっちを、地盤を固めなくちゃいけないやな、ここンところ、じゃこうひとつ……これはいい煙草ですよ」(パチリ)
「なるほど、いい煙草だねェ、こっちにゃ悪い煙草だ、こりゃあな、ほう? なるほど……こういく、こう切る、のぞく、お……ここは……ちょいと迂濶《うかつ》にはおろせないよ、こら……はあァ……うまいなこりゃなァ……待ってくださいよ(と、煙草入れを出し、煙管《きせる》を手に持つ)ふゥむ……こういくと、こう継ぐ……まずいな、こりゃ(と、膝の傍の煙草盆を手さぐりする)あァ悪いとこをおろされたなァ、こらなァ、ええ?……うゥ……む? こうくる……あァ、ここはまァひとつ、思案のしどころだな、こらァな(と、煙草盆を捜すが手応えがない)おゥい……火が来てないよゥッ……煙草盆が来てないよッ」
「そーらはじまった。清《きよ》や、持ってっちゃあいけないよ。困ったねえ、もういつものとおり、まるで夢中なんだから……」
「どういたしましょう。さかんに持ってこいとおっしゃってますが」
「今夜ばかりは大丈夫だとおもって、いい敷物のほうを敷いて置いたんだけど、あれをまた焼けッ焦《こ》がしにしてごらんなさい、自分でやっといて、それでお叱言《こごと》なんだから……いえ、持ってけませんよ、だめですよ」
「火がないよーゥッ」
「どうしましょう? どなっておいでですけど……」
「困っちまうねェ、煙草盆ばかりじゃ持っていかれないし、なにか火の代わりになるものはないかしら?」
「炭でも入れておきましょうか」
「炭じゃあ黒くっていけない……そうそう、あの縁側の軒先へね、烏瓜《からすうり》が下がってるだろ? あァ、あれをひとつもぎとっておいで。黄色いのじゃあいけないよ。まっ赤になってるんでなくっちゃあ……さあ、これを煙草盆に入れるんだよ。なァに、夢中だからわかりゃあしないよ。すっかり埋《い》けちまって、少ゥし赤いところを出しておいてごらん……そうそう、ほら、ちょっと見ると火に見えるだろう? あァあ結構結構、早く持ってって……なにを笑ってるのさ。笑って持ってっちゃあいけないよ。笑わずにね。真面目な顔をして置いてこなくちゃ、うん」
「あァ、煙草盆を持ってきた? あァ、そこへ置いてって……あとはよく閉めてな、うん、気が散っていけないから……こりゃまァしょうがない……じゃまァ、ここはしょうがないから、こう……はねておきますかな?」(パチリ)
……盤面に気をとられ、煙草盆のほうへ手をのばし、烏瓜の頭へ煙管を持っていっては、すぱすぱやってみても、煙がいっこうにこない。……いくらすぱすぱやったところで、火が発《つ》くわけがない。煙管をくわえてみてはまた烏瓜の頭を撫《な》でている。
これなら安心とおかみさんは、下女といっしょに風呂に入った。もっとも奥深で風呂と座敷とはだいぶはなれている。
二人は夢中で差しむかい、表のほうはだれもいない。そこへ入ってきた泥棒が、これがまた、碁好きときていて、……大きな包みをこしらえて、背負《しよ》いこんだところへ、パチリッ、パチリッという……深夜、しィーんとしているところへ碁石の音が響いてきたからたまらない。……音にひかされて、泥棒は包みを背負ったまま、奥の八畳の部屋へのそりのそりと入ってきた。
「……はァ、やってるな……はァはァ、二人っきりだな。いいねェ、気が散らねえでなァ……はァはァ、いい盤だなあ、石もいいや、ふくらみもあって……盤石がいいと、いつもより二目がた強く打てるというが、まったくだね。いい石だ。塩|煎餅《せんべい》みたいなそっくり返った石じゃあおもしろくない……ェェ、はなはだ失礼ですが、互先《たがいせん》ですな。碁は互先に限りますな。はあ、そこが攻《せ》めあいになってますな。力のはいる碁だなァこらァ……ふゥむ、なるほど、うん、その石はそりゃあこわい石ですよ、そりゃあ……ああ、そりゃ気をつけなくちゃあ……」
「……だめだ、だめだよ。口をだしちゃあだめですよ。そりゃァねェ、見てんのァかまわないが、口を出しちゃあ……岡目八目助言はご無用と……ひとつ、これへ……」(パチリ)
「ええ、ごもっともですなァ、……助言てえことは……あたしも助言は堅くご無用と……」(パチリ)
「あァ、そりゃつまらないよその石は。それはあァたねェ、上へその、あがるべきですよ、そりゃあねェ、その……」
「うるさいな、また口を出して……おや、おや?!
あまりふだん見たことのない人だ……ェェ、これは、あまりふだん見たことのない人だと……あれッ大きな包みを背負《しよ》ってますねェ……大きな包みだなと……」(パチリ)
「これは大きな包みッと……」(パチリ)
「大きな包みを背負ってる、おまえはだれだいと、ひとつ打ってみろ」(パチリ)
「なるほど、おまえはだれだいは恐れ入ったな、……それではわたしもおまえはだれだい、といきますかな」(パチリ)
「じゃあ、あたしも……おまえはだれだい?」(パチリ)
「へへへ、ええ泥棒で……」
「ふゥん、泥棒かい」(パチリ)
「なるほど……おまえは泥棒かと」(パチリ)
「これは泥棒さん、あァ、よくおいでだねェ」(パチリ)
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