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落語百選80

时间: 2019-09-15    进入日语论坛
核心提示:死神  偽《いつわり》のある世なりけり神無《かんな》月貧乏神は身をもはなれず(狂歌)「なにをしてんだい? 表へのっそりつ
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死神
 
  偽《いつわり》のある世なりけり神無《かんな》月
貧乏神は身をもはなれず(狂歌)
「なにをしてんだい? 表へのっそりつっ立ってなにを考えてんだね。入ったらいいじゃあないか、こっちへ……」
「そりゃあてめえの家だから入《へえ》らあな」
「どうしたい? 三両できたのかい、三両」
「その算段ができねえから、弱ってんだ」
「呆れたね、弱ってんだって……ぼんやりして、よく家ィ帰ってきたねェ、子供が生まれちゃってんだよ。おまえ、それでも男かい?」
「男だか女だか、おめえだって夫婦だから覚えがあンだろう」
「男なら男らしく、三両くらいの金工面できるだろ? いくじなしッ。よくまァおめおめ帰ってこられたもんだ。まったく。三両こしらえといで。算段できなきゃあ、おまえさん、豆腐の角《かど》へ頭ァぶつけて死んじまい……早く行っといでッ」
「行ってくらい、うるせえな。……なんてえ強《つお》いかかあなんだろうなァ。ちぇッ、忌々《いまいま》しい……豆腐の角へ頭ァぶつけて死んじまえって、冗談じゃあねえや、まったく。かかあにゃあぎゃァぎゃァ[#「ぎゃァぎゃァ」に傍点]言われ、三両の銭の工面はつかねえし……人間、銭のねえのは首のねえにも劣るってえが、おれもどうしてこう運がないのかねェ。貧乏神に、とり憑《つ》かれてるんだなァ。首がなけりゃ、人間死んだも同然、あァ、いっそのこと死んだほうがましだァ……となると、貧乏神より、おれァ死神にとり憑《つ》かれてるんだなァ」
「そうだよ……」
「え? (あたりを見まわし)ンな、いまだれかなんか言やがった……だれだい?」
「……おれだよ。……死神だよゥ」
「……? えッ……?」
上手を見ると、木の陰から、すゥッと出てきたのが、白い薄い毛が頭へぽゃッ[#「ぽゃッ」に傍点]と生えて、鼠色の着物の前がはだけ[#「はだけ」に傍点]て、あばら骨が透きとおるように痩せっこけ、藁草履《わらぞうり》を履《は》き、竹の杖《つえ》をついた老人……。
「へッ、へッ、死神だよゥ」
「死神!?」
「いま、おまえさん呼んだだろ?」
「呼ぶもんかッ……どうも変だとおもった、いま急に死のうなんて気になったのは……てめえのせいだな? こん畜生、冗談じゃあねえ、死神ィ、そっちィ行けッ」
「まァ、そう邪慳《じやけん》に言うなよ。……おまえがいま死神にとり憑《つ》かれた、なんてえもんだから、てっきり呼ばれたもんだとおもって、うっかり出てきちまった。しかしまァ、これもなにかの縁だ。仲よくしよう」
「いやだよゥ、だれが死神なんぞと仲よくするけえッ、ごめんこうむらァ、おらァ行くよ」
「おいおい、おいおい……待ちな待ちな、おい。おめえは逃げるつもりだろうが、そっちは二本足で歩いて逃げる。おれァ風につれてふわッ[#「ふわッ」に傍点]と飛ぶんだから、おめえいくら逃げようッたってむだな話だ。……おまえさん、身装《なり》といい、顔色といい、どうやら金に見はなされたな?」
「いやなことォ言うな、死神だけあって……そりゃあ金の算段ができねえで困ってるんだがねェ……」
「そうだろう。だから、おれがその相談にのってやろうってんだが、どうだ?」
「おかしなことを言わねえでもらいてえなあ。死神に金の相談したってはじまらねえ」
「おめえ、そういやがるもんじゃあないよ。おめえとおれァ昔、深い因縁《いんねん》がある……ま、そんなことを言ったところでわかるまいが、おまえさんだいぶ困っている様子だから、金の儲かるいい仕事を教えてやるから、やってみねえか?」
「いいよ。たくさんだよ。なんだろう? 下請けかなんかさせようってんだろう?」
「……? なんだ、下請けてえのァ。ばか野郎、死神の下請けなんてえ商売があるかい……おまえさん怖《こわ》がることはないよ。人間というものはいくら死にてえと言ったって寿命というものがあって、時期が来なければ死ねるもんじゃあねえ。生きていたいと言っても寿命が尽きりゃあそれっきりだ。おめえは……まだまだ長い寿命を持っているから安心しな……おめえ医者にならねえか? どうだ?」
「医者に?」
「儲かるからやってみろ」
「からかうのはよしとくれ。おれァ脈もとれねえ、薬の調合もできねえ。そんなものはだめだ」
「なあに、おれがついてりゃ大丈夫。いいか。いま言ったとおり、人間には寿命というものがあるから、いくら患ってても、寿命のある者は助かる。その代わりぴんぴんしているやつだって、寿命のないのはだめだ。脈なんぞァどうだってかまわねえや。病人が治れば、おまえはお医者さまで立派に世間に通用するし、金も儲かるからやってみねえ。……おれがな、ほかの者には見えねえ……おまえさんだけにはちゃんと見えるように呪《まじな》いをしてやったから、長患いをしている病人の部屋へ入って、頭か足のほうかを見ろ。かならず死神が、一人|座《つい》ているもんだ」
「へえ!?」
「枕元に座っているのはいけねえよ。それァ手をつけちゃいけねえ。足元のほうにいるんなら、こいつは助かる方法がある。おめえな、呪文を唱えてみねえ」
「なんだい、呪文てえのァ……?」
「教えてやるが人間にはけっしてこんなことを言っちゃあいけねえ、いいか……『あじゃらかもくれん、あるじぇりあ、てけれッつのぱァ』ぽんぽん……と、二つ手を叩《たた》いてみな。死神がどうしてもはなれて、帰らなくっちゃあならねえことンなってる。病人から死神がはなれさえすりゃあ、嘘のようにけろッ[#「けろッ」に傍点]と治っちまう。どうだ、おめえはそこで立派な医者で立っていかれる。やってみな」
 家へ帰って、ぼんやりしていると、まもなく……
「おゥ、いるか?」
「なんだい、おどかすねえ。竹さんじゃあねえか、いってえ、なんの用だ?」
「いえね、うちのお店《たな》のお嬢さんが長い患いで、いろんな医者に診《み》せたが、いっこうによくならねえ。そいで、たいそう当たる易者があるんで、それに見てもらったところ、辰巳《たつみ》の方《かた》(東南)の医者に診《み》てもらうといいってえ卦《け》がでたんだ。日本橋から辰巳の方角てえいや、こっちなんで、お店から頼まれて捜しに来たんだが、どうだい? このへんに、いい医者の心当たりはないもんかね」
「医者?……待てよ、あ、あッ、よし……おれが行こうじゃねえか」
「そうじゃねえんだよ。医者を捜そうてえんだよ、このあたりの」
「このあたりの……っていやあ、だから、おれが行こうてんだよ」
「わからねえなおめえも、医者だよ」
「だから、その医者ってえのがおれなんだ」
「だっておめえ……?」
「医者なんだよ、今日からおれァ」
「冗談じゃあねえぜ、そんなあやしい医者、連れてけるわけがねえだろう、大事なお店なんだから」
「大丈夫だよ。病人を診《み》て、助かる病人なら助けてやろうじゃねえか。助からねえものは、どうやってみても助からねえ。それがわかりさえすりゃいいんだ。連れてけッ」
「おい、冗談じゃねえぜ、こんな汚《きたね》え医者連れてってみろ。お店いっぺんでしくじ[#「しくじ」に傍点]っちゃうぜ」
「いいってことよ。おれにゃあ……がついてんだ」
「なにが……ついてんだ?」
「心配するな。おれはおめえ立派に医者で立っていかれるってンでえ、そこへ連れてけよ」
「こりゃとんでもねえことを言っちゃったぜ。おどろいた野郎だ、おめえも。……ここなんだけどね。おめえは入ってきちゃあいけねえよ。ちょいと待っててくんねえ」
「おや、竹さん、さっそくご苦労さん。で、見つかったかい? お医者さま?」
「へえ、それが見つかるには見つかったんですが、これがどうもその、あやしい医者なんで、なにしろ今日から医者になったという」
「まァ連れてきたんならしょうがない。だからあれほど言ったじゃないか、いい医者を捜しておくれと」
「それが、おれは立派な医者だ、心配ないって、自分でついてきちゃったんで……」
「まァ、しょうがないねえ。ついてきちゃったものを、追い帰すわけにもいくまい。脈だけでも診てもらって、けっして薬などはもらうんじゃない……こっちィお上げしな」
「へい、それじゃ……おい、上がれとよ」
「へい、ェェ、こんちは」
「おいおい、これが先生かい? まァ、どうもご苦労さま、ともかく、病人をごらんなすって……あ、それから、お薬は結構ですから」
「あァ、病人を診さえすりゃあ、薬なんぞどうだってかまわねえ……」
案内されて、病人の寝ている部屋に入って、ひょいと見ると、死神がいい塩梅《あんばい》に病人の足へ座っている。
「うッ……しめたッ」
「……へ? なんでございます?」
「……ええ?」
「いま、なにかしめたとおっしゃいましたが……?」
「いえェ、あたしがこの部屋へ入ってあとを閉めた、とこう言ってね……ェェ、お嬢さまで……?」
「はい、さようでございます」
「ふゥ……ん。よほど長いのかい?」
「長病《ちようびよう》でございます」
「あァ、長病……ああ、長病だから長いんだな。うんうん……安心しな。娘さんは助かる」
「さようでございますか」
「ああああ、じきに元気になる。この病人は」
「いままでいろいろ先生のお見立てでは、あまりおもわしくないということでございましたが……」
「ははァ……どういう先生に診《み》せました?」
「いちばんはじめは板橋終点先生に診ていただきました」
「ほほう、どういうお見立てで?」
「この病人は先がない、とおっしゃいました」
「ふうん、なるほど……そのほかの先生は?」
「そのほか甘井羊羮《あまいようかん》先生、三角銀杏《みつかどぎんなん》先生、北野寒風《きたのかんぷう》先生なども、みなお見立てはおなしなのでございましたが……」
「ふふゥん、みんないけないのかい?……いや、あたしは大丈夫、治りますよ、あたしが請けあう……あたしァ、医者だが、呪《まじな》いもやる。ちょっとお待ちください……あじゃらかもくれんあるじぇりあ、てけれッつのぱァ……ぽんぽんッ」
死神がすゥッとはなれた。と、いままで唸《うな》っていた病人が、
「……あのゥ、お茶が飲みたいわ……なんだか頭がすうッとして、急になんだかお腹が空いてきたわ……」
「先生、お腹が空いたと申しますが……」
「ああそうかい、そんならなんか食わしてやったらいいだろう」
「お粥《かい》かなんか……?」
「いや、お粥でなくったっていい。鰻でも刺身でも」
「ェェ、お薬は?」
「薬なんぞ飲ますこたァねえ、もう大丈夫、また来るよ」
病人は、厚紙をはがしたように、けろッ[#「けろッ」に傍点]として全快してしまった。
 これが評判となって、名医だというので、あっちからもこっちからもひっぱりだこ。また間のいいときは妙なもので、どこの病人もみな死神が足元のほうへ座っている。たまさか死神が病人の枕元にいると、
「あ、これはもう寿命が尽きているから、とても助かりません、おあきらめを……」
表へ出るか出ないで息をひきとる……という首尾。そんなわけで、生神《いきがみ》さまとまで崇《あが》められ、立派な邸宅を構え、門前市をなす勢い、奉公人も置き、贅沢三昧。ひとつ京大阪を見物しようと女房、子を連れて、世帯をたたんで上方見物へ出かけた。ところが所詮《しよせん》身につかない金、金にあかして豪遊したために、江戸へ帰ってきたときには、もとの木阿弥、また以前のような一文なしになった。医者の看板を出してはみたが、まるっきり患者が来ない。たまに患者があって出かけていくと、死神が枕元に座っている。……これでは商売にならない。
 困り果てていると、ある日、佐久間町の伊勢喜という、江戸でも指折りの大家、ここの主人の容態がおもわしくないので、ぜひ先生に診《み》てもらいたいという使いが来た。しめた、と出かけていくと、死神が枕元にどっかりと座りこんでいる。
「おやおや……これもだめだ……これァお気の毒だがねェ、お宅のご主人は助かりませんよ」
「だめでしょうか?……なんとか先生のお力でもって、助けていただくわけには……」
「それァねェ、お助けしたいとおもいますがねえ、寿命がない、この病人は……」
「困ったことでございますなァ、いかがなもんでしょう。ま、かようなことを申し上げてたいへん失礼でございますが、もし先生に主人の病気を治していただけますなら、三千両のお礼をいたしますが、いかがなもんで……」
「それァ、こちらもなんとかしたいが、あたしの手にはいきませんからだめですよ」
「ただいま主人になくなられましては、えらいことになります。せめてひと月でも主人の寿命を延ばしていただくわけにはまいりませんか?」
「うゥん、三千両……? なんとかしたいが……」
枕元の死神を見ると、だんだん夜が更けるに従って死神の目が、異様に光を帯びてきて、病人が、
「うゥん、うゥん……」
という苦しみ。そのうちに夜が白々明けてきて、朝方に近くなると、死神が疲れたとみえて、こっくりこっくり居眠りをはじめた。病人も落ち着いてすやすや寝こんだ様子……。
「うん、よし……ちょっとお耳を拝借。この病人を助けたら、ほんとうに三千両いただけますな? それでしたら、ご当家の若い衆をちょっと四人《よつたり》集めておくれ」
「はい」
「いいかい、病人の寝ている布団の四隅へ一人ずつ座ってもらう」
「はァはァ」
「で、あたしが合図したら、それをきっかけに、若い衆が布団の四隅を持って……寝床をぐっとこう、まわしておくれ。……いいね、頭のほうが足ンなって、足のほうが頭ンなる。ね? これァいっぺんやりそこなったらもうそれっきりだから、粗相のないように気の利いた者を手配しておくれ」
「へえ、承知いたしました」
若い衆が四人|駆《か》り出されて、四隅に座り、死神がこっくりこっくり[#「こっくりこっくり」に傍点]する隙に、ぽんという合図で、それッと寝床をぐるッとまわし、間髪を入れず、
「あじゃらかもくれんあるじぇりあ、てけれッつのぱァッ」
ふたッつ手を打った。死神がはッと目を醒ますと、病人の足元に自分が座っているんで、わッとおどろいて、そのまま跳びあがって、姿を消してしまった。……いままで唸っていた病人が起きあがり、見ちがえるように元気になった。約束どおり三千両をもらい、ご機嫌で、佐久間町の伊勢喜を出た……。
「うわーッ、うふふ、やっぱり人間てえものは知恵を出さなくちゃあいけないねェ。われながらいい考《かん》げえだったなァ、どうだいあの死神のやつがおどろきやがったねェ、わァッて跳びあがりやがった、はッはッは、ざまァみろってんだァ」
「……おいッ」
「あッ、……死神さん」
「さん[#「さん」に傍点]だってやがら……ばか野郎、なんだってあんなことをしたんだ」
「どうもすみません。なにしろあたしもねェ、ここンとこひどい世話場で。そこへあなた、三千両と聞いたもんだから、つい。悪くおもわないでくださいな」
「ひどい目に合わせるじゃねえか……恩を仇で返しやがった」
「勘弁してくださいよゥ」
「助からない者を無理に助けて……あの病人はどうにもならなかったんだよ、それを……で、礼はもらったのかい?」
「へえ、三千両、たしかに」
「じゃあ、これからおれといっしょにおいで……」
「へえ、どこへ?」
「いいから来な……さ、ここへ入《へえ》れ……」
「え?」
「ここへ入《へえ》れ」
「なんだかむやみと暗えが、……なんです、これァ、石段がずうッとあらァ……」
「早く降りなよ」
「大丈夫ですかい……気味が悪い」
「黙ってついてきな……ほら、見ろッ」
「おやッ? またばかに明るくなりましたね、はァはァ、こりゃまたたいへんな蝋燭《ろうそく》だねェ、なんです、これは?」
「これか、これはみんな人間の寿命だ」
「えッ?」
「人の寿命は蝋燭の火のようだってよく言うだろう。これがみんな人間の寿命だよ」
「へーえ、そうですか。話にゃあ聞いてましたが、いやァ、ずいぶんあるもんですねェ、おどろきました。いやァ、恐れ入りました。長いのや短いのや……あ、なんです? これァ? ここに蝋がたまって暗くなってんのがありますねェ」
「こういうのは患っているんだ。蝋を払って、炎がまたすゥッと立つようになれば病が治る」
「あ、あるほど。これァ患いですか……ふゥん……ちょいと、ここにおっそろしく長くって威勢よくぼうぼう燃えてンのがありますね」
「それがおまえの倅だ」
「あァそうですかァ、やっこですか、これァ。へえェ、達者だねェ、どうだい長くってぼうぼうよく燃えて……この隣に半分ぐらいンなって威勢よく燃えてますが……」
「それがおまえのかみさんだ」
「あ、そうですか。ふゥん、やつもまだ達者ですね、これァ、へえェ……あれ、このうしろにいまにも消えそうンなってるのがありますね」
「それがおめえだ」
「えッ?」
「おまえの寿命だよ」
「だってッ……いまにも消えそうで……」
「消えればおまえの命がなくなる」
「命がなくなるって……あたしァこの……じゃあもう死ぬんですか?」
「ふふふ、教えてやろう。おまえの寿命はこっちにある、半分より長く威勢よく燃えているんだ。こいつがおまえの寿命だったんだ。それを、おまえは三千両の金に目がくらんで、その寿命を取換《とツけ》えたんだ。かわいそうに……もうじき死ぬよ」
「おどろいたねェ、そんなこととァ知らねえから、あんなばかなことをしちゃったんです……三千両あったって、命がなきゃなんにもならねえ……じゃ、金は返します。すいません。もとのとおり寿命を取り換えてください」
「そうはいかねえ、いったん取り換えたものはもうだめだ」
「そんなおまえさん不人情なことを言わないで……ねェ、ちょいと、死神さん、頼みますよ。おまえさんだってあたしを助けてくれたじゃあねえか。ねェ、お願いだから、もういっぺん助けてくださいよ」
「しょうのねえ男だ……じゃここに燈しかけ[#「燈しかけ」に傍点]がある……これと消えかかっているのと、継《つな》いでみな。うまく継がれば、おめえの命は助かるから、ひとつやってみるか?」
「へえへえ、ありがとうございます……じゃあなんですか? これ、継《つな》ぐんですか?」
燈しかけの蝋燭を手にしていま消えようとする微かな炎に継ごうとするが、
「そう震えるな、震えると消《け》えるぞ。早くしな」
「は、は、はい、震えようとしてるわけじゃないけど、手、手、手がどうしても、震えちまって」
「早くしなよ。消《け》えるよ……早くしな。ふふ、ふふふふふふ、早くしねえか」
「……おまえさん、なんか言うからこっちァなお震えらァね。黙っててくださいよゥ」
「ほら、早くしろ」
「へ、へえ(震える手で継ごうとし、それを見つめて)あァ、消える……」
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