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落語百選91

时间: 2019-09-15    进入日语论坛
核心提示:火焔太鼓「ねえおまえさん、おまえさんみたいに商《あきな》いの下手な人はないね。よくそれでおまえさん道具屋になったね。あた
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火焔太鼓

「ねえおまえさん、おまえさんみたいに商《あきな》いの下手な人はないね。よくそれでおまえさん道具屋になったね。あたしゃ、おまえさんが店でなんか言ってるのを聞くと、ほんとうにかんしゃくが起こるよ」
「どうして?」
「どうしてって、そうだよ。うちは売るのが商売だよ。それなのに、おまえさんは、お客さまが買おうとおもうのに、やンなるようなことばかり言うからさ」
「なんか言ったかい?」
「いまだってそうだよ。お客さまが、『道具屋さん、この箪笥《たんす》はいい箪笥だなあ』って言ったら、おまえさんは、『ええ、そりゃあいい箪笥ですよ、うちの店に六年もあるんですから……』そういうことを言うからいけないんだよ。六年あるてえのは、六年売れないから置いてあるというようなもんじゃないか。『この箪笥の抽出《ひきだ》しを開《あ》けて見せてくれねえか』ったら、『それがすぐ開くくらいなら、とうに売れちゃってるんですよ』……お客さまはびっくりしていたよ。『じゃあ、これ、開かねえのかい?』『いや、開かないことはありませんが、こないだ無理に開けようとして、腕ェくじいた人がある』……およしよ、そんなばかなこと言うの」
「正直に言ってんだい」
「正直ったって、正直にもほどがあるよ。おまえさんは、売らなくちゃならないものを売らないで、売らなくてもいいものを売っちまうんだから……去年もそうだろう。向こうの米屋の旦那がうちへ遊びにきて、『甚兵衛さん、この火鉢、いい火鉢だなあ』って言ったら、『よかったら、持ってらっしゃい』って、うちで使っている火鉢を売っちゃったから、うちに火鉢がなくなっちゃったじゃないか。寒くなって、おまえさん、向こうの米屋へあたりにいったじゃないか。向こうの米屋の旦那がそう言ってたよ。『なんだか、火鉢と甚兵衛さんと、いっしょに買ったような心持ちがする』って……」
「うるせえなあ、おめえは。なに言ってやんでえ」
「たまには儲《もう》けたらどうだよ。おまえさんと一緒にいてね、ほんとうに儲かったためしがないんだからね。満足にものを食べたことはないよ、ええ? おまえさんが損ばかりしているから、ものを内輪内輪に食べてるからね。このごろはほんとうに胃が丈夫になっちゃった。ねえ、ぼんやりしてないで、少しは儲かりそうな品物でも、市で買ってきたらいいじゃないかね」
「うるせえな、おまえは黙ってなよ。きょうは市で、ちょいと儲かりそうなものを買ってきた」
「なんだい?」
「太鼓……」
「およしよ、太鼓なんて……それがおまえさん、了見ちがいだよ。太鼓なんてえものは、際物《きわもの》といってね、お祭りのまえか、初午《はつうま》まえに買って、ぱっと売っちゃうもんだよ。そんなものを買ってきて、おまえさんは、また損するんだろう……どれ、その風呂敷に包んであるのかい? 見せてごらん……あらっ、汚《きたな》い太鼓だね。まあ、なんだい、こりゃ……太鼓かい?」
「おまえは、ものを見る眼が利かねえんだ、汚いんじゃねえんだ、古いんだよ。この太鼓は古いもんなんだなあ……古いものってやつは儲かることがあるんだ」
「ないね。古いんじゃあおまえさん、ずいぶん損してるだろう? このまえも、清盛の尿瓶《しびん》てえのを買ってきて、損したじゃないかよ」
「おまえ、よくおぼえてんねえ。古いんで損したのは、清盛の尿瓶と岩見重太郎の草鞋《わらじ》だよ。あれじゃおれは損しちゃったなあ」
「あきれたねえ、ほんとうに……これ、いくらで買ってきたんだい?」
「一分《いちぶ》で買ってきた」
「まあ……そんな汚い太鼓、一分で買やあ一分まる損だ。そんなもの買う人があるもんか」
「そりゃわからねえ」
「いいや、ないよ」
「定吉、この太鼓……店へ出して、埃《ほこり》をはたきな」
「へへへ、おじさんとおばさんとしょっちゅう喧嘩《けんか》してばかりいやんの……え? おじさん、これ、ずいぶん埃がひどいね」
「埃をはたくんだ」
「へえ……こりゃ、ずいぶん埃が出やがら。埃で向こうが見えねえや。どうだい……」
ドンドンドン、ドンドンドン……。
「たたくんじゃないよ、はたくんだ」
「はたいてるんだよ、これ。縁《ふち》ンところはたくと、こんな音《ね》がするんだから……」
ドドーン——。
「やかましいな、この野郎は。おまえのおもちゃに買ってきたんじゃない、たたくんじゃないよ」
「ああ、これこれ、ゆるせ」
「へえ」
「ああ、いま太鼓を打ったのは、そのほうの家か?」
「へえ、ええ……なんでございましょう」
「いま、お上《かみ》がお駕籠《かご》でご通行の際、太鼓の音が聞こえた。そのほうの家で打ったのだな?」
「えへへ……あたしじゃあないんです……引っこんでろっ、こっちへ……ろくなことをしやがんねえで……いえ、太鼓をたたいたわけではありません。埃をはたいたんでございます……あそこにいるばかが、たたいたんですがね。はたきなよって言ったのにたたいたんでございます。しょうがねえばかで、親類から預かっておりまして、なりは大きく見えましても、まだ十一なんでございまして……どうぞ、ご勘弁を願います」
「いや、そうではない。どういう太鼓であるか、太鼓を見たいとおおせられる。さっそく、太鼓を屋敷へ持参いたせ。お買い上げになるかもしれんから」
「ああ、そうですか……どうもうまくたたきやがったな、あいつは……こいつです、たたいたのは」
「うむ、親類の者か」
「ええ、親類のやつなんでござんす。人間がなかなか利口で、よく働くんでございます。ことし、もう十四になりますんで……」
「いま十一と申したではないか」
「十一のときもあったんです」
「なにを申す……それでは、太鼓を持参いたせ」
「へいへい、お屋敷はどちらでございますな?……はあ、さようでござんすか? へい、わかっております。え、すぐ持参いたします。へえへえ、ごめんくださいまし……ほら、みねえな、売れたじゃねえか。太鼓をお買い上げになるってんだ」
「おまえさん、そんな太鼓が売れるもんか。向こうさまじゃあ、お駕籠のなかで、音をお聞きになったんだ、金蒔絵《きんまきえ》でもしてある太鼓だとおもっているんだろう。そこへおまえさん、その汚い煤《すす》の塊みたいな太鼓を持ってってごらん。お大名というものは贅沢《ぜいたく》なんだから、『かようなむさい[#「むさい」に傍点]ものを持ってまいった道具屋、無礼なやつである』武士《さむらい》なんてえ、気の短いもんだから『道具屋、当分帰すな』って、おまえさん、若侍かなんかにふん捕《づか》まって、庭の松の木へ結《ゆ》わえられちゃう」
「よせやい、おどかすなよ。そんなこと言われたひにゃあ、おれ、行くのやんなっちゃったなあ」
「持って行かなきゃあ、もっとたいへんだよ。いいからさ。向こうさまでもって、この太鼓はいくらだって言ったら、市で一分で買ってまいりました。口銭《こうせん》はいりませんからと言って、売っちまわないと、ほかに買い手はないんだから、一分だけ受けとって、すぐ逃げておいで、いいかい、しっかりおしよ」
「うん、わかった。……背負《しよ》わしてくれ」
「じゃあ、大丈夫かい?」
「いいよ、行ってくるよ」
「……おまえさんは、よォーく自分のことを考えないといけないよ。ふつうの人間とちがうんだから……人間が少しぼんやりしているんだから……ねっ」
「なにを言ってやんでえ。こん畜生。亭主をなんだとおもってやがんだ。いまいましい女だ……ふざけやがって、下から出りゃあつけあがって、あーあ、ああいうのは図々しいから生涯うちにいるんだろうね……いやンなっちゃうねえ。こん畜生っ……こんにちは」
「ははあ、おかしなやつが来たな……なんだ、そのほうは?」
「ええ……道具屋でござんす」
「うん、お達しがあった。ご門を入れ」
「へい、どうもありがとうございます……いい屋敷だねえ、屋敷のきれいなのにひきかえ、この太鼓は汚《きたね》えや、こりゃ、買わないよ……こりゃ、ふん捕まるほうの太鼓だよ。すぐ置いて逃げちまおう……こりゃ、弱ったなあ……え? お頼《たの》う申します」
「おお、最前の道具屋か。こっちへ上がれ、太鼓は持参いたしたか?」
「へえ、持ってまいりました。いけませんか?」
「いけなくはない。どういう太鼓であるか、その風呂敷を解いてみろ」
「ええ、こういうもんでござんす……」
「うむ、たいそう時代がついておるなあ」
「ええ、もう、時代の塊みたいなもんですからなあ」
「よし、お上にご覧にいれるあいだ、そこに待っておれ」
「それ、向こうへ持ってって見せるんですか? そりゃあよしたほうがいいでしょう。ええ、それよか、あなたがここで買ってくれませんか?」
「拙者が買うわけにまいるか。しばらく、待っておれ」
「断わっておきますが、この太鼓はこれよかきれいになりませんよ、どうやっても、へえ。よろしいですか? へ、どうぞお持ちを願います。重いでしょ? 重くって汚いのは請けあいますが、ほかに取柄はないんですよ……ああ、持って行っちゃった。『かようにむさいものを持ってまいった、道具屋ッ』って言ったら、逃げちまうんだから……危なくっていつまでこんなところにいられねえや……あ、どうでした、いけなかったでしょう?」
「いやいや、たいそうお上には御意に入っておられた」
「あれを? ああ、そうですか……」
「うむ、あれは当方で求める」
「へえ」
「あの太鼓は、どのくらいで手ばなせるのか?」
「ええ……さようでござんすな……」
「いくらで売るのだ?」
「いくらということを申しますが、いくらいくらと申しましても……いくらいくら……でござんしょうか?」
「はっきり申したらどうだ」
「へえ、さようでございますな……」
「そのほうが売りに参ったのだ。値段《あたい》を言えないことはなかろう。遠慮することはない。あの太鼓は殿がたいそう御意に入っておる。それゆえ、金子《きんす》のところは拙者がはからってやるから、心配することはない」
「へえ、さようですか……え……いち……」
「かまわんから、手いっぱい申してみろ」
「こんなもんでござんすかな……?」
「手をいっぱいにひろげて……それはいくらということだ」
「ン両」
「はっきり申せ」
「十万両」
「それは高いではないか」
「へえ、手いっぱいですから……そのかわり負けるのはいくらでも負けますから、どんどん値切ってください、あたしのほうは負けるだけ負けましょう。今日一日負けてもよござんす」
「変な売りようだなあ……どうだ、これくらいなら求めるというところを拙者が値段を切り出すから、それでよかったら手ばなせ」
「へえ、いくらで?」
「うむ、三百金ではどうだ?」
「えへ?」
「三百金ではどうだ」
「ええ、三百金と申しますと、どういう金《かね》になりますかな?」
「わからんやつだな。小判で三百両ではどうだ?」
「小判で三百両と申しますと? その小判は使えますんで……?」
「使えぬ小判を出すか……三百両では手ばなせんか?」
「あはーン……あァ……ン」
「泣くことはない。どうだ、売らんか?」
「売ります、売ります……小判で三百両」
「よいか?」
「へえ」
「では、受取《うけとり》を書け」
「受取はいりません」
「こっちでいるから書け」
「へえ……こんな具合いで……」
「印《はん》を押せ」
「印、持ってきてないんでござんすがね。あなたのを押しといてください」
「なにを申す……そのほうの爪印《つめいん》でよろしい」
「では、これを押しますか……五つほど……」
「そんなに押してどうするんだ……ああ、これこれ、金子を持って参れ……では、五十両ずつ、そのほうに渡す。よいか……五十両あるぞ。これが小判が五十枚重なって、五十両。よいか……百両であるぞ」
「あ、ありが……とォほう……ほほ……」
「百五十両ある」
「とほほほ……」
「なにぼォーとしておる。……いいか、二百両だ」
「あは…ァ」
「どうした?」
「み、水ゥ一杯ください」
「やっかいなやつだな。水を持ってきてやれ……飲め。……三百両ある。これを持って行け」
「……みんないただいてよろしいんで……じゃ、しまっていいんですね。じゃ……いただきます……へい、どうも、ありがとうございます。へへ……えー、ちょっとうかがいますが、あの太鼓をどういうわけで、三百両なんて値でお買い上げになるんでしょうな?」
「そのほうは、売りにきて知らんのか?」
「知りませんね」
「はっはは……拙者にもわからんが、お上はそのほうに通じておられる。あの太鼓は、火焔太鼓とか申して、世に二つというような名器であるとのこと、お上はたいそうなおよろこびである」
「へーえ、そうですか」
「帰るか?」
「へえ」
「ああ、風呂敷を持っていけ」
「風呂敷なんぞ、置いてきます」
「風呂敷なんぞいらん。金子を落とすなよ」
「自分を落っことしても金は落っことしっこありません……どうも、三百両……ねえ、夢じゃないかしら、ええ? 三百両ってえのはたいへんだぞ、これは……どうも、ご門番さん、ありがとうごんした」
「おお、道具屋、商いがあったか?」
「ありました」
「どのくらい儲かった」
「……大きなお世話だい。そんなこと言ってたまるかい……ううん。かかあのやつは一分で売っておしまいって言いやがった。よっぽど一分って言おうとおもったが、言わなくってよかったよ。あん畜生、おれのことを商売が下手だ下手だとか、ふつうの人間とちがって、少しぼんやりしているなんてぬかしやがって……帰《けえ》ったら、ただおかねえから。おまえさんと一緒にいたひにゃあ、胃が丈夫になるなんて、満足にものを食ったためしがねえってやがる。みてやがれ、帰って、うんと食わして動けなくしてやるから、亭主をばかにしてやがって……いま、帰ったぞゥ……」
「まあ、あんな顔して帰ってきやがった、追っかけられてきたんだろう? あんな太鼓を持ってって、あたりまえだよ、ほんとうに……早く、天井裏へかくれておしまい」
「な、なに言ってやんでえ。天井裏へなんぞ入れるかい」
「じゃあ、どうしたんだい?」
「どうしたのって、おい……はァ、はァわわ」
「どうしたの?」
「は、ッは……」
「なんだい? わかんないよ」
「おれァ、おれァ、向こうへ行ったんだ」
「行ったから、帰ってきたんだろ」
「……あの太鼓を見せたら、向こうでいくらだって、こう言うんだ」
「そこだよ、一分でございますと言ったんだろう?」
「うん、そう言おうとおもったんだけど、舌がつっちゃってしゃべれねえんだ」
「肝心なところで舌がつるんだね。だらしがないねえ」
「なにを言ってやんでえ。それからおれは、向こうが、手いっぱい言えってえから、手をいっぱいにひろげて……ン両」
「いくらなんだい?」
「十万両」
「ばかがこんがらがっちゃったねえ、この人は」
「そうしたら、向こうで高いってんだ」
「あたりまえだ」
「向こうで三百両でどうだってんで、三百両……三百両で売ってきた、あの太鼓。ええ、おめえ、なんでも、たいへんな太鼓だとよ、あの太鼓……」
「ふゥーん」
「それでもって、小判で三百両、もらってきたんだ。どうでえ」
「え? おまえさん、三百両、もらってきたの? ほんとうかい?」
「ほんとうだい」
「じゃ、三百両、持ってんの?」
「持ってんのよ」
「あァら……ちょいと……あたしゃ、三百両なんて見たこともないねえ」
「おれだってねえやな」
「ちょいと見せてごらんよ」
「いま、見せるよ」
「早くお見せよ」
「見せるから待てよ。ええ? おどろくんじゃあねえぞ。これを見て、ぼんやりして座り小便してばかになっちゃあ承知しねえぞ」
「大丈夫だよ、お見せよ」
「いいか、ほら、五十両……てんだ。これがなあ、小判が五十枚重なって、五十両……見とけ、こん畜生っ、なあ……これが百両てんだ」
「あ、ら、まァ……ちょ、い、と……」
「どうだ、百五十両だ」
「ほう……ほほ……とほほう……」
「……おい、柱へつかまんな、ひっくり返《けえ》るからつかまれてんだよ」
「こうかい?」
「そうよ、な、ほれ、二百両」
「あは……ァ」
「どうした?」
「み、水を一杯おくれ」
「ほうれみやがれ、おれもそこで水を飲んだ」
「まあ、ほんとうにおまえさん、商売上手だねえ」
「なにを言ってやんでえ……どうだ、ほら三百両」
「まあ、儲かるね。これからはもう、音のするものに限るねえ」
「こんどは、半鐘にしよう」
「半鐘? いけないよ。おじゃんになる」
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