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落語百選97

时间: 2019-09-15    进入日语论坛
核心提示:按摩《あんま》の炬燵《こたつ》ビュービュー寒い空《から》っ風の吹く夜。「どうしたい、大勢《おおぜえ》顔を揃えてなんだい?
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按摩《あんま》の炬燵《こたつ》

ビュービュー寒い空《から》っ風の吹く夜。
「どうしたい、大勢《おおぜえ》顔を揃えてなんだい?」
「ェェ店一同で番頭《ばんと》さんに折り入ってお願いがござんす」
「ははあなんだな、寒《さぶ》いてんで帳場でもしけ[#「しけ」に傍点]たら、蕎麦《そば》の一杯っつもごちそうしろッてえのか」
「いいえそんなわけではござんせん……なにしろこの二、三日ねェ、寒《さぶ》さが特別でござんす、へえ……昨晩なぞァ店一同まんじり[#「まんじり」に傍点]ともいたしませんで、へえ。こんなこと申し上げるのはなんでございますが、店の布団《ふとん》が少し薄《うす》すぎますので、いかがなもんでござんしょう? 各人《めい》各人《めい》っつ増《ふ》やさなくってよろしんでござんす、へえ。大勢の中へ五枚でも六枚でも番頭さんのお計《はか》らいで、奥から布団を拝借願いたいとおもうんですが、いかがなもんでござんしょう?」
「ばか野郎、おまえさん方は奉公をなんとおもってなさる? 遊《あそ》びに来てるんじゃあないよ。寒い時分に暖かいおもいができ、夏ンなって涼しいおもいができりゃあ、そりゃあ奉公でもなんでもない。それが修業じゃないか、万々《ばんばん》出世じゃないか、最初《はな》から偉い者がありますか。桜が咲く時分になっておまえさん方、暖まるものを掛けて寝るか? 寝なかろう? 寒《さぶ》いったってもうわずかの間《ま》じゃあないか、そのくらいのことが辛抱ができなくって、一人前の人間になれますか。なんだッ、修業中に」
「ああさいですか。おう松どん、かわってくれ、しくじっちゃったい」
「ええー、番頭さんお言葉を返してまことにあいすみませんでござんすがなあ、煎餅《せんべえ》布団ってなよくありますが、餅《べえ》抜きの煎布団《せんぶとん》なんでござんす、へえ。袷《あわせ》へ少ぅし綿《わた》が入ってるっていうくらいのもんですから、とてもやりきれませんです、へえ。番頭《ばんと》さんなんざあ一枚でも二枚でも、余計なものをお掛けんなって、炬燵《こたつ》の一つもお入れンなるから、そりゃあお暖かで……」
「おうおう、おい、何を言うんだ、いつあたしが炬燵ゥ入れました? いつあたしが炬燵を入れたよ?」
「…………」
「へえじゃあないよ、おい……え? あたしが炬燵ゥ入れたのを見たことがあるかい?」
「ェェご立腹では恐れ入りますが、番頭さんのことですから、ェェお入れんなるだろう……」
「だろうなんざあいけません。そらあ、あたしが炬燵を入れたからって、奥ではなんともおっしゃりゃあしまい。見て見ないふりをしてくださるだろう。くださるだろうけど、おまえさん方も奉公、あたしだって奉公、奉公に変わりはない。そりゃ一枚でも二枚でも、余計なものを掛けているかもしれません。おまえさん方と年齢《とし》がちがう、え? 十年てえ年季を勤めあげれば、おまえさん方の好きな自由、どんなことでもできる。なんだ修業中に……生意気な、とんでもないこったッ」
「……ああさよですか、へえ……わかりやした、へえ……番頭さんが寒いおもいをしてお寝《やす》みンなるのに、へえ、われわれァあたりまえのことで、へえ、万々《ばんばん》出世でございます、修業でございますから、みんな、ああ、寒いおもいして寝ます」
「えっへっへっへっ松どんお待ちよ、お待ちてんだよ、えっへっへ、叱言《こごと》は叱言なんだよ。いや、寒かろう。知らないじゃあない知ってます。この二、三|日《ち》特別だね。……一家のうちってもんはなかなかむずかしいもんで、こういう細かいところっていうものは、そこの家《うち》のおかみさんが気がついてくださらなきゃあ困る。ご当家のおかみさん、まことに結構なよくできた方だ。しかしこういう細かいとこへ気がついてくださらない。しかしこれもしかたがないよ。奥ィそ言ってあげてもいいよ。おまえさん方から、頼まれたとおもってくれりゃあいいんだよ。それが、あたしがなんだか先立ちンなって、布団を借りたいて言うようにおもわれるんでまことに残念なんだがねえ……といって、どうも言ってあげないのも悪《わり》いしねえ、どうだい、奥から布団を借りずに、ひと晩でもいいからおまえさん方をひとつ暖かく寝かしたいもんだな」
「ああ、さよですか、へえ、ありがと存じます」
「おい、松どん、うまいことを考えたよ」
「へえ背中ィ唐辛子《とうがらし》かなんかァのせて……」
「そんなことをするんじゃない、奥ィ按摩《あんま》の米市《よねいち》が来てるだろ?」
「ええ、ええ、まいってます」
「あの米市をなあ、奥へ内緒で、店へそっと泊めるんだ。あいつは三度のめしより、酒が好きだよ。あいつに酒を飲んでもらってあいつに炬燵ンなってもらう……え? ひっくる[#「ひっくる」に傍点]返《かい》ったって火事ンなる憂《うれ》いはなし、安全炬燵だ、いいだろ? 按摩《あんま》の炬燵《こたつ》ってんだ」
「寒《かん》の内《うち》、袷一貫《あわせいつかん》で暮らせるて言うくらいなもんですが、へえェ、米市がそんなことをきいてくれますか?」
「いい、きいてもきかなくてもいい。奥から出てきたらなあ、あたしが頼んでみるから。え? 出てきた? そうかい、呼びなさい、呼びなさい」
「米市っつぁーん、米市っつぁん」
「……へいッ、ェェ、おや、これはこれは……ェェ、みなさん、まだ、起きてらっしゃるんですか? ああさようですか。へえェ……へえへえ、お療治すみました。今晩ちと、お療治たてこみましてな、ェェお三人でございました、へえ。ェェご隠居さま一番おしまいで、いますやすやお寝《やす》みンなりましたから、あんまりそばにおるのも気がききませんから、そっと、出てまいりました。今日《こんち》は冷えますな……へえェ手がかじかんでねぇ、おどろいたんですよゥ、えっへっへっへェどうも……へ? ェェ番頭さんご用ですか? ああさよですかァ、へえ……ありがとう存じますがなあ、今晩もう疲れとりますから、お療治なら明晩に願いたいんで……へ? ああ療治じゃない? ああさよ……じゃあ、ェェそちらィまいります」
「もうなにかい、もう他所《ほか》へ療治に行かないのかい?」
「ええもうまいりません。もう宅ィ帰ってな、今晩はもう寝ます」
「どうだい、米市っつぁん、おまえ、今日店へ泊まってかないか?」
「ああさいですか? えっへっへっへっへェ、ありがとう存じます。ご案内のとおり盲人《めくら》はな、なんの楽しみもござんせんで、聞くものよりしょうがござんせんで、えっへっへェ、みなさんのお話、久しぶりでうかがいますかな、えっへっへっへ今晩ひとつ、ェェ泊めて、い、いただきますかな」
「そのかわり米市っつぁん、おまえの好きな酒を今日はうんとごちそうするよ」
「おやッ、ほんとうですか? いやあ、こりゃあありがたい。あたくしはもう酒ときたひにゃあもう目がないんでござんす」
「酒とこなくたって、目なんざあないじゃあないか」
「ああ、なるほど……こりゃ一本やらいた[#「やらいた」に傍点]なあ、どうも……じゃ、盲人はなんて言います? 耳も鼻もねえってます? あっはっははっは、言いにくいねどうも。泊めていただいた揚げ句に、ご酒《しゆ》をごちそうンなんじゃ、てまいにとっちゃあ、盆と正月と、ェェかちあったようなもんですなあ。さよですか、ェェじゃあ、今晩ひとつ、ご厄介ンなります」
「そのかわり、どうだい、おまえ炬燵ンなってくれないか?」
「……炬燵?」
「いやあ、炬燵ったって、わたしといっしょに寝てくれりゃいいんだよ。米市っつぁんが酒ェ飲んで、身体《からだ》が暖かいとこィ、ちょっと手足をつけて今晩楽々と寝たいとおもうんだ」
「へえー、失礼だが番頭《ばんと》さんは、炬燵ゥお入れんなりませんか?」
「いやあ、そりゃわたしは炬燵を入れようとおもえば入れられないことはない。けれどもあたしが入れる、若い者が入れる、小僧が真似ェして入れる。もし、それから粗相《そそう》でもあったひには、ご主人に対して申しわけがないから、あたしゃどんなに寒《さぶ》くっても、炬燵ってものァ入れたことがないよ」
「……へえ、恐れ入りましたなあ。いいじゃありませんか、なにもあァたが……へえ、ああそういうもんですかなあ。へえへえ、よろしゅうござんす。てまえは、酒を頂戴いたしまするとねえ、カッカァ[#「カッカァ」に傍点]いたしてまいります。へえ、火のようになるン、へえ。そりゃあもう上等の炬燵……上等の炬燵でござんすが、断わっときますが、酒は一合や二合ぐらいでは、ェェ消し炭ぐらい……」
「なんだい、消し炭ってえな?」
「へえ、消し炭はすぐつく[#「つく」に傍点]けれどもすぐ消えちゃいますからなあ……ェェせめて五合ンなりますと、炭団《たどん》を二ッつ三ッつあしらう見当ンなります、へえ。一升ンなりますと、備長《びんちよう》ォ積んで……」
「なんだいおい、そんな強請《ゆすり》がましい炬燵があるかい。こうしとくれ、中ァとって五合ごちそうしよう。五合でひとつ暖まっとくれ」
「へえさよですか? えッへッへェへェヘェ、……よろしゅうござんす。今晩のことで、じゃあ、おまけ申しときましょう」
「市《いち》ィ行って買い物をしてるようだな。相談ができた。……燗《かん》がついたか? 早いほうがいい早いほうが……ああ、さあ、米市っつぁん、遠慮なくどんどんやっとくれ」
「おやっ……なんですか? もう支度ができてんですか? あはッそうですか、こりゃあ気がつかなかったなあ。さよですか、へッ、では頂戴いたします。……ああ、こんな大きいもんで? へえへえ、お酌《しやく》ですか? お酌? へえへえ、さよですか、へえへえ、お、おっとォ、おっとォ……おっとォ……」
「お、お、おいどうでもかまわないがねえ。なんだってその湯飲みィ指ィ突っこむんだい?」
「へい、ちょっと量《ど》を測りまして……へえ、ええええ……ェェあァた方は、あがらないんですか? ェェわたくし一人ィ? いやあ、こりゃきまりが悪《わり》いなあどうも……さよですか? えっへっへ、じゃあいすいません、へえ、頂戴いたします。もう、なによりでござんす、へえ……よいご酒でござんすなあ……ええこういうご酒はとてもいただけませんで、へえ……てまいどもォ稼ぎが稼ぎでござんす……へッ? いや、ェェお顧客《とくい》さまがねえ、あたくしが酒が好きってなみんなご存じでねえ、おりおりそ言ってくださるんですよ、えっへっへェ、『米市、おまえなあ、今日は、酒があるから飲んでけ』って『ええ、ありがと存じます、いただきます』っていただきますがねえ、うまくない。へえ……ェェ旦那の飲み余り、お神酒下《みきさ》げ、お燗ざまし……いっひっひっひっひひ、ほんとうのことを言うと、一合でいいから、いい酒がいただきたいって、いえ、これはねえ、ええ、こんなことを申し上げちゃあすいませんが、ほんとうのことを言えば、そうなんです。えっへっへっへっへ、今晩なァ、上等でござんす。へえ、頂戴いたします……へい、ェェ、どんどん注《つ》いじゃってください、へい……最初、火の加減みますから、へい。……へえへえ、だいいち、お燗が上等ですなあ、天晴《あつぱ》れですなあ、どなたがお燗番をなすってらっしゃいますゥ? 松どん? 松どんですか? ああそうですか。あァたいける口だね? えへっ、この燗のぐわいじゃあ、いえほんとうに……えへっ、番頭《ばんと》さんの前ですがね、燗はむずかしゅうごわす。この素人てえとおかしゅうござんすがねえ、この下戸《げこ》の方に、燗をしていただいちゃあ往生ですねえ。煮え燗《がん》にしちゃいます、へえ……人肌《ひとはだ》てえくらいなもんで、へえ。人肌すぎてもいけませんがな。この燗のぐわいじゃあ、ェェ松どん、あァたァいける口だよ……えっへっへっへェ、そうでないよ。いやあ、あんなことを言って、番頭《ばんと》さんがいるもんだから隠してるんだよ。えっへっへっへェ、なに? えっへっへっへェ、いいとこあるねえ。えっへっへっへェ……へえへえ、お菜《かず》ですか? 鯊《はぜ》の佃煮……はあ、そうですか、へえ頂戴いたします。……では、つまんで……うう、うまい……頭のうしろにこの布巾《ふきん》があるんですよ、ねえ、このとおり、えっへっへっへェ、あいすいませんで、へえ、どうも……ありがとござんす。いい酒は冷酒《れいしゆ》に限るなんてえことをうかがっておりますが、あたしに言わせりゃあ嘘ですなあ……へえ、あたくしなんぞは、家《うち》ィ帰って、燗をしていただくなんてわけにいかないン……ェェですからね、お療治の帰りにねえ、酒屋さんの前ィ立ちましてね、ェェ兜《かぶと》てえやつゥやるんで、へえ……枡《ます》の隅からきゅうゥッといきます、へえ。うまくない。やっぱり燗を……へえェそうなんですよ、えっへェ、家内でもおればね、えっへっへっへ、仕事から帰ってくる、まあ、ェェ女房が、すべてをやってくれるんですがねえ。いただく、そんなことが、ェェわれわれの楽しみです、へえ。あたくしも不自由でござんすからねえ。家内をもらおうとおもいましてね、ェェ仲間ィ頼んでござんす、へえ。仲間が親切でねえ、こないだなんざあ、ェェオツなのがあるから見合《みや》いに行かないかってこう言ってくれましたんで、へえ……そいから[#「そいから」に傍点]見合いにまいったんです、へえ。それがねえ、あんまり悪すぎますからねえ、そいから断わって、あたくしは帰ってきちゃったんです」
「ああ、おもしろい話を聞くもんだねえ。おまえさん方ァやっぱり見合いがあんのかい?」
「番頭さん、変なことをおっしゃるねえ。おまえさん方ァ……ああ、盲目《めくら》だから見合いができまいとこうおっしゃる? あっはっはっはっはァッ、あァたねえ、盲目《めくら》をばかになさる。いいえ、ェェ見る目ばかりが目じゃあござんせんよ。心の目てえやつで、心眼てえやつで、へえ。それが証拠にゃあ、目あきの方が棚ァ吊ってごらんなさい。丸い物を載っけりゃあ落っこっちゃいますよ、へえ……そこィいくとねぇ、われわれが吊った棚ってなァ丸い物ァそっとしてるってのァねえ、これァ口幅《くちはば》ったいことを申し上げるようですけど、ほんとうはそうなんです、へえ。こないだねえ、見合いに行った、え? ときの話を、おもしろい話があンですよ、えっへっへ、あたくしどもはねえ……へいへいへいへい、あいすいません、へい……こんな不自由な身体《からだ》でねえ、弱い者をもらったひにゃあ往生で、へえ……身体検査ってものをするんです、へえ、みんなやるんです、へえ。ェェあたくしもやりました、へえ。腰の周囲《まわり》からねえ、肺腸、胃は申すにおよばず、背筋ンとこから、この襟《えり》っ首ンとこィくりゃあもう、梅毒《かさ》っ気があるかないかてえなあすぐわかります。こないだ見合いに行った女ってえなあねえ、番頭さん……額《ひたい》ィこう手がさわった。額からこの顎《あご》ィ漕《こ》いでくる間に鼻がさわらずてんで……どうです情ねえでしょ? この女の鼻ァねえのかと、横のほうからちょいとさわりましたらね、これっぱかり……」
「やな見合いだな」
「あっはっはっはァッ冗談言っちゃいけない。なんぼねえ、不自由な身体《からだ》だって、ひけもの[#「ひけもの」に傍点]をおっつけやがって、ひでえことしやがるとおもってね、そいから、断わってね、帰ってきちゃったんで、へえっ……家内なんぞいらないんですよ、えっへっへェ。なまじ女房もらって苦労するより、へっへェ、あたしの女房は酒だ。えっへっへっへっ、いいえ、ほんとうなんで、あっはっはっ、それについてねえ、まったく……え? へ? なんです? 炬燵《こたつ》ゥ? ああ、炬燵忘れちゃった、きゅーッ……へいッ、いただきました。もう、このくらいにしときましょう。いやあ、あたくしはねえ、いただくとおしゃべりンなってねえ、えっへっへっへェ、みなさんの、お話ィうかがうなんて、一人でしゃべって、申しわけがござんせん。いやあ、いい心持ちンなりました……へ? えっへッ、空《す》き腹炬燵ですからねえ、ええ、すっかりもう、炬燵おこってきましたよ、えっへっへっへ……ええ、へえ、この帯ねえ、これ取っときますが、片づけないでくださいよ。ここへ置いてくださりゃあねえ、もう、どなたも、ついてくださらなくっても、始終うかがってるお宅ですからわかってますから……これ片づけられるとわからなくなっちゃいますから、へえ……え? 番頭さんのお寝間? ええェ心得てます、えへッ。いいんですよゥ、ついてくださらなくてもよろしいんです、へえ……ェェそれでは、どなたも、あたくしは、お先ィご免こうむる……」
「おいおい、おい、その先ィご免こうむらいて、ながなが寝ちゃあ困るんだよ」
「……ながなが寝らんねえんですか? 炬燵の格好《かつこう》ンなんですか? 炬燵の格好なんぞしたことござんせんがなあ……そいじゃひとつ、こんなこってひとつご勘弁願いたいン……」
と、米市は、布団の中にまるく臥《ふ》せる。
「おい、みんな大奥ィご挨拶しましたか? あ、安どん、金どん、あの、右のほうへ当たっとくれ。由《よし》どん彦どん、あの、お尻のほうへ当たっとくれ。左はあたしが一手で借りるから……あの、おい、長吉長吉、おまえも当たらしてやる。おまえは、あのう、炬燵の頭へ当たんなさい。え? 頭ァ当たりにくい? 知恵を出さないか、おまえの股《また》でもって、炬燵の頭を挟《はさ》んで……」
「ちょいちょいちょっと……ちょっと待ってくださいよ。そんなに大勢《おおぜえ》当たるんですか? あっしは番頭《ばんと》さん一人だとおもったんだがな……だいいち汚《きたね》え当たり方があるもんだ。炬燵の頭を股で挟むって言《や》ァがる。ばかなことをしちゃあだめだよそんな……おい、そんなおい、出し抜けに……おっ、痛いッ!」
「おいっ、そんな騒々しい炬燵があるかい……おい奥ィ知れたら、どうするんだい?」
「……ああそうですか……ええすいません、じゃあ大きな声ェ出したなァ悪《わり》いけど、どなたか知れませんが、横っ腹《ぱら》ィどんときましたよ、あなた……壊れもんだよあァたァ……あのうねえ、静かに、入んなら、断わってくださいよ。入りますか? 入る? お、おっと……お、よろしい……わっ、また入ったね……あっと……あ冷《つべ》てえッ……こりゃ冷《つべ》たいねえ、こらァ……こら冷《ひ》えてるねえ、おい、おいおい、おっつけたらおっつけたっきりだよ。なまじ動《いご》かしちゃあだめだよおい……そいじゃあ方々《ほうぼう》じゅう冷《つべ》たくなっちゃうじゃないか……あっ、また入ったなあおい……おいおいだれだいおい、おい炬燵の股ぐらィ足を突っこむのは、だれだいおい? 炬燵だって急所があるよおい……急所ォ避《よ》けておくれよおい……こりゃ危ねえなあこらどうも……お、背中へ足ィ乗っけたねえ……長どんだろ? ちいちゃい足だから長どんだろ? ああいいよ、おまえ当たらしてやる……おまえねえ、家《うち》へちょいちょい使いにくるんだから……静かに当たらなきゃだめ……あ左《ひだり》ィ番頭《ばんと》さんですか? 左、番頭さんでしょ? ああ、そうですか、あ、おっとッ……ううん、なるほどォ、番頭さん冷えてますねえ、ェェ引っこまさなくってようがんすよ、ええ……こうなりゃしょうがねえ、こりゃどうも……こりゃおどろいた。こりゃ請けあったものの、こう夜っぴてこんなことォしちゃあいらんねえや……おいだれだい? くだらない悪戯《いたずら》ァしてんなァおい……だれだい炬燵の尻《けつ》を掻《か》いてんなァ? なにィしてんだなァおい……えッ? 霜焼けで痒《かゆ》い?……おい、爪ェ取ったらどうだ爪を……たいへんな爪ェしてんねえおい……火傷《やけど》させるよ……火傷ができるか? 火が跳《は》ねンなァ引っ掻くんだから……こりゃあ夜っぴてこんなことォしちゃいらんねえやこらあ……こりゃおどろいた。どうです番頭さん、いくらか暖まりましたか? もしいけなかったら趣向を変えようじゃありませんか、ねえ? こう、番頭《ばんと》さん……安どん……金どん……彦どん……松どん……なんだよおい……え? 他人《ひと》の背中へ足ィ乗っけてよく寝られるもんだなあ……ああ、疲れきってるんだねえ、綿のごとくってえやつだあ。またご当家はお忙しいや……こんなお忙しいお店はないよ、朝から晩までだ。商人《あきんど》もこのくらい繁昌したらおもしろいだろうなあ。しかし奉公ってものァ辛《つら》いもんだとめえん[#「めえん」に傍点]なあ。われわれは貧乏したって家《うち》ィ帰《かい》りゃあ一軒の主人《あるじ》だ。炬燵ゥ入れたいとおもえば入れられるよ。奉公じゃあそうはいかないよ、へえ、万々《ばんばん》出世だ。こうやってみんな修業して、みんな立派な旦那さまンなるんだ。他人のめしを食わなくちゃあいけないってよく言うがまったくだねえ……たとえば番頭《ばんと》さんはうまいことォ言ったな、え? あたしが炬燵ゥ入れる、若い者が入れる、小僧が真似して入れる、もしそれから、粗相でもあったひにゃあ、ご主人に対して申しわけがないって、ありゃ偉いねえ……なんでもねえ、上の人からそういう了見でなきゃあだめなんだよ、ね? なんでもてめえだけ……こら臭《くせ》えなこらあ……やったねこりゃあ……こりゃあおどろいた。おい、歯ぎしりィしてるよ、おい……やだなあ……おい……気味《きび》が悪《わり》い。あ、寝言言ってやがら……大きな寝言だなあ」
「合羽《かつぱ》屋の小僧ォッ、おぼいてやァがれッ! よくもさっき、いじめやがったなァ」
「えっへっへ、へっへ、長どんだね。かわいいもんだねえ、子供だねえ、喧嘩してやがら、へっへっ」
「うし、うし、うし……松どォん、もう我慢ができないからねえ、この溝《どぶ》ィやっちまうよッ……立って見ててくんなァ」
「?……おい変な寝言ォ言ったねェ、おい……溝《どぶ》ィやっちまうってなにィやるんだ?……ああああ、冷《つべ》てえ冷《つべ》てえ……」
と、布団を跳《は》ねのけて、飛び起きた。
「いいかげんにしてくださいッ、あァたァ方ひどいねえ、え? さんざ炬燵にして寝小便引っかけりゃあどこがおもしろい……」
「しいっしいっ、静かに……静かにしないか、おい、奥ィ知れたら……静かにしなよ。……長吉ここへ来なさい。え? まあ米市っつぁん待っとくれてン。え? おまえたちが寒いのなんのって言うから、いやがる米市っつぁんに炬燵ンなってもらった。暖《あつた》まればって、寝小便するやつがありますかッ。おまえ、あっちィ行って一人で寝なさい……米市っつぁん、堪忍しとくれ。おまえのおかげで暖まって、やれやれうれしやとおもったら小僧のおかげでまた冷《つべ》たくなっちまった。いまねえ、布団をすっかり取り替える、も一ぺん炬燵ンなっとくれ」
「いええェ、炬燵ァだめでござんす。へっへっ、小僧さんがこのとおり、火を消してしまいました」
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