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落語百選101

时间: 2019-09-15    进入日语论坛
核心提示:掛取万歳《かけとりまんざい》江戸っ子の生まれ損《ぞこ》ない金を溜《た》めという川柳がある。江戸っ子は宵越しの銭を持たない
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掛取万歳《かけとりまんざい》

江戸っ子の生まれ損《ぞこ》ない金を溜《た》め
という川柳がある。江戸っ子は宵越しの銭を持たない。その日|稼《と》ったものはその日に遣《つか》ってしまう。明日はあしたの風が吹く、どうにかなるなんて、世の中が安直だったせいもある。……がまた、溜めようもなかったのかもしれない。
ところが、江戸っ子がどうにもならないときがある。一年の大晦《おおつごもり》。大晦日《おおみそか》。三百六十五日積もりに積もっての大晦だから、どうにもならない。
そのころの川柳に、
大晦日|箱提灯《はこぢようちん》は怖《こわ》くなし
箱提灯というのは武士《さむらい》が持って歩く、ふだん見ると怖《こわ》い。しかし、大晦日だけは掛取りが持って歩く弓張《ゆみはり》提灯のほうが怖い。
押入れで息を堪《こ》らして大晦日
大晦日どう考えても大晦日
大晦日いまは臍繰《へそく》り当てにする
大晦日ますます恐い顔になり
大晦日猫はとうとう蹴飛ばされ
大晦日もうこれまでと首縊《くびくく》り
元日や今年もあるぞ大晦日
「ちょいとおまえさん、どうするんだよ、どうするつもりだよ」
「なにを?」
「なにをじゃないよ、今日は大晦日なんだよ……落ち着いてちゃいけないよ、借金取りが来るんだよ」
「来たってしょうがねえ」
「しょうがないじゃあすまない、どうして払うよ」
「払うよったって、おめえ。銭がねえものはしょうがねえじゃあねえか。いよいよいけなかったら、去年のでん[#「でん」に傍点]で追っぱらおう……」
「去年の?……また死んだふりをしようてのかい? いやだよ、あんなばかなこと……万事おれが心得てる、任しとけってえから、あたしァ、どっかでお金でも借りてくるんだとおもったら、大きな早桶《はやおけ》を担いで帰ってきて、こん中ィ入って死んだふりをしているから、おまえがその、涙をこぼして言いわけをしろって……そんなばかなことはできないじゃないかったら、やらなきゃしょうがないてえから、出もしない涙を、方々つねったりなんかして、こういうわけで、急に亡くなりましたてえと、向こうも死んだんじゃしょうがないから、帰ってくれたが、そのうちに家主《おおや》さんが来て、どうしたてえから、こういうわけで、急に死なれて途方にくれておりますてえと、あんないい人だから、それァまあとんだこった。おまえもさぞ、困るだろうが、あとあとはまた、なんとでも相談に乗ってやるから、これァほんの、心ばかりだが香奠《こうでん》だと言って、いくらか包んでお出しなすったけども、そんなものはいただけやしないやね。あしたンなればおまえが生き返んのァ、こっちはわかってんだから、もう思召《おぼしめ》しで結構ですと押し戻《もど》したら、なんだいおまえさん……早桶の中から手を出して、せっかくだからもらっとけっ……家主《おおや》さん、きゃーっと言って、裸足《はだし》で逃げ帰っちゃった……その置いてった下駄をはいて、おまえさん、家主《おおや》さんの家《うち》ィご年始に行ったろう」
「ふっふっふ……そんなことがあったっけなあ」
「そんなことがあったっけじゃないよ。……その挙げ句に腹がへったからなんか買ってこいって……お金なんかありゃあしないじゃないかって言ったら、そこに家主さんの置いてった香奠があるから、焼き芋でもなんでもいいから買ってこいって……しょうがないから焼き芋を買ってきて、おめえにあてがって、食べているところへ、炭屋のおじさんがきて……そりゃまあとんだことをした、永年のお馴染《なじ》みだからお線香を上げたいからって、おじさんが棺のそばへ行った。そのあいだ食べるのをよしゃあいいじゃないか。食らい意地がはってるから、中で割っちゃあ食べてんだろう? 早桶の縁《ふち》からポーッと煙が出ている。おじさんが変な顔をして、おみつ[#「おみつ」に傍点]さん、おまえ、仏さま茹《う》でたのかいって……仏さまを茹でるやつァないやね……そのうちにおまえ、中でもってプッーゥ……って、あたしゃあまあ、あんときばかりはどうしようかとおもったね」
「……おれもどうも、やるにはやったが、息の抜け場がねえんで弱っちゃった、どうも……こんだうしろへ穴ァあけよう」
「なにを言ってるんだね、いやだよあたしァ、あんなばかなことは」
「じゃあ、まあ他の手を考えよう」
「なんかいい智恵があるかい?」
「好きなものには心を奪われるてえことを昔から言うじゃねえか、借金取りの好きなもので言いわけをして追っぱらってやろう」
「そんなうまい具合いにいくかい?」
「いくんだよ、まあ見ていろ。おっ、だれか来たな……」
「家主《おおや》さんだよ」
「家主はなにが好きだ?」
「あの人は、狂歌家主ってえくらいだもの、狂歌が好き……」
「よし、わかった。おまえがそこに顔を出しちゃあまずいから、そっちィ引っ込んでな」
「はい、こんばんは……いるかい?」
「おや、いらっしゃいまし、どうぞお上がりを……」
「いや、お互いに忙しい大晦日だ、上がってもいられないよ。これから方々まわるんだが、おまえの家《うち》は、店賃《たなちん》が、五つ溜まってるな」
「へーえ、五つ? 店賃が? そりゃあどうも、よく溜まった……」
「よく溜まったって、よろこんでちゃあしょうがないよ」
「五つてえのもなんですから、もう一つ増やして六つにしますから、そのへんで、流すということに……」
「おい、冗談《じようだん》言っちゃいけないよ、店賃と質屋とまちがいちゃいけないよ」
「エエ冗談はさておきまして、ほかのものとちがって、なにはさておいても、雨露を凌《しの》がしていただいている店賃、お払いをしなければあいすいませんが、じつは、好きなものに凝《こ》りましてねえ、へえ、狂歌に……。また、やってみると、あんな風流で、おもしろいものはありませんねえ」
「なァにを言ってるんだ……あたしが狂歌が好きだから、そんなことで誤魔化《ごまか》そうてんだ」
「いいえ、誤魔化すどころじゃない、まったく狂歌に凝りまして、もうばかな凝りかたで……狂歌(今日か)明日《あす》かてえぐらい」
「なんだ、いやな洒落《しやれ》だな、どうも……ほんとうに凝った? うーん、それは感心だ、あたしも、二十六軒|店子《たなこ》を持っているが、狂歌に凝ろうなんという風流な者は一人もいない。おまえがその道に心を寄せるというのは感心だ」
「じゃあ、店賃はいらない?」
「だれもそんなことは言っちゃいないよ。しかし、やったのがあるかい?」
「ええー、こういうのはいかがでしょう。『何もかも、ありたけ質に置き炬燵《ごたつ》、掛かろう縞《しま》の布団だになし』と……」
「なに? 『何もかも、ありたけ質に置き炬燵、掛かろう縞の布団だになし』……うーん、なるほど、おもしろいなあ」
「貧乏という題でやりましたが『貧乏の棒も次第《しだい》に長くなり、振りまわされぬ年の暮かな』」
「うん、おもしろいなあ」
「『貧乏をすれば口惜《くや》しき裾綿《すそわた》の、下から出ても人に踏まるる』」
「うん、うまいな、貧乏がよく表われているな」
「『貧乏をしても下谷《したや》の長者町《ちようじやまち》、上野の鐘のうなるのを聞く……』」
「なるほど……」
「『貧乏をすれどこの家《や》に風情《ふぜい》あり、質の流れに借金の山』」
「風流だな……」
「エエ『貧乏の……』」
「なんだ、おまえのは貧乏ばかりだな、どうも……貧乏を少しはなれなくちゃいけない。おまえばかりにやらしていてはなんだから、あたしもひとつやってみようか?」
「家主さんが? ぜひうかがいましょう」
「どうだ、『貸しはやる……』」
「へっ? 貸しはやる?……どうもありがとうござい……おいおい、おみつ、ちょいとお礼を申し上げな……」
「な、なん……ほんとうにやるんじゃない、狂歌だ」
「あ、そうですか……いいよ、礼は……うん……ああ、狂歌……へへへへ……やれやれ……」
「なんだ、がっかりするやつがあるか……『貸しはやる、借りは取らるる世の中に、なにとて家主《おおや》つれなかるらん』と……」
「(芝居がかって)女房よろこべ、狂歌がお役に立ったわやい」
「冗談じゃあない、おい……しかしおまえが『菅原』もどきで言いわけをするんなら、あたしも決して、時平《しへい》(酷《ひで》え)ことは言わない、桜丸の散る時分まで、松《まつ》(待つ)王《おう》としてやろうか」
「そう願えましたら、来春《らいはる》は必ず店賃の方も梅《うめ》(埋め)王《おう》にいたします」
「よしよし、ではまちがいのないように、頼みましたよ……」
「えーえ、どうも、お寒いところをご苦労さまで……へっ、どうぞ、お気をつけて、へっ……ごめんください……ふっふふ……見ねえな、おい、よろこんで帰《けえ》っちゃった」
「へえェー、うまくいくもんだね。おまえさん、言いわけはうまいねえ……どこでそんなこと覚えて来たんだい?」
「寄席《よせ》へ行くとみんな噺家《はなしか》がこんなことをやらあな」
「へえェー、寄席てえなァためになるねえ」
「ああ、なんでも落語は聴かなくちゃいけませんよ、なんかいいことがあるよ」
「ちょいと、また来たよ」
「だれだ?」
「魚屋の金《きん》さん……」
「魚屋の金公はなんか好きなものがあるのか?」
「あの人は……喧嘩《けんか》が好きなんだよ」
「喧嘩? そんなのはだめだよ、なんかほかにねえのかい、踊りか唄かなんか……」
「ないよ。喧嘩がいちばん好きなんだから、あの人は……」
「おっそろしいどうも、厄介《やつけえ》なやつが来やがった……じゃあ、薪《まき》ざっぽう持って来い」
「およしよ、この人ァ。怪我でもしたらどうする」
「黙って持って来いってんだ。手拭《てぬぐい》をとってくんな……なに向こう鉢巻だ。よしと……ちょいと大きな声でどなるかもしれねえが、出るんじゃねえぞ、いいな」
「こんばんは……ええ、こんばんは……」
「だれだっ」
「……おどかすない……おれだよ……魚屋だよ」
「なにをゥ? この野郎……魚屋の金公だな……とんでもねえ野郎だ……こっちィ入《へえ》れっ」
「なんだァ……たいした勢いだな、ええ? なんだい、向こう鉢巻をして……まあどうでもかまわねえけども、おめえンとこの勘定は長すぎらあ、……冗談じゃあねえやな、いつまでたったって、おめえ、帳面の締めくくりがつきゃあしねえや、ま、銭ァわずかだが、今日は大晦日だから、勘定をもらおうじゃねえか、ええ? おゥ」
「……じゃあ、なにか? てめえ勘定取る気か?」
「あたりめえだな、取る気かったって、貸しがあるものを取ろうてえな不思議はねえじゃあねえか」
「じゃあおれのほうでも、借りがあるから払おうと、こう言やあいいんだろうが、なにしろ銭が無《ね》えんだからしょうがねえ、なあ、逆さに振るって鼻血も出ねえン……ま、昔から無《ね》え袖は振れねえってたとえもあるし、おめえのほうでもわずかな銭をと言ったんだ、わずかなものを取ったってしょうがねえだろう。まあ払える時期が来たら払ってやるから、四の五の言わずに黙って帰《けえ》れ」
「やいっ……こん畜生、ふざけたことを言やあがる、四の五の言わずに帰れ? な、なんだ、その言い草は? 勘定は払えねえ? てめえのほうで、そういうふざけたことを言やあがンなら、銭のできるまではここを動《いご》かねえぞ、おれァ」
「この野郎、無《ね》え銭をおめえ取ろうってえのか?」
「あたりめえよ、そう言いたくなるじゃねえか、ええ? 人間ふだんが肝心だ、こねえだだってそうだ。おれが表でおめえに会ったら、てめえ、人の面《つら》ァ見て、傍《わき》ィ向いて、すうっと曲がったろう? いやな真似ェするない、こん畜生め。ああいうときになぜ言いわけのひとつも、おれにしねえんだい、おまはんとこには借りがあって、長びいてすみませんが、とても大晦日は払いがつきませんから、春まで待っておくんなさいましと、ひと言頼まれりゃ、忙しいのにえっちらおっちら[#「えっちらおっちら」に傍点]来るかい、……無《ね》えものは払えねえ、そういう……てめえのほうでふざけたことを言やがンなら、おれのほうでも意地だ、金ができるまで動《いご》かねえぞ、おれァ」
「……じゃあなにか? 勘定取らねえうちは動かねえてんだな?」
「一寸《いつすん》も動かねえ」
「よゥし……おれも男だ、てめえに勘定を払うまでは一寸も動かせねえからそうおもえ」
「ふっ、こいつァおもしれえ、じゃ、もらって行こうじゃねえか」
「もらって行こうてえが、あるものを出さねえんじゃねえんだ、なにしろいまも言うとおり、百も無《ね》えんだ。ま、人間は七転び八起き、いつ何時《なんどき》銭が転がってこねえたあ限らねえ、銭が入《へえ》り次第《しでえ》、なにはさておいてもおめえに先ィ勘定ォするから、ま、できるまで、半年《はんとし》でも一年でもそこへ座ってろい、そこへ」
「……うんっ……ふン……ふンっ……おいおい、冗談はよそうじゃねえか、ええ? おめえンとこ一軒でおれァ商売してンじゃねえんだから……方々まわらなくちゃならねえんだ、大晦日で忙しいんだから……」
「忙しいか忙しくねえか、そんなことは知らねえや、おめえのほうじゃ勘定を取るまでここは一寸《いつすん》も動かねえと言ったんだ、ああ、おめえのほうで動かねえてえものをおれが無理に動かせようとは言わねえんだから……気のすむまで、一年でも二年でも座ってりゃいいじゃねえか」
「そうはいかねえやな……じゃなにか? ほんとうに無《ね》えのか、払う銭は? ちぇっ、しょうがねえなあ……じゃこうしよう。二三軒まわって来るから、それまでに、なにもそっくりとは言わねえよ、気は心だ。まあちょいとでも形をつけてくれりゃいいんだから、な、頼まあ、な、あとでおれはこっちィまわらあ」
「おい、待て待て、おい。逃げんのか?」
「なんだあ、逃げんのかとは? だれが逃げたい」
「勘定のできるまではおめえ、ここを一寸《いつすん》も動かねえと言ったんだろう、動かねえなら動かねえで、そこへじいィっと座ってりゃあいいじゃねえか。でえいちなんだ、勘定を取ろうてんならふだんが肝心だぜ、ええ? こんなことを言いたかあねえけども、おれがこねえだ表でてめえに会ったら、他人《ひと》の面ァ見て、傍《わき》ィ向いてすうっと曲がったろう、いやな真似するない。ああいうときになぜおれに、催促のひとつもしねえんだい、てめえンとこにゃあ貸しがある、大晦日には取りに行くから、まちげえなくこせえとけと言われりゃあ、どんな無理算段をしてもこせえようじゃあねえか。てめえのほうで知らん面《つら》ァしているから、こいつァ大晦日にゃあ来ねえんだなと、こうおもうからこっちァこせえとかねんだ」
「なァにを言ってやんでえ、いまおれの言ったこっちゃねえか。世の中にてめえくれえ図々しいやつァいねえや……おれァ忙しくてしょうがねえ、てめえなんぞにかまっちゃあいられねえ。帰らァ、おれァ」
「おいおいおい、待てよ、おい、勘定取ったのか?」
「この野郎、いいかげんにしねえと張り倒すぞ、こん畜生……取ったかって、取るわけがねえじゃあねえか」
「取るわけがねえっ……て、じゃあ取らねえんだろ? じゃあなぜ動くんだよゥ、おめえここを一寸《いつすん》も動かねえと言ったんだろう。男がいったん歯から外へ出して動かねえと言ったんだろう。できるまでは何年でも座っていりゃあいいじゃあねえか、それともなにか? 動くにゃあ、取ったのか? 勘定は……おゥっ、はっきりしろいっ」
「……うんっ……ちぇっ、じゃあ、もう……面倒くせえ、もらったでもいいよ」
「なに?」
「もらったでもいいよ。……もう、面倒くせえから……いいよ」
「いいよじゃねえ、もらったんならもらったと、はっきり言えよ、はっきり」
「もらったよっ……」
「もらったんなら受け取りを置いてけよ」
「受け取り? けっ、あきれてものが言えねえや、ほんとうに。世の中にこんな人を食った野郎はいねえや……ほら、持ってきやがれっ」
「なんだ、叩《たた》きつけやがって……おいおい、これァまだ判《はん》が押してねえや、これ……」
「畜生、出せっ、こっちィ(と、受け取りをひったくって、判をとり出すと、めったやたらにやけっぱちで押して)いいか、これで」
「ふふ、じゃあ、これでおめえに勘定払ったな?」
「うんっ……もらったよ」
「なァんだい、その言い草は、もらったよってのは……おめえだって商人《あきんど》だ、ええ? 愛嬌《あいきよう》が大事だよ。毎度ありがとうとか毎度ごひいきさまぐれえなことは……」
「……いい加減にしろっ、取りもしねえ勘定をてめえにやった挙げ句におれがすみませんと言えるか言えねえか……」
「ほう、取りもしねえだと? 取らなきゃあ何年でもそこへ座って動くないっ……」
「あ、わ、わかったよ。言うよ、礼を言やいいんだろう……ありがとうがしたっ……」
「食いつきそうな礼を言ってやがら、ええ? ひと言《こと》いわれりゃアこっちだっていい心持ちだ。……いくらだ、勘定は……? 六円七十銭也と……ふふっ安い勘定だなあ、六円七十銭……いま十円札で渡したからお釣りを出しな」
「ふざけるなっ……」
「あっはははっは、怒って帰っちゃったよ」
「およしよ。いやだよあたしァ……どうなることかとおもった。あんなことしちゃってかわいそうだよ。……あらちょいと、また来たよ」
「よく来やがんな、だれだい?」
「大坂屋の旦那」
「なにが好きだ?」
「あの旦那は、義太夫がたいへんに好きだよ」
「義太夫? 手数のかかるやつが来やがったな……じゃあ……ちょっと、あの見台《けんだい》かなんかねえかい?」
「そんなものありゃしないよ」
「じゃあその、蜜柑箱《みかんばこ》でもなんでもいいから……持ってこい、こっちへ……ああ、よしよし。これを前にこう構えて……エエいらっしゃいっ、お一人さんご案内っ」
「な、なんや、なにしてんね……なんやその形は、ええ? 蜜柑箱を前に置いて、なにしてんね……ああ、どないでもええけども、あんたとこの勘定はもう、長すぎるわ。今日は大晦日や、勘定を払《はろ》うてもらおか」
「わしもあげたい……払いたい(と、義太夫の調子)」
「ほな、払《はら》ったらええやないかい」
「……払いたいとはおもォえエ…どォ…もォ、身は貧苦に、せめられて、あげますことォが…ァ…あ…ァ、できませぬゥ…っ」
「なんちゅう声を出すねン……阿呆《あほ》らしなってきた。浄瑠璃《じようるり》が好きやよってに、義太夫で断わりを言う、うーん、こりゃおもしろい。聞いてやりましょ。払えるのは、いつごろや?」
「さあ、その、ころかえ?」
「ほんな、おかしな声出しないな」
「ころはァ…如月《きさらぎ》ィ、初午や、桃の節句や、雛《ひな》ァあ済ゥんで、五月ゥ人形も、済んでエのォち、軒の灯籠やァ、盆ン過ぎィいて、菊ゥ月ィ済めェば、恵比寿講ゥ…オ、中払いやら大晦日、所詮《しよせん》、払いィは、できィまァせェぬ」
「そら難儀やな」
「それから先ィいは、十年、百年、千年万年、待ったァとォてえェ、エ、エエエエエエ、そのとき払いが……」
「でけるのか?」
「ちえェーえッ、おぼつかなァいィいっ…(と、首を振りながら声をふりしぼる)」
「なにを言うてんね、おぼつかなんだら困るやないか。ま、しゃァない、来春また来てみましょ」
「すいません」
「ほな、まちがいのないように頼みまっせ、はい、ごめん……」
「へい、どうも……と、帰ったぜ」
「まあ、ちょいとおまえさん、言いわけはほんとうにうまいよゥ、ねえ、隣の家にもずいぶん来ているようだけど、少しこっちィ引っぱってこよう」
「ばかなことを言うな、このうえ引っぱってこられてたまるもんか」
「ちょいと、おまえさん、また来たよ」
「よく来やがんだな、どうも……こんだ、だれだい?」
「酒屋の番頭さんだよ。あの人は芝居が好き」
「芝居か、よし。(声を張って)お掛取りさまのォ、おいりィ……っ」
「どこだい? 変なことを言ってやがんのは……ああ、八公のうちだ。ふふっ、おれが芝居が好きだもんだから、おれを上使に見立てやがって芝居仕立てで言いわけをしようてんだ。それならこっちもひとつ、芝居で催促をしてやろう……これじゃあいけねえから、風呂敷をこうひろげて……肩ィかけて(と、左の肘《ひじ》を曲げて張り)ええ? この溝板《どぶいた》を花道に見立って……」
「お、おい、見なよ、あの野郎。うふっ……腰から矢立を抜いて、なんだか風呂敷を肩へ引っかけて、形をつけてやがん……おいりィ…いっ」
(お囃子『中の舞』の鳴物。番頭、気取って入って来て、花道七三で見得をきる態)
「お掛取りさまには、遠路のところご苦労千万。そこは溝板、いざまず、あれへ……お通りくだされい」
「掛取りなれば罷《まか》り通る。正座《しようざ》、許しめされい」
「まず、まァず……」
(三味線よろしく花道から本舞台へかかる心。正面になおったところで、座をしめる)
「して、お掛取りの趣きを、この家《や》の主人《あるじ》八五郎に、仰せつけくださりようなら、ありがとう存じまする」
「掛取りの趣き、余の儀にあらず、謹《つつし》んで承われエ」
「ははァ……」
「ひとつ、このたび、月々溜まる味噌醤油、酒の勘定、積もり積もって二十六円六十五銭、丁稚《でつち》定吉をもって、数度催促に及ぶといえど、いつかな払わず。今日《こんに》った、大晦《おおつごもり》のことなれば、きっと勘定受け取りまいれと、主人|吝兵衛《けちべえ》の厳命、上使の趣き、かくの次第」
「その言いわけは、これなる扇面《せんめん》……」
「なに、扇をもって言いわけとな(鳴物『一丁入り』にかわり、扇子を開いて、読む)雪晴るる、比良《ひら》の高嶺《たかね》の夕まぐれ、花の盛りを過ぎしころかな……こりゃこれ近江八景の歌……この歌をもって言いわけとは?」
「(鳴物『世話合方』となる)心やばせと商売に、浮見堂《うきみど》やつす甲斐《かい》もなく、膳所《ぜぜ》はなし、城は落ち、堅田《かただ》に落つる雁《かりがね》の、貴殿に顔を粟津《あわず》(会わす)のも、比良の暮雪《ぼせつ》の雪ならで、消ゆるおもいを推量なし、今しばし唐崎《からさき》の……」
「松で(待って)くれろという謎か。して、そのころは」
「今年も過ぎて来年の、あの石山の秋の月」
「九月下旬か?」
「三井寺の、鐘を合図に」
「きっと勘定いたすと申すか」
「まずはそれまではお掛取りさま」
「この家の主人《あるじ》八五郎」
「来春《らいしゆん》お目に……」
「かかるであろう」
「(チャンという三味線のかしらに合わせて、扇をさっと開き、口の前をちょっとおおうようにして、鳴物は『只唄』になる)心のォこォしてェ……はっははは、行っちゃったァ」
「(芝居がかりで)おまえもよっぽどォ……」
「おいおい、なにもおっかァ、おめえが気取ることァねえや」
「でもおもしろかったよ……あらちょいと、また来たよ、三河屋の旦那が……」
「三河屋の旦那?」
「あの人はね、万歳が好きなんだよ」
「万歳てえと?」
「あの、ほら、お正月来るだろ?」
「ああああ、三河万歳……あれが好きなのかい? たいへんだな、こりゃあどうも……しかたがねえ、やってみよう……ははあえーえ、こォンれェは、こォンれェは三河屋どォん、矢立に帳面、手に持ォって、は、勘定ォ、取るとォは、さってもォ太い三河屋どん、そんそん……」
「なにがそんそんじゃ。勘定取るがなにが太い?……あァ、わしが万歳が好きじゃによって、万歳で言いわけをしようという……うん、こらおもろい、待ってくれなら待っちゃろか(と、万歳調)」
「待っちゃろか」
「待っちゃろか、待っちゃろかァと、申さァば、ひと月ィか、ふた月か」
「なかァなかァそんなことじゃ勘定なんざあできねえ」
「はァ、できなけれェば、待っちゃろかと申さァば、ずゥと待って一年か」
「なかァなかァそんなァことで勘定なんざあできねえ」
「はァ、できなけれェば、二ィ年か、三年かァあ四ォ年か、十年べえもォ待っちゃろか、こけえらァじゃどうだんべえ」
「なかァなァあかそんなァことでは勘定なんざあできねえ」
「はァ、できなけれェば、二ィ十年、三十年が五ォ十年」
「はァ、なかなァあかそんなァことでは勘定なんざあできねえ」
「はァ、できなけれェば、六十年、七十年が八十年、九十年《くじゆうねん》も待っちゃろか、はァ、こけらァじゃどうだんべえ」
「はァ、なかァなァかそんなことでは勘定なんかできねえ」
「ばかァ言わねえもんだな、そんじゃあいってえ、いつ払えるだァ」
「あァら、百万年も過ぎてのち、払います」
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