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落語百選104

时间: 2019-09-15    进入日语论坛
核心提示:千早振《ちはやふ》る「ご隠居さん、こんちは」「やあ、どうした? 八っつぁん」「ええ、今日はひさしぶりで仕事が休みで家にい
(单词翻译:双击或拖选)
 
千早振《ちはやふ》る

「ご隠居さん、こんちは」
「やあ、どうした? 八っつぁん」
「ええ、今日はひさしぶりで仕事が休みで家にいたんですがねェ……どうも困ったことができましてね」
「どうしたんだ?」
「へえ、あっしァね、夜逃げをしようとおもいましてね……」
「夜逃げをする? そりゃあおだやかでないな。いったいどうしたわけなんだ?」
「ええ、え。そらァまあね、どっちにしろ話をしなくちゃわからねえんですがね。じつは、あっしのところの一人娘の、あまっちょが、近ごろ、変なものに凝《こ》っちまいましてね」
「へえー、なんに凝ったんだい?」
「ええ、正月になると、よくやるでしょ……みんなでとぐろ[#「とぐろ」に傍点]を巻いて、花札みてえなものを並べて、一人仲間はずれなのが札ァ読んで※[#歌記号、unicode303d]なんとかの、なんとかで……なんておかしな節をつけて読むと、まわりのやつが手ェ出して、わッてんで札をふんだくりあう、あれなんで……」
「ははあ、そりゃきっと百人一首じゃあないか」
「へえへえ、百人一緒で?」
「そうじゃない、百人一首だ。その昔、小倉山において藤原定家というお方が古今の歌人百人から一首ずつ集めたのが、すなわち小倉百人一首だ」
「つまり百人から割り前を集めたわけだ」
「割り前なんか集めない。……しかし、百人一首なら娘らしい遊びで結構じゃないか」
「それがちっとも結構じゃあねえんで……、その歌の文句がわからねえってんで、あっしに教えてくれってんで、あまっちょのやつが。『おとっつぁんはいま忙しい』ってえと、『煙草を吸ってるじゃあないか』ってきかねえんですよ。親ですからねェ、『知らねえ』ってえのも外聞が悪いしねェ、『おとっつぁんはいま厠《はばかり》ィ入るところだから出てから教えてやる』と言って、厠ィ入ったんですが、出るに出られず、これがほんとの雪隠《せつちん》詰めで……」
「情けない人だねェ」
「このまんま入ったきりでもいられませんから、厠の窓を壊して飛び出してきたんですが、その歌の文句のわけてえのがわからねえと、このまま家へ入れない、夜逃げしなくちゃあならない……と、こういうわけなんで、ひとつ教えてもれえてんですが……」
「なんだそんなことか、ほほう、おまえさん、そりゃあただ歌の文句ったって、たくさんある。どういう歌だい?」
「へえ、……なんでもその、娘の言うには、大勢いる中で一番いい男の歌だってんですがね。……千早はやはや……とかいう……」
「うん、それは、在原《ありわら》の中将|業平朝臣《なりひらあそん》の歌だ」
「ええ、そうなんです」
「お歌は、『千早振る神代もきかず竜田川から紅に水くぐるとは』……有名な歌だな」
「ですかね、その歌の文句のわけを教えてもらいたいんですよ」
「そのわけか?……そりゃあ、おまえ、ちはやふる、というから、かみよもきかず、となる……ものが順だから、たつたがわ……したがって、からくれないに、みずくぐるとは、となって、まちがいはないな。もしこれが、八っつぁんの前だが、業平の歌でないというやつがいたら、あたしを呼びにおいで、あたしが出向いていって、すっかり話をつけてやるよ」
「そんなことはどうでもいいんですがね、千早振るという歌のわけさえわかりゃあいいんで……ご隠居さん、知らないんでしょう?」
「いや、そんなことはない。こういう大それたことを聞くなあ、おまえぐらいだ、ばかだな。……※[#歌記号、unicode303d]千早振るゥゥってえと、神代もきかず竜田ァ川ァァァ……」
「なァんだ、節をつけたっておんなしじゃあありませんかねェ」
「ちょいと小手調べをしたまでだ。おまえさん、そうせっついてはいかん。じゃあ、ま、かいつまんで話して聞かせるが……『千早振る神代もきかず竜田川』というが、そもそもこの竜田川てえのを、おまえ、なんだとおもう?」
「わからねえから聞いてんですよ」
「だからさァ、素人《しろうと》考えに、竜田川てえのをなんだとおもう?」
「うーん、なんですかね?」
「しょうがないねえ。まるっきり気がねえんだから……これだからものを教えても張り合いがない。おまえさんは、この竜田川というのを川の名だとおもうだろう?」
「そうですかね?」
「そうですかねじゃないよ、川の名だとおもいなよ」
「じゃあ、おもいます」
「そこが畜生の浅ましさだ」
「なんだい、ひどいね。ご隠居がおもえと言ったから、あっしはおもったんじゃありませんか……じゃァいったいなんです。竜田川てえなあ?」
「じつは、なにをかくそう相撲取りの名だ」
「へえー、相撲取り……でも、そりゃあおかしいや」
「なにがおかしい?」
「だって歌のなかに、どうして相撲取りが出てくるんです」
「そりゃ出そうとおもえばなんでも出てくるが、おまえが不承知ならこの話はやめにしよう」
「いやァ、やめなくたってようがすが、あっしァ竜田川なんて相撲取りあんまり聞いたことがねえから……」
「そりゃ、おまえ、聞くわけがない。江戸時代の相撲取りだ」
「へえー」
「で、この竜田川てえ人がたいへんに、強いッ。大力無双だ。田舎《くに》で相撲取るけども、竜田川には勝てるものがいない……だから、この竜田川が江戸へ出て、立派な関取になりたい、とこうおもったんだが、親に話をしたら、親が承知をしない」
「へえ?」
「しかたがないから、留める袖を振り切って、江戸へ出て、ある関取の弟子ンなって、相撲取りになった」
「へえー」
「この人も、相撲取りになったからには、『どうぞ三年のあいだに立派な関取になれますように』って、摩利支天《まりしてん》さまに、酒、女を断って願掛《がんが》けしたな」
「へえ」
「その甲斐あって、三年目にこれが大関になったな」
「へーえ、たいへんな出世だなあァ。三年で大関ンなった?」
「出世する人は心がけがちがう。これが東の大関だ。偉いもんだろう」
「へー、たいしたもんですねえ……それで、どうしました?」
「そりゃあもう相撲が強《つお》いし、男がいい、人気の出るのはあたりまえだ」
「なるほど」
「だから、したがって、いい贔屓《ひいき》がつくな」
「へえ」
「すると、ころは弥生というから三月だな、あるご贔屓がお祝いに繰り出したのが、吉原へ夜桜見物だ。ただでさえ灯の早いところ、両側の茶屋は昼をあざむくばかりの灯だ。月は満月、桜は真っ盛り、げに不夜城の名義むなしからず、じつに見事だ。おまえにひと目《め》見せてやりたかったな」
「へえ、ご隠居は見たんですかい?」
「わしも見ない」
「なんだい、言うことがしまらねえな……で、どうなりました?」
「ある茶屋の二階で、お客さまと一杯飲んでいると、その時分は、花魁《おいらん》道中てえのがあったな。一番目は何屋のだれ、二番目は何屋のだれと、先を競《あらそ》い、飾り競《きそ》って出てくるのは、いずれを見ても勝《まさ》り劣《おと》らぬ花|競《くら》べだ」
「たいしたもんですねえ、いい女ばかりだ」
「そして、三番目に出て来たのが、これが千早《ちはや》太夫だッ」
「千早太夫ゥ?……すると千早てえのは、花魁の名ですか?」
「花魁だよ。なあ……金糸銀糸の打掛《うちか》けを着て、立兵庫《たてひようご》という髪を結《い》って、な。高い下駄を履いて外八文字を踏んで、やってきたな、禿《かぶろ》、新造《しんぞ》、若衆《わかいもの》に取り巻かれ……」
「へえェー」
「で、こいつを、茶屋の二階で飲みながら見ていた竜田川がひと目見るなりぽォーッとなったな」
「無理もありませんね」
「そうだろう。なにしろいままで土俵よりほかに見たことのない竜田川だから、おもわずぶるぶるっとふるえたってんだ」
「地震ですか?」
「だから、おまえは愚者《ぐしや》だというんだ」
「なんです? なにか踏みつぶした? ぐしゃっと……?」
「愚か者を愚者というんだ。まあそんなことはいい……で、竜田川のいうには『ああ、世の中にこんないい女がいるものか。おれも男と生まれたからには、たとえひと晩でもああいう女と過ごしてみたい』……摩利支天さまに掛けた願《がん》もこれまでというわけ。これを聞いた贔屓《ひいき》の客が『なあに心配することはない、相手は売り物、買い物、金さえ積めばどうにでもなる』と、茶屋の女将《おかみ》に掛けあってくれたんだが、太夫といえば格式があって、昔は大名道具、職人だの、相撲取りのところへは出ない。困ったことに、この千早という花魁が相撲取りが大嫌いッ……『わちきは相撲取りはいやでありんす』てえン……な、振っちゃったんだ」
「……う、なるほど!」
「竜田川は、惚れた弱味で通いつめたが、しかたがないので、妹女郎に神代《かみよ》というのがいて、これが、ちょっと千早太夫に面《おも》ざしが似ているから、この神代に話をつけようとしたが、『姉さんがいやなものは、わちきもいやでありんす』てんで、神代もいうことをきかないんだ」
「たいへんに振られちまったもんですねえ。それからどうしました?」
「さあ、竜田川は、相撲をやめて豆腐屋になったな」
「へーえ、そりゃあおかしいじゃァありませんか。なにも豆腐屋なんぞにならなくったっていいじゃァありませんか?」
「そりゃ、すぐ相撲をやめたわけじゃあないよ。もう竜田川はすっかりくさって、酒は飲む、博奕《ばくち》は打つ、稽古は怠る。さあ、そうなるってえとだんだん相撲は弱くなってくる。土俵へ上がるってえと、これがどっから知れるんだかわからないが、八方から『振られ相撲、振られ相撲ォ』って声がかかる。こうなっては天下の関取がご贔屓のてまえもあり、身の不面目、あっさり相撲道から足を洗っちゃったな」
「へえ、もったいないねえ。大関までになってねえ。またあきらめのいい男だなあ。それにしたって、なんで、年寄ンならないで、豆腐屋なんぞになったんです? なにも、よりによって豆腐屋になるこたァねえじゃねえか」
「なったっていいじゃあないか。当人が好きでなったんだ、おまえがとやこう[#「とやこう」に傍点]言うことはないよ」
「ええ、別にとやこう言ってやしませんがねェ……だって他に商売がいくらでもあるじゃありませんか」
「あってもしかたがない、な、田舎《くに》の両親というのが、これが代々豆腐屋だ。つまり、家に帰って親の商売を継いだのだから文句はないだろう」
「ああ、そうですか、そりゃどうも、しょうがねえ、で、どうしました?」
「田舎《くに》ィ帰って年老いた両親の前へ手をついて『長い間、故郷《くに》をはなれておりまして、たいへん不孝をいたしました。これからは、一所懸命、親孝行をいたしますから、いままでの不孝をどうぞご勘弁ください』とあやまった。さあ、両親はたいへんによろこんだなあ。『ああそうかい、まアおまえも遠く(豆腐)からよく達者《まめ》(豆)で帰って来た』……」
「なんだい、いやな洒落《しやれ》だね、どうしました?」
「で、月日の経《た》つものは早いもので、光陰矢のごとく、早や十年は、夢のように過ぎ去ったな。ある秋の夕間暮れ、あしたの仕込みをしようと、竜田川が、臼《うす》へ豆を入れて碾《ひ》いてるとな、痩せ衰えて、汚《きたね》えぼろぼろの着物を着た、頭の毛は抜けあがり、竹の杖にすがって、ひょろひょろとやってきた女|乞食《こじき》。竜田川の店《うち》の前へ来て、『二、三日|一飯《いつぱん》も口にしておりませぬゆえ、ひもじゅうてなりませぬ。どうぞ、お店先の卯の花を少しばかりいただかしてくださいまし』と手を出した。この竜田川もとより情け深い人だ、『ああ、もう三日も食わんでいちゃあ、そら辛かろう、いまやるから待ちな』てんで……大きな手で卯の花をしゃくって、『さ、こんなものでよかったら、なんぼでもおあがり』と、女乞食の前へ差し出して、顔ォ見てェ、びっくりッ……」
「イヨー、チ、チ、チン……」
「そんなところで三味線を入れるなよ……この女乞食を、おまえさん、だれだとおもう?」
「ええ、知りません、だれです?」
「これがだれあろう、十年前に竜田川を振った、吉原で全盛をうたわれた千早|花魁《おいらん》の成れの果てだ」
「へええ、わからねえもんだねえ、吉原で全盛をうたわれた太夫が、どうして乞食になんかなっちゃったんでしょうね?」
「おまえはうるさいね、どうも。どうしてなったんでしょうって、なっちゃっちゃあしょうがねえじゃねえか、えッ? なろうとおもえば、人間はなんにでもなれる。とりわけ乞食になろうとおもえばすぐなれる。おまえもやってみるかい?」
「冗談言っちゃいけねえ……いやだよ」
「しかし、因縁というか、数多《あまた》の客をだまし、贅沢《ぜいたく》をし尽くした、その罰《ばち》が当たったんだな。悪い病を引きうけて、花魁がつとまらなくて、乞食におちぶれて、流れ流れて竜田川の店先に立ったってえのも、これもなにかの因縁だな」
「へえ。怖《こわ》いもんですね。やっぱり因縁てえやつはあるんですねェ」
「おまえ、感心しているが、おまえならこのとき、卯の花をやるか、やらないか?」
「あっしならやりませんね。癪《しやく》にさわるじゃありませんか」
「そうだろう、わしもやらない……それともまた、おまえさんがやるような了見なら、もうつきあわない」
「だからやりませんよ。やらねえでどうしました?」
「竜田川は、顔を見て烈火のごとく怒ったな、『われは、十年前おれを振った千早だなッ。てめえのおかげで、おれは大関まで棒にふったんだ。そのことォよもや忘れやァしまい。心がらとはいいながら、よくまあその姿で物乞いに来られたもんだ。ざまァ見やがれッ』と、手に持った卯の花を地べたに叩きつけて、逃げようとする女乞食の胸をどーんとついた」
「へえ」
「ついたのが元大関、大力無双の竜田川、つかれたのが、二、三日食わずにいた女乞食だからたまらない。よろよろよろッとよろけると、豆腐屋の事《こつ》たから、前に大きな井戸がある」
「へえへえ」
「この井戸の傍《わき》に柳の古木が一本あったな。で、よろけるとたんに、この柳の木へ背中がどーんと当たると、枝につかまって勢いがついてるから木をひとまわりまわって止まった、こうじいっと、空をうらめしげににらんで、前非を悔いたか、『まことに面目ない』と、そのまま井戸の中へどぶーんと身を投じた」
「こいつァおもしろくなってきたな。それからどうなりました?」
「どうにもならない。これでおしまい」
「そんなことはないでしょう? これから死んでうらみを晴らすとかなんとか、夜な夜な千早の幽霊が井戸からあらわれて……鳴物が入って怪談噺かなんかになるんでしょ?」
「いや、ならない、これでおしまい」
「ねえ、おしまいってえことないでしょ、これじゃあばかにあっけねえじゃねえか」
「これで話はおしまいなんだよ。おまえも、くどいな」
「ええッ? どういうわけで」
「おまえさん、他人にものを教わって、ぼんやり聞いてちゃあいけないよ。よく考えてごらん。……だから、いいかい。竜田川が千早に振られただろう? だから、『千早振る』じゃあないか」
「ええっ? いまの話は、こりゃ、あの歌の話ですかい? なんだい、気がつかなかったなあ」
「千早が振ったあとで、妹女郎の神代に話をつけようとしたが、神代もうん[#「うん」に傍点]と言わないから、『神代もきかず』だ。十年後に、女乞食におちぶれた千早が、竜田川の店先で、卯の花をくれって手を出したろ。でも竜田川はやらないから、『竜田川からくれないに』じゃあないか、おまえ」
「なんでえ、おれァいやだよ。で、あとは?」
「井戸へどぶーんと飛びこめば、『水くぐるとは』じゃないか」
「なるほどねえ、井戸へ飛びこんで、『水くぐる……とは?』おかしいねえ。水をくぐるンなら、『水くぐる』でいいでしょう? 『水くぐるとは』てえのはなんです? そのおしまいの『とは』てなァなんのことです?」
「おまえさんも勘定高い男だな。『とは』ぐらい半端《はんぱ》は負けておきなよ」
「負からないねえ。こうなったら、『とは』の片ァつけてもらいたいねえ、え? 『とは』ってえのは、いったいなんです?」
「『とは』というのは、……あとで調べてみたら、千早の本名だった」

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≪解説≫[#「≪解説≫」はゴシック体] 「ご隠居、知らないんでしょう?」と言われて、俄然、本領?を発揮するところは「やかん」[#「「やかん」」はゴシック体]と同じ御仁、それにしても百人一首の迷[#「迷」に傍点]解釈である。この「解説《のうがき》」を書かされている筆者なども、大同小異、その傾向は十二分にある。そこで、この項は、国文学者風に、元歌[#「元歌」に傍点]の解釈を記すことにする。「千早振る」は「神」の枕詞《まくらことば》、「神代も聞かず」は「かつて神の代、古代《いにしえ》にも聞いたことがない」、「竜田川」は奈良県生駒郡を流れる河川。「韓紅《からくれない》に水くくる[#「くくる」に傍点]とは」……「水くぐる[#「くぐる」に傍点]」でなく「水くくる[#「くくる」に傍点]」、「くくる[#「くくる」に傍点]」とは「くくり染め、しぼり染め」のことで、「紅葉がくくり染めるように水に写っている」ことであり、「とは」とは?……「千早の幼名」——あッ、地が出た。
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