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落語百選103

时间: 2019-09-15    进入日语论坛
核心提示:かつぎや呉服屋の五兵衛という主人、たいへんなご幣《へい》かつぎ、見るもの、聞くもの、なんでも気にしてかつぐ目が覚めりゃあ
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かつぎや

呉服屋の五兵衛という主人、たいへんなご幣《へい》かつぎ、見るもの、聞くもの、なんでも気にしてかつぐ……目が覚めりゃあ寝て見た夢を気に病み、朝茶に茶柱が立ったといって機嫌《きげん》を直し、一膳めしは縁起が悪いと食いたくなくても二膳かっこみ、出がけに袖がほころびても針は使わせない。歩き出して途中で下駄の鼻緒でも切れれば、大騒ぎでそのまま外出はとりやめる。凶は吉に返ると申しますからと番頭になだめられると、おもい直して出かけるが、道で烏鳴《からすな》きを聞いて真っ青になる。帰ってくると、おかめのような福々しい顔の新参女中が迎えるので、気分をよくするが、その女中がついうっかり寝床を北枕に敷いたので、たちまち寒気がして熱を出す——というぐあい。
 まして元日のこと、
「さあさあ、めでたく夜が明けましたよ。めでたく起きて、みんなめでたく布団をたたんで、ああ、めでたくその枕がおっこちましたよ。だれだい、汚い褌《ふんどし》をめでたくこんなところへおくというのは、どうもめでたく不精でいけませんよ。めでたく片づけておきなさいよ。さあ、めでたく急いで顔を揃えな。どうも今日はめでたく寒いよ。めでたく火を熾こしなさいよ。もっとめでたく炭をつぎな……」
「権助ッ、権助ッ、これ、権助、権助ッ」
「またはじまりィやがった。夜が明けると権助、日が暮れると権助、やれ権助、それ権助、この家ぐれえ人|使《づけ》えの荒《あれ》え家はなかんべえ」
「権助ーッ」
「まだ呼ばってる。給金出してるだから、使わなけりゃあ損だとおもってるんだな。人間だからええが、雑巾《ぞうきん》ならとうにすり切れちまってるだ」
「権助や権助ッ、おい、権助」
「まだ呼ばってるだな。呼ばるだけ呼ばれ」
「おーい、権助。いないのか、おい権助」
「だんだん近寄って来たな。そろそろ返事ぶつかな」
「権助ッ」
「ひぇー」
「なんだ? その返事は……そこにいるならさっさと返事しろ、さっきから百ぺんも呼んでるじゃあないか」
「嘘ォつかねえもんだ。たった五たびだ」
「勘定をしてやがる、まあ、こっちィ、入れ」
「手がふさがってるだ」
「なにをしてるんだ?」
「懐中手《ふところで》をしてるんだ」
「不精なやつだな。手を出して開《あ》けたらいいじゃないか」
「しかたがねえ。開けるかな。どこだ?」
「ばかっ、主人の居間を開けるのに、どこだってやつがあるか。早く中へ入って……あとを閉めろ……そこへ座れ」
「はあ」
「そこへ、座れッ」
「さあ、座った、殺さば殺せ」
「だれが殺すと言った。おまえぐらい礼儀を知らない男はない、主人の前で頬被《ほおつかぶ》りをしているやつがあるか」
「おまえさまがおらが前《めえ》でなんで襟巻《えりまき》をしているだ。参《めえ》ったか」
「参《まい》ったかとはなんだ、わしは寒い」
「おらがも寒い」
「わしはいい」
「おらがもいい」
「おまえはよくない」
「なにがよくねえ?」
「わしは主《しゆう》だ」
「おらがもしゅう[#「しゅう」に傍点]だ」
「ほほう、おまえがしゅう[#「しゅう」に傍点]か?」
「ご家来衆だ」
「口のへらないやつだ、取りなよ」
「取れってば取るでがす、何《あん》だね?」
「今朝は元日だ。井戸神さまへ橙《だいだい》を納めて来なさい」
「あんで、でえでえ[#「でえでえ」に傍点]を納めるだ?」
「おまえはまだ家へきてから間もないから知るまいが、わしの家では、吉例によって、井戸神さまへ橙を納めることになっている。ついでに歌を唱《とな》えるから、よくおぼえなさい」
「はあ? ぬた[#「ぬた」に傍点]か?」
「ぬた[#「ぬた」に傍点]じゃない、歌だ」
「八木節か」
「そんなんじゃあない。『新玉《あらたま》の年立ちかえる旦《あした》より若柳水《わかやぎみず》を汲《く》み初《そ》めにけり、これはわざッとお年玉』とな」
「はあ、そうかね」
「わかったか?」
「わかんねえ」
「『新玉の年立ちかえる旦より若柳水を汲み初めにけり、これはわざッとお年玉』だ……こう唱えて、橙を納めてきな」
「はあ、たまげたね。こりゃあむずかしいことを言いつかったぞ……なんとか言ったな? エー、目の玉の…だ。ェー『目の玉のでんぐり返るあしたには末期《まつご》の水を汲み初《そ》めにけり、これはわざッとお人魂《ひとだま》』と……これでよかんべえ……へい、行ってめえりやした」
「ご苦労、ご苦労、どうした? 権助、ちゃんとやってきたか?」
「井戸神さまがおめえによろしく申しやした」
「井戸神が口をきくわけはない。歌はどうした?」
「歌かね?」
「そうだ、やってみろ」
「途中で蹴つまずいて忘れた」
「おやおや、では唱えずにきたのか?」
「やったよ。おもい出してもう一ぺん向こうをつん向いてやってみべえ、何《あん》でも玉がついたな」
「なんとやった?」
「目の玉の……」
「ちがうちがう、新玉だ」
「新玉か? まちがったものはしかたがねえ、『目の玉のでんぐり返るあしたには末期の水を汲み初めにけり、これはわざッとお人魂』とな」
「縁起でもない。元旦そうそう人魂だの末期の水だのと。とんでもないことを言う。たったいま、暇をやるから出ていけ」
「ぶったまげたな」
「さっさと、出ていけッ」
「出ていかねえ、どんなことがあっても出ていかねえ、来月の四日までは待ってくんろ」
「来月の四日まで待てばどうするんだ?」
「ちょうど今日から三十五日だ」
「あんなことを言やァがる、縁起でもない。権助ッ、ああ、逃げ足の早いやつだ」
「ここだ、ここだ」
「あれっ庭の松の木のかげへ隠れて、手ェ合わせてやがる……権助ッ、そりゃいったいなんのまねだ?」
「堪忍してくんろ。このとおり草葉のかげから拝んでるんだから……」
「あれだ、あきれかえってものも言えやしない」
「ェェ旦那さま、おめでとうございます」
「ああ番頭さん、おめでとう……なに? お雑煮ができた、ああそうか。みんな揃ったか? 元日はみんな揃ってお雑煮を祝うのがしきたりだ……いや、みんな、おめでとう」
「旦那さまおめでとうございます」
「旦那さまおめでとうございます」
「旦那さまおめでとうございます」
「おきよどん、まことにすまないね、ェェ三が日はあなたにお給仕をしていただけますので、食い上げなければなりませんので、どうか加減してお頼み申します……あッ、しょうがないなあ、こんなに芋ばかり入れて……あッ、芋が落ちた……芋がまるくって箸がまるいから、こりゃ滑ってしょうがない、芋が逃げるところを、さっと突く……」
「定吉、なんです。行儀の悪い」
「芋が逃げて、なかなか捕まらないんです。……天網恢々疎《てんもうかいかいそ》にして漏さず、とうとう磔刑《はりつけ》に……」
「なんだ縁起でもない」
「エー旦那さま、ただいま餅をいただいておりましたところ、お餅のなかから折れ釘が出てまいりました」
「番頭さんかい、危なかったねえ、怪我ァしなかったか」
「いえ、これほどめでたいことはございません。餅の中から金《かね》が出まして、ご当家はますます金持ちになるというのはいかがでございます」
「ああ、ありがたいな、ちょいとでも、嘘にもそう言ってくれるのは、ありがたいな」
「あんだ、おべっか[#「おべっか」に傍点]番頭、胡麻摺《ごます》り番頭、いいかげんなことォしゃべくって……」
「おい、権助、おまえは黙っておいでよ」
「いや黙っていねえ。餅の中から金が出て金持ちということがあるけえ。金の中から餅が出たなら金持ちちゅうことがあるが、餅の中から金が出りゃあここの家は身上《しんしよう》、持ちかねるだあ」
「なぜ、おまえはそういうことを言うんだよ。もういいから……おいおい、長吉、こっちへ来なさい」
「旦那さま、お年賀の品をお持ちしました」
「やあご苦労さま……お早々と年頭の挨拶においでくださった方がある。あたしもこれからおまえを連れて年始まわりをしなけりゃならない。わたしが、ここへ書き止めますから、ちょっとそこで、名前を一人一人読みあげておくれ」
「かしこまりました。……では、伊勢屋の久兵衛さん」
「伊勢久さんか、あいかわらず、お早いな……あとは?」
「美濃屋の善兵衛さん」
「美濃善さんかい。それからな、長吉、美濃屋の善兵衛さんなら美濃屋さんでわかる。商人《あきんど》というものは帳面を早くつけなければいけないから、それを略して、美濃屋の善兵衛さんなんて言わないで、美濃善というように読みあげてくれ、わかったか」
「へい、わかりました。では、あぶく[#「あぶく」に傍点]と願います」
「あぶく[#「あぶく」に傍点]? だれだい、それは?」
「油屋の九兵衛さんで、略して、あぶく[#「あぶく」に傍点]」
「そんなのはふつうに読みなさい。あとは?」
「あとは、てんかん[#「てんかん」に傍点]」
「あぶく[#「あぶく」に傍点]のつぎがてんかん[#「てんかん」に傍点]かい、だれだそれは?」
「天満屋の勘兵衛さんで……」
「なるほど、つぎは?」
「しぶと[#「しぶと」に傍点]でございます」
「しぶと[#「しぶと」に傍点]? おい、いいかげんにしろ、それはだれだ?」
「渋屋の藤吉さんですから、しぶと[#「しぶと」に傍点]」
「ろくなのはないな。つぎは?」
「ゆかん[#「ゆかん」に傍点]でございます」
「ゆかん[#「ゆかん」に傍点]? そんな名前があるか?」
「湯屋の勘蔵さんで、ゆかん[#「ゆかん」に傍点]」
「どうも困ったもんだ」
「そのつぎがせきとう[#「せきとう」に傍点]」
「順にいってるな。だれだい、せきとう[#「せきとう」に傍点]というのは?」
「関口屋の藤八っつぁんでございます」
「もういい、あっちへいっておくれ。頭が痛くなってきた」
「ねー、旦那さまあたくしが代わって読みあげます」
「ああ、番頭さん、そうしておくれ」
「では、まず鶴亀とねがいます」
「鶴亀? おいおい、わたしが気にするからといって、つくりごとはいけませんよ」
「いえ、このとおり鶴屋の亀吉さんで、略して鶴亀と申し上げました」
「なるほど、ありがたいな、あっははは、おまえさんのおかげで気分が晴れてきましたよ。うれしいね。……あとは?」
「ことぶき[#「ことぶき」に傍点]で……」
「ことぶき?」
「はい、琴平屋の武吉さんで、ことぶき[#「ことぶき」に傍点]となります」
「うれしいねえ。鶴亀のあとが寿《ことぶき》なんぞはじつに縁起がいい。胸がすーっとしました……。あッ、悪いやつが向こうからやって来たよ。せっかくいい心持ちになったとおもったら」
「どうかなさいましたか?」
「いえさ、あの向こうから来る……あたしとは子供時分からの友だちだがね、商売が早桶屋《はやおけや》で、四郎兵衛ってんだが、あたしの顔さえ見れば縁起の悪いことばかり言ってよろこんでいるやつだ。このあいだも表で会ったから、『おい、福の神にこにこしてどこへ行くんだ』って言ったら、『いまおまえの家から出てきた』と言やがる。つぎに会ったときには、忌々《いまいま》しいから、『貧乏神どこへ行くんだ』と言ったら、『これからおまえの家へ行くんだ』と言うじゃないか。どうせ今日もろくなことを言うまいから、あたしは奥へ行ってるよ。番頭さん、おまえさん帰しておくれ」
「へい、かしこまりました」
「うわーッ、どうした、かつぎやの卵塔《らんとう》」
「だいぶ召しあがっておいでですなあ。卵塔は恐れ入りました。てまえは番頭でございます」
「番頭かい? ときにおまえさんとこの檀家《だんか》はどうした?」
「檀家? 旦那で……」
「おれは商売柄、檀家と言いたくなるねえ。おめンとこの旦那は幽霊旦那だぜ。いまおれが向こうから来たときには、たしかに姿が見えたが、ここへ来るまでに消えてなくなるところを見ると、すでにお逝去《かくれ》か」
「おいおい、いけないよ。お逝去《かくれ》はいけないよ」
「おッ、出てきやがった。あっははは、どうしてた?」
「おめでとう」
「なにがめでたい」
「なにがということはないだろう? お正月だよ。ねえ、このとおり門松が立って、松飾りが下がって、おめでたいじゃないか」
「門松がめでたい? おれは、この門松が悲しくって、しょうがねえ……『門松は冥途《めいど》の旅の一里塚、めでたくもありめでたくもなし』……南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」
「いけないよ。元日からお念仏なぞ唱《とな》えていちゃあ。朝っぱらからたいへんなご機嫌だな、恵方《えほう》詣りにでも行ってきたのかい?」
「なあに、お寺詣りだ」
「お寺詣り? 元日から」
「ああ、元日から寺詣りさ、なにもおれだって元日早々寺詣りなんぞしたかあねえ。けども、これには深いわけがある。おめえとおれと建具屋の伊之吉とは、この町内で生抜《はえぬ》きだ。伊之が頭《かしら》でおめえが中でおれが末、生まれるときは別っこでも、死ぬときゃあいっしょに死のうと約束した兄弟分だ。それがさて人間は老少不定《ろうしようふじよう》『明日ありと思《おも》う心の仇桜、夜半に嵐の吹かぬものかは』。去年、伊之吉がポックリ死んじまったじゃあないか……だれも墓詣りをしてやるやつもいねえ。おれァ今日|商売《しようべえ》が休みだから久しぶりに伊之の墓詣りをしてやったんだ」
「泣いてやがる、そりゃいいことをしたねえ」
「それでさ、寺の門前へ出るときに、ひょいと胸に浮かんだのは、ものには順てえことがある。去年伊之吉が死んだんだ。順にいくと今年はおめえの番だよ。おめえはいやに太って大きいから並の早桶じゃあ間に合わねえ、今日は来たついでだから棺桶の寸法をとらしてもらうか」
「おい、いやだよ。やめてくれッ」
「あっはっはっはっ、怒るな、怒るな。まあとにかく元日の礼儀は礼儀だ。これはお人魂だ」
「おい、またお人魂かい。おどろいたねえ」
「あっはっはっは……いずれ冥途《めいど》で会おう。はい、さよならッ」
「ああ、なんだか気分が悪くなってきた。あたしは寝ますから……」
 あくる日は正月の二日で、宵に、七福神の乗っている宝船の一枚刷りの絵を売り歩く習慣があった。「長き夜のとおのねふりのみなめさめ浪のり舟の音のよきかな」という上から読んでも下から読んでも同じ歌と七福神の絵を枕の下に敷いて寝ると、よい初夢が見られるという。
「ェェお宝、お宝……」
「長吉や、宝船を一つめでたく買おうじゃないか」
「へえ……おい、おい、船屋さん、ここだよ」
「へーい、お呼びで?」
「旦那、呼んでまいりました」
「おい、船屋さん、船は一枚いくらだい?」
「これは旦那さまで……へい、四文《しもん》でございます」
「四文《しもん》はいけないな。わたしは四《し》の字はきらいだ。死ぬ、しくじるなどといってな……では、十枚ではいくらだい?」
「四十《しじゆう》文で」
「百枚では?」
「四百《しひやく》文で」
「どこまでいってもだめだな。縁起が悪いから、それじゃせっかくだが、こんどということにしよう」
「こんどったって、明日になっちゃあ売れやしません。そんなことを言わないで、一枚でも半分でもいいから助けるとおもって買っておくんなさい」
「そんな縁起の悪い船はいらない」
「いえ、あっしがね、こんな商売をしているってえのも、じつは去年の春かかあに死なれ、あとに残った乳のみ子をかかえているところへ家が火事に遭《あ》い、縁起直しに宝船でも売ったらよかろうと友だちが言うから、いま買い出してきて、こちらが口あけなんで、その口あけにひやかされて、今夜じゅう歩いてこの宝船が売れなきゃあ、あしたの朝、おまえさんのとこの門松で首を縊《くく》ってやるから……」
「おい、番頭さん、なんとかしておくれ」
「旦那さま、お気になさいますな、わたしが縁起直しにいい船屋を捜してまいります」
番頭が往来へ飛び出していって、横町の角に待っていると、威勢のいい宝船屋がやってきた。
「ェェーお宝お宝、お宝お宝……」
「おい、船屋さんッ」
「へい、こんばんは」
「いえ、あたしが買うんじゃない。あたしのところはその呉服屋だが、旦那がたいそうかつぎやなんだ。なんでもいいからめでたいことをたくさん列《なら》べておくれ、うまくいけば、たくさん買うから……」
「へえへえ、ありがとうございます。それじゃあ、さっそくめでたくうかがいましょう」
「頼んだよ」
「へえ、……お宝お宝、大当たりのお宝お宝」
「ああ、大当たりなんぞはうれしいね……船屋さん、船屋さん」
「へい、こんばんは、宝船がただいま着きました」
「こりゃうれしいね、宝船が着いたというなァ。一枚いくらだい?」
「一枚し……いえ、よ文でございます」
「十枚は?」
「よ十文でございます」
「百枚は?」
「よ百文でございます」
「こりゃ、うれしいね。それじゃ、たくさんいただくか、どのくらいある?」
「えー、旦那のご寿命ほどございます」
「なに、わたしの寿命ほど? どのくらいだね?」
「さあ、千枚もございましょうか」
「なるほど、あたしを鶴に見立ててくれたのはうれしいね。寿命をよそに売られては困るから、すっかり買いましょう。総仕舞《そうじまい》になれば用もないだろうから、こっちィきて一杯おやり」
「へえ、ありがとう存じます」
「船屋さん、飲めるんだろう?」
「へえ、ご酒ならば、亀のようにいただきます」
「亀のようにはうれしいな。ともかくもお屠蘇《とそ》をもっておいで……さあ、遠慮なくやっておくれ」
「これはどうもありがとうございます。いただきます……こりゃあ結構なお道具で、薪絵《まきえ》もお見事でございますな……ちょっとお重《じゆう》を拝見いたします……あ、なるほどこれはお約束ですが、結構なおせち料理でございますな。田作《ごまめ》に牛蒡《ごぼう》で、牛蒡(御坊《ごぼ》)ちゃんごまめ[#「ごまめ」に傍点]にご成人というのはいかがで?」
「言うことがいちいちうれしいね」
「数の子はかずかずおめでとうございます」
「なるほどねえ」
「こちらは干瓢《かんぴよう》ですね。干瓢(勘平)さんは三十に、なるやならずで……うーむ」
「どうしたい?」
「えへへへへ……まことにおめでとうございます」
「こりゃちょっとあぶなかったようだね。まァ、いいからおあがり」
「へえ、どうもごちそうさまで、もうだいぶいただきまして、身体《からだ》がこうひとりでに揺れてくるところは、ちょうど宝船に乗ってるようでございます」
「宝船に乗っているというのはうれしいね」
「旦那さま、お宅さまでは、七福神が揃っておりますな」
「七福神が揃ってる? そりゃあありがたいなあ。どこに揃っているんだい?」
「エエ、まず旦那さまがにこにこしているところは、生きた大黒さまでございます」
「うんうん、わたしが大黒さまなぞはうれしいね……おい番頭、いくらか包んでお出し、これはご祝儀、大黒|賃《ちん》だ」
「へッへ、ありがとうございます。それから、ただいまあそこにおいでになったのは、お宅のお嬢さまで?」
「ああ、家《うち》の娘だ」
「へえ、どうも生きた弁天さまでございますなあ」
「ええッ、家の娘が生きた弁天さま……これは、弁天賃だ、取っとおき」
「へッへ、恐れ入ります、ありがとう存じます……これで七福神揃いましてございます」
「おいおい、船屋さん、ちょっとお待ち、ええ? なんだい? わたしが大黒で、娘が弁天、これじゃ二福じゃないか?」
「でも、こちらのご商売が呉服(五福)でございます」
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