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落語百選111

时间: 2019-09-15    进入日语论坛
核心提示:粗忽長屋そそっかしい連中ばかりが長屋に集まっている。そうなると、もう朝からまちがいだらけ。「おゥ、まァてえげえにしなくち
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粗忽長屋

そそっかしい連中ばかりが長屋に集まっている。そうなると、もう朝からまちがいだらけ……。
「おゥ、まァてえげえにしなくちゃァいけねえ、よしねえってことよ」
「なんだい? なんだか知らねえが、いきなり他人《ひと》の家へ裸足《はだし》で飛びこんできて、どうしたんだ?」
「どうしたんじゃねえ、みっともねえ、朝っぱらから……」
「なにが?」
「なにが……ってよ、おまえ、エエ、そのよくねえな、そういうことは……」
「どういうこと?……」
「どういうことって、いまここンとこを、おれァ裸足でもってすゥーと、飛んで来るようなことを、てめえしたにちげえねえ」
「なにもやってねえ」
「やらねえこたァねえ、やってたい、隠すねえ……この野郎!……あ、そう、夫婦喧嘩……よしなよ、みっともねえから」
「どこで……?」
「おめンとこでよゥ」
「夫婦喧嘩ァ?」
「そうだよ」
「やらないよ」
「やった」
「夫婦喧嘩できない。おれ、独《ひと》り者《もの》だから……」
「あ、そうだなァ……う、うん、でもいま、かかァ出てけッてどなってたろう」
「ああ、あれァおまえ、そう言ったんじゃねえんだよ。あれァいま、ここのね、沓脱《くつぬぎ》ンところをきれいに掃除したところへ、エエ、あいつが入《へえ》って来たんだい」
「だれ?……」
「いえ、だれってほどのもんじゃァねえんだ。ウウ、おまえ、挨拶もなんにもしねえで、ここンとこィぬゥッと入《へえ》って来やがって……うん」
「どこの野郎だい?」
「ど、どこの野郎だかはっきりしねえ野郎なんだい。なァ、いるんだよ、よく、ここらィ……夜、こんなンなって歩いてて(と、四つ足の手つき)、よく鳴くやつよ」
「ああ、鼠かァ」
「いや、鼠じゃァねえんだ。……もっとずっと大きなもんだ」
「じゃァ、象かァ?」
「ウ……この野郎、急に大きくしやがら……象がこんなとこへ入《へえ》ってくるわけねえじゃねえか。もっとずゥッと小さくて……いるだろう」
「どんな形してえたい」
「ほら、(手で)こんな耳していて……(手で)こんな口して……いるんだよゥ」
「あぁあぁあぁ、猫か」
「うゥ、この野郎……そばまで行ってて言わねえな、ウウ、猫にもよく似てらあ」
「じゃァ、もぐら」
「もぐらじゃァねえや、こン畜生ァ……あ、あの、犬」
「なんだい、犬かァ」
「赤い大きな犬がここンとこィ入《へえ》って来やがって、せっかくおれァ掃除したところへ馬糞《ばふん》してきやがったのよ」
「へェえ、犬のくせに馬糞したかなァ」
「あんまり汚《きたね》え畜生だから、このあかァッ、出てきやがれェッて、おれァどなったんだ」
「あか[#「あか」に傍点]っつッたのか。おれ、かかあとまちげえて……」
「そうだよ」
「……いねえな?」
「なに? 犬か?……とっくに逃げちゃった」
「惜しいことをしたなァ。おれがいりゃァその犬ゥとッ捕まえて、ぶち殺して、その犬から熊の胆《い》とってやンだがなあ」
「……ふふふッ、おめえはそそっかしいな。犬から熊の胆がとれるか。鹿とまちげえンな」
……こんなのが咬《か》みあってると、しまいに話がわからなくなる。
 長屋に、片方は不精でそそっかしい、片方がまめ[#「まめ」に傍点]でそそっかしい、この二人が隣合わせで住んでいる。
で、このまめ[#「まめ」に傍点]でそそっかしいほうが、浅草の観音さまに参詣に行き、雷門を出ると、いっぱいの人だかり、どんなそそっかしいやつでも、これには気がつく。
「なんです? この、大勢立って……なんかあンですか? こん中ァ……」
「行《い》き倒れだそうですよ」
「あれ……見たいですねェ」
「あたしも見たいと思ってね」
「前の方に出られませんかねェ」
「これだけの人だから、ちょいとにゃァ出らンねえなァ。……まァ、股《また》ぐらでも潜《くぐ》りゃァ出らンねえこたァねえとおもうがねェ」
「ああ、そうですか、股ぐらをねえ……(前の人の背中を叩き)エエもし、ちょいと」
「なんでえ?」
「いま、あっしァこの、前の方へ出たいっていう心持ちですけどねえ」
「なにを言ってやンでえ。心持ちだって、そうは行くけえ」
「なんでえ、てめえ一人で見ようとおもってやンな、どかなきゃどかねえだっていいんだ。こっちァ、股ぐらてえ手があンだから、なあ、そら(と、首をすくめて股ぐらを潜る)ほらほらほら……」
「おゥおゥおゥ、なんだなんだ、こいつァ?……おゥおゥ、変なとこから……」
「へッへッへッ……えェーい、このぐらいの元気がなくちゃ、前の方へ出られねえや……ほゥら、前へ出ちゃった(きょろきょろ、見まわし)なんだいこれァ、人間の面《つら》ばっかりじゃァねえか、これァ……え? あっ、どうも(と、ぴょこっとお辞儀)……」
「だめだよ、おまえさんかい、おかしなところから這《は》い出して……さァさァさァ、さっきから見てる人はどいてください、これいつまで見ていたっておんなしなんだから。なるべく変わった方に見てもらいたい……いま、あァた来たんだ、こっちィいらっしゃい」
「エエ、どうも、ありがとうござんす」
「礼なんぞ言わなくっていいんだから……」
「なんですか……もうじきはじまるんですか?」
「え? いや、別にこれアはじまったりするもんじゃねえんで……行《い》き倒れだ」
「ああ、そうですか。いきだおれ、これからやるんですか?」
「……なんだい、わかンねえ人が出てきたなァ……いえ、この菰《こも》がそうだがねえ……こっちィ出てきてごらんなさい」
「えへへへ……へえ……あははは、なんだ、あんなとこへ頭が出てやがら……おゥい、なにしてンだなァ、おゥ、みんな見てるじゃねえか、起きたらどうでえ」
「……起きやァしないよ、これァ……寝てるんじゃねえんだから。死んでるんだから……行《い》き倒れだよゥ」
「あれ、これ死んでんのかい? じゃあ死に倒れじゃァねえか。おまえさんがさっきから、生《い》き倒れだってえからさ」
「いやだな、この人ァ……おかしな問答をして……ほんとうは、行《ゆ》き倒れ。ま、そんなことァどうだっていいんだよ。手さえつけなきゃいいんだ。菰をまくってごらんなさい」
「えへへへ、なあに、そんなもん手ェつけるやつァあるもんかい……へッへッへッ、この野郎、きまりが悪いんだな、え? 向こうッ側《かわ》むいて死んでるじゃァねえか」
「そういうわけじゃねえやな。……エエ知った方だか、よォくごらんよ、顔を……」
「……ンな、なにも知ったやつなんざ……(菰をつかんで払いのけ、のぞきこみ)あッ、あァッ……」
「おウ、どうした?」
「(じィッと見て)これァ、熊の野郎だ」
「おウ、熊の野郎だなんてえとこを見ると、知ってるんだね」
「知ってるもいいとこだよう。こいつァおれの家の隣にいるんだよ。仲よくつきあってンだァ、こいつとァ。兄弟同様につきあってンだからねえ。生まれるときは別々だが、死ぬときは別々だってえ仲だ」
「あたりめえじゃねえか」
「あたりめえの仲だい、こいつとァ……(ジッと見つめて)えれえことンなったなァ、これァ……おゥッ、しっかりしろい」
「しっかりしろったって、もう死んじゃってンだから……」
「だれがこんなことをしたんだ。おめえか?」
「いやァ、あたしじゃァない。あたしはね……いろいろ心配して……なにしろ身元がわからねえんだ。書付け一本持ってねえんでね。ま、こうやって大勢の方に見てもらえば、なかには知った方も出るだろうとおもって……でもよかったよ」
「なに? よかったァ? よかったなんてよろこぶとこを見ると、おめえが締め殺したな」
「冗談言っちゃァいけねえ。引き取り手がわかってよかったてんだよ……どうしよう? あたしのほうからすぐ知らせに行こうか、それともおまえさん先ィ帰って、この人のかみさんにでも知らしといてくれるかい」
「いやァ、かかあねえんだ、これ、独《ひと》り者《もん》だから……」
「ああ、そうかい。じゃァ家の方でも、ご親類の方でも……」
「なんにもないの、これ……身寄り頼りのねえ独りぼっちでねェ……可哀そうな野郎です……こいつてえものァ」
「それァ困んなァ、引き取り手のねえてえのはなァ……あ、じゃァあァたが兄弟同様につきあってるんだから、ひとまずこれ、引き取ってもらえるかい?」
「うふふふ……あの野郎あんなうめえことを言って持ってっちゃったなんてねェ……あとで痛くもねえ腹ァさぐられンのァ……」
「おいおい、おかしなことを言っちゃァいけねえなァ」
「じゃァこうしましょう。あの、ともかく、ここへ当人連れて来ましょう」
「……? なんだい? なんだい、その、当人てえのァ?」
「ええ、ですからこの、行き倒れの当人を……」
「おい、しっかりしろよ、この人ァ……この方はなんだろう、身寄り頼りのない独り者だろ?」
「そうなんです。可哀そうな野郎なんですよ。……ええ、今朝《けさ》もちょいと寄ってやったら、ぼんやりしてましてねえ、どうだい、お詣りに行かねえかッたら、気分が悪いからよそうなんつッてましたがね……」
「今朝ァ?……会ってンのかい?……ああ、じゃァちがう……いえいえ、そりゃちがうンだよ。……この方はねえ、昨夜《ゆんべ》っからここへ倒れてンだから……」
「そうでしょう? だから当人が来なきゃわからねえッてンですよ。てめえでてめえのことのはっきりしねえ野郎ですからねェ、……もうここでこんなンなっちゃってるとはきっと今朝まで気がつかねえんですよゥ」
「しょうがねえなァ、この人ァ……あァたねェ、よォく気を静めて、そいで話をしなさい」
「いえ、あの、こいですぐ連れて来ますから、こいで並べて見て……あ、これならまちげえがねえと思えば、これ、そっちも安心して渡せるでしょう?」
「困ンねえ、あァた。……いえ、あなたねェ、気が動転《どうてん》してるようだから、よく落ち着きなさいよ」
「え? いえ、あの、すぐ連れて来ますから、もう少しこれ、見ててくンねえ、お願いします……」
「おいおいおい、待ちなよ……なんだい? あいつァ、当人当人つッて、当人はここに死んでるんじゃねえか。頭があいつァおかしいんじゃねえのか」
「おゥい……(と、とんとん戸を叩き)なにをしてやンだ、まったく……おゥ、起きねえかァッ……熊ァッ……熊公ッ……熊やいッ……おゥッ」
「ばかだね、あいつァ。夢中ンなって戸袋を叩いて、熊公熊公ッて、だれェ呼んで……あ、熊ァおれだ……おいおい、そこは戸袋だい、おまえ、寝ちゃァいねえ、こっちだよ」
「あれッ、この野郎、ほんとうに、てめえ、そんなところィ座って煙草なんぞふかしていられる身じゃァねえぞ、おめえは……」
「なんかあったか?」
「あったもいいとこだァ。情けねえ野郎だなァ、こいつァ……」
「なんかしくじ[#「しくじ」に傍点]ったか?……」
「大しくじりだよゥ。いまおらァてめえに話をして聞かせるから、びっくりしておどろくな。……おゥ、今朝おれァなにィ行ったろう、どさくさ[#「どさくさ」に傍点]の、あの……どさくさ[#「どさくさ」に傍点]じゃねえ、あの、あすこの……浅草の……なにィ行ったろう? あの……なにィしに……こんなことをやりに(と、拝む手つき)……ほら、あのウ、ずゥッと突き当たりンとこへ……あるじゃねえか、ほら、拝むところよ。浅草名代の水天宮さま……じゃないよゥ、ほら、浅草の不動さま……じゃあない、ほら……ほらほらほら、浅草の……」
「ああ金比羅さま」
「そう、金比羅さま……なにを言ってやンでえ、金比羅さまじゃねえやい、ほんとうに……あ、観音さま」
「で、どうしたい?」
「おれァお詣りをして仁王門……なんだァ、雷門を出るてえとな、いっぺえの人だかりだよ。なんだと思ってかき分けて前《めえ》の方へ出てみると、これがおめえの前《めえ》だがおどろくない……(声をひそめて)行《い》き倒れだ」
「ほほゥ……うまくやったなァ……」
「あれッ、この野郎、てめえもわかンねえなァ……おれもはじめよくわかンねえで……見るてえと、着物の柄からなにからそっくりだよ。……こうなっちゃァもう、おめえだってしゃァねえだろう。因縁だとおもってあきらめろ」
「なんだか話がちっともよくわからねえ」
「この野郎、行き倒れッつって気がつかねえかなァ……おゥ、おめえはなァ……昨夜《ゆんべ》なァ、浅草でもって(声をひそめ)死んでるよゥ」
「おゥ、よせやい、気味の悪いことを言うない……おれがかァ?……だって兄貴、おれァ死んだような心持ちはしねえぞ」
「それがおめえは図々しいてんだよ。心持ちなんてそうすぐわかるもんかい。いまおれ、たしかに見てきたんだから安心しろよ……迷うんじゃないよ、おめえ……」
「だって考《かん》げえてみつくれやい。今朝おめえとおれとここで会って、ちゃんと話をしてるじゃァねえか」
「だからおめえは死んだのがわからねえってんだ。昨夜《ゆんべ》どこィ行った?」
「吉原《なか》ァ素見《ひやかし》て、帰りに馬道ンとこで夜明し[#「夜明し」に傍点]が出てやがってね、そこでそうさなァ、五合も飲んだかなァ。いい心持ちでぶらぶら歩きながら帰《けえ》ってきた」
「どこを歩いてきた?」
「観音さまの脇を抜けたまでは覚えてンでえ。それから先、どうやって家まで帰って来たもんかなァ」
「そゥれ、みやがれ。それがなによりの証拠じゃァねえか。……おめえ悪い酒ェ飲んで、あた[#「あた」に傍点]っちゃったんだよ。観音さまの脇まで来て、もうたまらなくなって、引ッくり返《けえ》って冷《つべた》くなっちゃって、死んだのも気がつかずに帰ってきちゃったろう?」
「……そうか」
「そうだよゥ」
「そう言われてみると……どうも今朝、心持ちがよくねえ」
「そウれみやがれ。だから早く行けよゥ」
「どこへ?」
「死骸《しげえ》をおめえ、引き取りに行くんだい」
「だれの……?」
「おめえのよゥ」
「ああ、おれの?……だって兄貴、これがあたしの死骸ですなんて、いまさらきまりが悪くて……」
「なにを言ってやンでえ。当人が行って当人のものをもらって来ンのに、きまりが悪いなんてこたァあるもんか。おれが行って口ィきいてやるよ。当人はこの野郎ですと、よォく見くらべた上で、よろしかったらお渡しを願います……向こうだって当人に出て来られたんじゃァもう、どうにもしょうがねえだろう。ええ? おめえも黙ってることァねえ。いろいろお世話ンなりましたぐれえのことァ言っとけ」
「……おどろいた……」
「おどろくこたァねえ。早いとこしろい。てめえぐらい手数のかかるやつァねえぞ。まごまごしてるとほかのやつに持ってかれちまうじゃねえかよゥ……ええ?……ほら、ここだ、ここだ……ここだ。ほらほら、見ろ見ろ、あんな大勢立って……見られてンだ……さあ、いっしょに入《へえ》って来い、いっしょに……」
「おい、兄貴兄貴」
「なんだい?」
「ここォ、おめえ、なんだぞ、絵草紙屋のようだぞ」
「なにを? 絵草紙屋だ?……絵草紙屋じゃねえか。おめえ落ち着かなきゃァだめだよ」
「いや、兄貴が落ち着いて……」
「ほんとうに畜生、あんなとこにつっ立って見てる野郎に買ったためしはねえんだからな。……おいおい、ここだ。こんだァまちげえはねえ。ここがそうなんだよ……(人をかき分け)ほら、おゥ、ごめんよ……(うしろを見て)おウいっしょに入《へえ》って来い、いっしょに……おゥ、ごめんよ、ごめんよゥ、どいつくれ、どいつくれ……」
「あッ痛えッ……危ねえなァ」
「危ねえも糞もねえ、当人が来たんだからどけてんだ、この野郎。なに言ってやンでえ、ほんとうに……おい、こっちィ入《へえ》って来い、こっちィ……ええ? てめえのものを取りに来たんだ。遠慮することァねえ。ずゥッとこっちィ入って来い……あ、どうも……さきほどは(と、ひょいとお辞儀)……」
「……あ、また来たよ、あの人ァ。困ンな、話がわかンねえで……。どうだ、おまえさん、そうでなかったろう?」
「いえ、あのねェ、帰《けえ》ってすぐ当人に話をしますとね、野郎そそっかしいぐれえのやつですからね、おれはどうも死んだような心持ちがしねえなんてね、わかりきったことを強情張ってやがン……」
「困るなァ、どうもなァ……いえね、あァたねえ、よゥく気を静めて話をしなきゃァだめだよ」
「え、だんだん話をして……聞かせますとね、そう言われてみると、今朝心持ちがよくねえから、そうかもしれねえッて……この野郎でござんすから、どうぞひとつよろしく……おゥ、こっちィ出て来い。ええ? あのおじさんにいろいろお世話ンなったんだ。よくお礼申し上げろ」
「……どうもすいませんです。ちっとも知らなかったんで、兄貴に聞いて気がついたンすけど、あの……昨夜《ゆんべ》ここンとこィ倒れちゃったそうで……」
「おい、しょうがねえなァ、これァ……ええ? おんなしような人がもう一人ふえちゃったよ。ばかばかしいやい。この人ァ、おまえさん、行き倒れの当人だなんて……あのね、あァた、この菰がそうだから、こっちィ出て来てごらんなさい」
「いいンす、あの、もう見なくても……」
「いや、見ないてえのァ困るんだから、ごらんよ」
「いえ、もうなまじ死に目に会わないほうが……」
「いけないな、おかしなことを言って」
「見ろよゥ。向こうじゃ並べなきゃァ安心ができねえから言うんだから」
「そうかァ、なんだかいやな心持ちンなっちゃったなァ、ええ? (と、菰をとりおそるおそる見て)……これがおれかァ……?」
「そうよ」
「なんでえ、ずいぶん汚《きたね》え面《つら》ァしてンじゃァねえか」
「そりゃおまえ、死顔なんてえのァ変わるもんだ」
「なんだか顔が長えようだなァ」
「ひと晩夜露に当たったから、伸びちゃったんだろう」
「はァ……(じっと見つめて)あッ、やッ、これァおれだッ」
「そうだろう」
「(情けない声で)やい、このおれめッ、なんてまァあさましい姿ンなって……こんなことと知ったらもっとなんか食っときゃよかった」
「泣いたってしょうがねえや」
「どうしよう?……」
「頭のほうを抱け。足のほうを持っておれァ手伝うから……」
「そうか、じゃァ頼むよ……人間はどこでどんなことンなるかわからねえ。こんなとこで恥をさらして……(と、頭をささえ、胴をかかえるようにして抱きあげる)」
「おいおい……いけねえな、おい、おい、さわっちゃあ困るな、おい……えっ?……抱いてみてわからねえのァいけねえなァ。よくごらんなさいよ、おまえさんじゃないんだから……」
「うるせえ、余計なことを言うねえ。当人が見て、おれだつッてンだからまちげえねえじゃねえか……いいから抱け抱け、なァ、なにも自分のものを抱いておめえ……」
「(抱いたまま)ンン……なんだか兄貴、わかンなくなっちゃったな、おれァ?……抱かれてンのはたしかにおれなんだが……抱いてるおれは、一体《いつてえ》だれだろう?」
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