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落語特選02

时间: 2019-09-22    进入日语论坛
核心提示:品川心中お江戸日本橋を踏み出して二里、東海道五十三次第一の駅路《えきろ》品川は、江戸の四宿《ししゆく》と称えられて、甲州
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品川心中

お江戸日本橋を踏み出して二里、東海道五十三次第一の駅路《えきろ》品川は、江戸の四宿《ししゆく》と称えられて、甲州路の内藤新宿、中仙道の板橋、奥州街道への千住とともに、飯盛《めしもり》とおなじ遊女を置いた家が軒を並べていたという。
(中略)
おなじ遊び場でも、吉原は大門までで駕籠《かご》をおろされたという話だが、品川は海道にそった宿場である、駕籠が通る、馬が通る。
売れぬやつ馬の屁《へ》ばかりかいでいる
というわけで、化粧をすました女が立て膝をして、朱羅宇《しゆらお》の長《なが》煙管《ぎせる》から煙を吹いている目の前には、田圃で狐に化かされたご仁がいただくぼた餅のたぐいも、ところかまわず落ちていたことであろう。
本来、きぬぎぬの別れなどというものは、あけの鐘がゴンと鳴るとか、あるいは鴉《からす》カァの声とかがその別れをいっそうあわれにするはずの音楽効果であるにもかかわらず、
品川は鳥よりつらい馬の声
などといわれて、きぬぎぬの別れにはヒヒン、ブルルという艶消しな馬のいななきが、その枕もとに響いたものとみえる。
だから、品川の女郎ともなれば、なんだかそこに色っぽいとかあわれとかいうよりは、一種の滑稽感がつきまとうようだ。
[#地付き](安藤鶴夫『わが落語鑑賞』より)
 この品川に白木屋という貸座敷があって、ここの板頭《いたがしら》をつとめているお染という花魁《おいらん》がいた。
板頭というのは、吉原ではお職といって、その楼《みせ》のいちばんの売れっ妓《こ》……稼ぎ頭で、そこの楼の花魁の名前が板にずらりと書き並べてあって、いちばんの売れっ妓の名を筆頭に書くところから、宿場ではこういう呼び方をした。
しかし、いくら板頭でも、やはり寄る年波にはかなわない。自分より下の若い妓にどんどん客がついてきて、羽振りがよくなって、自分がお茶を挽《ひ》くことがあり、二番、三番へ落ちてきて、若いうちから板頭を張り通してきた勝気なお染としては気が気ではない。
そこへ、廓《くるわ》の仕来《しきたり》で紋日《もんび》というのがあって、たいへん入費がかかる。
四季の移り替えには、春から夏だと袷《あわせ》から単衣《ひとえ》に着替える。夏ならば浴衣《ゆかた》を染めたり、手拭いをこしらえたり、朋輩《ほうばい》を自分の座敷へ呼んで、芸者、幇間《たいこもち》も集めて飲んで騒いで、遣《や》り手から若い衆にまで、みんなに祝儀をやって、移り替えの披露目をしなければならない。
そういった纏《まとま》った出銭《でせん》のあるときは、客のところ四方八方へ手紙を出して、救《たす》けてもらう。
巻き紙も痩《や》せる苦界の紋日前
若い、売れてる妓には、客が心得ているから、
「ああ、いいよ」
と請《う》け合ってくれるが、年増になると……お染には客から一本の返事も来ず、だれ一人来てくれない。
内所《ないしよ》へ話をしても貸してはくれず。ああ、こんな悔しい思いをするくらいなら、いっそのこと死んでしまおう。けれど、一人で死ねば、紋日前の金に詰まって死んだといわれるのは悔しいから、だれか相手を見つけて死ねば、心中と浮名が立つ。
相手をだれにしよう……玉帳《ぎよくちよう》を取り出して、人選にかかった。
「この人にしようかしら、この人もいいけど、親がかりだから、親がかわいそうだしねえ。……この人は女房子もいるからねえ。……中橋から通ってくる本屋の金蔵……この人はなんにもないよ。この男ならあたしはなんとも想っていないのに、ひとりで夢中になってるんだから、どうせ独身者《ひとりもん》だし、かまやしない。心中の相手はこの人に決めよう」
これからお染は、金蔵に宛てて、天紅《てんべに》の巻き紙へ想いのたけをさらさらと女文字で認《したた》めた。この手紙を、使い屋と称する者に届けさせた。
金蔵は大喜びで、お染の手紙を押し戴いて、
「有難てえ、やっぱりお染はおれに惚れてやがる」
と、早速、いろいろ算段して、めかしこんで品川へ飛んで来た。
「まあ、よく来てくれたねえ。今夜は少しばかり相談したいことがあるんだよ」
「よしっ、心得た。どんな相談でも持ってきねえ。おれが引き受けたぜ」
「うれしいねえ。そう言ってくれるのは、金さん、おまえさんだけだよ」
と、お染にきゅうっと抓《つね》られて、金蔵はもうぽーっとして天にも昇る心地……。
酒肴《さけさかな》を取り寄せて、お染の酌《しやく》でさて始めようとすると、折悪《おりあ》しく、楼《みせ》がたてこみ、ほかの客がどんどん登楼《あが》ってきた。
「金さん、少しの間、ひとりでやっててくれない。眠くなったら、先に寝て蒲団《ふとん》を温めといておくれよ」
お染はほかへ廻《まわ》しを取りに出て行ったが、それっきり待てど暮せど戻ってこない。
「ちえっ、ばかにしてやがらあ。くそおもしろくもねえ。身の上のことについて相談したいというから、飛んで来てやったんだ。てめえで人を呼んでおいて、なんの相手もしねえで、ほかの客のところでいつまで、なにをしてやがるんだ。ああ、いやだいやだ。こうと知ったら来るんじゃなかった」
金蔵は煙管《きせる》を吹かして、蒲団へもぐり込んでみたが、バタリ、バタリと上草履《うわぞうり》の音……。
「来たのかな? 来たのなら、ここでおれがふくれっ面《つら》をして煙草《たばこ》をのんでいるのはみっともねえや。……寝たふりをしよう……うー、来た来た来た……あれっ、なんだい、ここへ入《へえ》るのかと思ったら、通りすぎちまった。ばかにしてやがら……」
金蔵はまぬけな亀みたいに、蒲団から首を出したり、縮《ちぢ》めたりしている。
「あーあ、それにしてもお染のあま[#「あま」に傍点]はどうしたのかな? これだから女郎屋ってえものはなんとなく落着かねえんだ。いつまで待たせるんだ。寝ようとしたって寝られやしねえや……おっ、また来やがった。ははあ、こんどの足音はたしかにあいつだ。畜生め、さんざん人に気を揉《も》ませやがって……起きているのも、こりゃあ甚助《じんすけ》じみるか。……グー、グー、グー……」
金蔵はわざと高鼾《たかいびき》……。
お染は障子をガラっと開けて、
「あら、よく眠っているのね。ちょいと金さん、起きてよ」
「なにを言やがる。いま時分やって来やがって、気の利いた化け物はとうに引っ込んでしまわあ」
「おやおや、この人は寝言を言っているよ」
「なにが寝言だ」
「ちょいと金さん、金さんってば……いろいろ相談があるんだからさ。起きとくれよ」
「グー……」
「ちょいと、金さん。寝言の合の手に鼾《いびき》かい。あたしが来たのに、すまして寝ているよ」
「なに言ってやんでえ。そうやすやすと起きられるかい。べらぼうめ、グー、グー……」
「ねえ、金さん」
「金さん金さんって言いやがって、どこまでも人を甘くみていやあがる」
「こんな不実な人は、ありゃしないよ。こんな人とは思わなかった。あたしゃ、この人と一生苦労をともにしようと思っていたんだけど、そういう気なら、あたしはあたしで覚悟しよう」
「覚悟でも、なんでもしやあがれ、べらぼうめ。人をさんざん待たしゃあがって、証文の出し遅れだ。グー、グー……」
「よく寝る人だよ」
……お染が静かになったので、金蔵は蒲団から首を出して見ると、お染は行燈《あんどん》のそばで手紙を書いている。
金蔵は鼾をかきながら這《は》い出して、後から覗き込んだ。
「あっ、この人はっ……鼾をかきながら目を開いている人があるもんかね。おふざけでないよ」
「おう、どっちがおふざけだ。そりゃあ、おれのほうで言う言い草だ。いやな真似をするねえ。面《つら》当てがましいことをするな」
「なにが?」
「なにがじゃねえや。なんだっておれの枕元で手紙なんぞ書くんだ?」
「大きな声をおしでないよ。隣りに聞えるよ」
「大きな声はおれの地声だ」
「ほんとうに野暮《やぼ》な人だよ」
「ふん、どうせ野暮だ。目のまえで情夫《まぶ》へやる手紙を書かれるくれえだからな」
「情夫がほかにあるくらいなら苦労はしない。おまえが寝ちまったんで、おまえにやる手紙を書いていたんだよ」
「なにを言っていやあがる。ご本尊《ほんぞん》さまが目のまえにこうしているじゃあねえか。なんで手紙なんか……情夫にちげえねえ」
「そんなら、この手紙、その目ではっきり見てごらんな」
「あたりめえよ。てめえのほうで見せなくとも、こっちで見ずにゃあいねえ、さあ出せ」
「見るなら、ごらんてば」
金蔵は手紙を取り上げて、行燈《あんどん》を引き寄せ、燈芯《とうしん》をかき立て、ひろげて
「なになに……書き置きの事。えっ、書き置……こいつは少し様子がちがわあ……。
一筆書き残し参らせ候《そうろう》。かねて御前《おんまえ》様もご存知のとおり、この紋日には金子《きんす》なければ行き立ち申さず。ほかに談合《だんごう》いたすにも、鳴くに鳴かれぬ鶯《うぐいす》の、身はままならぬ籠の鳥、ホーホケキョー(今日)まで相隠し申し候えども、もはや叶い申さず、今宵かぎり自害いたして相果て申し候|間《あいだ》、もし私《わたくし》の事哀れと思いなされ候わば、折節の一遍のご回向《えこう》、他の千部万部《せんぶまんぶ》の経より心嬉しく成仏|仕《つかまつり》候。他に迷いは御座なく候《そうら》えども、私《わたくし》亡後《なきあと》は御前様にはお内儀様をお持ちなされ候かと、それのみ心にかかり候。御前様百年の寿命過ぎての後、あの世にてお目もじ致し候を何より楽しみに待ちかね居り候。まだ申したきこと死出の山ほどおわし候えども、心|急《せ》くまま惜しき筆止参らせ候。あらあらかしこ。白木屋染より。金様参る。
へえー、おどろいたなあ。おい、これほどのことがあるなら、一応話をするがいいじゃあねえか。水臭えじゃあねえか」
「なにを言ってるんだい。おまえにあたしゃ相談しようと思ったんだけど、薄情でグーグー眠ってるじゃあないか」
「それがその……眠っているような起きてるような、妙な寝かたをしてたんだ」
「そういう頼りない人だから……」
「なにを言ってんだ。金《かね》で済むことなら、どうにでもしようじゃあねえか」
「ほんとう? うれしいこと。どうにかなるの?」
「あーあ、まあな」
「まあ、頼りないねえ。お金ができなきゃあ、みじめな思いをしなきゃならないから死のうと思うけれども、おまえさんとは末の末までと約束がしてあったんだから、あたしの死んだのちは、折れた線香の一本も手向《たむ》けておくれ。後生だから……」
「おいおい、そんな湿《しめ》っぽいことを言うなよ。人間の命は金で買えやあしねえぜ。だから、金さえ出来りゃあいいんだろ?」
「そりゃあそうだけれども……」
「じゃあ、おれが一肌《ひとはだ》脱ごうじゃあねえか。おめえのためなら家《うち》のものをみんな叩き売ったって、なんとかしようじゃあねえか」
「おまえさんにそんなことをしてもらっちゃあ、済まないと思って……」
「済むも済まねえもあるもんか……で、いったい、いくらありゃあいいんだ?」
「四十両なきゃあ、どうにもならないんだよ」
「なーんだ、たったそれだけのことか……なにも四十両ばかりの端金《はしたがね》で、死ぬことはねえじゃあねえか」
「じゃあ、おまえさん、都合《つごう》してくれるかい?」
「それが、その……とてもできねえ」
「なんだねえ。四十両ばかりの端金なんて威張《いば》ったくせに……」
「そりゃあ威張ったけれども……これで四十両残らずこせえるとなると、すぐにはなあ……」
「そりゃ、残らずできなかったら、あたしがあとはどうにかするけど……三十両ぐらいどうだい?」
「三十両なあ、うーん、ちょっと足りねえなあ」
「二十両かい?」
「二十両できりゃあ、おれも男が立つけど……」
「十両かい?」
「十両なら、大威張りだ」
「じゃあ、いったいいくらなら出来るの?」
「そうさなあ、まあ、一両二分ぐれえなら、なんとか……」
「冗談言っちゃあいけないよ。四十両のところへ一両二分ぐらいつくって、どうするのさ?」
「どうするったって……どうもしかたがねえ」
「だって、おまえさん、家のものを売ってこさえると言ったじゃないか」
「だから、みんな叩き売って、それくれえにしかならねえんだ」
「情けない身上《しんしよう》だねえ」
「だから相談だと言ったろう」
「いいよ。どうせ死ぬんだから、かわいそうな女だと思ったらね。思い出したときに線香の一本も上げてちょうだいな。これがこの世でおまえさんの顔の見納めだよ」
「待ちなよ。おめえが死んじまっちゃあ、おれだけ生きてたってしようがねえやな。死ぬならいっしょに死のう」
「金さん、あたしのようなばかはほんとにするよ。死んでくれる?」
「ああ、つきあうよ」
「なんだい、つきあうてえのは……蕎麦《そば》を食べに行くんじゃあないよ。ほんとうに死んでくれるのかい?」
「そんなおめえ、ばかにしたもんじゃねえやなあ。おれだって死ぬといったら死ぬよ」
「きっと、死ぬね?」
「ああ、死にますよ。……まだ疑《うたぐ》ってるのか? うそだと思うなら、手付けに目を回そうか?」
「目なんか回さなくたっていいよ。それじゃあ、今夜ね……」
「今夜か? 今夜はいけねえや、おれのほうは用事があるもの」
「用事なんかいいじゃあないか」
「そうはいかねえ。彼世《あつち》へ行っちゃうと、出てくんのがたいへんだよ。死ぬときまったら、急に死ぬことはねえだろう。いろいろ支度もあらあ。死出の旅の衣装は二人揃って、白無垢《しろむく》というのを着て行こうじゃねえか。あの二人は覚悟の心中だと、後に浮名の残るようにしようじゃねえか」
「うれしいね。この世で縁は薄いけれど、あの世でおまえさんといっしょになろうよ」
「そうだ。あの世で、蓮《はす》の葉の上で世帯をもとう」
「じゃあ、いつ?」
「明日《あした》の晩、死のう」
「金さん、約束したよ」
その晩は、お染のほうはこの男を逃がしちゃ大変と、手を尽してもてなした……。
翌朝、金蔵はふらふら……魂の抜け殻《がら》みたいになって、家へ帰った。
もうあの女のためなら命はいらねえ……とのぼせ上がって、もとより独身者《ひとりもん》、だれも文句を言う者はなし、道具屋を連れて来て、家の中のものを残らず売り払い、空店《あきだな》同様にして、古道具屋で短刀を一本買って、柳原の古着屋で白無垢を二枚買うつもりが、金が足りなくて女物一枚と、自分のは腰から下のない胴裏みたいなものを買い、それを風呂敷へ入れて首っ玉へ結《ゆ》わえつけて、昼過ぎに、長年、厄介になっている親分の家へ暇乞《いとまご》いにやって来た。
「お早うございます」
「だれだい? だれか裏口《うら》へ来たようだ」
「お早うございます」
「おわい屋か? いま時分来て、お早うございますというのは?」
「おやおや、生きてるうちから臭気《くさみ》がついちゃあ往生だ」
「なんだ、ぼんやり突っ立ってんのは、金蔵か?」
「お早うござい……」
「冗談じゃねえ。もう昼過ぎだ。どうしたんだ? 大きな包みを首っ玉に結わえて、買物の帰りか?」
「へえ……」
「へえじゃあねえ。こないだからてめえが来たら意見をしようと思ってたんだ。若《わけ》えやつらに聞いたら、品川のほうへこのごろだいぶ通ってるってえ話だが、よしなよしなよ。おおかたこの紋日前に金に詰まって、女に心中でもふっかけられるのが関の山だ、おめえなんざ」
「ヘッヘッヘッヘッ……」
「なんだ、変な笑いかたするなよ」
「えー、つきましては……」
「なに?」
「じつは……ここんとこ、少し都合をわるくいたしまして……」
「当りめえだ。ろくろく稼ぎもしねえで、女郎《じよろう》買いばかりして……楽な気づけえはねえ。今日は、なにしに来たんだ?」
「へえ、しようがありませんから、しばらく江戸を離れて遠くへ、ひとつ行こうと思いまして……」
「そんならいいが、まあ少しは稼がなくちゃあ、いつまでふわついてちゃしようがねえ。で、どっちへ行くんだ、旅は?」
「西のほうへまいります」
「目あてがあって行くんだろうが、いつ帰《けえ》るつもりだ?」
「盆の十三日には帰ります。……なにとぞ、そのときはお迎火をたくさん焚《た》いてください」
「いやなことを言うな。……すると、だいぶ遠いな?」
「人の噂《うわさ》では、なんでも十万億土とか……」
「とぼけたことを言うと、殴るよ。はっきりしねえと……ただ西のほうじゃあわからねえ、どこだ?」
「西方弥陀《さいほうみだ》の浄土……」
「こいつ、縁起の悪《わり》い野郎だあ。……おいおい、待ちな待ちな。まあ家にいな。旅に出たって碌《ろく》なこたあねえから……おい、金蔵、話も済まないうちに駈け出しちまって……おーいっ、金蔵っ」
「親方あ、金蔵のやつ、水瓶《みずがめ》の上に、こんな短刀を置いて行きましたよ」
「あのばか野郎、顔色がおかしいと思ったが……どっかで喧嘩でもしてきたにちげえねえ。いいよ、うっちゃっておきねえ」
 金蔵は、親方のところから二、三人、友だちのところへなんとなく妙なことを言って歩いて……暇乞《いとまご》いをして、日の暮れがたに品川へやって来た。
「金さん、まあ、よく来てくれたねえ」
「うん、すっかり暇乞いしてきちゃった。おれも男だ。約束だけは守るよ」
「今夜はもう、この世とお別れだから、思い切りパァーとやろうよ」
金蔵は朝から碌《ろく》に食べていないうえ、飲み食いもこれが最後と、どんどん注文して、
「勘定が足りなければ、馬でもなんでも付けろ。勘定が欲しけりゃ、三途の川まで取りに来い。地獄へいっしょに連れてってやるから……」
「そんなにぱくつくと、お腹をこわすよ」
「なんでもかまわねえ、どうせ行き掛けの駄賃だ」
お染のほうは気を揉《も》み出し、もし金蔵の口から心中《こと》が露見しちゃあたいへんと……、
「さあ、金さん、いい加減にお酒をよして、寝ておしまいよ」
酔っ払った金蔵を寝かして、お染はほかの客の廻しを済まして、引け過ぎに部屋へ戻って、障子を開けてみると、金蔵は高鼾で寝ている。
「まあ、なんて寝様《ねざま》だろう。あきれたもんだねえ。いま死のうてえのに、よくこんなにグーグー寝られるもんだ。この人は度胸があるんじゃあない。のんきで、からばかなんだよ……あらあら、鼻から提灯《ちようちん》が出てきたよ。あれっ、ひっこんだ。また出てきた。こりゃあ、きっとお祭りで夕立にあった夢かなんか見てるんだね……あれっ、提灯がつぶれたよ。汚ないねえ。あーあ、こんなやつといっしょに死ぬのかと思うとつくづく情けないねえ……いつまでもこうしちゃあいられない。ちょっと金さん、お起きよ。ちょいと金さん、金さんっ」
「あーあ、あー、もう食えねえよ」
「まだ食べる気でいるんだよ。なんて人だろう。ねえ、起きとくれよ」
「もう夜が明けたのか?」
「夜は明けちゃあいないよ。戸外《そと》をごらんよ」
「ふざけるな。夜中に追い出されてたまるもんか。高輪のところにわるい犬がいて、このあいだ、朝早く帰ったら、犬にとりまかれて、ひどい目にあっちまった。おらあ、もう犬はでえ嫌《きれ》えなんだから……」
「なにを言うんだね。しっかりしておくれ、おまえ、忘れたのかい?」
「なにを?」
「今夜死ぬんじゃあないか」
「ああ、そうだった。すっかり忘れちゃった。ひと寝入りしたら、なんだか億劫《おつくう》になっちまった。どうだい、二、三日延ばすわけにはいかねえか?」
「おまえ、急に心変わりをしたのかい」
「ばかを言え。おれはちゃんと死ぬつもりだから、世帯をたたんで、暇乞いまでやって来たんだ。その包みの中を見ねえ」
「あらまあ、立派な白無垢じゃあないの」
「一世一代の心中だ。衣装《なり》が悪くちゃあ浮名が立たねえ。これがおめえで、こっちがおれのだ」
「金さん、おまえのは、腰から下がないじゃあないか」
「ああ、倹約につきお取り払いってえやつだ。このほうがさばさばしていいやな」
「なにか刃物を持って来たかい?」
「その風呂敷の中に短刀が入《へえ》ってるだろう?」
「短刀が?……なにもありゃあしないよ」
「そんなはずはねえんだが……よくふるってみなよ……え? ねえかい? おかしいなあ……あっ、たいへんだ。昼間、親分の家《うち》へ暇乞いに行って、水瓶の上へ置いたままあわてて出て来ちゃった」
「まあ、そそっかしいねえ、この人は……あたしも、こういうことがあるかと虫が知らしたか、すっかり昼間のうちに、剃刀《かみそり》を研《と》がしておいたから、金さん、死ぬのは剃刀にかぎるよ」
「おい、待ちなよ。危いっ、剃刀はいけねえ。刃の薄いもので切ったやつは、あと治りにくいというから……」
「なにを言ってるんだよ。ああ、そうかい、おまえ、死ぬつもりがないんだね。あたしを騙《だま》したんだね……いいよ、おぼえておいでよ。あたしはこれで喉をかき切って死んだら、三日経たないうちに、おまえさんをとり殺してやるから……」
「おい、待ちなよ。おいおい、危ねえから離しなよ。……おいっ、危ねえじゃあねえか。こんなものを振り回して……」
「なにするのさ? 人の剃刀をとっちまって……」
「だからよ、なにも荒っぽいことをしなくったって、死ねりゃあいいんだろう?……人間てえものは脆《もろ》いもんだ針一本でも突き処によっちゃァ死ねらァ」
「どうするのさ?」
「もめん針を二十本ばかり持ってきねえ」
「もめん針を?……どうするのさ?」
「そのもめん針で二人の脈所《みやくどこ》を突き合っていたら、夜の明けるまでにはかた[#「かた」に傍点]がつくだろう」
「おふざけでないよ。霜焼《しもや》けの血をとるんじゃァあるまいし……じゃ裏へおいでよ」
「え? 裏へ? あの松の木かなんかへぶら下がるんだろ、洟《はな》を二本たらして……ありゃあ、あんまり気のきいたもんじゃあねえ」
「なにをぐずぐず言ってるんだよ。なんでもいいから裏へいっしょにおいでっ」
「とほほ……行くよ、行きますよ」
金蔵はべそ[#「べそ」に傍点]をかいている。お染にせき立てられ、白無垢を着せられて、裏梯子《うらばしご》をそーっと下りて、庭に出て、飛び石を伝わって、海へ出ようとしたが柵《さく》矢来で囲ってあって飛び越えることができない。木戸には錠がおりていて、むりやり押してみたが開かない。お染は錠に手拭いを巻いてグイと捻《ねじ》ると、潮風のために壺金が腐っていたのか、ポキリと取れたので、これ幸いと木戸を開けて出ると、まえに桟橋。空は雨模様、どんよりとして、ときどき雨がぽつり、ぽつり……。
「さあさあ、金さん、なにしてるんだよ。ずんずん前へ行くんだよ。桟橋は長いよ」
「とほほほ、桟橋は長くったって寿命《いのち》は短《みじ》っけえや。おいおい、危いよ。押しちゃあ駄目だよ」
「なに言ってるんだい、早く飛び込むんだよ」
「この海へ? いやだなあ。真っ暗でおめえ、気味が悪いや……なんだい? あの向うへふわふわ人魂《しとだま》が飛んでいるじゃないか」
「なにを……人魂じゃないよ。沖のほうで海老《えび》を獲る舟の灯りだよ。ぐずぐずしないで、早く飛び込むんだよ」
「そりゃあいけねえ。おらあ、風邪ひいてるから……。弱ったなあ、このあいだ、占者《うらないしや》がそう言ったよ。おまえさんは水難の相があるって……」
「いまさら、そんなことを言ったって、しょうがないよ」
「そうかといって、出し抜けに飛び込んじゃあよくねえ。入《へえ》るまえによくかきまわして……」
「お湯へ入るんじゃあないよ。威勢よく飛び込むんだよ」
「威勢よくったって、茶碗のかけらでも落ちてたら、足を切っちまわあ」
「潮干狩《しおしがり》じゃあないよ。じれったいねえ」
「どうも冷たそうだなあ」
金蔵は泣き出さんばかりに、ぶるぶる震えている。
そこへ、座敷の二階のほうから、
「お染さんェー」
と、若い衆《し》の呼ぶ声がした。
「さあ、だれか来るといけないから、飛び込んどくれ」
と、お染は金蔵の後ろへ回って透《す》かして見ると、金蔵は爪先立って、がたがたと震えている。
「金さん、あたしもあとから行くから、先へ行っとくれ、堪忍しておくれっ」
と、金蔵の腰のところへ手かけて、ドーンと押した。金蔵はひょろひょろっとよろけて、もんどり打って、どぼーんと海中へ……。
お染もつづいて飛び込もうとする途端に、
「おっ、待った、待った。ばかな真似しちゃあ……」
と、楼《みせ》の若い衆が後から抑えた。
「どうか、恥をかかしておくれでないよ。見逃しておくんなさいっ」
「お染さん、お待ちなさい。つまらねえことをするじゃありませんか。おまえさん、紋日前に金ができねえで、こんな無分別なことするんでしょう。金ならできた。死ぬのはおよしなさい」
「えっ、ほんとうに?」
「だれがうそをつくもんですか。いま石町《こくちよう》の旦那が五十両、懐中《ふところ》に入れて持って来ましたよ。お染さんからもらった手紙で心配はしてたんだが、ここんところ忙しくて届ける暇がねえ。今晩、急に高輪に用事ができたからって、引け過ぎたが一刻でも早いほうがいい、当人に渡して安心させてやりてえとおっしゃって、いまお見えになったばかりだ。部屋へ行きゃあ、剃刀が二挺おっぽり出してあるから、てっきりこんなこっちゃねえかと飛んできたんだよ。間に合ってよかった……金はできたんだよ」
「おや、そうかい?……とんでもないことをしてしまったよ。旦那がもう一足《ひとあし》早ければ、こんなことをするんじゃあなかった」
「どうしたんで?」
「先に一人飛び込んじゃったんだよ」
「だれが?」
「金さん」
「あの貸本屋の金蔵? なあに、よござんすよ。知っているのは、お染さんとあたしだけ。黙っていれば知れる気づかいはありません」
「それでもね、長年の馴染だもの……」
「勘定ができないで居残りをしていたが、とうとう飛び込んで死んだといえば、なんの仔細もありゃあしません」
「そう、おまえさん、黙っててくれるかい? でもねえ、あたしが押して飛び込んじゃったんだから、寝ざめがよくないやねえ。ちょいと、金さァーん、どこへ流れちまったんだよ。もう一度上がって来てちょうだい。ちょいと、金さん、世話を焼かせずに、お上がんなさいよ」
「楼先《みせさき》で客を呼んでるわけじゃあねえから……。こう暗くっちゃ見えないじゃありませんか」
「いないかねえ……身上《しんしよう》も軽けりゃ身も軽いてえが、麻幹《おがら》か寒天《かんてん》みたいな人だね。……ねえ、金さん、じつはあたしも死ぬつもりだったけど、お金ができてみると、死ぬのは無駄だわね。あたしだってそのうち死ぬから、そうしたらいずれあの世でお目にかかりましょう。あたし都合でやめるから、今晩のところはこれにて失礼……」
 金蔵のほうは、桟橋から突き落され、泡はくう、潮はくう、面食らう……。苦しまぎれに、
「助けてくれっ」
と、ひょいと足をつっ張ると、品川の海は遠浅で、水は腰までしかない。金蔵は横になってがばがば水を飲んで|※[#「足+宛」、unicode8e20]《もが》いていただけ……。
「畜生めっ。人を突き飛ばしておいて……。よくも人を騙《だま》しやがったな。どうするかみやがれ、あっ、痛えっ」
金蔵は、元結《もつとい》は切れてざんばら髪、額《ひたい》のところを牡蠣貝《かきがい》で引っ掻いたと見えて、白い着物には泥と血がついてもの凄い形相《ぎようそう》……。悔しいけれど、お染のところへこのまま暴れ込めば恥の上塗りになるので、やむをえず、海の中を岸に沿って足を引きずりながら歩いて、高輪の雁木《がんぎ》から這い上がった。
東海道の往来の道で、駕籠屋《かごや》が暁《あけ》を担《かつ》ごうと客待ちしていた。
「もし、駕籠屋さん」
と、金蔵が呼ぶと、駕籠屋は寝呆眼《ねぼけまなこ》で……見ると腰から下は真っ黒の泥々で、上のほうは白いものを着て、髪は乱れて、額のところへ血が流れている。
駕籠屋は驚いて、
「お化けだっー」
と、逃げ出した。
金蔵は担ぎ手がいないので、駕籠のまわりをぐるぐる回っていると、
「わんわんわんわんっ」
と、犬が金蔵の姿を見て吠えつく。金蔵が駕籠屋の置いて行った息杖《いきづえ》を振り回し、犬を追い散らしながら必死で逃げ出すと、犬も後を追っ駆けて行き……芝まで来ると、犬のほうにも縄張りがあって、ここからは芝の犬にとり巻かれ、とうとう犬の町内送りになる始末。
中橋の自分の家はもう空店なので帰るわけにはいかない。しかたなく親分の家へ……。ところが親分の家では若い者が多勢集まって、賽子《さいころ》でガラッポンと賭事の最中。
「静かにしねえ、ひどく表で犬が吠えてるから……」
と言っている……途端に、金蔵が出し抜けに表の戸をドンドン叩いた。
「手が入《へえ》ったっ」
と、すっとんきょうなやつが怒鳴ったから、蝋燭《ろうそく》をひっくり返す、行燈《あんどん》を蹴とばす、場銭《ばせん》を浚《さら》っていくやつもいて、家の中はどたんばたんと大騒ぎ。
さすが親分だけは、落着いていて、
「静かにしねえか。こんなときこそ静かにするもんだ。騒げばかえっていけねえ。……家主《おおや》だ、家主さんじゃ……ありませんか。そう力いっぱい叩いちゃあいけない、戸が壊れる。家のやつらは寝呆けやがって、この騒ぎでございます。……おい、静かにしねえか。だれだ金盥《かなだらい》を履いて駆け出すのは? なにしろ真っ暗じゃしょうがねえ。……あっ痛えっ、だれかおれの頭をふんづけやあがったな。人の頭を踏台にするやつもねえもんだ。……あの、ちょっと、なにを貸しねえ」
「暗黒《まつくら》で、手真似をしても見えやァしない。なにを貸すんです?」
「なにだ、燧箱《ひうちばこ》だよ……あれェ、ちっとも火が出ねえ。なんだ餅《もち》のかけらが入《へえ》っているじゃあねえか、道理で叩いても火が出ねえと思った。……だれだい? こんな中に餅なんか放り込んどくのは……おい、蝋燭を出しねえ。しようがねえなあ。夜が更けたから大きな声を出すなと言ったのに、てめえたちがあんまり騒ぐから、こんなことになるんだ。……家主さん、いま、開けますから……」
蝋燭を灯《つ》けて、ガラリと戸を開けてみると、金蔵がすごい形相で茫然と突っ立っている。
「だ、だれだあ。……だれか来てくれ、妙なやつが表に立っている」
「へえ親分、今晩は……」
「あ、金蔵か。びっくりさせやがる。もう少しで肝《きも》を潰《つぶ》すところだった。なんだ、そのざまは?」
「へえ、品川で心中のしそこない」
「それ見やあがれ、言わねえこっちゃあねえ。今朝あれほど意見したのに、聞かずに出て行きやあがって……女を殺して、てめえが助かって来てどうするんだ」
「なに、女は助かって、こっちが死に損なった」
「ばかだな、この野郎は……そんなまぬけな心中があるか。……こっちへ入《へえ》れよ。入《へえ》ったら、あとを閉めろ。おい、待てよ、待ちなよ。足が汚れているだろう。手桶に水を持って来てやれ」
「寒くっていけねえ」
「寒いのはてめえの心がけだ……さあ、この水できれいに身体を洗え。ほんとうにてめえくらいばかはねえ……みんな驚くことはねえ。金蔵がまちげえをしてきやがったんだ。……あれっ、たいそう天井から煤《すす》が落ちるが、だれだ? 梁《はり》の上へ上がってるのは?」
「あっしです」
「辰公か。さっき、おれの頭を踏台にしてそこへ上がったのは?」
「手が入ったと言うから、こりゃいけねえと、無我夢中で上がったが、安心したら降りられねえ」
「だらしのねえ格好して、汚ねえ尻《けつ》だなあ。もう少し褌《ふんどし》を固く締めろよ」
「だれか梯子《はしご》を持ってきてくれ」
「梯子なんぞいるか。だれかの肩をかりて降りて来い。始末がつかねえな……だれだ?……戸棚へ首を突っ込んでいるのは? 定《さだ》の野郎か。なにしてるんだ? あれっ、てめえ佃煮をみんな食っちまったな」
「逃げるまえに、腹ごしらえをしようと思って……」
「あきれた野郎だ」
「ついでに小瓶があったから、酒だと思って飲んだらばかに塩っ辛《から》い」
「それは酒じゃねえ、醤油《したじ》だ」
「そうか。しょうゆう[#「しょうゆう」に傍点]こととは気がつかなかった」
「この最中《さなか》に洒落《しやれ》を言ってやがる……だれだ?竈《へつつい》に首を突っ込んでいるのは? あっ、でこ[#「でこ」に傍点]亀か……うーん、こりゃあ、悪《わり》いやつが入《へえ》っちまったなあ……ああ、だめだ、だめだ。はずみで入っちゃったんだ。引っぱったって抜けない、頭の鉢がひらいてるんだから……茶釜《ちやがま》をとって上へ抜いてやれ。いいか、無理しちゃあいけないよ。頭が壊れるのはかまわねえが、竈が壊れちゃあ困るからな……縁の下で、だれかなにか言ってるぜ」
「助けてくれ」
「虎《とら》ンベの野郎だ。縁の下なんかに入ってどうした?」
「親分……」
「男のくせに泣いてやがる」
「へえ、親分、もうあっしは助かりません。親不孝した罰《ばち》です。おふくろを呼んで来てください」
「どうしたんだ?」
「縁の下へ逃げるつもりで、はめ板がはずれて糠《ぬか》味噌桶の中へ落ちた……」
「大丈夫か?」
「へえ、落っこったとたんに、急所を打って、きんたま[#「きんたま」に傍点]がとび出しちゃった。とても助かりません」
「なに、きんたまがとび出した?」
「大事なもんですから、しっかり持ってます」
「そいつあ気丈だ。見せてみろ……ばかっ、こりゃあ、茄子《なす》の古漬けだ」
「なんだい、茄子かい……あはははは、なるほどちげえねえ。自分のきん[#「きん」に傍点]はちゃんとありました」
「あれっ、いやに臭《くさ》いね。こりゃあ、糠味噌の臭いとちょっとちがうぞ。……なにをっ、与太郎が手水場《ちようずば》へ落っこったあ?」
「親分……っ」
「さあ、こりゃあたいへんだ。待てよ、いま上げてやるから……」
「へっへっへ、親分、もう上がってきた」
「ばかっ、上がって来ちゃあいけねえ。さあ、洗ってこい。……しようがねえやつらじゃあねえか。どいつもこいつも意気地がねえ。……みんな、伝兵衛さんを見ろよ。さすがはもとはお武家さまだ。この騒ぎにびくともせず、ちゃんと座っておいでなさる」
「いや、お誉《ほ》めくださるな。拙者はとうに腰が抜けております」
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