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落語特選03

时间: 2019-09-22    进入日语论坛
核心提示:小言幸兵衛麻布の古川の家主《いえぬし》で幸兵衛さん。夜が明ければ長屋を一まわり叱言を言わないと飯が旨くないという、人呼ん
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小言幸兵衛

麻布の古川の家主《いえぬし》で幸兵衛さん。夜が明ければ長屋を一まわり叱言を言わないと飯が旨くないという、人呼んで、小言幸兵衛。
「おいおい、魚屋、なにしてるんだよ。魚を拵《こさ》えるのはいいが、腸《はらわた》をそうむやみに撒《ま》き散らしちゃ困るじゃねえか。蠅《はえ》がたかっていけねえ……糊屋のばあさん、そんなとこで赤ん坊に小便やらしてちゃあいけねえな。あとが臭《くせ》えじゃねえか……あっ、臭えといえば、どこの家だい? 焦げ臭えや、飯《めし》が焦げてるよ。どこの家だ? 熊公んとこだな。のべつあすこじゃ飯を焦がしてやがら……それで熊公のやつ色がまっ黒なんだ……おい熊さん、飯が焦げてるよ……あれ、だれだい? 厠所《はばかり》で唄ってるのは? ひどい声だねえ。当人は唄だと思ってるんだろうが、知らねえやつが聞いたら悲鳴とまちげえるじゃねえか。厠所《はばかり》だけあって、あれは黄色い声というんだな。おいおい、だれだか知らねえが唄をやめろ。赤ん坊がひきつけ起すぞ。……どこだい、この煙《けぶ》りは?……芋屋《いもや》の平兵衛の家だろう。きまってやがら、しようがねえな。あああ、こんなとこで犬が交尾《つる》んでら、もっと端《はじ》のほうへ行け、端のほうへ……ほんとうにどいつもこいつもあきれけえったやつらだ……」
長屋の住人のほうは、もう慣れてしまって別に苦にしないが、新しい借り手が来ても、言うことが気に入らないと、すぐ叱言を言って帰してしまう。そんなことだから「貸家」と貼った札のはがれたことがない。こういうとこへまた、知らないで入って来る者もいる。
「おい、ばあさん、玄関にだれか来てるよ。……へい、おいでなさい。家主の幸兵衛はあたしだが、なにかご用で……」
「この先に二間半間口の家が一軒あるが、あれを借りたいと思うが、店賃《たなちん》は?」
「なんだと?」
「表の貸家を借りたいんですが、店賃はいくらで?」
「だれが貸すと言った」
「へえ、塞《ふさ》がったので?……」
「おまえさんは口の利きようを知らない。いいか、家を借りたければ借りたいで、それなりの掛け合いのしかたがあるだろう」
「どんな?」
「あそこに貸家がありますが、いかがでございましょうぐらいなことを言ってみろ。それで貸すといわれたら、それでは店賃はおいくらでございましょう、と聞くのが順序じゃねえか」
「さようでございますか。貸してくださいますか?」
「貸すための貸家だから、貸家という札が貼ってある。けれども気に入らなければ貸せないというわけだ」
「そんなこと言わないで、貸してください」
「わたしもどうかして貸して上げたい。気に入る入らないと言ったところで、おまえさんを養子に貰うわけじゃあない。けれども表店を借りるとなると、なにか商売をするのだろう。もっとも無商売はいやだ、ただ近所に類のない稼業を置きたい。というのは、古く住まっている者に、同じ商売があって、それがために新規に来た人が繁昌しなくてはいかず、また古いほうの店がさびれてもおもしろくない。お互いの不利益だからね、ところで、おまえさん、商売はなんだ?」
「豆腐屋でございます」
「うん、そりゃいいや。この界隈《かいわい》に豆腐屋がねえから……で、家内は何人だ?」
「かかァが一人ございます」
「かかァが一人? じゃあ、おまえさんは女房を幾人《いくたり》持つんだ?」
「かかァは一人に決まっております」
「そうだろう。一人と言うだけ余計だ。無駄口きくやつに利口なやつはいねえ」
「どうも、いちいち叱言を言われちゃあ……。では、わたしに女房」
「子供はないのか?」
「ええ、食いもの商売に子供があっちゃあ往生でございますが、いい按配《あんばい》に子供ができません」
「なにを言ってんだ。その一言で、もう店を貸すことはできねえ」
「どうしてなんで? どこの家主だって、子供があると、家を汚し、壁に穴をあけるとか板の間を傷つけるとか、それがためにどこへ行っても、子供がないといえば、よろこんで貸すでしょう?」
「そんなばかな家主といっしょにするな。いいか、子供は子宝というくらいで、金を山と積んだって出来るもんじゃねえんだぞ。その宝がないのがどうして自慢になるんだ? しかし、まあ、夫婦になって半年か一年ならば出来ねえってこともあるからな……いついっしょになったんだ? そのかみさんと?」
「えー、かれこれ八年になりますか……」
「なんだと、八年もいっしょに暮らしてて子供ができねえ? そいつあいけねえや。いいか、三年添って子なきは去るべし、と言うだろう。三年間も子供ができねえ女は、離縁してもいい、されてもあたりまえだということになってるんだ。八年も子供ができねえような、そんな日陰の胡瓜《きゆうり》みてえな女は追い出しちまえ。そのかわり、あたしが下っ腹のあったけえ、丈夫で、四季に妊娠《はら》むようなかみさんを世話してやるから、独身《ひとりみ》になって引っ越して来い」
「なにを言うんでえっ、この逆蛍《ぎやくぼたる》」
「な、なんだ。いきなり大きな声を出しゃあがって、……ばあさん、逃げなくっていい、逃げるんならいっしょに逃げるから……逆蛍とはなんだ?」
「蛍は尻が光ってるが、てめえは頭が光ってるから逆蛍だって言うんだ。それくれえのことわからねえのか、このあんにゃもんにゃ[#「あんにゃもんにゃ」に傍点]め」
「あんにゃもんにゃ[#「あんにゃもんにゃ」に傍点]? なんだい、あんにゃもんにゃ[#「あんにゃもんにゃ」に傍点]てえのは?」
「そんなこといちいち知るもんか。黙って聞いてりゃあなんだと? かかァと別れて独身《ひとりみ》で引っ越して来いだ。なに言ってやんでえ。てめえみてえなやつに別れろと言われて、へえ、さようでござんすかと、そんなたやすく別れられるような仲じゃあねえんだ。『おめえじゃなくちゃならねえ』『おまはんといっしょになれなくちゃ死んじまうわ』と、好いて好かれて、好かれて好いて夫婦になった仲だい。それなのに……それなのに」
「なんだ、こいつ、涙ぐんでやがらあ」
「それほど惚れて惚れられた仲を……別れて、この店《たな》へ引っ越して来るほど、弱え尻はねえや。このくたばりぞこないっ」
「なんて野郎だ。あきれて口もきけねえ。ぽろぽろ涙こぼしてかかァののろけいって、揚句の果てに毒づいて行っちめえやがった。……あんなばかはないねえ」
「えー、ごめんくださいまし」
「よく人が来る日だな……はい、はい、なにかご用で?」
「ええ、お家主さまの幸兵衛さまのお宅は、こちらさまでございますか?」
「おい、ばあさんや、風向きが変わってきたよ。こんどはたいへんに人間らしいのが来たよ。さっきの客はなんだい、急に怒り出して、あと開けっぱなしで行っちまいやがった。もっとも後から来る人が開ける世話がなくていいが……はい、てまえどもですが、どうぞ遠慮なくこちらへお入りください」
「それではごめんこうむります。はじめてお目にかかります。あなたさまが幸兵衛さまで?……あたくしは、ちょっと通りがかりのものでございますが、表の角《かど》に二間半間口の二階家で、まことに結構なお借家がございますが、あれは、てまえどものような者にお貸しくださいましょうや、または、他々《ほかほか》さまからお約定済《やくじようず》みでございましょうや、この段を伺いたいと存じましてお邪魔しましたような次第で……」
「ばあさんや、布団を持っておいで……さあ、さあ、あなた、どうぞおあてください。えらいねえ。いや、恐れ入った。あなたは学問があるねえ。お世辞というものは、世の中の道具だな。『表の角に結構なお借家がございますが』は、少し面目なかった。あまり結構な借家じゃないが、そう言ってくだされば、あたしだってうれしいや。それに、そのあとがうれしかったね。『てまえどものような者にお貸しくださいましょうや、または、他々さまからお約定済みでございましょうや、この段を伺いたい』ときたね。感心しました。この段を伺うなどは、生やさしい学問で伺えるもんじゃあないよ。九段なら、突きあたりが招魂社《しようこんしや》で、怪談[#「怪談」に傍点]なら円朝だが……」
「恐れ入ります」
「別に恐れ入ることはありませんよ。あたしゃ、あなたみたいなかたをお待ちしてたんだから……ばあさんや、早くお茶を入れておくれ……うん、お茶だけじゃ愛嬌がねえな、なにかないかな、羊羹《ようかん》がある? 出しとくれ、なに古い?……まあ、なんでもいいから、愛嬌に持ってきな。どうせこの人は食う人じゃねえんだから……ねえ、そうでしょ? それみろ、食わねえてえじゃねえか……じつはねえ、おまえさんのような人に貸さなければ、長屋が立ち腐れになってしまう。念のため二つ三つ聞いてみたいが、気に入ればお貸しするし、気に入らなければ貸すわけにはゆかない。店《たな》はこっちのものだ」
「へえ、ごもっともさまで」
「……失礼だが、ご商売は?」
「はい、仕立て職を営《いとな》んでおります」
「なるほど、仕立て屋さんだからいとなむ[#「いとなむ」に傍点]ときたな。提灯屋さんなら張りなむ[#「張りなむ」に傍点]だし、俥屋さんなら引きなむ[#「引きなむ」に傍点]だ」
「恐れ入ります」
「そう、あなた、いちいち恐れ入ることはありませんよ。で、ご家族は?」
「はい、てまえと妻《さい》に伜が一人の三人《みつたり》暮らしでございます」
「言うことにそつ[#「そつ」に傍点]がないや。言葉が少くて要領をえてるね、どうも……で、伜さんというのはいたずら盛りじゃないか?」
「いえ、もう二十二になります」
「それはまた早い子持ちだ、おまえさんは、三十八、九……四十、くらいだろうが。それにしては早い子持ちだ。早く子を持つと、早く苦労をするというが、そのかわりまた早く楽ができる。そいつは結構だ」
「ありがとうございます」
「で、伜さんのご商売は?」
「はい、やはり仕立て職のほうを……てまえが仕事を教えております」
「どうだね、伜さんの腕のほうは?」
「おかげさまで……。根が器用で、ろくろく修業もいたしませんが、近ごろ、お得意さまでは、てまえよりも伜へという註文《ちゆうもん》が多くなってまいりました」
「ほう、そいつあよっぽど腕がいいんだな。あなたももうじき楽隠居だな。で、夫婦仲も睦《むつ》まじいかね」
「諍《いさか》い一ついたしたこともございません」
「伜さんは年齢《とし》が二十二で、仕事がうまいのはわかったが、なにか道楽とか、女遊びなんぞしないのかい?」
「いえもう、夜遊び一ついたしませんで、いたって堅物《かたぶつ》でございまして……」
「まずそれでは嫁とり盛りだ」
「嫁のほうは方々へ口をかけていますが、どうも帯《おび》に短し襷《たすき》に長しで……、いまもって独身《ひとりみ》でございます」
「それは心配な話だ、もっともこっちで気に入ったと思うと、向うでいけず、当人の評判は近所で聞いてみてもいいが、兄弟が悪いとか親がいけないとか言ってね。……まあまあ早く越してお出で、相談ができるよ。あたしはつき合いが広いから方々へ頼んでおくと、嫁の世話といってもたいしたことはできないが、橋渡しぐらいはしようじゃあないか」
「ありがとう存じます。なにぶんお願い申します」
「しかしなんだよ。百人見ても気に入らねえといえばそれまでだ。こればっかりは、気に入らなかろうけれども一人でいちゃあためにならねえから間に合せに持ってみろ、また来年取り換えてやろうというわけにはいかねえ。来る嫁のほうも、生涯の夫と決めるのだから、いく人《たり》見ても気に入らねえ者は気に入らねえ、こっちがよければあっちがいけない、いま言う長し短しだが、さて二十二で独身《ひとりみ》では……この界隈《かいわい》にはまた娘っ子が多いと来ているんだ、さあ心配なことができたな、このまちがい[#「まちがい」に傍点]ばかりは取返しがつかねえ、じつに心配だ。もっとも心配といったところが、おまえの顔を見たところじゃあ、まあ安心の顔だが……親子だから似ているだろうな?」
「へえ、安心の顔は恐れ入りましたな。生憎《あいにく》とてまえに似てませんで、みなさまがよく鳶《とび》が鷹《たか》を生んだ、などとおっしゃいます」
「鳶が鷹を……うーん、よっぽど男っぷりがいいと見えるな。いや、あなただって決してわるかあないよ。といって、別にいいってほどじゃあないけど」
「いま住んでおります近所のかたがたは仕立て屋の伜は、色は白いし、まるで役者のようだなんて申しますくらい……」
「ま、ちょっと待ってくださいよ。ええと、ここんところまでは、とんとんとんとほんとうによかったんだが、ここが面白くねえなあ」
「どうかしましたか?」
「どうもこうも……年が二十二で、男っぷりがよくて、腕がいい。それで独身と来ちゃあ……ばあさん、羊羮は少し見合せなよ。どうも話がちょっと困ったことになってきた」
「いかがでございましょう、お長屋のほうは……」
「それが困ったことになる……。おまえさんの伜の名はなんというね」
「六三郎と申します」
「ああ、言わないこっちゃあない。なんだってそんな色男の名をつけたんだ。六三郎というと、昔からおその六三、かしく六三、みんな碌《ろく》なことはしねえ、心中する」
「へえへえ」
「重ね返事はよくないな。六右衛門とか何とかしておけばいいじゃあねえか。六三郎は色男の名だ。おその六三は深川の洲崎堤《すさきづつみ》で情死するよ。またこの近所に、おそのというのがいるよ、因果と……。おまえさんが引越して来ようというちょうど筋向うに、古着屋がある。ここの一人娘で、おその。……あの娘はいくつになるか、ばあさん知ってるかい?……え? 十九。これが麻布《あざぶ》小町といわれる器量よしだ。十九、二十、二十一、二十二か伜は、いよいよいけねえ、四目《よめ》に当る。四目十目《よめとおめ》といって第一年回りが好くない。向うが一人娘こっちが一粒種、とても無理じゃあねえか」
「へえ、どういうものでございますか、てまえどもはこちらさまへ縁談のことで伺ったのではございません。お店《たな》を拝借に出ましたのでございますが……」
「貸せないよ」
「どういうもので?」
「どういうものとはなんだ。みすみす長屋に心中ができるじゃあねえか、それだから貸すわけにいかねえ」
「心中をだれがいたします?」
「いたします? おまえのところの伜が六三郎。向うが古着屋でおその。ちょうど一対《いつつい》。仕立て屋と古着屋とはごくこころやすくなりやすい商売じゃないか。でもね、はじめのうちは遠慮があるからよそよそしいけれど、毎日顔を合せているうちには、そうそう黙ってばかりはいられない。お早うございますとか、いいお天気でございますとか、しなくもいい挨拶を交わすようになるだろう」
「ええ、そうなるでしょうな」
「そうなるでしょうなんて、暢気《のんき》に構えてる場合じゃないよ」
「え?」
「ある日、古着屋夫婦が、親戚に不幸があったんで家を留守にするなあ。あとに残ったのは娘のおその一人。で、おそのだって、一人でぼんやりしてるのはつまらねえ。針箱を出してきて、ちくちく一人で縫いものをはじめる。それを覗いたのがおまえさんの伜だ」
「へえ、覗きますか?」
「覗くとも、ずうずうしい野郎だから……」
「いいえ、てまえどもの伜に限って、そのようなことは……」
「それが親ばかってやつだ。おまえさんの伜は、かねがねおそのの器量に目をつけてたから、そのおそのが一人で留守番してるのを見逃がすわけがねえ。ごめんくださいと用もねえのに入っていかあ」
「へえ、へえ」
「おそのがふと顔を上げてみると、相手は仕立て屋の伜だから、本職のまえで裁縫するのもきまりがわるいってんで、縫い物をやめて片付けはじめる。すると、おまえさんの伜の言うことが気障《きざ》だなあ。『おや、おそのさん、あたしが参ったので、お仕事をおやめになるんですか。お邪魔なようなら、また後で伺いますから……』てんで、これがおそのの気を引く気障なせりふだと言うんだ。どうにもいやみな野郎じゃねえか」
「いえ、てまえの伜はそんな……いたって堅物でございます」
「それが親ばかだと言うんだ。堅い、堅いといったって年ごろだよ。寝食をともにしながら、自分の伜のことがなにひとつわからないとはねえ。……で、おそのだって、ふだんから憎からず思ってる仕立て屋の伜を帰したくないから、『あら、せっかくおいでになったんですもの、ゆっくりしていらっしゃいましな……あのう……いまお針の稽古《けいこ》をしておりまして、どうも羽織の襟《えり》がうまくいかなくて、どうしたらようございましょうか、ちょっと見ていただけません?』と話を持ちかけらあ。ここだよ、おまえさんの伜のいけずうずうしいところは……『はあ、どこでしょう、ちょっと拝見を……』と言ったかと思うと、のこのこと座敷へ上がっちまう。じつにどうもはしたないったらありゃあしねえ……娘一人の家へなんだって上がり込むんだい?」
「あのう……まことに申しかねますが、お話がだいぶお長くなりますようで、てまえはほかに用もございますから、ちょっと用達《ようたし》に行ってまいりたいのでございますが……」
「おまえさん、向うさき見てものを言うがいいや。こういう揉《も》め事の種を撒いておきながら、いまさら用達に出かけるなんてとんでもねえこった……ばあさん、かまわねえから表へ心張り棒をかってしまいな」
「へえ、これは驚きました」
「これくらいのことで驚いてちゃいけねえ……で、おまえさんの伜がおそのの縫い物をみてやらあ。でも縫い物をみているうちはいいよ。これがふだんから惚れあってる若い者の差し向い、猫に鰹節《かつぶし》てえやつだ。どうしたってくっつくなあ」
「えっ?」
「いや、くっつくってんだよ」
「そんなばかな……」
「なにがばかだ。昔っから言うだろ、遠くて近きは男女《なんによ》の道、近くて遠いは田舎の道……で、一度はいい、二度はいい、三度はいいといっているうちに、女は受け身だ。腹のほうがぽこらんぽこらんぽんぽこらんとせり出してくる」
「はあ、脹満《ちようまん》で?」
「ものの道理のわからねえ男だ。かわいそうに、おそのがおまえさんの伜の種《たね》を宿しちまったんだ。隠しに隠していたんだが、腹のぐあい、息づかいのようす……親に知れずにゃあいないねえ。とうとう両親に知れてしまう。『いったい、だれとこんなことを……』『お父さん、お母さん、申しわけありません。じつはお向うの仕立て屋の若旦那と……』顔をまっ赤にして白状する。で、これを聞いた古着屋夫婦が怒ると思うだろ? ところが安心をおし、縁てえのは不思議だね。これが怒らない。『ああそうだったのかい。仕立て屋の伜なら申し分のない相手だ。ばあさん、どうだい、婿《むこ》に来てもらっちゃあ』『おじいさん、結構な話じゃありませんか』てんで、古着屋から伜をもらいに来ることになる。まあ、出来ちまったことはぐずぐず言ってもしかたがねえ。悪いと思うんなら、おまえさんも思い切って、伜をやっちまうんだな。早くおやり」
「いえ……あのう……まだてまえどもでは引越してまいりませんので……」
「そんなことはどうでもいいんだ。人の娘を傷物にしておいて、どうするんだい? 婿にやれ、すぐに……」
「婿にやれとおっしゃいますが、それはてまえどもといたしましても困りますんで……」
「どうして?」
「なにしろたった一人の息子でございますから、嫁をとりまして相続をさせなくちゃあなりません。婿にやるというわけにはいきかねますが……まあ、出来たことはいたしかたございませんから……いかがなもんでございましょうか、そのおそのさんとやらをいっそ、てまえのほうへ頂く……」
「おいおい、欲ばったことを言っちゃいけないよ。なんでも頂けば損はねえと思って……猫の子を貰うんじゃないよ。そうはいかない。向うだって一人娘だよ。養子をとる跡継娘だ。おまえさんのところへはやれません」
「てまえどもでも嫁をとりますんで、一人息子……やれません」
「じゃあ、おまえさんは向うへやらない、向うはおまえさんのところへやらない……てんで親たちは頑張ってる。それでことが済むかどうか、その間に入って、できてる若い者《もん》はどうなる?」
「まあ、ない縁だと思ってあきらめてもらうよりしかたがございません」
「あきらめてもらうよりしかたがねえ? よくそういう口がきけるな、この薄情者っ。当人たちの身にもなってみろ、そんなにお手軽にあきらめがつくかい。世間体があるから、娘のほうは当分お屋敷へでも奉公さしてと、生木《なまき》を割《さ》くということにもなる。ああ、双方の親たちがこんなに強情を張ってたんじゃあ、所詮、この世で添えないから、あの世へ行って、蓮《はす》の台《うてな》で添いましょうと、雨蛙《あまがえる》みたいなことを言う、ここで心中にならあ」
「はあ、いろいろと骨折りで……、それにしてもえらい騒ぎになりましたなあ」
「これというのも、おまえさんが悪いからこうなったんじゃねえか。今更《いまさら》になって悔《くや》むな」
「申しわけありません。で、心中の模様はどういうことになりますか?」
「ま、いうまでもない。心中と来れば、洲崎《すさき》、首|縊《くく》りは食違《くいちが》い、追剥《おいはぎ》は護持院ヶ原と昔から決まってる。おその六三、名前からして、深川の洲崎堤でなければ本寸法じゃあないな」
「あんなところへ参りますか」
「心中とくれば、幕が開く……」
「え、幕が開きますか?」
「ああ……はじめに浅黄《あさぎ》幕というやつだ。幕が開くと、向うは一帯の土堤《どて》だ」
「鮨《すし》の」
「鮪《まぐろ》じゃあねえ。洲崎の土堤だ、洲崎堤を見せて土堤の向うに浪《なみ》の遠見が見える」
「なるほど」
「で、下手《しもて》に出っぱって丈の高い土堤がある。葛西念仏という鳴物、ジャンジャンドンドン、迷子やーい、というのが幕開きだ」
「たいへんなものですな」
「そこへ長屋の連中をひきつれて、『迷子やーい』てんで、家主が……まあ、おれが出てくらあ。この家主の役なんてものは、あまりいい役者はやらねえもんだ」
「如何にもごもっともさまで……」
「つまんねえことをうけあうない……で、舞台中央へくると、なにか書いた紙切れが落ちている。これを拾い口上という。浄瑠璃名題《じようるりなだい》、東西東西《とざいとうざい》」
「なかなかご器用でいらっしゃいます」
「なになにと外題を読んで、太夫連名|常磐津某《ときわずなにがし》、三味線岸沢|某《なにがし》、相勤めまする役者、なんのたれと読み終って、なんだこれは、芝居の口上ぶれだ。みなさんご苦労だが、もう一遍回って捜そうじゃないか。さあ行こう行こう、迷子やーい、ジャンジャンドンドンと騒々しく揚幕《あげまく》に這入《はい》る。浄瑠璃床の下に拍子《ひようし》木を差し上げて背中を見せて立っている男がある」
「なるほど」
「狂言方《きようげんかた》というやつだ。チョンチョンと、柝《き》を刻むと、土堤が引っ繰り返る」
「危のうございますな、地震で」
「地震じゃあねえ。心配するな、芝居の道具だ。紙に描いてある土堤が崩れる……というとおかしいが、パラリと蝶番《ちようつがい》が二つに折れるだけだ」
「なるほど」
「朱塗の蛸足《たこあし》の見台《けんだい》が三つ、三味線が二挺、一挺は枷《かせ》が掛って上調子《うわぢようし》、三味線弾き二名、太夫三名、以上五人が黒の着付けに柿色の裃《かみしも》、土堤の中で太夫がピンと鼻をかんで、湯を飲んで控えている。三味線弾きは二の腕をなめて、胴懸《どうがけ》に腕を擦《こす》りつけて待っている。土堤がパラリと返る途端に、テンツントン、チントリリンシャン」
「ご器用でいらっしゃいますな。三味線などは、じつにうまいもので……」
「やりたくもないけれども、だれも手伝ってくれねえからしかたがねえ、一人でやっちまう」
「はあ、お手数《てかず》をおかけします」
「この置浄瑠璃《おきじようるり》というのは、太夫三味線弾きとも舞台に出ているのは五人きりだ。道具を見せただけで、まだ役者は一人もいない。太夫と三味線弾きのもうかる[#「もうかる」に傍点]ところだ」
「よほど儲かりますか?」
「銭金じゃあねえ、芸が引き立つところだ、だんだん文句をたたんで来て、
※[#歌記号、unicode303d]覚悟も対《つい》の晴れ小袖《こそで》……
チチンチンチンチンチンと合方《あいかた》になるとバタバタと来る」
「バタバタというのはなんでございます」
「拍子木で付け板を叩く、人が駈け出して来る音だな。白塗の娘が先立てで駈けて来て……古着屋のおそめだ。対模様《ついもよう》の小袖|晒《さらし》の手拭で握飯のように顔を三角にして、手拭の端を口にくわえ、バタバタと来ると、石かなにかに躓《つまず》いたという思い入れで、花道の七三のところで、ばったり転ぶ」
「へえー」
「袖で顔を隠し……あとから追手《おつて》のかかる身の上、人目を憚《はばか》るために顔を隠す、しかし転んだら直ぐに起きたらよさそうなものだが、転んだまま暫時《しばらく》起き上がらない」
「よほど強く打ちましたか?」
「うるせえな、黙って聞いておいでよ……そこへ出てくるのが、おまえさんの伜だ。女とおなじような身装《なり》をして、尻をはしょって、足にまで白粉《おしろい》をつけて、じつにどうもにやけた野郎だ。晒《さらし》の手拭で頬《ほお》かぶりをして、幅の広い帯を締めて鮫鞘《さめざや》の脇差しを一本差して、駈け出して来るんだが、出て来てきょろきょろしているくせに、どういう訳だか女に躓く……向うへポンとこいつを飛び越してあたりをまたきょろきょろして、いたって薄情な野郎だ。とたんに上下で顔を見合せ、『そこにいるのはおそのじゃないか』『そういうおまえは六三郎』というやつが道行の紋切形だ、チチンリン、オーイ」
「たいへんなところへおわい屋が参りましたな」
「おわい屋じゃあねえ。三味線弾きの掛け声だ」
「それからどういうことになります」
「まあ浄瑠璃の間は花道で二人ながら、踊りを踊っている。これから死ぬというのに踊りを踊るのはおかしいが、もちろん死ぬくらいだから本性《ほんしよう》じゃあねえ、いくらか気が狂ってるな」
「さようでございますかな」
「これからいよいよ本舞台へかかり、世迷言《よまいごと》をさんざん言う、ぐちっぽい野郎だ。ほどよいところで、本《ほん》釣鐘《つり》がゴーンと鳴る。そこで、おまえさんの伜が気取って『いま鳴る鐘は、ありゃあれ七刻《ななつ》、ななつの鐘を六つ聞いて、残る一つは未来へみやげ、覚悟はよいか』てえと、おそのが目を瞑《つぶ》って手を合せて、『なむあみ……』そうだ。宗旨を聞いてなかった。おまえさんの家《うち》の宗旨はなむあみだぶつか?」
「いいえ、法華で……」
「法華? 南無妙法蓮華経かい? おまえさんてえ人は、いちいち物事をぶち壊すなあ。そりゃ法華はありがてえ立派なお宗旨だよ。しかし、どうも心中するには陽気過ぎていけねえな」
「はあ」
「どうもしかたがない。ここは真宗の流儀だ、流儀というのはおかしいが、覚悟はよいかと来たら、南無阿弥陀仏……と、一つ宗旨を変えておくれ」
「それはまあご相談の上、いかようにもはからいますが」
「覚悟はよいか、南無阿弥陀仏……カンカンカンと伏鉦《ふせがね》というやつを打ち上げる。太夫のほうじゃあ喉《のど》を湿《しめ》して待っているところだ。なんまいだあ、なんまいだなんまいだ……あれは霊岸《れいがん》の常念仏《じようねんぶつ》……」
「どうにも気分がわるくなって参りました。まだ越して参りませんのに……」
「越して来れば、この騒動になるのだ。娘の喉元からぶっつり刺して、上に乗っておまえの伜が腹を切ってしまうじゃあねえか。これじゃ、店《たな》貸すわけには行かねえから、帰ってくれ、帰れっ」
仕立て屋は驚いて飛び出して行った。
 入れちがいに草履を履いて、半纏一枚、年ごろ三十五、六の職人風の男。足で格子をがらっと開けると、
「やい、家主の幸兵衛ってえのはうぬかっ」
「へえ……うぬで……ございます」
「うぬでございます?……なに言ってやんでえ。この先にうす汚ねえ貸家があるが、あいつを借りるからそう思えっ。店賃なんか高《たけ》えことぬかすと、こん畜生め、叩き壊して火をつけるぞ」
「おっ、なんて乱暴な人が来たんだ……おいおい、ばあさん、怖かないよ、そんなとこでふるえてちゃあしょうがねえ……ええ、ところで、ご家内はおいくたりで?」
「おれに山の神に道陸神《どうろくじん》に河童《かつぱ》野郎だ」
「ほう、化け物屋敷ですなあ……なんです? その、山の神とか、道陸神とかいうのは?」
「山の神はかかァで、道陸神はおふくろで、河童野郎は餓鬼《がき》のこった」
「いや、どうもすごい話で……で、おまえさんのご商売は?」
「鉄砲|鍛冶《かじ》だ」
「へえ、道理でポンポン言いどおしだ」
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