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落語特選05

时间: 2019-09-22    进入日语论坛
核心提示:大山詣り大山は神奈川県伊勢原市。丹沢山塊の東端にあり、標高一二五三メートル。別名を雨降《あめふり》山。山頂に大山阿夫利神
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大山詣り

大山は神奈川県伊勢原市。丹沢山塊の東端にあり、標高一二五三メートル。別名を雨降《あめふり》山。山頂に大山阿夫利神社、中腹に下社がある。江戸中期、商売繁盛とバクチに御利益があるというので、江戸っ子の講社連中が白衣振鈴の姿でお参りした。
[#地付き](佐藤光房『東京落語地図』より)
「今年はなんだな、去年みてえなばかっ騒ぎをして先達《せんだ》っつぁんに迷惑をかけねえように気をつけようじゃねえか」
「そんなことあ駄目だよ。いくら言ったって酒飲みゃあ気が荒くなってはじまるんだから……」
「だからよ。酒飲んでぶうぶう言やがったら、その野郎から二分っつ取ろうじゃねえか」
「二分取られちゃァ大変だ」
「それでも聞かねえで、暴れたりなんかしやがったらその野郎をとっ掴《つか》めえて、みんなで坊主にしちまおうてんだ。どうでえ」
「おう、なるほど、こりゃいいや、なあ? 坊主ンなるのはいやだからな、じゃあみんな温和《おとな》しくするだろう。どうだい、みんな」
「おう、よかろう」
と、講中で約定《やくじよう》して、大山詣りへ揃って出かけた。
お山のほうは無事に済んで、これから江戸へ帰る途中、神奈川宿へ泊まることになった。
さあ、明日は江戸へ入るというので気のゆるんだところへ、前祝いに一杯と酒が入ったから無事にはおさまらない……。
「先達っつぁん、先達っつぁん。吉兵衛さん」
「大きな声だね、どうも……はいはい、こっちだよ」
「冗談じゃねえやなあ。おまえさん、高慢な面《つら》ァして、その帳面なんかつけていちゃしょうがねえじゃねえか」
「なに、別に高慢な面なんぞしちゃいないが……いま日記をつけているところだ」
「肉桂《につき》も薄荷《はつか》もあったもんじゃねえやな。熊のやつが暴れてるじゃねえか……湯殿《ゆどの》でよ」
「またはじまったんだ、しょうがねえな。あれはね、酒を飲むてえとたち[#「たち」に傍点]が悪いんだから、まあまあ、うっちゃっときなよ」
「そうはいきませんよ。ひでえんだから……」
「どうした?」
「いえね、あっしと留と湯へ入《へえ》っているところへ、あの野郎が、へべれけ[#「へべれけ」に傍点]に酔っぱらって入《へえ》って来やがって、『おれも入れろ』ときかねえんで、『こんな狭《せめ》え湯に三人も入《へえ》れるもんか。すぐに上がるから、待ちねえ』と、こう言ったら、あの野郎は『待っちゃいられねえ』と、あのでけえ図体《ずうてえ》で割り込んで来やがったんで……とても窮屈《きゆうくつ》で入《へえ》っちゃあいられねえから、『この野郎、なんて乱暴なんだ』とひょいと立つてえと、鉄砲(風呂釜)で背中を火傷《やけど》しちゃったあ。それからこっちも忌々《いまいま》しいから、野郎の背中を小突いてやったんです。すると『なにもてめえが買切った湯じゃああるめえ。文句があるなら表へ出ろ』とこう言いやがる。『なにを言ゃんでえ。文句があるなら表へ出ろってのはこっちの言い草だ。てめえこそ先へ出ろ』って言うと、あん畜生っ留の頭を蹴《け》とばして出やがったんで……」
「なんだ、留公、おめえ、頭を蹴とばされたのか?」
「へえ、二つね」
「二つ? おめえ、暢気《のんき》に数えてたのか?」
「別に数えていたわけじゃねえんですが、こっち側を蹴とばしたんで、こっちへ頭をかたづけると、また、こっち側をぽかりと蹴とばしやぁがった。『足癖のわるい野郎だ。気をつけろ』って言ったら、『蹴られて悪いような頭を、なんだって湯の中へさげて来やがったんだ。そんなに大事《でえじ》なもんなら帳場へ預けて入《へえ》れ』とこう言やがる。おれの頭は取りはずしができねえや」
「あたりめえだ」
「あっしも悔しいから、拳固《げんこ》を振り上げて……」
「殴ったのか?」
「殴られちまった」
「だらしがねえなあ……で、留公が殴られるのを、民公はだまって見てたのか?」
「いいえ、あっしだって男でさあ、そばにあった小桶を振り上げて……」
「殴ったか?」
「殴ろうとしたら、桶をひったくられて、あべこべに殴られた」
「なーんだ、おめえもか……二人とも弱えじゃねえか」
「なーに、向うが強すぎるんで……その揚句、そこらにある物を叩きつけやがるんで、どうにも手がつけられねえから引き上げて来たんですが、あっしたちァ腹を立てましたから、約束《きめしき》の二分、銭《ぜに》を出します。そのかわり、熊の野郎は坊主にしちまいますから承知してておくんなさいよ」
「まあまあまあ、ま、それは少し待っとくれ。そりゃあ約束《きめしき》は約束《きめしき》だけど、坊主にするってえのは穏やかじゃないよ。そこんところは、ま、なんとでもおめえたちの顔が立つようにするから、まあ、こらえて……」
「そうはいきません」
「この講中の中から坊主を一人こしらえて江戸へ連れて帰れない。そこんところはまあ、我慢して……」
押し問答をしていると、
「先達っつぁーん、先達っつぁーん、吉兵衛さーん」
と呼ぶ声がした。
座敷にお膳が出て、芸者が揃ったので、先達が席についてくれないと宴会がはじまらないという。吉兵衛さんは、不承不承、二人を残して座敷へ行ってしまった。
留と民の二人は、腹の虫がおさまらず、帳場へ行って剃刀《かみそり》を借り出して、熊さんの酔い潰れている二階へ上がって行った。
「あれ、この野郎、さんざっぱら暴れてくたびれたとみえて、ひっくりけえってるぜ。……あっ、しまった。水を忘れちまった。坊主にするったって、頭を湿《しめ》さなくっちゃあいけねえ」
「面倒臭えや。枕元に徳利があらあ、その酒をぶっかけろい」
「うふっ、酒か……てめえの飲む酒で頭を湿されて坊主にされりゃあ世話あねえや。……うん、なかなかいい酒だ。こりゃ、うめえや」
「おいおい、てめえの腹んなかを湿したってしょうがねえだろ。こいつの頭を湿すんだよ」
「うるせえな。飲んどいて、余りをぶっかけて……大丈夫だよ。覚めっこねえやな、死んだように寝てやがる。……さあ、これでよく湿したから、このへんからはじめるか……うふふふ、おもしれえ、おもしれえ、自慢の髷《まげ》がすっかりなくなって、目が覚めやがって野郎べそかいたって知らねえよ。……あれ、片っぽうやったら、こっち側もおやんなさいと、言わねえばかりに寝返りを打ちやがった。こいつあやりいいや、そらそらそらよっ、ときやがらあ……さあさあ出来た、できた。ずいぶん憎々しい坊主が出来上がったぜ。坊主頭で肩のところに蟒蛇《うわばみ》の刺青《いれずみ》が出てやがら……渋《しぶ》団扇《うちわ》へ描いた魯智深《ろちしん》みてえだ、畜生め。この髷《まげ》な、塀《へい》へぶる下がったりなんかするといけねえ、なるたけ弾みをつけて表へ放っちまいな。……さてと……このまま裸で転がしとくわけにもいかねえ。戸棚を開けてみねえ、蒲団《ふとん》かなんかあるだろう。蚊帳《かや》がある? よしよし、その蚊帳をかけとこう……ふふっ、おい、見ねえ、こうやって蚊帳の中からまっ赤な坊主頭を出したところは、鬼灯《ほおずき》の化け物だあ」
「ぷっー、ぷうーっ」
「おい、霧なんか吹いてどうするんだ?」
「こうやって、こいつの頭へ酒の霧を吹いておけば、蚊がわーっとやって来て、たっぷりと血を吸わあ。そうすりゃ、血の気が少くなって静かにならあ」
それから二人は、剃刀を帳場へ返して、講中のいる座敷へまぎれ込んで、わあわあ騒いで大浮かれ……。
 翌朝、早立ちで、十八人前の膳が並んだが、二人は知らん顔して一人前の膳をごまかして、勘定を済まして、
「どうも有難う存じます。また来年もお宿を願います」
という声に送られて、宿屋をあとに、熊さんを置いて一行は江戸へ発った。
「女将《おかみ》さん、女将《おかみ》さん。ちょっと二階へ来てくださいよっ」
「なんて声するの、びっくりするじゃないか」
「部屋を掃除しに行って、蚊帳を片付けようとしたら、なかから坊さんが出て来たんですよ。気味がわるいから、二階へいっしょに来てください」
「坊さんが? そんな筈はないねえ……どれどれ……あらまあ、ほんとうに……たしか、江戸のお客さまのなかに坊さんのお泊りはなかったけど……」
「あら、いやだ。夕べ、湯殿で暴れた人じゃないか」
「だって、あのかたは髷があったじゃあないか」
「ありましたけど……ないんですよ。なにか悪いことをしたんで、坊さんにされちゃったんですよ。登山《おやま》ができないからてんで、鬘《かつら》かなんかかぶってきたのを、暴れてどっか落っことしちゃったんですよ。肩のところへ蟒蛇の刺青が出てるから、この人ですよ」
「みなさん、もうお発《た》ちなんだから、早くお起こししたらいいじゃないか。あたしは、下へ行くからね」
「そうですね。……もし、お客さん、お客さん。遅くなりますよ」
「あ、あ、あーあ……ああ痛てててて、体躯《からだ》がみりみりしやがって……おい、おい、ねえさん、すまねえが、煙草盆を持ってきてくれ……うーん、うめえ、朝の一服は格別だ。おまけにいい天気だし、ありがてえありがてえ……おい、なにを笑ってるんだ? なに? たいへんおきれいです? 坊さんがいる? どこにいるんだ? なんだと? あなたが坊さんだ? 冗談言うねえ、髷のある坊主があるかよ……嘘だと思ったら、自分の頭を触ってみろだって? なにを言ってやがる。へへへ、憚《はばか》りながら、おれなんざ頭の毛についちゃあ、女の子やなにかに……あれっ、つるつるだ。お、おいおい、だれの頭だ?」
「だれの頭って、お客さんの頭にきまってるじゃありませんか」
「しまった……夕べ、おれ、暴れたかい?」
「暴れたかいどころじゃありませんよ。湯殿でひっくり返るような騒ぎだったじゃありませんか」
「そうかい、まるっきり覚えがねえんだ……ひでえことしやがるじゃあねえかなあ。いくら約束《きめしき》だって、坊主にしなくってもいいじゃあねえか。一つ町内で、ちいせえ時分から遊んだ仲なのに、こんなことをするなんて……で、みんなどうしたんだ? え? 発《た》っちまった? ほんとうかい? なにかい、勘定は済んでるのか? 人を置きざりにして……よーし、野郎どもがそういう了見なら、こっちにも考《かんげ》えがあらあ、みてやがれ……おい、ねえさん、飯《めし》はいいから、江戸まで通し駕籠《かご》を誂《あつら》えてくれ」
熊さんは顔を洗って、頭を新しい手拭いで巻いて、駕籠の垂《た》れを両方おろすと、一行の休んでいる茶屋のまえを通り越して、飛ぶようにして江戸のわが家へ帰った。
「おう、いま帰ったぜ」
「あら、お帰んなさい。ばかに早かったね。いま、みんなで集まって、これから品川まで迎《むか》いに行くところだったんだよ」
「迎《むか》いに? そいつあちょっと待ってくれ。そんなことよりも、こんど行った連中のかみさんたちを、家《うち》へ集めてもらいたいんだ。いやいや、事情《わけ》はあとで話すから、急いでみなさんのお耳に入れたいことがありますから、ちょいとでいいから顔を出してくれと、こう言って……」
「そうかい、それじゃあ呼んでくるから……」
「おや、熊さん、お帰んなさい」
「おや、こりゃ、吉兵衛さんとこの姉御《あね》さんですかい。まあ、上がってくんねえ」
「おや、熊さん、お帰んなさい」
「おやおや、みなさん、ごいっしょで……。なにしろ家が狭《せめ》えから、両方に分れて坐ってくんねえ」
「熊さん、おまえさん、どうしたの? 頭へ手拭いなんぞ巻いて……」
「ええ、この手拭いについちゃあ事情《わけ》ありなんで……じつは、みんなの顔を見るのも面目なくって口もきけねえ始末なんだ。どうかまあ、話をお仕舞《しめえ》まで、なんにも言わずに聞いていただきてえんで……。いや今年のお山は、近ごろにねえ、いいお山をしましてね。天気都合もいいし、無事に済んで、これから江戸へ帰ろうてんで藤沢へ来たときに、だれが言い出したともなく、金沢八景を見よう、とこう言うんだ。で、八景を見物すると、せっかくここまで来たんだから、舟に乗って、米《よね》が浜《はま》のお祖師様へお詣りしようてえことになった。ところが、虫が知らすか、舟へ乗ろうというときになって、おれはどうも腹ぐあいがわるくってしょうがねえから、伊吹屋てえ舟宿へ寝ていることにした。みんなゆっくり遊んで来てくれ、と寝て待っていたところが、まもなく、土地の漁師の話だ。……舟が烏帽子島《えぼしじま》のちょっと先へ出た時分、急に黒い雲が出たと思うと、みるみるこいつがひろがるってえと、まわりはまっ暗になって、ごおっと海鳴がした。すると疾風《はやて》がもの凄い勢いで吹き、波は高くなって、舟は大きな横波をまともにうけて横っ倒し……まあまあ、騒いじゃいけねえ、静かにしてくんな。……漁師の話によると、江戸の人たちの舟がひっくり返った。大山帰りの人たちだろうが、浜辺の者が手分けをして、あっちこっちと捜しまわったが、死骸もわからねえ……さっきまで、一つ鍋のものを食いあった友だちが死んじまって、おれ一人、江戸へのめのめと帰れるもんじゃあねえ……みんなのあとを追って、海へ飛び込んで死のうとは思ったけれども、江戸で首を長くして亭主の帰りを待っているおめえさんたちのことを思うと、このことを知らせなくっちゃあと、恥をしのんで帰って来たんだ」
「あらまあ……だから、あたしゃあ、今年はやりたくなかったんだよ。けどねえ、やらなければ、みんなに嫉妬《やきもち》のように思われるからやったんじゃあないか……わあー」
「まあ、まあ、泣くのはおよしよ。泣くのはちょいと、お待ちてんだ。なんだねえ、そんな大声をあげて……この人の渾名《あだな》を知ってるかい? この人はほら[#「ほら」に傍点]熊、ちゃら[#「ちゃら」に傍点]熊、千三《せんみ》つの熊さんなんて言われてるんじゃないか……ちょいと、熊さん、そんないいかげんなことを言って泣かしておいて、日が暮れてからみんな揃って帰ってくると、おまえさん、舌でも出そうってんだろ?」
「ねえ、姉御《あね》さん、そりゃ、おまえさんをかついだこともあるがね、人間、生き死にの嘘はつきませんぜ……そんなに疑《うたぐ》るんなら、みんなが死んだてえ証拠《しようこ》をお目にかけましょう」
「証拠? そんなものがあるの? あるんなら見せてごらんよ。どんな証拠」
「ええ、見せますとも……あっしゃあ、おまえさんたちにこの話をしたあとで、かかァを離縁して、明日《あす》ともいわず、これから高野山へ登って、みんなの菩提《ぼだい》を弔《とむら》うつもりなんだ。見てくんねえ……このとおり、坊主になってきたんだ。これでも疑《うたぐ》るのかい」
「あらまあ、坊主になって……ふだん見栄坊な熊さんが坊主になったんだから、これはほんとうだよ」
と、疑っていた吉兵衛さんのかみさんが泣き出したので、集まったかみさんたちが声をそろえて、わあーっと泣き出した。
「おいおい、血相かえて、どこへ行くんだ?」
「あたしゃ、井戸へ身を投げて死んじまう」
「待ちな、待ちな、待ちなってえのに……死んだってしょうがねえじゃねえか。おめえなんざ器量がいいし、齢《とし》が若えんだから、どんな亭主だって持てるぜ」
「冗談言っちゃいやだよ。あんな親切な亭主を二度とふたたび持てやしないわ。あたしの身体《からだ》のわるいときは、先へ起きてご飯も炊いてくれるし、腰巻まで洗ってくれるような人なんだから……あたしゃ、とても生きちゃあいられないから……」
「死んだってしょうがねえじゃあねえか……おまえがそれほどまでに半公のことを思っているんなら……おれは、けっしてすすめるわけじゃあねえが、おまえの黒髪を根元から切って、青道心《あおどうしん》(尼)になって、生涯男猫も膝へはのせません、と言って、朝に晩に念仏を唱えてやんねえな。あいつもきっと浮かばれるぜ」
「そんなことであの人が浮かばれるんなら、あたしゃ、あの人のために尼《あま》になるよ。済まないが、熊さん、あたしの髪を剃っておくれでないか」
「ああ、いいとも。その了見が第一だ。さあさあ、この剃刀で、さっそくはじめよう……ああ、おまえは貞女だ。あっぱれ貞女だ。南無阿弥陀仏《なむあみだぶつ》、南無阿弥陀仏……」
と、尼さんを一人つくってしまったから、ほかのかみさんたちも、
「まあ、おはなさん、おまえさんは若いのにほんとうに感心だ。あたしも永年つれそった吉兵衛のために、尼になるよ。さあ、熊さん、あたしもやっとくれ」
「ああいいとも……ほかの人たちはどうだい?」
「あたしもおねがいします」
「あたしも……」
「あたしも……」
「そうだ、そうだ。そうしてしまうがいい。残らずみんなやるかい? じゃ剃刀をできるだけ集めてな。一人一人湿すのはたいへんだから、四斗樽《しとだる》に水をくんで、頭をつっ込んどいてくれ」
と、先達のかみさんをはじめ、集まったかみさんをかたっぱしから、とっかえひっかえ十七人残らずくりくり坊主にしてしまった。……自分の女房だけは、離縁するからってそのままにしておいた。
それから寺から借りてきた麻の衣を着て、大きな珠数《じゆず》を持ってくると、にわかごしらえの尼さんたちのまん中に入って、鉦《かね》を叩きながら、南無阿弥陀仏……と、百万遍《ひやくまんべん》がはじまった。
 日の暮れがたに吉兵衛さんたちの一行が、町内に帰ってきた。
「やれやれ、町内へ入ると、やはり家《うち》へ帰ってきたようなほっとした心持ちになるもんだなあ」
「そうそう、なにしろ町内というものはなんとなくなつかしい。たとえ二、三日の旅でも、家《うち》をあけたとなると、家の様子がたのしみなもんだ」
「そうさ、ほんとうだぜ。ことにまた半ちゃんなんかは、かみさんが若《わけ》えから、今晩あたりたいへんだぜ。あはははは」
「しかし、なんだぜ、熊のやつは気の毒なことをしたな」
「なーに、あいつの心柄だからしかたあるめえ。まあ、髪だって、これが一生涯伸びねえというわけじゃあなし……毛の伸びるあいだ、わが身をあれこれと振り返《けえ》ろうというものさ……とはいうものの、ちょいと熊公んところをどんな面ァしてるか見舞ってやろうじゃあねえか……へっへっへ、野郎、先に帰《けえ》っているか?……あれっ、どっかで念仏をやってやがら……どうも暮れがたの念仏てえやつは、あんまり気持ちのいいもんじゃあねえ……あっ、なんだい、熊公の家《うち》だぜ。あいつの家《うち》で念仏を聞こうたあ思わなかった。障子の穴から覗いてやれ……あの真ん中に坐っている坊主、やけに熊公に似てやしないかい。……や、熊の野郎だ、熊のやつ、すました面《つら》をして、鉦《かね》なんか叩いてやがる……また、まわりにずいぶん坊主を集めやがったなあ……あれっ、坊主は坊主でもみんな尼さんばっかりじゃあねえか」
「へーえ、そんなに尼さんが集まってるのかい? おれにも覗かせろいっ、あれっ、この正面で泣いてるのは民さんのかみさんにそっくりだぜ」
「なに? おれのかかァ? そのとなりは吉兵衛さんとこの姉御《あね》さん……やあ、留さんとこのかみさんもいるぜ……あれっ、たいへんだ。かみさんをみんな坊主にしゃあがった……おーい、みんな、たいへんだぞっ」
「かみさんをみんな坊主にしちまったぞ」
熊さんは、左の片手拝みで、右手で鉦を叩きながら、
「なむあみだぶ、なむあみだぶ……さあさあさあ、迷って来た亡者《もうじや》の声が聞えてきたから、みんな一所懸命にお念仏を唱えて……」
「なむあみだぶ、なむあみだぶ……」
「なむあみだぶつ、なむあみだぶつ……」
そこんところへ連中が、腰高障子を足で蹴とばして中へ飛び込んで来たから、かみさんたちはびっくり仰天……。
「なむあみだぶ、なむあみだぶ、どうか迷わず成仏して……二度と亭主は持たない……」
「なに言ってやがる。やいっ」
「あらまあ、いやだ、乱暴な幽霊だよ」
「幽霊たあなんだ?」
「だって、舟がひっくり返って死んじまったんじゃあないか」
「なに言ってやんでえ。舟なんか乗るもんか。みんなぴんぴんしてるじゃねえか」
「あら、生きてるんだね。まあ、いやだよ、あたしゃ、こんな頭で……」
「今更頭なんかかかえたってしょうがねえや……やいやい、熊公っ」
「おや、みなさん、お帰んなさい」
「こん畜生っ、しゃあしゃあとして、お帰んなさいもねえもんだ。てめえが暴れたんだから、坊主にされたってしょうがねえじゃあねえか。罪のねえかかァたちをよくも坊主にしちまったな」
「あはははは。ざまあみやがれ。ああ、いい心持ちだ。ひと足先へ帰って意趣《いし》返しをしてやった。いくら怒ったって、剃っちまった髪の毛は、そうちょっくらちょいと伸びるもんじゃあねえから、まあしょうがねえ。あきらめろよ。おめえたちは草鞋《わらじ》を履いてるあいだは旅のうちだ。そんなに腹を立てるんなら約束《きめしき》の二分っつ出せよ」
「この野郎っ、この上に銭なんぞとられてたまるもんか。ふざけやがって……さあ、みんな、構うこたあねえから、こん畜生を張り倒せっ」
「おいおい、まあ待ちなさい。ともかくお待ち……どぶ板を振り回しちゃいけねえ」
「冗談言いなさんな、吉兵衛さん。おまえさんは、姉御《あね》さんはもう婆ァだから、そうやってすましていられるだろうが、おれなんざあ、かかァの水の垂《た》れるような銀杏《いちよう》返しを見るのがたのしみで帰って来たんだ。それをこの野郎に……どうしたって、張り倒さなけりゃあ腹がおさまらねえ」
「いやいや、そんなに怒ることはない。これは、ほんとうにおめでたいことなんだから……」
「かかァを坊主にされて、どういうわけでめでてえんだ?」
「お山は晴天、家へ帰りゃあ、みんなお毛が(怪我)なくっておめでたい」
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