返回首页
当前位置: 首页 »日语阅读 » 日本名家名篇 » 作品合集 » 正文

落語特選10

时间: 2019-09-22    进入日语论坛
核心提示:岸柳島《がんりゆうじま》隅田川に橋が架かる以前は、渡し船で往来した。最も混雑したのは御厩《おうまや》の渡しと竹町の渡しで
(单词翻译:双击或拖选)
岸柳島《がんりゆうじま》

隅田川に橋が架かる以前は、渡し船で往来した。最も混雑したのは御厩《おうまや》の渡しと竹町の渡しで、ことに御厩の渡しは侍と町人と、土地柄、馬までが乗った。
さあことだ馬の小便 渡し船
という川柳がある。
また、この渡し船に乗る本所辺の御家人は、俗に「人の悪いは本所の御家人」といわれてたが、この渡銭が幕府認可だったため、武家は無賃、町人は二文徴収されたことにもあると思われる。
 本所方から出た渡し船、川の三分へ出たところ、いっぱいの客の中に、船の胴の間にどっかり腰をおろした一人の侍。
年のころは三十二、三、色の浅黒い、でっぷりとした、眼もとのぎょろりとした、小鼻の怒《いか》った、口もとの大きな、青髯《あおひげ》を生やし、頭髪《あたま》は引ッ詰の大《おお》結髪《たぶさ》、黒の紋付に小倉の襠高袴《まちだかばかま》、四分一《しぶいち》拵えの大小を差し、紺足袋|雪踏履《せつたばき》で、ほろ酔い機嫌で片手は懐中《ふところ》へ入れて、結構な煙管《きせる》をぬっと横へ突き出して、いやに広がって幅をとりまして、露天の蟹《かに》のように……これがやにさがり[#「やにさがり」に傍点]という格好で、なんのことはない、南瓜《かぼちや》に手裏剣《しゆりけん》が刺さったような様《さま》で、ぱくりぱくりと吸《や》っている。なんの気なしに舟の舷《こべり》で、煙管をポーン……と火玉を払おうとしたら、羅宇が緩《ゆる》んでいたか、雁首がすばっと落ちて川の中へぶくぶくっ……。
「あ、これ船頭、これ船頭っ」
「へえ」
「拙者はこれへその……煙管の雁首を落とした。あそこいらだ……船を止めて捜せっ」
「へへ、ご冗談をおっしゃっちゃあいけませんぜ。船はいつまでもひとっとこでぐるぐる回ってんじゃござんせん。あそこいらでもここいらでも船はずーっと動いていますから、どこへ潜《くぐ》ったか知れませんね」
「潜《はい》ってもか?」
「ここは川の幅が広くって、おまけに泥深《どろぶけ》えところでござんす、へえ。それに下《さ》げ潮で流れは早うございますし、とても無理でござんす。落っこった代物《しろもの》が小せえもんでございますからなあ。やあ、とんだことをなさいましたなあ。お気の毒さまでございますが、わかりませんですなあ」
「そうか、高価なものであるがなあ」
「いくら高価でも、大きいもんならすぐわかるんですがなあ。ええ、せめて畳半畳もありゃあ。お気の毒さまで……」
「ああ、さようか……」
と、舷《こべり》へつかまって、泣き面で水中を覗いているが、気持ちは収まらない。
その脇に坐っていたのが、浅黄の手拭いで吉原|冠《かぶ》り、洗いざらした半纏《はんてん》を着て、千草の股引……この膝のところに四角のつぎ[#「つぎ」に傍点]が当たっていて、汚れた白足袋に藤倉《ふじくら》草履《ぞうり》を穿き、傍《そば》の鉄砲|笊《ざる》に秤《はかり》が入っている……屑屋。とたんに商売気がむらむらっと出て、
「旦那、ェェ惜しいことをなさいましたなあ。ェェあたくしはなあ、こちらで吸っていらっしゃるところを拝見しておりました、へえ。銀でございますか? 結構なお煙管だなあと思って……でも、舷《こべり》でポンはいけません。ご災難でございましたなあ、ェェかようなことを申しちゃァまことに失礼でございますが、いくら結構なお煙管でございましても、この雁首がございませんで、吸い口だけでは、お煙管の役をいたしません。村田あたりへいらしてお誂えになっても安くは出来ません。かえって新規のほうがお安く上がります。わたくしどもは商売をしておりますので、ほうぼうへ参りますてえと、どうかしたはずみに雁首だけのお払いもんが出ることがございます。そういうものを、お手元に残りましたお吸い口を取り合せまして、一本拵えましたならば、おもしろいものができゃあしないかと、えッェェ、もしご不用なれば、お払い下げのほどを願いたいんでございます。そりゃあもう、価をよく頂戴いたします」
「黙れっ……無礼者っ」
「……痛つっ……おお、痛つッ……どうぞ……ご勘弁を願います」
「もそっと前へ来い、ずっと前へ出ろ、うん、だれがこの吸い口を貴様に払うと言った? だれが払い下げると申した?」
「いえ、てまえその、けっして悪い了見で申し上げたんじゃあないんでございまして。お気にさわりましたらご勘弁を願います」
「貴様っ、ご勘弁を願いますと言えば、容赦すると思うか、たわけめっ」
「ま、真っ平ご免なさいまし……」
「むゥ、貴様ァ、身共をなんと心得ておる? 四民の上に立つ武士じゃ、貴様はなんだ、素町人、しかも屑買いの分際で、武士に対して吸い口を売り払えとは無礼千万、武士たるものを愚弄するな? ぶるるっ、了見まかりならん、それへ直れ。いま拙者が落した雁首をそのほうの雁首と引換えにしてくれるからそう思え」
「屑屋さん、おまえが粗忽をしてごたごたされちゃァ、傍《はた》の者《もん》が迷惑するから早くお詫びをしなさい」
「へえ、ただいまお詫びをいたしているところで……どうぞ真っ平ご免なさいまし」
「いや、勘弁は出来ない。さァそのほうの頭を舷《こべり》へ出せ。打ち落としてくれる、早く首を出せ、遠慮するな」
船の中の客はわーッと騒いで、おっかなびっくり隅に体躯《からだ》を縮めてがたがた震えている。
「屑屋さん、かわいそうだねえ」
「ほんとうだぜ、ええ? 屑屋だけにぼろ[#「ぼろ」に傍点]を出しゃがったな」
「ッてやん……」
詫びどころじゃない、声も出ない。乗り合いの人もみな気の毒とは思ったが、相手が武家なので、なまじ仲人《ちゆうにん》をして係り合いになってはと口をきく者もいない。
艫《とも》のほうに一人、本所方の武家で麻上下《あさかみしも》に黒|縮緬《ちりめん》に薄綿の入った羽織を着て、仲間《ちゆうげん》に槍を持たした七十に手の届こうという老人——が、船の中の様子を最前からにがにがしく見ていたが、とうとう見かねて、それへつかつかと出てきた。
「これこれ町人。そのほう一人に無礼があれば、乗合っている者がみな迷惑をいたすではないか。うつけ者め、詫びろ詫びろ」
「へえ、ありがとう存じます。お武家さま……」
「あいや、そちらのお武家、しばらくお待ち願いたい。ご貴殿のご腹立《ふくりゆう》はごもっともでござる。かといって相手は取るに足らぬ町人、お手討ちにあいなればとて、こりゃあご貴殿のお恥、憚《はばか》りながらお腰の物のお汚れかと存ずる。それに、いずれのご藩か、ご直参か相わからんが、ご主名にもかかわることでござる。てまえ遮《さえぎ》ってお止め奉る。町人の無礼の段、てまえ成り代わってお詫びをいたす、なにとぞご勘弁にあずかりたい」
「ぶるるっ、黙らっしゃい、ご老体。こやつに無礼があったから斬り捨てると申したんだ」
「しかし、こんな屑屋風情を……それに乗合っている者一同に迷惑ではないか。このような者を相手になすっては、かえって衆人の笑われ草、ご主名にかかわるは軽《かろ》からんことゆえ、どうかご勘弁を……」
「うむ、しからば貴殿を相手にいたそう。こんな者を相手にしては大人気《おとなげ》ない。貴殿ならば相手にとって不足はない、さあ、立ち上がって尋常《じんじよう》に勝負っ」
「こりゃ、てまえは甚《はなは》だもって迷惑千万」
「なにが迷惑だ。立ち上がって勝負をさっしゃい。それとも貴殿は剣術をご存じないか? その腰の物はなんだ、竹光《たけみつ》か? 相手をしろっ」
「斯程《これほど》、詫び言をいたしても、ご勘弁くださらんか?」
「罷りならん」
「あ、さようでござるか、斯程、詫び言をいたしてご勘弁くださらんとあらば、ぜひがない。好むところではないが、お相手いたそう。……なれどもここは船中、乗り合いの者一同迷惑いたす。強いて勝負をお望みとあらば、向う河岸ィ舟をつけ、広々したるところにて相手になりましょう」
「おもしろい、船頭、船を早く対岸《むこう》へやれ」
若侍は、血気にはやって、手早にとった下緒《さげお》を襷《たすき》十字にあやなし、袴の股立《ももだち》を高く取って、懐中から出した手拭いを畳んで鉢巻き、刀をぬっと前へ突き出し、裏表の目釘を湿《しめ》して、反《そ》りを打たせ、ぷっつり切った鯉口……、
「さあ来いっ」
と、船が岸へ着くのを待ち構えている。
老侍のほうは、じたばたせず、落着いて、片肌脱いで、同じく股立を高く取り上げ、仲間《ちゆうげん》に持たした槍の鞘《さや》を払い、二つ三つ、りゅうりゅうとしごき、ドンと胴の間へ石突《いしづ》きを突き立てて立ち上がると、さすがは武士、年をとっても背筋がピーンとして……。
「どうでえ、豪気なもんじゃァねえか。剣術と言って剣の先に術があるくれえだから、年をとったほうがおらァ強えと思うよ」
「いや、そうでねえ。こっちは血気の若侍《わかざむれえ》だァ、年をとったほうがかなわねえや」
「なに言ってんだ。あの若侍《わかざむれえ》、あいつァおっちょこちょいのばか野郎だよ、うん。真っ赤な面《つら》しやがって、青筋ィ出してぽんぽん怒ってるがな、船が向うへ着かァ、ぽんぽんと二人が飛び上がって、若え侍が泡《あわ》ァくらって、さあっと斬ってくらあ、ね? そいつを爺ィさんが、ひょいと体《たい》をかわしといて、さっと突き出す槍が、若え侍の横っ腹へぷつっとくるってんだ、どど、どうでえ、えへ、田楽刺しだ」
「なあに言ってやんでえ。よくものを考えてからしゃべれってんだよ。爺ィさんが強そうに見《め》えるなあ、おめえの贔屓目《ひいきめ》だ。たかの知れたおめえ、屑屋の詫び言に出て、ものがこんがらかって、こういうことになったから、爺ィさんが強そうに見《め》える、それが贔屓目てえやつだ。おれの目から見ると、爺ィさん、影が薄いよ。それに引《し》き換《け》えて、若え侍ごらん、恐え面《つら》ァしてやんなあ。あの目をごらん、目を。大きな目ェして、光《しか》ってるねえ、ぴかッと。おう、腕をごらん、突っ張ってる、松の木だねえ。剣術ァできるよ、うーん。船が向うへ着くだろう? ええ? 二人が飛び上がらあ、爺ィさんがぱッと突いてくらあ。そいつを若えのが、ひょいと体《たい》をかわしといて、飛び込んでって、ぷつうって、えへ、爺ィさんが、ぷつっ……」
「いやな野郎だなあ、この野郎、なんの因縁だか、また、おめえ変に若え侍の肩ァ持つねえ。そりゃァなるほどおまいの言う通り片っぽは年をとってるよ。年はとってるが、腕ェ年をとらせねえ、昔とった杵柄《きねづか》てんだ。おう、それが証拠にゃあ見てやってくれ、お爺ィさんの腰を。いままでこんなに曲ってた腰がよう、槍を突いたってえと、すうっと腰が伸びてるじゃあねえか、へへ、腰をごらんてんだ腰を……」
「なに言ってやんでえ……うどんこねてるんじゃねえや。腰が伸びてんなあ不思議ァねえや。槍てえ突っかい棒があるからだよゥ、突っけえ棒の槍を放してみろい、やっぱりもとの海老《えび》だあ」
「ま、そんなことを言わずに黙って見ておいでよ」
船が対岸の桟橋間近になると、若侍は身軽なところを見せるように勢いよく飛び上がって、桟橋へひらりっと飛び移った。
「老いぼれ、続けえっ」
とたんに老侍は突いていた槍を取直し、石突きでトンと桟橋の杭《くい》を突くと、船が後へすうっーと戻った。
「これこれ、船頭っ、船をこっちへ返せっ」
「いや、あんなばかにかまわず船を出してしまえ」
「へえっ、こいつァいい趣向だ……ばか侍、ざまァみろ。船を返してたまるかよ、へへっ、お武家さま、お怪我もございませんで、おめでとうございます。一時はどうなるかと心配しておりましたが、おかげさまで、ありがとうございます」
「さすが、昔とった杵柄、うめえぐあいに行きましたねえ」
「いいや、これは拙者の知恵ではない。昔、佐々木巌流という剣客が諸国を修業していた折に、船中に酔いどれの武者に出あって、試合を申し込まれたが、このような者を相手にしてもと、島へ置き去りにした。その島を巌流島と名付けた、という……それがいまの兵法でなあ」
「そうですか。おらァ最初《はな》から爺ィさんのほうが強《つえ》えって、こうなることはお見通しだあ」
「うそォつきやがれ、この野郎、てめえさっき爺ィさん影ェ薄いって言ったろ」
「うう……そ、そう言ったけど、よく考《かん》げえたら濃いところもあった」
「なあにょォ言ってやんでえ、いやな野郎だ。……いいってことよ。さんざん人を騒がして寿命を縮めやァがったから、なんとか言ってやろうじゃァねえか。いまいましい兵六玉だ。ええ? 大丈夫だよ、これだけ離れてるんだ。……やあい、陸《おか》へ上がって柳の木でも相手に斬り合ってろいッ、あっははは」
「てめえが粗相しておきゃァがって、仲人《ちゆうにん》に喧嘩を売るとは、とんでもねえばか侍だ。ここまで来ることはできめえ、川の中へ入れば土左衛門と名が変わらァ、ど三一《さんぴん》め。ざまァみやがれ」
「桟橋のところでくるくる回ってやがる。糞《ふん》づまり、くやしいと思ったら、飛び込んじまえ、徳利《とつくり》野郎め」
「そこでくるくる回ってるくれえなら、両国橋を大回りにひと回りまわって来い。そのうちにゃァおれァ家《うち》ィ帰って茶漬けェ食って寝ちまってらあ。居残り侍めっ、宵越しの天ぷらっ」
「なんでえ、その宵越しの天ぷらってえなあ?」
「あっははは、揚げっ放しだァ」
桟橋の上の若侍は、船客から囃し立てられ、真っ赤ンなって、頭からぽっぽ、ぽっぽ煙《けぶ》を出して、あっちィうろうろ、こっちィうろうろ……そのうちになんと思ったか、袴を脱ぎ棄《す》て、帯を解き、裸になって大小を着物にぐるぐる巻きにして、十文字に背負って桟橋の先端まで駆け出して、水煙りを立てて川中へどぶーりっ……飛び込んだ……。
「おいおい、ほら、言わねえこっちゃァねえ。さあ大変だァ。みんながわいわい毒づいたから、仕返しをしようてんで、裸になって脇差を背負《しよ》って飛び込んで、潜《もぐ》って来て、船底へ穴をあけ、沈没《しぼま》しちまおうてんだ。だれが囃したんだあ?」
「だれが囃したって、おめえが最初《はな》に囃したんだろう」
「おいおい、よせよう。変なこと言うなよ、ああ、情けねえことになっちまったな。この間、易者に見てもらったら『おまえは、水難と剣難の相があるから気をつけるように』なんて言ってたが、なるほどこのことだったんだな。今日に限って水天宮さまのお守りを置いてきちゃったよ」
「おや、なんだか知らねえが、船の底でガリガリ音がするぜ」
「えっ? それァことだ。おらァ泳ぎを知らねえから……」
「おい、よせよ。どうする?」
「どうするったって……助け舟ェっ……」
町人は口先は強いが、尻腰《しつこし》のないやつばかりで、そこへいくと、例の老侍、年はとっているが、悠然として舳端《みよしばな》に立ち上がって、
「騒ぐな騒ぐな、さほどのことはない。心配をいたすな」
再び仲間《ちゆうげん》から槍を受け取って、小脇にかい込んで、じいっと水面を見ている。
と、若侍、刀を背負ったまま、ぶくぶくぶくぶくっと、舳端へ浮き上がった。
「これ、そのほうは某《それがし》に欺騙《たばから》れたのを残念に心得、船底をえぐりに参ったか」
「なに、落とした雁首を捜しに来た」
轻松学日语,快乐背单词(免费在线日语单词学习)---点击进入
顶一下
(0)
0%
踩一下
(0)
0%

[查看全部]  相关评论