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落語特選21

时间: 2019-09-22    进入日语论坛
核心提示:桃太郎「金坊、さァいつまでも起きていちゃァいけねえ。子供がいつまでも起きていると、恐いお化けが出てくる、さァ早く寝なくっ
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桃太郎

「金坊、さァいつまでも起きていちゃァいけねえ。子供がいつまでも起きていると、恐いお化けが出てくる、さァ早く寝なくっちゃァいけねえ。寝間着を着かえて寝るんだ、おとっつあんが寝ながらおもしろい話をしてやるから黙って寝るんだ、いい子だな……さァ寝間着を着かえて寝たら、こっちを向いた向いた。さァいいか、黙って寝るんだよ、おもしろい話だからな、いいか、昔々、お爺さんとお婆さんがあったんだ。……お爺さんが山へ柴刈《しばか》りに行って、お婆さんが川へ洗濯に行ったんだ。川上から大きな桃が流れて来て、その桃を持ってきて、割ると中から赤ん坊が出た。桃ン中から生まれたから、桃太郎と名づけて、この子がだんだん大きくなって、鬼ヶ島へ鬼退治に行って、宝を持って帰って来た……どうしたんだ、おゥ金坊、どうした……あァもう寝ちまった。子供なんてえものは罪のねえもんだな」
 昔の子供衆はこんなことで寝てしまったが、今日ただいまの子供はこんなことではなかなか寝ません。
「さァ金坊、子供がいつまでも起きてるんじゃァねえ、寝なくちゃァいけねえ。子供がいつまでも起きてるとな、恐いお化けが出てくる。さァ寝ろ寝ろ寝なくっちゃァいけねえ」
「おとっつァん伺いますが、恐いお化けが出て来るというけど、おとっつァん恐くないお化けてえのがありますか?」
「なに? 恐くねえお化け……黙ってろ。恐くなくってもいいや、お化けが出て来るから寝なくっちゃァいけねえ」
「おとっつァんに伺いますけども、おとっつァんは夜《よる》仕事をすることがありますね」
「それァ忙しいときには夜業《よなべ》ばかりじゃァない、夜明かしをするときもある」
「おとっつァんが夜明かしをするときにお化けが出てくるかい?」
「うむ、それァなんだ。おとっつァんは大人だから出て来やァしねえ」
「おかしいね。おとっつァんが夜明かしをしてもお化けが出て来なくって、子供が少し遅くまで起きているとお化けが出て来るなんて、そんな不都合なことはないだろうと思う」
「わからねえやつだ。たとえお化けが出たにしても、大人には見えねえもんなんだ。大人ってのは、世間の垢にまみれていらあ、そこいくと、おめえたち子供は、まだ汚《けが》れを知らねえ。だからお化けがよく見えるんだ。さあ、早く寝間着に着かえて黙って寝るんだ……紐《ひも》をしっかり締めて……なんだ、親のほうへ尻を向けて寝るやつがあるか。こっちを向いて、おもしろい話をしてやるから黙って寝るんだ、いいか? おもしろい話だぞ、黙ってるんだよ」
「おとっつァんはずいぶん無理なことを言うね」
「なぜ」
「なぜったって、おとっつァんが寝ちまえ寝ちまえというから、しかたがない、親の言うことだから我慢をして寝てしまおうと思うと、そばから話を聞け話を聞け、聞いたり寝たり一つ身体《からだ》で両方できやァしない。寝るなら寝ろ、話を聞けなら聞けと、片っぽづけてもらいたいや」
「生意気なことを言うな、話を聞いてから寝るんだ。さァいいか、おもしろい話だぞ」
「どうせおとっつァんが話すんだ、ろく[#「ろく」に傍点]な話じゃァない」
「余計なことを言うな、……昔々、あるところに……」
「おとっつァん、ちょっと」
「なんだ、なんだって起きちまうんだよ、寝ていろよ」
「ちょっと伺いますが、『昔々』、これは枕言葉だからいいとして、『あるところ』てえのはないでしょう。日本国じゅう探したって『あるところ』なんてそんなところはありませんよ。漠《ばく》としていて、明解に言ってください何県の何町の何丁目何番地と」
「子供らにそんなことを言ったってわかるもんじゃァねえ。生意気なことを言わずに黙って聞け」
「おとっつァんはずるいや。わたしにかなわなくなると叱言を言ってごまかしてしまうんだもの。横暴非道だな」
「黙って聞け……昔々、あるところにお爺さんとお婆さんがあったんだ」
「おとっつァん、また伺いますが、ただ単にお爺さんお婆さんとばかりじゃァわからない。どこへ行ったって名のない人間はありゃァしない」
「名前か……名前はあったけど売っちゃったんだ、貧乏で」
「あれ、それじゃあ、おとっつァんはなぜ売らないの?」
「黙って聞いてろ。お爺さんとお婆さんがあったとよ、お爺さんは山へ柴刈りに行って……」
「また伺いますが」
「よく伺うな、子供なんぞそうちょくちょ[#「ちょくちょ」に傍点]く伺うもんじゃァねえ。なにを伺うんだ」
「ただ山々《やまやま》と言いますけれども、山だって名前がありますよ。高い山なら富士山とか、エベレストとか、箱根山とか、たくさんあるでしょう。お爺さんが柴刈りに行った山はなんという山で」
「そうさ、なんだ[#「なんだ」に傍点]、山だ、遙かかなたの、おっそろしく高い山なんだ」
「なんてえ山なんだえ、おとっつァん」
「双葉山……じゃあねえし、ああ、のどもとまで出かかってんだけど、おめえ、覗いて見てくれ……だめか、見えねえか。とにかく地面よりずっと高い山なんだ」
「おとっつァん、地面より低い山なんてえものがあるものかね、地面より高いからはじめて山という名称がついたんでしょう」
「そんなことは言わねえでもわかってるよ。なんだかおまえに叱言を喰ってるようだ、黙って聞いてろ……お婆さんが川へ洗濯に行った、おっと、川の名前はきくなよ……そこへ大きな桃が流れて来た、その桃を家《うち》へ持って来てふたつに割ると中から赤ん坊が生まれた、それで桃太郎とつけて、この子が大きくなると黍団子《きびだんご》を拵えて、犬と猿と雉《きじ》をお供に連れて、鬼ヶ島へ鬼退治に行き、宝を持って帰って来た……おもしろいだろう、金坊」
「なんだ、ちっともおもしろかありゃァしない、寝ようと思ったら目が冴《さ》えざえしちまった」
「さァ寝ろ寝ろ、深く考えずに寝ちまえ」
「おとっつァん」
「なんだ」
「わたしとおとっつァんとは親子の間柄でしょう? おとっつァんがいくらくだらないことを言っても、わたしが聞いてる分には、家《うち》の親父は困ったやつだと思ってるだけで……」
「あんなことを言ってやがる」
「けれどもおとっつァんが世間で今みたいなくだらないことをパアパア言ったら、自分の無学をさらけ出すようなもんだよ。親の恥は子供の恥だよ。いいかい、この桃太郎という話はおとっつァんが言うような、そんな単純な話じゃァないんだよ。もっと意味深長な話なんだよ」
「なにを言ってやがるんだ、べらぼうめ、てめえは子供だから知らねえんだ。おれはむかしから聞いてるんだ。桃太郎が大きくなると鬼ヶ島へ鬼退治行くに決まってるじゃァねえか」
「それァそうさ。けれどもおとっつァんの言うのとは内容がちがうんだよ。じゃァあたしが話をするから、黙って聞きなよ」
「殴るよこの野郎、おれの話がちがってるわけはねえ」
「まァおとっつァん、穏やかに、お気をしずめて。お伽話《とぎばなし》というものはね、あれァ教訓のお話なんだよ。『昔々あるところに』と言うだろう? 『あるところ』というところはないけれどもね。ところをはっきり言うと、範囲が狭くなる。なぜかと言うと、東京なら東京の近所の田舎の村の名前に決めちまうと、東京の人は近所だから知ってるけれども、遠い大阪とか九州の人たちにはちっともわからない、そうだろう。九州のほうの田舎の村の名前に決めちまうと、九州の人だけにはわかるけど、東京や大阪の人にはわからない。だから日本国じゅうどこへ行っても融通《ゆうずう》のきくように、『あるところ』とこう言ったんだよ。おとっつァん、これァ作者のはたらき[#「はたらき」に傍点]だよ」
「なんだかおれにはちっともわからねえ、おもしろくもねえ、それがどうしたんだ」
「それからお爺さんとお婆さんがあったと言うだろう、あれァね、お爺さんお婆さんじゃァない、ほんとうはおとっつァんおっかさんなんだよ。おとっつァんが年をとれば、なンになります。お爺さんになっちまうでしょう」
「あたりめえよ、男が年をとれば爺ィになるに決まってるじゃァねえか、よっぽどのことがないかぎり婆ァになるわけはねえや」
「だから、とりもなおさずお爺さんもお婆さんもおとっつァんもおっかさんも理屈はおんなじでしょう。ほんとうはお爺さんやお婆さんが山へ柴刈りに行ったり川へ洗濯に行ったりしたんじゃァない、あれはたとえ話だよ。よくむかしから言うでしょ、『父の恩は山よりも高く、母の恩は海よりも深し』と。それをたとえて作ったんで、おとっつァんは山へ柴刈りに行って、おっかさんは海へでは話が遠いし合わないから、川へ洗濯に行った、こうかたちを変えたんだよ。わかったかい、おとっつァん」
「うむ、なるほど、山よりも高し、海よりも深しか……なるほどこれァ、子供に聞かせてもためになるが、大人が聞いてもおもしろいや。……おっかあ、おめえ、そんなとこで針仕事なんぞしてねえで、こっちィきて聞いてみろ。……それから金坊どうした?」
「そうするとねえ、おとっつァん。川上から大きな桃が流れて来たって、あれは桃でなくっても李《すもも》でも梨でもなんでもいいんですよ、おとっつァん。それから家へ桃を持って来て、割ったら中から赤ん坊が出たでしょう。桃ン中から赤ん坊が出るなんて、そんなばかな理屈はありゃァしない。もし桃の中から赤ん坊が出てくるとしたら、果物屋《くだものや》は子供だらけになっちまう。そんな、桃の中から赤ん坊が出てくるなんて、おとっつァん、そんなことが現実にありますか?」
「いやァ、そりゃァおれもおかしいと思ったんだ、赤ん坊が生きてるはずはねえよな……だけどむかしからそういうからしかたがねえや。おれ一人に文句を言うなよ」
「ねえ、やっぱり子供は人間のお腹から出てくるんでしょう? 子供にそんなややっこしいことを説明しようとすると面倒なことになるから、桃の中から出て来たと言うんですよ。桃のような男の子だから、桃太郎と名付けた」
「女の子なら、桃子だなあ」
「まぜっ返しちゃいけないよ。それから黍団子を拵えたのも、やっぱり理屈があるんだよ。米の飯《めし》と黍《きび》の飯とどっちがおいしい? おとっつァん」
「それァ決まってら、米の飯が旨えにちげえねえ。第一、米のほうが値が高えや」
「そうだろう? 黍団子をなぜ拵えたかというと、人間は奢《おご》ってはいけない。黍《きび》のようなまずいものを常食にしろという戒めなんだよ」
「うむ、そうだ人間、奢《おご》っちゃいけねえ。めいめい手銭《てせん》で飲まなくちゃあ」
「話がちがうよ。それから犬と雉と猿を供に連れてったって言うが、おとっつァん、そんなものを連れてったって役に立つ気遣いはないじゃァないか。あれはね、こういうわけなんだよ、犬は三日飼えば三年恩を忘れないという仁義の深いものでしょう。雉というものは、鳥のうちでいちばん勇気があるんですって、『蛇食うと聞けば恐ろし雉の声』なんて、たいへん勇気のある鳥だってね、おとっつァん。それから猿は、猿知恵なんて言うけれども、獣《けもの》のうちでいちばん知恵があるんだって。それだから世渡りをするには義と勇と知恵がなければいけないというんで、犬と雉と猿とを供に連れて行くんだという、こういうわけなんだよ。……それから鬼ヶ島へ鬼退治ってえが、あれは『可愛い子には旅をさせろ』って言うでしょう、それをもじ[#「もじ」に傍点]ったんですって。鬼ヶ島なんてえところはありゃァしないが、鬼はつまり人間なんだよ。よく『渡る世間は鬼ばかり』てえ言うでしょう。鬼ヶ島へ……奉公に行くんだよ。子供はいつまでも家に置いておいてはろく[#「ろく」に傍点]なことを覚えないから、他人さま、世間に旅をさせるんだ。そこで鬼を退治して、たくましくなって、出世をする。出世ができればお金が儲かるでしょう。それで鬼ヶ島から宝を持ち帰る、という話なんだよ。その宝を持ち帰って、おとっつァんとおっかさんを安楽にさせた……めでたい、めでたいという、結末なんだよ。おとっつァん、ねえ、おとっつァんてばさ……あれっ? おとっつァん、寝ちまったよ。ひとが話をしているのに……寝ちまっちゃしょうがないじゃァないか。大人というものは罪のないものだなあ」
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