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落語特選33

时间: 2019-09-22    进入日语论坛
核心提示:三軒長屋三軒長屋の真ン中に住むと魔がさす三軒つづきの長屋があって、取付《とつつき》が鳶頭《とびがしら》の家で、勇み肌の火
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三軒長屋

三軒長屋の真ン中に住むと魔がさす
三軒つづきの長屋があって、取付《とつつき》が鳶頭《とびがしら》の家で、勇み肌の火消しが稼業。鬼格子《おにごうし》で土間を広く取って、地形《ちぎよう》の道具、金で拵えたかと思うようなピカピカ光った長鉤《ながかぎ》などが掛けてある。ときどき若衆《わかいしゆ》が大勢集っては、木遣《きや》りの稽古をする。そのあと酒がはじまって、端唄や都々逸《どどいつ》でも唄って騒ごうという賑やかな暮らし。
真ん中は、三毛猫が一匹に下女が一人、鉄瓶《てつびん》の湯がちんちん沸いて、火鉢のそばには赤い布団が敷いてあって、その上に坐って、本二十匁の絃に台広《だいびろ》の駒をかけて、ちょっと一中節とか薗八《そのはち》でもやるというようなお囲い者……お妾《めかけ》さんで、ごくしっとりとした暮らし。
左の端が剣術の先生で、楠運平橘正国《くすのきうんぺいたちばなのまさくに》という人で、通って来る者は、短い袴に刺し子の稽古着、筋骨たくましく、血気盛んな男子《おのこ》ばかりで、「お面、小手!」で、一日中どたんばたんやっちゃあ、
「いや、宮本武蔵と佐々木巌流との試合はでござるの……」
「荒木又右衛門、伊賀の上野、鍵屋の辻の仇討ちのみぎりには……」
などと、殺伐とした話ばかりして、武骨で野暮な連中で穏やかなときがない。
こうした人たちに挟まれた真ん中の家は、まったく災難で、ひとつ縺《もつ》れるとなにかにつけて不都合が生じてくる……。
「姐《あね》さん、こんちは」
「あ、なんだい、辰公じゃァないか。おまえ、ちっとも顔見せなかったねえ」
「へッ、どうも済いません。なにしろあれ以来ねえ、敷居《しきい》が鴨居《かもい》で、どうも……あがりにくくなって……」
「いいやね、そんなこと気にしなくったって。まァ、ちょいちょいおいでよ」
「へえ。姐さん、あの……鳶頭《かしら》はいねえんですか?」
「仲間の寄り合いで、出かけたまんま、もう三日も帰らないよ」
「じゃァ品川かも知れねえ。鳶頭《かしら》は交際《つきあい》が多うござんすからね。まァ姐さんの前《めえ》で言うのもなんですが、鳶頭《かしら》ァあの通り、男ッ振りァいいし、銭放《ぜにつぱな》れがきれいで、女にやさしいてえから、どうもどこィ行ったって、もて[#「もて」に傍点]ますからね。ええ、品川の女なんぞも、鳶頭《かしら》にばかなのぼせようで、鳶頭《かしら》のほうでも満更《まんざら》じゃねえという……ンだから……」
「おまえ、なにかい? 夫婦《みようと》喧嘩させようてんで来たのか?」
「え? いえいえ、そうじゃねえんだが、鳶頭《かしら》が留守で困ったなァ」
「なにか仕事のことかい?」
「なあに」
「なんだい?」
「じつはね、二階をちょっと、お借りしてえと思ってね」
「駄目だよ。またつまらないことをするんだろう?」
「いえ、冗談言っちゃァいけません。博奕《ばくち》なんかじゃありませんよ」
「寄り合いかい?」
「いいえ、そうじゃァねえんで、ちょっと仲直りをしてえと思って……」
「なんだい仲直りって? また喧嘩かえ。大概《たいがい》におしな、いくら鳶の者だって、その喧嘩|早《ぱや》いのが能じゃなし。少しは考えなよ。相手変って主《ぬし》変らず。またおまえ、だれと喧嘩をしたんだ」
「いいえ、あっしじゃァねえんで……」
「おまえはなんだい?」
「あっしは仲人《ちゆうにん》なんで……」
「ふふふふ、こりゃァおもしろいや。おまえが仲人をするとは年代記ものだ……雨でも降らなきゃァいいが……いったい、だれが喧嘩したんだい?」
「へえ、久次《きゆうじ》の野郎と虎ン兵衛の野郎なんで……」
「なんだって喧嘩したんだい?」
「この間、松の湯でもって、久次のやつァ、常磐津《ときわず》なんか稽古しはじめてね、※[#歌記号、unicode303d]嵯峨や御室《おむろ》……かなんかを、まァ、湯ィつかりながら、いい心持ちで唄ってたんですよ。すると虎ンべの野郎も入《へえ》って来ましてねェ。あいつはまた尻癖《しりくせ》が悪《わり》ィもんですから、湯ン中で一発放ちやがったんで……。上へぼこぼこってんで、固まって、ちょうど久次のやつが唄ってる……※[#歌記号、unicode303d]外珍しき嵐山……かなんか言って、口あいた顎《あご》ンところでぱちィッとこれが開いた。さあ、それ……すっかり吸い込んじゃって、……『野郎! なんだっておれに屁なんぞ嗅《か》がせやんでえ』『なに言ってやんでえ、おれァ捨てたものをてめえが粋狂に拾って嗅ぐこたァねえ』『この野郎、ふざけんな、表へ出ろ』『なにを!』ってんで、洗場でもってね、これが小桶《こおけ》振り回して……もう取っ組み合いの喧嘩になった。あっしがちょうど二階にいたんで、『辰《た》っつァん、大変だ、下で喧嘩がはじまった。来てくれ』ってんで、あっしが間に入って……みんな喜んで、『ああ、いいところへ来てくれたい。辰っつァん、なにしろねェ、傍《そば》にも寄れねえんだ、お互いに、抜き身[#「抜き身」に傍点]同士の喧嘩』ってんで……」
「なにを言ってやがんだね、ほんとうに……」
「久次のやつが虎ンべのこめかみ[#「こめかみ」に傍点]に食《くら》いついて、肉を食い切っちまった」
「まあ、たいへんな騒ぎじゃないか」
「と思ったんだ。すると、久次のやつがプッと吐き出して『人間てなあ酸《す》っぺえもんだ』って言うから、よくよく見ると、虎ンべが頭痛がするんで、梅干《うめぼし》をこめかみ[#「こめかみ」に傍点]に貼ってた、それを食い取ったんで……」
「なんだいばかばかしい」
「それをあっしが止めたんですがねェ。それでもういいもんだと思ってるてえと、まァ友だちだの、小若《こわか》を集めましてね。『こんだの祭にはあの野郎ただじゃァおかねえ』腕を折っぺしょっちゃおうの、素《そ》っ首《くび》を引っこ抜いちゃおうのって、そんな相談してるってえことを聞きましたから、こいつァ大事《おおごと》にならねえうちに、まァ、ちゃんと仲直りをさしたほうがいいと、こう思いましてね、ええ。まァ、料理屋なんか借りるというのも大仰《おおぎよう》でいけねえ。なにしろ、それに先立つものがねえ……こんだの祭はあっしはね、派手にしてえと思って、股引、半纏、腹掛……そっくり新しいのを誂えちゃったもんですから、懐中《ふところ》都合が悪《わり》いもんでねェ……まァ、酒のところは識面談《しきめんだん》でことは足りたんですが、のせもの[#「のせもの」に傍点](肴)ってえまではいかねえんでねェ。そこらァ、まあ、持ち寄りでてえことで……さあ、そうなると、場所ですがねえ。いろいろまァ、みんなと話した揚句、『じゃ、表町の鳶頭《かしら》の二階は広いから、あすこを借りて手打ちをさせようじゃねえか』と、こういうことになったんですが、鳶頭《かしら》がいないんで……いけませんかね」
「そりゃ、そういうわけなら貸してやってもいいけどねえ……だけど困るんだよ、いままでとちがうからね」
「ええ?」
「ちょいと隣へ柔《やわら》かいのが越して来たんだよ」
「隣へ?……柔かいのってえますと、幽霊かなんか?」
「なに言ってんだよ。そうじゃない、お囲い者……お妾さんだよ」
「へえー、どこの?」
「横丁の伊勢勘のさァ」
「質屋ですかい」
「そうさ」
「伊勢勘じゃァ……三月《みつき》ばかりまえに嫁ェ貰ったばかりじゃァねえか」
「そりゃおまえ、伜のほうで、こっちは親父のほうだよ」
「あの、薬罐《やかん》かい? へー年甲斐もねえ擂粉木《すりこぎ》じゃァねえか、なんですかねえ、あの親父はまだそんな気《け》があるんですかねえ……ふゥん、あの親父が囲ってるんだから、禄な者《もん》じゃねえでしょう?」
「……それがそうでないんだよゥ、いい女、中肉中背、目はぱっちりとして鼻筋は通ってね。第一、声から……なにからいい声をしてるよ。で、なにを着たって似合うんだよ、ちょっとあれだけの女はいないね……いや、化粧のせいもあるだろうけどさァ。それにしても、いい女だよ。湯の往《い》き帰りなんか、あたしァたのしみにして見てるくらいだからね」
「ふゥん、女っ惚《ぽ》れのする女か……そんないい女をねえ……あの薬罐がねえ。で、その女は薬罐に惚れてんですかねえ?」
「なにを言ってんだよ。囲い者はお金だよ、金ずくだよ」
「なるほどね。……金せえありゃァ……そういういい女が自由になるんだ、ねえ……人間万事金の世の中というからな……そこへいくとこちとらァだらしがねえや、筑摩屋《ちくまや》の女中に蔵の側《わき》でくらいついて……横ッ面張り倒されてクラクラした」
「ばかだねほんとうに、そんなことするんじゃないよ、組の名前が出るじゃないか」
「へへへ、どうも済いません。ェェなにしろまあ、金せえありゃァほんとうにねえ、どんな贅沢も出来るッてえやつだ、ねえ」
「だから辰っつァん、そういうわけでねェ。なにしろねえ、うるさいんだよ。……いえね、こないだもさァ、赤筋の寄合いが、家《うち》であってさァ……で、話が済んだからもういいと思ってね、それからまァ酒を出したんだよ。ところが、みんなああいう手合だから、いつだってもう決まってらァね。喧嘩がはじまってさ、美土代町《みとしろちよう》と佐賀町とさ。それでまァ、横っ腹へ風穴開けんのなんのって大騒ぎしたろ……そうしたら、それを聞いて隣の女が、血のぼせがすんの、気のぼせがすんの言やがって、騒ぐんだよ。聞きゃァ聞き腹でねえ、こっちだっておもしろくないやねえ。……そういうわけだからさあ、他へ行ってやっとくれよ。酒はあたしが買うからさァ」
「弱っちゃったな、どうもなあ……駄目ですか?」
「おまえでも飲まなけりゃァ、まだいいんだけどもねえ。もう飲むとおまえたちは喧嘩だからねえ」
「え?……あっしが飲まなけりゃァ? そりゃァ大丈夫ですよ、あっしは。心配ねえすよ」
「なにを言ってやんだい。おまえがいちばん心配だ」
「いいえ、あっしは、酒を断ちましたから……」
「おまえが? 酒を断った? いつ?」
「ええッ、へへ……いつと言っても、十《じゆう》……四、五日まえに、断ちました」
「十四、五日まえ?……嘘をおつきよ、五日ぐらいまえだったよ。おまえ、豊島屋《とよしまや》の塀のとこでぐでんぐでん[#「ぐでんぐでん」に傍点]に酔っ払って、ひっくり返ってたろ。あたしがちょうど傍を通ったから、『辰公、いいご機嫌だね』って言ったら、『なに、この女《あま》っ』っ言《い》やがって、まあ、あたしもなにも判りゃしない、こんな気狂いからかったってしょうがないと思って帰って来ちまったけども……なんだい? ありゃァ?」
「ふふッふッ、あれですか?……青木屋の建前で、おれが酒ェ断ってるてえのに、みんながあっしの口を無理に開けて、酒ェがぶがぶ注《つ》ぎ込みやがって、とんでもねえ野郎たちで、大しくじりでさァ」
「なにを言ってんだよ。友だちのせいにするやつがあるかね……断った酒飲んでごらんよ。罰《ばち》が当たるよ」
「へえへえ、どうも、そう思いましたからね。そいつは大変だってんでね。深川の不動様へすぐ飛んでって、こういうわけだからって訳を話したら、不動様は『このたびは許してやるが、以後はならんぞ』とこうおっしゃって……」
「なにをばかなことを言ってやんだい……まァいいさ。その日、おまえだけ酒を飲まなきゃァ、貸してやってもいいが、いったい、いつやるんだい?」
「へえ、きょう、これから……」
「また早いんだね、……それじゃァみんなに知らしとき……」
「ええ、みんなはいま表で待ってるン」
「なんだい、手回しがいいね。あたしが貸さないって言ったら、どうするつもりだったんだい」
「いえ、へへへ。なんでもかんでもこっちは借りようと一本槍で来たもんですから……」
「なんだい、手回しがよすぎるよ。じゃァしょうがない、貸してやるけどさ、断わっておくけど、今日はいま、おまきのやつが身体《からだ》が悪いと言って、実家《さと》へ行ったんで、家にゃァ奴《やつこ》とあたしと二人きりだから、用は自分たちでよきゃァ、それさえ承知なら……」
「いいえ、そんなことは構わねえでください。大勢|人手《て》はありますから……」
「二階は散らかってると思うけど、そこは片付けて、くどいようだけど、静かにしておくれよ。おめえたちときた日にゃァ、話をしてんだか喧嘩だかわけがわからねえんだから、あんまりひっ騒《さわ》いで、近所にみっともねえから……」
「ええ、大丈夫で……もしも騒いだりなんかしやがったら、あっしがその野郎を、叩《たた》ッくじいて……」
「それがいけないんだよ。おとなしくしなくちゃァ……じゃァ、みんな、こっちィ入《い》れな」
「じゃァ……おうおうおう、入《へえ》れ入《へえ》れ、こっちィ……姐《あね》さんが貸してくださるとよ。さっさと入《へえ》れよ。ぐずぐずするな、間抜けっ」
「なんだねえ、間抜けだなんて……それがいけないよ」
「済いません」
「さあさあ、みんなお入りよ」
「ェェ、姐さん、こんにちは」
「おや、久次、久しぶりだね」
「ェェ、こんにちは」
「おお、虎ンべ、おっかさんは達者かね」
「ェェ、こんにちは」
「おや、徳さん」
「へい、こんにちは」
「あら、芳さん」
「こんちは」
「まあ、大勢、もう挨拶はいいからどんどん二階へ上がんな」
「おうおう、早く上がれ、早く上がれ……おうおう待て待て」
「へ?」
「留公っ、てめえなんだって二階へ上がるんだ」
「だって、へへへ、今日は仲直りだって……」
「聞いたふうなことを言うな。てめえたちはなにも二階《にけえ》へ上がって来るにゃァ及ばねえや。今日集まるのは役付きばかりだ。てめえっ達《ち》はまだ膝組みで酒ェ飲もうってのは早えや。てめえはお燗番《かんばん》に連れて来たんだ。階下《した》へ降りて働け」
「だがまァ、めでてえからちょっと……」
「生意気なことを言うな、おまえ。……上の者に逆らうんじゃないよ。まァいい、我慢して階下でお燗番でもしてな、ね? 人間は万々《ばんばん》出世だから、まァ長《なげ》えものには巻かれろだから、おとなしく、階下《した》で働きな」
「へえ、姐さんのようにそうやさしく言ってくださりゃァいいんですがね。……あの野郎ときた日にゃァ、役付きになったと思っていやに肩で風切ってやがっていやな野郎でござんすどうも。……姐さん、あっしは階下でお燗番でもしてるほうが気がおけなくってようがす」
「なんだい、あすこにある樽だの俵なんぞ」
「ありゃァ酒に炭で……」
「なんだい、炭ぐれえは家で達引《たてひ》かァな……そんなものまで持ってきて、あてつけがましいやね……」
「姐さんに心配かけちゃァ済まねえんで……」
「なにそんなこたァ構わない……それじゃ奴《やつこ》、おまえその炭俵を台所口へ持って行きな、燗徳利《かんどつくり》は五、六本あるから、それをお使い、盃も出して使うがいい」
「ありがとうございます」
「おまえ、炭の口を開けるなら、そこに出刃《でば》がある」
「なーに出刃にゃァ及ばねえ。手で縄を切っちゃった」
「乱暴だね、手掴みで炭を出して、まァ布巾《ふきん》で手を拭《ふ》いちゃァしょうがないね」
「奴《やつこ》、あすこから火種を持って来ねえ……姐さん七輪を借りますぜ」
「ああいいとも、渋《しぶ》団扇《うちわ》もそこにあるよ」
「ありがとうがす。……ああ、魚屋さん、ああ、誂えて来たんだね、刺身? じゃあ、こっちへ置いといて……奴、なにか被《かぶ》せときなよ、猫が来るといけねえから……」
「おまえ、煽《あお》ぐのはいいが……なんだよ、縁側のほうへ出してやんなよ。座敷へ火の粉の入らないように気をつけなくちゃァ駄目じゃァないか」
「へいへい、よろしゅうござんす。ええ、大丈夫、気をつけます……なんですか、鳶頭《かしら》ァまだ寄り合《え》えから帰《け》えらねえんですか? しかし、うちの鳶頭はどこへ行ったって評判がようがすねえ、ええ。まあ、こちとらまで肩身が広いや……それに、あっしみてえな三下|捉《つか》めえても、表で会うと『おう、兄ィ』なんて言ってくださるんで、こっちはきまりが悪くなっちまうくらいでござんして、貫禄《かんろく》があってそう言ってくれるんだから、自然と頭が下りまさあ……そこへいくと、二階にいるやつらなんざ、威張る一方なんだからくだらねえや……隣はなんですね、越して来ましたね、……うん。やっぱり人の家てえものは、住んでいなくちゃいけねえんだそうですね。こちとら空いてるほうが家は傷《いた》まねえんだろうったら、家てえものは人間が住まわなくっちゃ家が傷んでいけねえなんてこと聞きましたがね……ほう、庭の様子《もよう》なんぞよくなりましたね。垣根で囲って赤松のひょろ[#「ひょろ」に傍点]を五、六本植えて……石灯籠《いしどうろう》に豪儀と銭をかけましたねえ。……うん、小ぢんまりとしてなかなかいい石灯籠だねえ。雪隠のところから四ツ目垣にして、障子を貼り替えて……あ、あ、障子が開いた……あ、あ、あァッ、いい女……」
「なんてえ声を出すんだよ」
「いい女が出て来ましたぜ。隣の家から……」
「男てえものは女を見さえすりゃいい、いいっていうが……悪かァねえけれども、ありゃ化粧《つくり》だよ」
「つくり[#「つくり」に傍点]か刺身か知らねえが、いい女だねえ……何者なんで、白かえ。黒かえ」
「そりゃまァ、黒上がりと思うが、囲い者だよ」
「へえ、どこの?」
「伊勢勘の持ちものだよ」
「えっ、あの爺ィの?……うーん、ずうずうしい爺ィだ、歯もなんにもねえくせに……」
「歯がなくったって、金があらあね。おまえなんぞ、歯があったって、金がねえじゃァないか」
「ああ、なるほど……このおれの歯ならびのよさに惚れてくれる女だって世間にゃ……いねえかなあ。しかし、まあ、悔しいなあ」
「ちょいと、ちょいと、おまえ、さっきから、ばたばた団扇でやってるけれども、七輪を煽がないで、猫のお尻《しり》を煽いでるじゃァないか」
「ええっ? あっ、こん畜生、なんだって黙っていやがるんだ、奴《やつこ》……あっ、姐さん、お出かけですか?」
「あの、ちょっと、おまえたちがいる間に、あたしゃ、横丁の湯へ行って来るから頼むよ」
「どうぞ、ごゆっくり行ってらっしゃい。……おい、奴、姐さんの下駄を出しねえ……間抜け、綱《つな》を踏むない、あれっ鳶口《とびぐち》に触るない、間抜けな野郎だなあ、胴突《どうつ》きの道具へ手をつけるなよ、鳶頭《かしら》が帰《けえ》って来ると叱られるぜ」
「じゃあ、頼むよ」
「行ってらっしゃいませ……女というやつは、他の女を褒めると気に入らねえもんで、隣の女、囲い者だってえが、いい女だ。姐さんもいい女だけども、いくらいいと言っても、もう年だ。青物《あおもの》で言やァ薹《とう》がたってる。そこへいくと、隣の女はなんとも言えねえなあ。姐さんは化粧《つくり》だというが、いくら化粧《つくり》だって、土台《どでえ》が悪くっちゃしようがねえが、隣のァ若くていい女だよ。こっちはつい、大きな声を出したもんだから、顔を赤くして障子を閉めてしまったが……もういっぺん見てえなあ……そりゃァいいけれども、七輪の火がちっとも起こらねえ、あっ、口が向うを向いてやがる。……あっ、また障子が開いたぞ……ありゃァ、なんだい下女かい? あの年増にひきかえて、こりゃあまずい面《つら》だなあ。人三化七《にんさんばけしち》だね、ありゃ。お月見女だよ……顔が丸くって、鼻が団子で、頬っぺたァ赤くって柿だァ。頭の毛は芒《すすき》だよ。秋の月見は心持ちがなごむけれど、人間の面ァとなるとげんなりするぜェ。それにしても他人《ひと》の囲い者にでもなろうてえ女は、やっぱり人間の見立てだってうめえや。こういうもんを飼っておきゃあ、てめえが引き立つからなあ……一人で見るのは惜しいや……おーい、二階のやつらァ、首を出して見ろやーいっ、隣の家から化物《ばけもん》がはみ出しゃァがった」
「なんか階下《した》で、お燗番がどなってるぜ。……なんだなんだ?」
「裏ァ見ろよ。隣の庭へ化物が出て来たんだとよゥ」
「なるほど、まずい面ァしてる。髪の毛は玉蜀黍《とうもろこし》のように縮《ちぢ》れて、大きな尻《けつ》振り立てて駈け出しゃァがった。やーい、てめえなんぞ、駈け出すより転がるほうが早えぞっ、わーいっ」
と、二階の窓から首を出して、口の悪い連中が囃し立てた。下女は裏の雪隠から出て来たところだったが、出るに出られず、気まりが悪いので真っ赤になって、また雪隠へ逃げ込んだ、そのうちに二階で酒がはじまり、鎮《しず》まるまで出るに出られず、そこに潜《ひそ》んで、泣き入った……。
「なにをおまえ泣いてるんだい? お竹」
「おかみさん、もうお宅には辛抱できません。どうかお暇《ひま》をください」
「なにを言い出すの。おまえに暇とられたら、あたしが困るじゃないの」
「だって隣のやつらが、あたしを化物、化物ってからかうんですよ」
「だから言ったじゃないか……聞えたよ、みんな。なにを言っても構やァしないよ。表《そと》の厠所《はばかり》へ行かないで、家のへお入りというのに、つまらないことを遠慮して、そんなところへ行くからだよ。さっきもね、あたしが障子を開いたら、若い衆がいるようだから、おまえにもお出《で》でないと言うのに、おまえが出たから悪いんだよ。泣くのォおやめ、みっともない……あっ、旦那、おいでなさいまし」
「どうしたんだ、え? また叱言かい? およしよ、おい、おまえのように、言ったってなかなかきっちりものが出来るもんじゃないよ」
「いいえ、そうじゃないんですのよ。お竹がいま表へ厠所《ちようず》に出たところが、隣の鳶頭《とび》のところの若い者が大勢寄ってるんでしょ。お竹を見て、化物化物って言ったてんですよ。それでいま、お暇を頂きたいてえから、急にそんなことを言われては困るからと言っていたんですよ」
「そうか。いやァ、うっちゃっとけ、うっちゃっとけ……あいつらの言うことをいちいち気にとめちゃァいけない。口の悪《わり》い連中だからしょうがねえ、いまも、あたしが横丁を入って来ると、『やーい薬罐が通る、薬罐が通る』って、上で言っている。ひょいと上ェ見ると、みんなおれの頭を指差してドッと笑ィやァがった、そのくらいだ。あいつらの言うことは右の耳から左の耳へ聞き流しにしなければいけねえ」
「でもねえ旦那、あたくしもお願いをしたいと思っていたんですけども……どっか、他所《ほか》へ旦那、すいませんけど、ここの家を引越してくださいませんか」
「おまえまでがそんなことを言っちゃァ困るじゃないかねえ……そりゃ少し我儘てえもんじゃないのかい? え? 初めの家は近所の人出入りが多くて目についていやだから、もう少し静かなところへ越したいというから寺町へ越したら、こんどは鉦《かね》と木魚の音ばかり聞いて、これじゃァうなされて気味が悪いからもうちょっと賑やかなところへ越したいてえから、ここの家へ来たんだろう……まァま、なかなかね、人というものはそうそう思ったように行くもんじゃないよ」
「ですけども……旦那はよくご存知ないからそうおっしゃいますが、鳶頭の家へ若い衆が集まると、きっと喧嘩がはじまるんですの、さァ殺せ、生かしちゃァおかないとかで、どたばたはじまるんですの……こっちの楠さんの処じゃァお弟子が増えたとかで、夜遅くまで剣術のお稽古なんですの……壁へドスドス、ぶつかって、両隣で騒がれたんじゃァ、とても血|逆上《のぼせ》がして、ここにはいられませんわ」
「まあ、そうおまえなァ贅沢なことばかり言っちゃ困る。ま、これはなァ、大きな声では言えないが、じつはここの土地は、あたしンとこへ家質《かじち》抵当へ入っていてな、もう程なく期限が切れる。そうすりゃ、この三軒長屋はあたしの所有《もの》になっちまう。そうしたら両隣をいくらか金をやって店退《たなだて》をくわして、楠さんのほうは庭にして、鳶頭のほうを座敷に直して一軒にして住まわせるようにするから、そうすりゃ静かで、だいぶ広くなるから、まァもう少しの辛抱だ。石の上にも三年ということがある。横丁の易者ァごらんよ、溝板《どぶいた》の上へ七年も出てるじゃないか。……まァ腹がへった、お膳立てをして、お酒をつけておくれ」
 こちらは納まったが、隣の鳶頭《かしら》の二階のほうは酒が廻ってきた。
「おゥ辰、こっちィ来い。……おい、一杯やれ」
「しようがねえなァ、そう酔っちまっちゃァなァ……どうだい? このへんでもうおつもり[#「おつもり」に傍点]にしちゃァ……おめでたく……久兄ィ」
「めでてえから、ひとつ大盃《おおきい》ので、飲めっ」
「飲めったって、どうもそうはいかねえんだよ。ええ? なにしろ、今日はおれは飲まねえって約束でもって、姐さんからこの二階を借りたんだから……まァ、河岸《かし》ィ変えたら、付き合うから、まァ、勘弁してくれ」
「なあに言ってやんでえ、おめえ、仲直りのめでてえ酒だ。おめえが仲人《ちゆうにん》で飲まなきゃしようがねえ。いいから飲みなよ。ェェ? なにかいおれの盃が受けられねえてえのかい?」
「いや、そういうわけじゃァねえんだい。いま言う通りよ、飲まねえてえ約束でおれが借りたんだい、なァ。まァ、おれの顔を立ててひとつなァ……なァ、おれの顔で借りたんだから」
「おゥ、そうかい。おめえの顔でこれを借りたってえのかい? この座敷を? お前はいい顔だなァ、ェェ、おい! そうじゃねえか、きょうこのごろ、役付になったからって大きな面をするんじゃねえぞっ、おい」
「なんだと?」
「なんだとはなんでえ! え、てめえなんぞ、おれにそんなことを言えた義理か。やいッ、いやに兄貴ぶるない。第一《でえいち》、ふだんから気に食わねえ」
「なにが気に食わねえ?」
「八年前の暮れから気に食わねえ」
「古いことを言やァがるな。八年前の暮れにどうした?」
「どうした? おめえ、忘れちゃァ済むめえ……ぴゅーっという北風と一緒に、おれンとこへ飛び込んできゃァがって、尻切れ半纏一枚で、合羽屋の二階にくすぶってやがって『兄貴、もうすっかり取られちまって、どうにもあがきがつかねえんだ。なんとかしてくんねえ』って、ひとを兄貴、兄貴と持ちゃげやがって……こっちも、だれが困るのも同じだと思って、可哀想だから家へ連れて来て置いてやった。さあ、一夜明ければ、獅子舞に出る。『どうだい、これから獅子を持って客のところを廻るんだが、てめえも手伝わねえか? どうだ、太鼓を叩けるか?』って聞いたら、『法華《ほつけ》の太鼓か、夜番の太鼓よりほかに叩けねえ』ってやがる。冗談じゃァねえ、初春《はる》獅子を出すのに、そんな太鼓を叩かれてたまるもんか。『じゃあ、与助(鉦)はどうだ?』って言ったら、『チョンギリは手が冷たくて嫌だ』って抜かしやがる。『それじゃ笛はどうだ?』と言うと、『法螺《ほら》は吹くが笛は吹けねえ』『てめえ、なにをやりてえんだ?』『おれ、獅子が被《かぶ》りてえ』と言やがる。『ふざけたことを抜かすな。獅子頭を被るのは真打ちの役だ。てめえなんぞに獅子頭を被せるこたァできねえ』『いや、なんでもやってみてえ、ぜひ獅子をやらしてくれ、頼む』ってえから、こっちァ、心得がちっとはあるだろうと思って、やらしてみたらそうじゃねえんだ。てめえァ寒いので獅子のあおりを体に巻いて暖まろうてえだけじゃァねえか。後ろから見た態《ざま》の悪いこと。こりゃどうも下町もうすみっともねえから、山の手のほうへ流しに行くってえと、子供が大勢で、『やーァ獅子頭の鼻から煙《けむ》が出る』って、おかしいなと、ひょいと被《かぶ》り布をまくって見ると、この野郎いつの間に買やァがったのか、焼芋《やきいも》を食ってやがる。麹町の旦那のとこへ行って、玄関の前で威勢よくやってくれと、二分ご祝儀が出た。と、てめえ、二分のご祝儀と聞いて、目がくらんじまって、ぐるぐるっと回って、玄関のところで遊んでいる坊っちゃんの額《ひたい》に、獅子頭の鼻づらをコツンとぶっつけやがったもんだから、坊っちゃんが、ワーッと泣き出しちまった。『坊っちゃん、済いません。獅子がいまちょっとふざけたんです。勘弁してください』ってんで、おれが坊っちゃんの頭を撫でてると、てめえ、『この餓鬼《がき》め、うるせえ』って言やがって、獅子頭《しし》の口から大きな拳固を出しゃァがって、坊っちゃんを殴りゃがった。もう、見ちゃァいられねえから、玄関の式台へてめえを踏み倒して、旦那にペコペコ詫《わ》びを言って……もう山の手はツケが悪いから下町へ下《おり》るんだって、日本橋へ来ると、魚屋の親方が呼び込んで、威勢よくやってくれ、一両祝儀をやる、って言うと、てめえ、二分でせえ目がくらんだところ一両と聞いて、ぐるぐるチャンチキリンリンリンと踊り込む途端に、穴蔵の片蓋《かたぶた》開いているのを知らねえで、獅子を被って穴蔵の中へ飛び込みやがって、野郎はどうでもいいけども、獅子は借物だから上げてやれってんで、ようよう引き上げた。てめえは無事だったが、獅子頭の鼻面《はなづら》を三寸ばかりぶっかきやがったもんだから、塗師屋《ぬしや》へやって鼻をつくろった。そんときの割前を、てめえ、まだ出しゃァがらねえ」
「なにを! 黙ってきいてりゃ、ぬかしたな、ほざきゃあがったな」
言うが早いか、辰公、いきなり傍にあった刺身皿を取って、ダァーッとぶっつけた……久次はひょいと首を縮めたので、皿は肩をかすって、後ろの柱へ、ガチャーンとぶつかって、皿はメチャクチャに割れ、刺身を頭から浴びて、鼻の頭へ海藻がぶら下がったり……ひっくり返る騒ぎ。
「やりゃがったなっ」
「やったがどうした」
「さァ、畜生! もう我慢できねえ。この野郎、さァ殺すなら殺せ」
「殺さなくってよーッ」
「待ってろ」
辰公はどたどたどたどた……二階から駆け下りて、台所の出刃庖丁を逆手に握ったところへ、鳶頭の姐御が帰って来た。
「おい、なにをするんだよ。そんなものを持って、ばかな真似をするんじゃないよ」
「姐さん、済みません。放しておくんねえ、満座ン中で野郎、は……恥をかかせやァがって、野郎生かしておかれねえ、一匹|取換《とつかえ》だ。さあ、野郎逃がすな」
「冗談じゃァないよ。だれか止めないか。仲直りに二階を貸したんじゃないか、喧嘩するために来たんじゃァなかろう?……おい、だれか、二階から下りて来て、押えなくちゃァ駄目だよゥ」
「殺すんなら殺せーッ」
「殺さなくてよーッ」
 一軒置いた隣の剣術の道場では、
「さ、近藤、井上、待ちうけておった……早速お手合わせを願おう」
「いやァ……拙者、本日、疲れておるゆえ、まず明日ということに願おう」
「いや、これはけしからん。現在、太平の御代だによって、そのようなことを言わるるが、武士たるものが、戦場において、敵から勝負を申し込まれ、いざ一騎打ちという際に、疲れておるからよせと言えようか……いざ、支度めされい!」
「うむ、やむを得ぬ、しからば参ろう」
「さあさ、お相手を奉ろう」
「えいッ! お面ッ」
「お胴ッ」
ドスン、バタン……!
「さあッ、殺せッ」
ドタン、バタン!
「旦那、これなんですよ」
「なるほど、こりゃァひどい……こっちが喧嘩にこっちが剣術か、毎日というわけでもなかろう」
「いいえ、毎日のことですよ」
「こりゃァ驚いたな。竹や、棚のものを下ろしておきな……あッ、痛いッ、あー、御神酒徳利だ。こりゃどうも、大変な騒ぎだァ」
「ですから旦那、越してくださいよ。どうぞお願いですからさァ」
「まァまァ、わかったわかった。しかし、まァしばらく我慢をしていな。さっきも言ったように、こっちで越さねえでもいい。いまに二軒とも……鳶頭《かしら》って言ったって、たかが溝《どぶ》っ浚《さら》いだよ。剣術の先生なんて、手ェ振り棒振り剣術だよ。なあに、いくらか握らせて因果を含めりゃあ、向こうから喜んで引越していってくださる……そうしたら三軒を一軒にして住めるようになる。そうなりゃ文句はないだろ。もう少しの辛抱だよ」
伊勢勘の隠居は、妾と下女をなだめてその日は帰って行った。
 さて、翌日、お竹は悔しいので、井戸端へ出たときに、この話を少し尾鰭《おひれ》をつけてしゃべった。……と、必ずどこにでも一人|鉄棒引《かなぼうひき》がいるもので、これを早速|鳶頭《かしら》の姐御へご注進したからたまらない。もとより男勝りのきかん気の女……鳶頭《かしら》が四日も帰って来ないのでたださえムシャクシャしているところへ、火に油を注がれたようなもの……カーッと癇癪《かんしやく》の虫がこみ上げて、いや怒ったのなんの……そのさなか鳶頭が帰って来た。
鳶頭のほうもさすがにばつ[#「ばつ」に傍点]が悪く、威勢よく格子を開けるわけにはいかないので、言わなくてもいい叱言《こごと》のひとつもくらわせる……。
「おい、奴《やつこ》、表を掃除しろい。なんでえこらァ、汚ねえじゃねえか。みっともねえや」
「奴、うっちゃっておきな。掃除なんぞしねえでもいいよ。どうせここの家は空家《あきや》になるんだから、うっちゃっておきな」
「なにを大きな声を出しゃァがるんだ。空家になるとはなんだ。間抜けめェ、気をつけろい」
「気をつけろって、大変な騒動が起ったんだよ。それも知らないで、どこをほっつき歩いてるんだい」
「なにを言ゃァがる。三日や四日家を空けたからって、変に気をまわすない!」
「鳶頭《かしら》、嫉妬《やきもち》じゃァない。あたしゃ悋気《りんき》なんかしない。おまえさんが一年帰らないでも出先がわかってりゃァ、ぐずぐず言ゃァしないが、鉄砲玉のように行先がわからないから、困るんだよ。家はひっくり返るような騒ぎが起ってるんだ。ここの家は店退《たなだて》を食ってるんだよ」
「ばかッ、大きな声を出しゃァがるな、店退だの地立《じだ》てだのッと、あんまり見得のもんじゃァねえ。けれどもここの家を借りるときに、�入用の節はいつでも明渡す�という店請け証文てえものが一本|入《へえ》ってるんだから、まだ行先がねえと、野暮なことも言えねえ。そりゃ、おめえ、空けねえわけにはいくめえ」
「それがねえ、家主からの店退ならわかるが、それがそうじゃないんだよ。隣の妾よ……伊勢勘のところから店退を食ってんだよゥ」
「なんだっておまえ、伊勢勘から店退を食う……筋はねえ……」
「筋がないにもなにも……それがしゃくにさわるんだよ」
「どうしたんだ?」
「じつはねえ、おまえの留守に若い者が来て、喧嘩の仲直りをさせるんだから二階を貸してくれってンだよ。いやとも言えないから貸してやったんだ……そうするとお定《さだ》まりだァね、酒ェ飲んで喧嘩をおっぱじめやがったんだよ……。一軒おいて向うの楠さんのとこじゃ、このごろお弟子が増えたんで夜遅くまで剣術の稽古をするんだ、両隣でこんなに騒がれたんじゃァ、血|逆上《のぼせ》がするとか気のぼせがすると言って、妾のやつが伊勢勘の薬罐を煽ったんだよ……すると、ここの三軒長屋てえものはなんだってさ、あの、伊勢勘の家へその……ほら、かじき[#「かじき」に傍点]に入《へえ》っているんだよ」
「なんだい、かじき[#「かじき」に傍点]てえのァ……刺身じゃねえか」
「じれったいね、なんだか抵当《かた》に金を借りて」
「家質《かじち》か?」
「そうそう、もうすぐに年限が切れて、そうすると、ここは伊勢勘の所有《もの》になるんだってさァ」
「ううん」
「そうしたら三軒長屋を一軒にして、あの妾を住まわせるって、言ってるそうだよ。あの妾があの薬罐を煽ったんだよ。薬罐がすっかり沸いちまいやがってさァ。それでね、なんか変なことを言ってやがったよ。『鳶頭だって言ったってね、たかが溝《どぶ》っ浚《つアら》いだ。剣術の先生だなんて言ったって、ありゃ手振り棒振り剣術だから、金をいくらか握らせりゃァ喜んで引越しちまう』なんてえことを、あの薬缶が言ってるそうだよ。ふん、なにを言ってやがんだ。まだ自分の所有《もの》に、はっきりなったわけでもないのに、下女に言いつけて、そんなことを近所隣へ言いふらされちゃ、みっともなくっていられやしないやね、こっちだって……鳶頭、おまえの男はすたったよ」
「ぎゃァぎゃァ騒ぐなよ。……じゃァなにか、たかが溝っ浚いと棒振り剣術使いだからいくらかやって追い出すと、伊勢勘の禿頭がそう言ったのか?」
「ああ確かだよ。あたし一人が聞いたんじゃァない。大勢証人がいるんだから……」
「よし、わかった。……羽織を出しな」
「羽織を?……しっかりおしよ。喧嘩に行くのに、羽織なんか着なくたっていいよ、火事|頭巾《ずきん》に手鉤《てかぎ》でも持ってって、あの薬罐頭をぶち殺しておやりよ」
「べらぼうめ、あんな家の一軒や二軒ぶち壊すのに、支度もなにもいるもんか……いいから、羽織を出しねえ」
 鳶頭は羽織を引っかけて表へ出たが、隣の家へ行くかと思うと、その一軒先の剣術の道場へ……。
玄関構えで、正面には小さな衝立があって、槍が一本|長押《なげし》に掛けてあって、左右に高張提灯が並んでいる。端に大きな看板——「一刀流剣道指南処 楠運平橘正国」がかかっている。横へ曲ると武者窓が取ってある厳しい造作《つくり》で、高張の一つは退屈と見えて、胴が裂けて欠伸《あくび》をしている……。
「お頼み申します」
「どォーれ、いずれから?」
「あっしゃァ、一軒おいて隣の政五郎《まさごろう》てえもんでございますが……」
「おゥ、これはこれは……鳶頭でござったか」
「ェェ、先生がおいでになりましたら、ちょっとお目にかかって内々でお話申してえことがあるんで、お取次ぎを願います」
「おう、さようで。暫時お控えください……はッ、先生、申し上げます。ただいま、隣家の政五郎どのが参られまして、先生にお目にかかりたいと申します」
「うん、さようか。しからば、こちらへ通すがよい」
「どうぞこちらへお通りを」
「ごめんくださいまし……へえ、ちょっと伺わねえうちに道場の様子がすっかり変わりましてござんすねえ、どうも。……あァ、先生、どうもご無沙汰いたしまして……」
「よう、これはこれは、政五郎どのか。そこは端近《はしぢか》、いざまず、これへ、お通りくだされい」
「しからばごめん……と、言いたくなるね。先生のは、なにごとも芝居がかりでござんすね。じゃあ、まあ、ごめんなすって……」
「ご遠慮なく」
「先生、どうもご近所にいながらつい、貧乏暇なしてえやつで、ご無沙汰ばかりして申しわけござんせんで……」
「いやいや、てまえとても稽古繁多の折とて、存外無沙汰をいたしおるが……今日また何用あってご入来《じゆらい》にあいなったるか……」
「じつは、先生にちょいとね、折入って相談ごとがあるんで、まァ……まことに申しかねますが、ご門弟がたにちいっとの間|外《はず》していただきてえんでございますが……」
「おう、さようか。……いや、石野地蔵、山坂|転太《ころんだ》、北風|寒右衛門《さぶえもん》……そのほうたち、次の間へ退《さが》って休息いたせ」
「ははァ……」
芝居がかりだが、次の間などないので、井戸端へ行って日向《ひなた》ぼっこするしかない。
「して、どのようなご用件かな?」
「じつはね、隣の伊勢勘のことにつきましてね」
「なにか? 隣家の伊勢屋勘右衛門め、謀叛《むほん》の儀でござるか?」
「先生どうも、調子が高くっていけねえ。どうか内々のことなんだから少し調子を落しておくんなさい。ェェ先生のところでは、このごろ、お弟子さんが増えて、毎晩、夜稽古がはじまり、あっしの家《うち》では、若え者が二階に集まると、揚句の果てはいつも喧嘩になってどたばたやりますので、隣の囲い者が血|逆上《のぼせ》がするとか言って、隠居を煽《あお》ったもんとみえまして、あっしも知らなかったんだが、この三軒長屋てえものは、伊勢勘の抵当に入っていて、期限がまもなく切れて、抵当流れになる。そうしたら自分の所有《もの》になるから、両隣はたかが溝っ浚いの鳶頭《とび》に……先生、怒っちゃいけませんよ、禿頭の言ったことだから……たかが棒振り剣術|使《つけ》えだから、金でカタが付く、いくらかやって追い出して、三軒を一軒にして囲い者を住まわせようと……爺ィが言ってるそうなんで……」
「う、うーん、あの勘右衛門がさよう申すとな? 不埒千万《ふらちせんばん》なこと。たとえ町家たりとも楠運平橘正国が住まいおるならば城廓《じようかく》も同様、それを店退《たなだて》とは、城攻めに等しい。うん、まず表口を大手となし、裏口を搦《から》め手といたし、前なる溝《どぶ》を堀といたし、引き窓を櫓《やぐら》といたしておる。先方がさようなことを申すなら、当方にも覚悟がある。いや、加勢はいらぬ、地雷火を仕掛け、手勢をもって攻め滅ぼし、伊勢屋勘右衛門の白髪《しらが》首を討ち取って……」
「まァまァ、先生の言うことは、どうも大げさでいけねえや……戦《いくさ》じゃねえんだから……ご時節がら、そんなことをしたってしようがねえ。あっしにちょっと思いついたことがあるんで……後で驚くような……隠居の鼻をあかしてやろうと思うんですが、一人でやるのはおもしろくねえから、先生のところへご相談に伺ったんですが……済いませんが、先生、ちょっと耳を貸しておくんなせえ」
「よろしい、いずれへなり持ってまいられい」
「いいえ、別に持って行きゃァしませんがね。もっと、こっちへ寄ってくださいな。じつはね……」
「うんうん、計略は密《みつ》なるをもって良しとす……なるほど、うん、さようであるか」
「わかりましたか?」
「わからん」
「冗談言っちゃァいけません。わからねえで返事してちゃァ困ります」
「いや、これはとんでもないことをした。拙者、壮年のみぎり、武者修行をいたし、日光の山中において天狗《てんぐ》と試合をいたし、その折、木太刀《きだち》にて横面を打たれ、それ以来、左の耳が聞こえぬように相成ってござる」
「聞こえねえほうを出すこたァねえでしょう?」
「しかし、ひとにものを貸すには、まず不用のほうより貸すが得策《とくさく》……」
「冗談言っちゃァいけません……そっちならば、聞こえますか?」
「こちらならば、聞こえ申す」
「じゃァ前を通りますよ。ちょっとごめんなせえ……じつはね、先生、こういうことにしてえと思いますんで……ねえ……ようござんすか?」
「ふんふん、ふーん、なるほど……ふん、これはおもしろい、妙計である。うん、心得た。さっそく取りかかろう」
 翌朝、楠運平先生、隣の隠居が出ないうちにと、朝飯が終るとすぐ、黒木綿の紋付に小倉の袴をはき、右手に鉄扇を持ち、朴歯下駄《ほうばげた》をカラカラ、妾の家へ……。
「頼もう、頼もう」
「だれか出て見ろ。表で大きな声がしているが……」
「はい……あのゥ、旦那、隣の先生が……」
「ああ、そうかい。こちらへご案内して……お竹や、座布団を持ってらっしゃい……さァさ、どうぞ先生、こちらへどうぞ……」
「ごめんくだされ。あなたがご主人でござるか? てまえ隣家に住まいをいたす、楠運平橘正国と申すいたって武骨者、以後、お見知りおかれ、ご別懇にお願い申す」
「これは申し遅れまして、どうぞお手をお上げくださいまし。てまえは伊勢屋勘右衛門と申しますまことに不調法者《ぶちようほうもの》、どうかお見知りおきを願います。引越して参りましてから、まだ先生のところへご挨拶にも伺っておりませんで、失礼をいたしておりますが……じつはてまえも隠居とはいいながら、店のほうが若夫婦だけでまだそう任せ切りというわけにもなかなか参りませんので、朝早く店へまいり、夜は遅く帰ってくるというようなわけで、それがために失礼をいたしておりましたが……しかし、お隣に先生がお住まい下さるのでなにかのときには……こちらは女ばかりで大変まァ安心なので喜んでおりまして、以後どうぞお心やすく願います」
「いや、これは恐れ入る。……いや、もうお構いくださるな。さて、ご主人、早朝から参上いたして、はなはだなんでござるが、折角お馴染にあいなったが、てまえ、近ごろ門弟も増え、どうも道場が手狭に相成ったゆえ、もそっと手広きところへ転宅をいたしたいと思い……じつは、お暇乞いかたがた、ご挨拶に伺いました次第で……」
「おやまァ、お引越しになるんでございますか? まァ折角、お馴染申しましたものをお名残惜しいことでございますな」
「ついては、まことに恥じ入った儀でござるが、てまえ長年浪々の身、貯え等もなく、なにかにつけて金子が入用、転宅の費用にさしつかえ、門弟どもの申すには、千本試合をいたし、そのあがり[#「あがり」に傍点]をもってこれに当てたならば如何《いかが》かと申すによって、当道場において三日ほど、千本試合を催そうと存じおるが……」
「へーえ、千本試合と申しますと?」
「いや、これはな、他流、他門のあまた剣客が参って試合をいたすのでござるが、そのときに、なにがしかをみんな持って参る。その金を集めて転宅をいたすのでござる。本来は、竹刀《しない》試合ではあるが、なかには真剣勝負になるものもござる。ほかの稽古とちがって、ずいぶん意趣遺恨《いしゆいこん》のある者がないとは限らん。もっとも、てまえとても、十分に注意はいたしておるものの、なにを申すにも大勢のこと、なかには斬り合いをはじめ、首の二つや三つ、腕の五本や六本は、お宅へ転げ込み、あるいは血だらけの者が、お宅の垣根を破って飛び込んでくるかも知れん。それ故、その三日間はどうぞひとつ、堅く戸を閉めて表には一切《いつせつ》出んようにして頂きたい。このお断わりに上がったような次第でござる」
「ははあァ、それはまたお勇ましいことでございますが……わたしどもは、お話を聞いただけで身がすくんでしまいます。まして、ここは女ばかりでございますから、その千本試合ということをお辞め頂くということにはいきませんか?」
「いや、拙者とても、ひっきょう勝手元不如意ゆえ、転宅の費用捻出のためでござる。金さえあれば、そんなことはしたくない」
「先生、まことに失礼ではございますが、そのお金というのは、よほどお入用でございますか?」
「いや、まず五十両あればよかろうと存ずるが……」
「五十両でございますか……へえへえ、なにとぞお腹立ちのないように願いますが……てまえは隠居の身分で……ま、いらない金というわけではございませんが、自分の好きに遣ってよいという金なら五十両ほど持っておりますので、それを一時お遣い……くださる、というわけには参らんものでございましょうか」
「いやァ、折角のご親切ではあるが、お断わり申そう。てまえ、無禄無庵《むろくむあん》の浪人、ご拝借いたしてもいつ返せるという当てがござらんので……」
「いえいえ、これはもうてまえのほうからお願いをしてお遣いを頂くのでございますから、もういつでも結構、先生のご都合のよいときにお返しを頂くように……如何なものでございましょうか」
「うーん、折角のお言葉、千万かたじけない。しからば金子、拝借いたそう」
「その代り、千本試合の儀は……」
「いや、拙者とても好むことではない。金子調達さえできれば……」
「さようでございますか? ありがとう存じます……おいおい、あの手文庫をな、こっちへ持って来て……それでは先生、五十両ございますので、どうぞお改めを願いまして……」
「いやァ、確かに五十両。しからばこれは暫時ご拝借いたす」
「それで、いったい、いつお越しになります?」
「ああ、明朝早々に転宅をいたそうと存ずるが……改めて、ご挨拶には参らんが落ちつき次第、引越先は知らせる。しからば、ごめんくだされ」
「では、ごめんくださいまし……驚いたねえ。どうも大変なやつだい。やりかねませんよ、千本試合。そんなものをやられてたまるもんか。まァ、五十両くらいで引越してくれりゃァ安いもんだァ。どうせいくらかやって店退《たなだて》しようと思ってたところだ。ちょうどいい。やけに目をむいておどかしやがったりして一時はどうなることかと思ったが、まァまァ、よかった……これで片っぽの剣術使いは片付いた」
 入れちがいに隣の鳶頭がやって来た。
「へえ、ごめんくださいまし」
「さあ、鳶頭ァ構わず入っとくれ」
「どうも、旦那、ついご無沙汰申して済いません」
「いやァ、ご無沙汰はお互いだが、おまえさんところへはまだ越して来て挨拶にも行ってなかったが、ま、心やすだてということで勘弁してもらおうと思ってね」
「いえ、まァこうやって隣同士になりましたが、じつはお暇乞いに上がったようなわけで……」
「おやおや、どっかへ行くのかい?」
「へえ、こんど大きい仕事を引き受けましてね。ついちゃァ、職人だとか若《わけ》え者《もん》も大勢転がしておかなくちゃァならねえんで、もうちっと手広なところへ引っ越そうと思いまして……」
「ほう、そうかい。そりゃあ、まことにお名残惜しいが、仕事の都合で越すんなら、これァまァ結構だ」
「ついちゃあ、安く越せねえもんで、その銭をつくらなくっちゃァならねえんでね。花会《はなげえ》をやってみようと思いましてね。それも時節柄でござんすから、待合を借りたり、なにかするより、いっそのこと家でやったらよかろうというんで……」
「そりゃァ豪気《ごうぎ》だ。うん、おまえさんは顔も広いし、ずいぶん集まるだろう。ま、手拭の三本や五本はあたしもお付き合いをしよう」
「どうも恐れ入ります。なにしろ江戸の鳶の者四十八組の者が集まるから、大変《てえへん》な人数になっちまう。一日ではとても裁き切れねえ、二、三日はかかろうてえ……それも来る者に酒を一本一本|燗《つ》けて出し、一人前《いちにんめえ》ずつ料理を出すてえと……そんな小面倒臭えことは出来ませんしね。酒樽の鏡を抜いて、こいつを二本ばかり座敷の真ん中へすえて、柄杓を五、六本つけておく……酒の飲みてえやつは柄杓で汲んで、こいつをがぶがぶ飲む。肴のほうは、魚河岸《かし》から鮪《まぐろ》の土手を五、六本も転《ころが》しておいて、出刃庖丁と刺身庖丁をつけておく、肴が食いたかったらてめえで勝手に切って、醤油《しようゆう》をつけてむしゃむしゃ噛《かじ》らせようと……まァ、こういう趣向にしてえと思うんでげすが……。なにしろ命知らずの気の荒《あれ》えやつばかりが集まる。そこへ気狂え水が入《へえ》るんですから、喧嘩にならねえとも限りません。そうなれば、そこらにゃァ、出刃庖丁がある、刺身庖丁がある……お誂え向きってやつだ。てんでにそれを持って斬り合いをはじめりゃあ、血だらけになって、こちらへ転がり込んで来たり……まことに迷惑なことでござんすけれども、三日のあいだ戸締まりをして、外へ出ないようにして頂きてえと思いまして、じつはまァそのお願えに伺ったんでございます」
「なにうっちゃっておきねえ。そりゃァ結構だ。いいよいいよ。なあに近所はお互いだ、決して遠慮するこたァねえ。あたしもそういう威勢のいいことは大好きだ。うん。やるがいい……しかしなにか、鳶頭《かしら》、人死が出来ようね」
「ええ、そりゃァ出来ねえとも限りません」
「鳶頭……おまえ、そんなことをしなきゃァ引越しができねえのかい? え? 少し趣向が若すぎるんじゃないのかい? おまえの祖父《じい》さんの代からあたしの家へ出入りをしていた……おまえの代になってから仔細《しさい》あって出入りを止めたよ。しかしなにかあるときはおまえさんに頼もうと思っているんだ。その口で、旦那、実はこれこれでございますと、なぜあたしへ話をしてくれないんだ。おまえさん、たいそう纏まった金ならともかく、人死が出来るような騒ぎをして、一体いくら集めようてんだ」
「それァまァ……いろいろ入費を差っ引いて、五十両も残りゃァ御《おん》の字だろうと思ってるんでござんすが……」
「じゃあ、五十両あれば、そんな気狂いじみたことはしなくってもいいのかい? あ、そう……じゃァ、おまえさんにその金をあたしが上げるから……おいおい、手文庫を持って来な、……さ、五十両、持っといで。貸すんじゃァないよ、おまえにやるんだよ、返さなくってもいい」
「へえ……どうも、へへへへッ、なんだかこれじゃァ、旦那ンとこへ、ご無心に上がったようで……なんだかどうもきまりが悪いや。へへへへ……」
「では、鳶頭ァ、いつおまえ越すね?」
「へえ、金が出来りゃァもう……明日の朝、すぐ引っ越します。朝早いので別に改めてご挨拶に伺いませんが、落ち着き次第《しでえ》、またこちらへ伺うようなことにいたします。どうもいろいろありがとうございます。おかみさんもお達者で、お邪魔いたしました」
「おいおい、鳶頭《かしら》、お待ちお待ち……隣の楠さんのとこでも明日の朝早く引っ越すと言っていたが……いったい、鳶頭、おまえ、どこへ引っ越すつもりなんだ?」
「へえへえ、あッしが先生のとこへ越して、先生があっしのとこへ越します」
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