ああ、もうだめ。私の人生は終わりだ——。
まだ幼稚園のころだったが、毎週火曜、夜の七時半からはじまる「みつばちマーヤの冒険」というアニメを見るのが楽しみだった。
ところがある日、これから「みつばちマーヤ」がはじまるというのに、母に「お風呂(ふろ)に入りなさい」と言われた。私としては、どうしても「みつばちマーヤ」が見たいので、「いやよ」と言って、テレビの前から離れようとしない。
「早く入りなさい」
「いやよ。あとで」
「いますぐ入りなさい」
「いやだってば」
数回、押(お)し問答(もんどう)を繰(く)り返していたところ、突然、母がプッツン、いきなり私の洋服を全部脱(ぬ)がすや、スッポンポンにしたうえで、玄関から外に放り出してしまった。中から鍵(かぎ)をガシャン。
間(ま)が悪いことに、うちの前に自動車販売店があって、パンツまで脱がされて素(す)っ裸(ぱだか)のところを、そこの人たちにばっちり見られてしまった。
恥(は)ずかしくて恥ずかしくて、極限的(きよくげんてき)なパニック状態。私の人生はもう終わりだとまで考えた。
「ママ、入れて、中に入れて!」
激(はげ)しく玄関ドアを叩(たた)きながら泣き叫(さけ)んだが、簡単には開けてはもらえなかった。そんな大騒ぎをしたおかげでよけいに目立ち、恥ずかしい姿をより多くの通行人の前にさらすことになってしまった。
アメリカ式というか、あるいはスパルタ式というか、一見(いつけん)、お気楽屋のように見えて、母の子育てには厳(きび)しいところもあった。いちいち詳(くわ)しい理由までは覚えていないが、幼稚園のころから、お仕置きとして、スリッパやベルトでしょっちゅう叩かれていた。
父も私の顔面にすぐに手を出すほうだったから、私はかなり大きくなるまで、どこの子どもも親の言うことをきかなければ叩かれるものだと思っていた。