先号で図らずも不倫の恋について触れることになったので、もう少し進めてみようと思う。なぜならば、わたしはこのテーマが好きだからである。それに依頼される雑誌の原稿やインタビューの内容を見る限り、いまだに相当なニーズがあるような気がする。
あの「金妻」に発した不倫ブーム以来、世間はこの種類の恋愛を主婦vs.愛人、というような実にくだらない図式にすり替え分析したり中傷したりするようになった。こんな図式はインスタントカメラで撮ったVサインの記念写真と同じで、わかりやすいけど何の意味もない。
その結果、本来不倫をすべきではないような人たちまでこの恋に足を踏み入れるようになってしまった。これがそもそもの間違いなんである。本来、妻あるいは妻子ある男性との恋愛というのは「相手を愛している」といういたってシンプルな気持ちの上で成り立っているのだ。
だから軽い気持ちや生半可な愛情では絶対に出来ないし、はじめてはいけないのである。欲しいと思えば何でも手に入るかもしれない御時世に、たったひとつ残された決して手に入らない純愛。細い糸の上を歩くようなはかない純粋過ぎる愛である。それをよってたかって興味本意や遊び半分やカネやコネなんかでやるもんだからこんなにイメージが悪くなっちゃったのだ。
だからこれは本当にもしよかったら、なんですけど、「不倫は悪いこと」なんていう通念だけはとっぱらってほしいな、と思うのです。
その上で、でも私はイヤ、そんな恋なんかしないわ、と思った人は、絶対にしないでください。それはイコール、「もうこの人と恋に落ちなければ死んじゃうかもしれない」と思うくらい惹かれ合った相手でも、結婚してると聞いた途端「ああ、そうなんだ」と気持ちが収まってしまう、または収められる体質なのだということ。それだけはっきりと自分の恋心をコントロール出来るならば、一生この関係にはまることはないからね。
じゃあ、その自信がないなあと思う人。好きになると後先まわりの状況などあまり考えずに突っ走ってしまうタイプである。この手の人は誰が何と言おうと諦めたり出来ないから納得いくまでやってみたほうがいいと思うよ。けれど、じゃあただひたすら愛すればいいかというと、そうでもない。この禁断の恋を素晴らしい恋にするには多大な努力とパワーがいるし、何より大切な「掟」というものがあるのだ。
まず最初に、この恋は最初から最後まですべて女性側が責任を持ってやり遂げるということ。これを男性のせいにしたり(だってバツイチだっていったんだもの)、相手の奥さんのせいにしたり(家庭がうまくいってないってゆうから)、ましてや時代のせいにしたり(あと五年早く彼と出会っていれば)してはいけないのである。だからこの恋にはきちんと相当な覚悟を持って臨んでください。
次に、デートのあと相手が帰るときに引き止めないこと。彼がふと脇の時計に視線を移し、脱いでいた上着に手を通す瞬間。それがどんなにつらくせつない一瞬だったとしても、帰らないでと泣いてはいけない。彼だって、出来ることならそこにいたいのだ。でもここで帰らなければもうあなたと会えなくなるから、帰るのだ。またあなたと会うために彼は毎回身を切られるような決断を持って帰るのだということを忘れないこと。さよならは必ず笑顔でね。
もうひとつ、相手の家の電話番号を絶対に訊かないこと。「知ってたってかけないもーん」と思うかもしれないけど、それは甘いのです。このつらい恋愛にはどんな強い意志さえぼろぼろと崩れてしまうときが必ず訪れる。そんなとき、とっくに覚えてしまったその番号が脳裏を旋回し、奥さんが出るとがちゃんと切ってしまう無言電話になったりしてロクなことにはなりません。だから相手が教えてくれようとも調べる手段がいくつあろうとも、そこで止めるのが利口なやりかたである。
……と、ひとつひとつ書いていると一冊の本になってしまうので、残りの掟を全部まとめて言いましょう。それは「何も望まないこと」です。何も望まないことですべてを手に入れる、それが愛人の王道というものだ。何だか最後は禅問答のようになっちゃったけど、不倫はやっぱりそれだけ奥が深いんだよねえ。