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輪(RINKAI)廻15

时间: 2019-11-21    进入日语论坛
核心提示:     * 気がつくと、ハンバーガーと一緒に買ってきたポテトが油と湿気を吸って、ぐったり萎えていた。ポテトはもはや放擲
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 気がつくと、ハンバーガーと一緒に買ってきたポテトが油と湿気を吸って、ぐったり萎えていた。ポテトはもはや放擲して、香苗は氷が溶けて薄まったアイスコーヒーをストローで啜った。
辞書を見る。六部というのは六十六部のこと。法華経六十六部を写して日本六十六ヵ国の霊場に各一部ずつ納めたことに由来する法華経の行者のことを指す、とある。後には鉦《かね》を叩き、鈴を振り、廚子《ずし》を背負い、家ごとに銭を乞い受ける者も指したというから、与右衛門の場合はこちら、各地を流れ歩く物乞いの類だろう。ちなみに一石は一斗の十倍、一斗は一升の十倍、……米俵は、普通四斗を一俵とする。従って七石なら、年間十七俵と半分の石高。それが多い石高なのか少ない石高なのか、香苗にはよくわからない。続けて下総国も調べてみた。下総は、今の千葉県北部から茨城県にかけての地域を言う。
茨城県──、その漢字を目にした時、頭の中で光が弾け、どきりとなった。香苗が大嫌いになった土地。さらに調べてみると、下総国豊田郡羽生村というのは、現在の茨城県水海道市あたりを指すことがわかった。水海道市は鬼怒川沿いの内陸部、太平洋沿岸に位置するO町とは離れている。けれどもやはり千葉県ではなく茨城県……因縁が、自分のことをも追いかけてきているような心地悪さがあった。
「やっぱり似てきたなと思った」という香苗に対する作田の言葉。真穂を目にした時の肝を潰さんばかりの表情。やはり作田の呟きは「かさね」に間違いなかったし、この累を指していたのだろう。時枝、香苗、真穂、この三人の母、娘、孫娘は三者三様、おのおのそのうちの誰にも似ていない。香苗の周りには時枝のほか、くらべるべき肉親、親族というものがなかったから、当然香苗はこれまで誰にも「似ている」と言われたことがなかった。真穂もまた、誰かに「似ている」と言われたことがない。しかし、その実香苗も真穂も、誰にも似ていない訳ではなかったのだ。今にして思えば真穂を見る作田の顔は、真穂に誰かを見ている色をしていた。恐らく真穂は誰かに生き写し、だからこそ作田は「累」と言った。あれは醜女の代名詞ではなく、瓜二つということの比喩。つまり、新潟のN町に、香苗と真穂、それぞれに似た人間が存在するということだ。ことに真穂は、誰かに怖いぐらいによく似ている。たぶんそれは、首藤の家の誰かか、さもなくば山上の家の誰かだろう。香苗には、それが首藤の人間であるように思われた。自分も真穂も、まったくという程に時枝の血を感じさせない容貌をしている。仮に山上家の誰かにそっくりならば、その血を引く時枝にも、少しは似ているところがあってもよい。
香苗は初めて切実に、自分の父親に会ってみたいと思った。父親ばかりでなく自分と血の繋がった親族を、一度自分の目で見てみたいと思った。
だが、それだけだったのだろうか……香苗はふと首を捻った。ただ似ているというのならば、「そっくり」だとか「瓜二つ」だとか言えば済むことだ。にもかかわらずあえて作田が「累」と言ったのは、別の含みあってのことなのか。
作田の、ほくそ笑むような顔が脳裏に浮かんだ。いやな予感がする。時枝は首藤の家との折り合いが悪くて家を出て、故郷も離れて東京にきたと聞いている。本当にそういうことだったのだろうか。それで実家との縁まで絶ってしまうというのは、思えばやはり尋常ではない。累の伝説の中にある因縁はといえば──。
まさか……思わず口の中で呟き、爪を噛む。いくら何でも考えすぎ、時枝が人まで殺すはずがない。仮に殺したとすれば、今日まで警察に捕まることもなく、無事やり過ごせている訳もない。胸に浮かびかけた馬鹿げた思いを打ち消す。が、渋いような後味が胸に残る。
時枝の顔を頭に思い浮かべた。浅黒い肌、秀でた頬骨、高い鼻。切れ長なのに大きな目、切れ上がった形をした大きな口。香苗のようなおとなしい顔立ちではない。ダイナミックな造り、強い顔立ち。子供の頃、テレビで西部劇の映画を見た時に、ああ、お母さんはインディアンに似ている、と思ったことを思い出した。見た目にも、香苗は母に肉親ならではの親しみのようなものを感じ得なかった。思えば香苗はまるで人種が違うような違和感を、時枝に対してずっと抱き続けてきた気がする。それだけに、本当のところ香苗には、今もって時枝という人間がわからない。
香苗は椅子から腰を上げ、食べ残しのポテトやゴミを流しへと持っていった。残ったコーヒーを排水口へ流し込む。迷路の道順を知るどころか、ひとつ知ればまたひとつ、別の謎が生じてくる。事はかえってややこしくなる一方で、出口はいっこうに見えてこない。
新潟へ行かなくては──、ゴミをポリ袋に押し込みながら、香苗は不意に思っていた。
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