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え? おでこのたんこぶ? ああ、これは今日の放課後、由衣ちゃんと校庭のジャングルジムで遊んでいた時に手を滑らせて落っこちて、それでぶつけたんだ。大丈夫、痛くないから。由衣ちゃんがすぐに濡らしたタオルで冷やしてくれたし。やさしいでしょう、由衣ちゃんて。やだ、おかあさん、どうしてそんな顔するの? 由衣ちゃんのお母さんはお菓子作りの先生で、すっごく美人なんだよ。会ったこと? もちろんあるよ。あ、おかあさんのエッチ、いきなりスカートめくらないでよ。え? 脚の痣?……そりゃジャングルジムから落ちたんだもの、あちこち痣にもなってるよ。でも本当に大丈夫だって。──え? おばあちゃん? おばあちゃんは関係ないよ。真穂が怪我をしたことだって知らないもの、話してないから。どうしてって、たいしたことはなかったし、心配かけるのいやだったから。おかあさんは真穂が怪我をするとどうしてすぐにおばあちゃんのこと言うの? おかしいね。何遍も言ったけど、真穂、おばあちゃんのこと嫌いじゃないよ。茨城のおばあちゃまにくらべたらどれだけいいか。あのね、今だから言うけど、おばあちゃまは一年経っても真穂の左利きが直らなかったら、真穂の左手の指を一本切ってやるって言ってたんだよ。五年経っても直らなかったら、真穂の左手には指が一本もなくなっちゃうんだからね、って。真穂、それが一番怖かった。だっておばあちゃまなら本当にやるかもしれないじゃない。だからおかあさんが真穂と東京に行くって言った時、嬉しかったぁ。もうちょっと長く茨城にいたら真穂の指、一本なくなってたかもしれないんだもの。ここのおばあちゃんはそんな怖いことは言わないし、物差しで真穂の手をぴしゃぴしゃ叩いたりもしない。おばあちゃまよりもずっとずっとやさしいよ。真穂、ここが好きだな。学校にも慣れたし、由衣ちゃんみたいな親友もできたし。だからおかあさん、真穂がちょっと怪我したぐらいで、そんな怖い顔しないでよ。ね?