□志貴の部屋
「…………ん」
ぽてん、とベッドに腰を下ろす。
自分の部屋に戻ってきたからだろうか、どっと疲れが出てきたような感じだ。
「おかしいな、体調はめずらしいぐらいいいんだけど」
体の節々が疲れているというか、なんとなく反応が遅い気がする。
「ま、貧血じゃないだけマシか」
それでも疲れている事には変わりはない。
夕食までの数時間、部屋で休む事にしよう。
ぽてん、とベッドに腰を下ろす。
自分の部屋に戻ってきたからだろうか、どっと疲れが出てきたような感じだ。
「おかしいな、体調はめずらしいぐらいいいんだけど」
体の節々が疲れているというか、なんとなく反応が遅い気がする。
「ま、貧血じゃないだけマシか」
それでも疲れている事には変わりはない。
夕食までの数時間、部屋で休む事にしよう。
コンコン。
コンコン。
コンコン。
………落ちついたノックの音。
「志貴君、寝てるの?」
その後に続く、少しだけ聞きなれた女性の声。
「残念ね、久しぶりに顔を見れると思ったのに」
……その声を、忘れられるわけがなかった。
いつも挨拶をかわすぐらいだけの間柄だったあの人。子供らしくない子供だった自分が憧れた、数少ない年上の女性。
なにより、自分はそのトキエという響きが好きだった。
その人が特別な人になった経緯を思い出そうとして、やっぱり忘れている事に気が付いた———
いつも挨拶をかわすぐらいだけの間柄だったあの人。子供らしくない子供だった自分が憧れた、数少ない年上の女性。
なにより、自分はそのトキエという響きが好きだった。
その人が特別な人になった経緯を思い出そうとして、やっぱり忘れている事に気が付いた———
□志貴の部屋
「—————朱鷺恵さん!?」
がばっ、とベッドから跳ね起きる。
「ちょっ、ちょっと待ってください。いま開けますから!」
急いで鍵を開ける。
コンコン、と軽くノックがして扉が開いた。
がばっ、とベッドから跳ね起きる。
「ちょっ、ちょっと待ってください。いま開けますから!」
急いで鍵を開ける。
コンコン、と軽くノックがして扉が開いた。
【朱鷺恵】
「こんにちは志貴君。ちょっとお邪魔するわね」
「どうぞ。何もないところですけどがっかりしないでくださいね」
「うん? そうかな、立派な部屋だと思うよ。少なくともうちの医院よりキレイじゃない」
朱鷺恵さんはぐるりと部屋を見渡した後、適当にベッドに腰を下ろした。
「どうぞ。何もないところですけどがっかりしないでくださいね」
「うん? そうかな、立派な部屋だと思うよ。少なくともうちの医院よりキレイじゃない」
朱鷺恵さんはぐるりと部屋を見渡した後、適当にベッドに腰を下ろした。
「それで、今日はどうしたんですか? 朱鷺恵さんが来ているって事は時南先生も来てるとか」
「ううん、お父さんは来てないの。今日はわたしが代理でね、秋葉さんの定期検診に来ただけだから」
「……そっか。時南先生もそろそろいい歳だし、すっかりご隠居ってわけですか」
「ふふ、そうねだといいんだけどね。お父さんったら相変わらず頑丈そうで困っちゃうわ」
……はあ。やっぱり相変わらずなのか、あのお医者さまは。歳相応に大人しくしていてほしいけど、そううまくはいかないんだろうなあ。
「ううん、お父さんは来てないの。今日はわたしが代理でね、秋葉さんの定期検診に来ただけだから」
「……そっか。時南先生もそろそろいい歳だし、すっかりご隠居ってわけですか」
「ふふ、そうねだといいんだけどね。お父さんったら相変わらず頑丈そうで困っちゃうわ」
……はあ。やっぱり相変わらずなのか、あのお医者さまは。歳相応に大人しくしていてほしいけど、そううまくはいかないんだろうなあ。
「はあ。朱鷺恵さんもタイヘンですね、時南先生みたいに元気な人を父親に持つと」
「うん、もうタイヘンすぎて誰かに替わってほしいぐらい。琥珀ちゃんは適任だと思うんだけど、女の子だからお婿に来てもらえないし」
はあ、と深刻そうにため息をつく朱鷺恵さん。
なんでも付き合う男の人はことごとく時南先生にぶちのめされてしまって、朱鷺恵さんはいつまでたってもフリーなんだそうだ。
「うん、もうタイヘンすぎて誰かに替わってほしいぐらい。琥珀ちゃんは適任だと思うんだけど、女の子だからお婿に来てもらえないし」
はあ、と深刻そうにため息をつく朱鷺恵さん。
なんでも付き合う男の人はことごとく時南先生にぶちのめされてしまって、朱鷺恵さんはいつまでたってもフリーなんだそうだ。
「志貴君みたいに辛抱強い人っていないのよねー。それとも志貴君が異常なのかな。お父さんと話が合うし、お父さんも気に入ってるみたいだし」
「……ははあ。あうたびに骨接ぎやら鍼やら打たれるんですけど、あれって親愛表現だったんですね」
「うわ、お父さんったらそんなコトまでしてるんだ。いいなあ、いっそのこと志貴君がわたしのお婿さんになってくれる?」
「……ははあ。あうたびに骨接ぎやら鍼やら打たれるんですけど、あれって親愛表現だったんですね」
「うわ、お父さんったらそんなコトまでしてるんだ。いいなあ、いっそのこと志貴君がわたしのお婿さんになってくれる?」
「ごっ——————!」
ごほごほと咳き込みつつ、朱鷺恵さんから目を逸らす。
「と、朱鷺恵さん、そうゆう冗談はあんまり言わないでください。その、ただでさえ誰が聞いているか判らない状態なんですから」
「そう? ここなら誰の邪魔も入らなさそうだし、も一回ぐらいしちゃってもいいかなって思ってたんだけどな」
「——————————」
かあ、とますます顔が赤くなっていくのが分かる。
朱鷺恵さんはクスクスと笑いながらベッドから腰を上げた。
「そう? ここなら誰の邪魔も入らなさそうだし、も一回ぐらいしちゃってもいいかなって思ってたんだけどな」
「——————————」
かあ、とますます顔が赤くなっていくのが分かる。
朱鷺恵さんはクスクスと笑いながらベッドから腰を上げた。
【朱鷺恵】
「うん、いまさらわたしはお邪魔みたいね。今日はちょっと会いに来ただけだからもう帰るわ」
「あ———外まで送ります」
「いいよ、ロビーで琥珀ちゃんが待ってるし。あ、そうそう、お父さんが近いうちに来なさいだって。調子がいいからって油断してると倒れるハメになるんだから」
「うん、いまさらわたしはお邪魔みたいね。今日はちょっと会いに来ただけだからもう帰るわ」
「あ———外まで送ります」
「いいよ、ロビーで琥珀ちゃんが待ってるし。あ、そうそう、お父さんが近いうちに来なさいだって。調子がいいからって油断してると倒れるハメになるんだから」
じゃあね、と手をひらひらさせて朱鷺恵さんは去っていった。
あー、しっかしびっくりした。
朱鷺恵さん、たしか都心のほうの大学に行ってたと思ったけど帰ってきてたのか。
あの人が大学に行ってから、実に二年ぶりに再会した事になる。
あいかわらずマイペースで、仕草の端々が妙に雅っぽいところはかわっていない。
しっかりもののくせに自堕落なところもあって、雰囲気にまかせてゴロゴロと落ちていってしまう危なっかしさも健在だった。
朱鷺恵さん、たしか都心のほうの大学に行ってたと思ったけど帰ってきてたのか。
あの人が大学に行ってから、実に二年ぶりに再会した事になる。
あいかわらずマイペースで、仕草の端々が妙に雅っぽいところはかわっていない。
しっかりもののくせに自堕落なところもあって、雰囲気にまかせてゴロゴロと落ちていってしまう危なっかしさも健在だった。
「———————」
時南先生も検診に来いと言っているそうだし、近いうちに時南医院に行っておこう————
時南先生も検診に来いと言っているそうだし、近いうちに時南医院に行っておこう————