□坂
坂道を上る。
周囲に人がいないせいか、急に熱が逃げていったような気がした。
今日一日、学校で過ごした事が他人事のように思い出される。
なんでもないありきたりの一日は、本当は手が届かないぐらい遠い物ではないのか、と冷めた自分が傍観している。
昔、隣町にサーカスが来た時があった。
子供の頃の話だ。
行きたいとせがんでも両親は許してはくれなかった。
夕方になってサーカスが始まった頃、部屋の中で膝を抱えて時計を眺めた。
そうして辺りが暗くなってから、それこそ世界の果てに旅立つぐらいの勇気を振り絞って一人で家を飛び出した。
夜道。
子供の足で隣町を目指して歩き続けた。
遠くて遠くて、もう帰る事もできなくなって、泣きながらサーカスを目指した。
そうして何時間も経ったあと、ついにサーカスに辿りついた。
子供の足で隣町を目指して歩き続けた。
遠くて遠くて、もう帰る事もできなくなって、泣きながらサーカスを目指した。
そうして何時間も経ったあと、ついにサーカスに辿りついた。
もう夜も遅く。
誰もいなくなった広い空き地で、大きなサーカスのテントを見上げた。
締め切られた入り口。
遠すぎる夜空。
ライトに照らされて浮かび上がる大きなテント。
まるでUFOが降りてきたみたいに明るいのに、そこには誰もいなかった。
誰もいなくなった広い空き地で、大きなサーカスのテントを見上げた。
締め切られた入り口。
遠すぎる夜空。
ライトに照らされて浮かび上がる大きなテント。
まるでUFOが降りてきたみたいに明るいのに、そこには誰もいなかった。
————ああ。祭りは、もう終わったのだ。
だっていうのにサーカスのテントは大きくて、見上げているだけでワクワクした。
なんて楽しそうなんだろう、と。
それが自分に何をしてくれるワケでもないと分かっているのに、いつまでも見上げていた。
なんて楽しそうなんだろう、と。
それが自分に何をしてくれるワケでもないと分かっているのに、いつまでも見上げていた。
□坂
その後の記憶はない。
もう帰る体力は無かったはずだから、きっと捜しに来た両親に連れて帰ってもらったのだろう。
もう帰る体力は無かったはずだから、きっと捜しに来た両親に連れて帰ってもらったのだろう。
「—————————」
古い話だ。
隣町に行けば大きな壁があると信じて、その先にある世界なんて想像もできなかったぐらい昔の話。
古い話だ。
隣町に行けば大きな壁があると信じて、その先にある世界なんて想像もできなかったぐらい昔の話。
————熱が冷めている。
周りに人がいないせいか、訳もなく独りなのだと錯覚した。
□屋敷の門
坂道をあがりきって屋敷の玄関に辿りつく。
と、門には翡翠が待っていた。
坂道をあがりきって屋敷の玄関に辿りつく。
と、門には翡翠が待っていた。
【翡翠】
「お帰りなさいませ志貴さま。お体の方は大事ないでしょうか?」
「え———っと、ただいま翡翠。体の調子はいいけど、なんでまたここにいるんだ?」
「え———っと、ただいま翡翠。体の調子はいいけど、なんでまたここにいるんだ?」
【翡翠】
「いえ、ちょうど志貴さまの姿が見えたものですから、ここでお出迎えをさせていただこうかと思いまして」
淡い微笑みをうかべて翡翠は言う。
淡い微笑みをうかべて翡翠は言う。
「あ———それは、ありがとう」
ついさっき淋しい気持ちに囚われていただけに、翡翠の笑顔は不意討ちそのものだった。
赤面しそうな気持ちをなんとか堪えながら、ちらりと翡翠の顔を見る。
「それじゃ屋敷に入ろうか。琥珀さんと秋葉はいるの?」
「秋葉さまもお帰りになられています。姉さんでしたら中庭の方で何かしていたようですが」
「そっか、いつも通りってコトだねそりゃ」
はい、ともう一度微笑みを浮かべる翡翠と連れ立って屋敷の門をくぐった。
ついさっき淋しい気持ちに囚われていただけに、翡翠の笑顔は不意討ちそのものだった。
赤面しそうな気持ちをなんとか堪えながら、ちらりと翡翠の顔を見る。
「それじゃ屋敷に入ろうか。琥珀さんと秋葉はいるの?」
「秋葉さまもお帰りになられています。姉さんでしたら中庭の方で何かしていたようですが」
「そっか、いつも通りってコトだねそりゃ」
はい、ともう一度微笑みを浮かべる翡翠と連れ立って屋敷の門をくぐった。
□志貴の部屋
鞄を置いて一息つく。
さて、夕食まで何をしていようか。
さて、夕食まで何をしていようか。