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歌月十夜228

时间: 2019-11-29    进入日语论坛
核心提示:*s509「く!」体が左側に沈む。力が入らなくなった左足が滑って、体はそのまま地面へと倒れこむ。「はっ!」ゴン、と受け身もと
(单词翻译:双击或拖选)
*s509
 
「く…………………!」
体が左側に沈む。
力が入らなくなった左足が滑って、体はそのまま地面へと倒れこむ。
「はっ……!」
ゴン、と受け身もとれずに背中を打った。
痛みに耐えて目を開ける。
頭上には。
□七夜の森
【コウマ】
 もはや逃げる手段さえ失った獲物を狙う、死神の姿があった。
 
—————終わった。
間違いなくこれで終わった。
……始めに決定したとおり、三合が俺の限界だった。
その過程でヤツを打倒する機会を作れなかった結果がこれだ。

……落とされる死神の鎌。
アレに握られた瞬間、俺の頭は潰される。
おそらく苦しみはないだろう。
なにしろあの怪力だ。タイムラグなんかなし、一瞬で握りつぶされるんだから、死んだ事にさえ気が付かないかもしれない。
————ああ、そうか。
なら別に、死を恐がる必要なんてなかったわけだ。

最期になって気が付くなんて抜けている。
視界には振り落とされるヤツの魔手。
 
 ……ただ、視界の端に。
小さくて柔らかそうで、苦しそうに、お腹を動かして息をしている何かが見えた。

—————打撃が迫る。
 これで最期? これで最期だって?
そんな筈はない、だってまだ右足は生きているしナイフだって握ったまま、意識は何一つ欠けていないし傷だって負っていない、なにより俺はまだ、何一つだってしてやいない……!

「こ————」
—————ふざけるな、まだ俺は
 
 落ちる圧壊。
それを迎い打つ形で、
————戦ってさえ、いないじゃないかっ……!
 
 手にしたナイフで斬鋼した。
 
□七夜の森
火花が散る。
ナイフの鋼が魔腕の鋼と鬩ぎ合う。

「は——————っ!」
ナイフがヤツの腕を掠る。
倒れたまま、右足首だけの力で、それこそバネのように立ちあがりながらの交差。
———それは、我ながら常軌を逸した運動だった。
【コウマ】
「———————」
だがその奇跡に昂ぶっている余裕はない。
次いで、ヤツの突風そのものの腕が繰り出される。
 
 捕まればそこで終わる一撃を、必死で避ける。
避けた所をさらに追撃してくる一撃。かすった。またも奇跡みたいな回避。小指に触れられた左肩は、それだけで骨と肉を外された。
「———————は」
捕まるだけでなく、触れられただけで即死という事。
そんなデタラメな、ミサイルみたいな一撃が繰り返される。
□七夜の森
□七夜の森
□七夜の森
 吐き気がするまでの至近距離。
互いの心音が伝わるぐらいの距離で死の旋風が吹き続ける。
「はっ……はは」
触れば終わり。
七度目を躱したのがこれ以上はないっていう奇跡だっていうのに、体は、それを上回る難度の八度目を自然にこなした。
「はぁ———はは、は————!」
神経がいかれすぎて、口元が笑いで歪む。

それでもかわした。
笑わせる、何が三度が限界だ。
俺は戦えている。十分に、この怪物と凌ぎあえている。
決して敵う筈のない、自らの死の投影を前にして一歩も引いていないじゃないか————!

「ぬ———————!」
初めて。ヤツは、人間らしい反応をした。

ヤツの左腕が走る。
右腕を躱して体が泳いでいる俺の腹を、左腕は容赦なく掴んだ。
 
 瞬間。

「ご—————」
体が、破壊された。
□七夜の森

「あ——————が…………!!!!!!!!!」
背中に鈍痛。投げ飛ばされて、木にぶつかって止まったというところ。
心臓から逆流してきた血を吐いて、まだ自分が生きていると確認する。
「はっ……あ、ぐっ…………!」
 腹。腹を見て、あまりのグロテスクさに目を背けた。
それは自分の体とは思いたくないほどの状態で、おそらく、臓器の半分はもっていかれたのではないかというぐらい。

「……この……好き放題、やりやがって———」
ヤツは左腕で俺の腹を鷲掴みにして、瞬間、腹の大部分を握りつぶしてくれた。
そればかりでは飽き足らず、片腕一本で軽がると俺を持ち上げここまで投げ飛ばしてくれやがった。
「……つぅ……あの血の跡って、俺の中身か」
よく下がくっつているもんだ。
いや、それを言うならよく生きているもんだ、か。
「—————————」
だが、それが何よりおかしい。
ヤツの腕は必殺であるべきだ。
それが何故、あそこまでこちらを捉えておきながら殺す事ができなかったのか。
【コウマ】
 ……ヤツが現れた。
「……………は…………あ」
大きく息をした。
肺にまだ空気が残っていたのだろう。
……またこんな、最期になって気が付いた。
アイツと対峙してから、自分は一度も呼吸というものをしていなかった。
————なんていう無様さだ。
それでは戦う事もできなければ、ヤツを殺す事さえできないだろうに。

「まだ生きているのか、貴様」
「—————————————」
……ああ、ついに言葉まで話しはじめた。
自己嫌悪で押しつぶされそう。ヤツも七夜志貴という殺人鬼と同じく、俺がカタチを与え、そして成長してしまった存在だ。
ヤツはついに言葉まで手に入れた。
それで、もう勝敗は決したようなものだった。

「煩わせてくれる。その生き汚さは父親譲りか」
語りながら近寄ってくる。
「———————なんて、ものを」
メガネを外した。
【コウマ】
 呼吸を忘れていたように、こんな事さえ忘れるほどアレを怖れていたという事か。

「だがこれで終わりだ。潔く黄泉路へ行け」

ヤツは目前までやってきて、ゆっくりと腕を伸ばした。
がしり、と。
遠野志貴の頭部を鷲掴みにする圧壊の腕。

「———頼むから、やめてくれ」
後悔が強すぎて、つい声をあげてしまった。
「命乞いか。あまり失望をさせるな」
……ああ、俺はなんてものを作り上げてしまったんだろう。
こんな。
「———もう喋るな。アイツは、そんな余分なコトはしないから」
 こんな無様な、偽物を。
□七夜の森
 ぐらり、と体が持ち上げられた。
俺の頭を鷲掴みにしたまま持ち上げたのだ。
【コウマ】
 ヤツは瀕死の遠野志貴の姿を観察し、なにやら満足したようだった。
「———死ね」
「おまえがな」

頭を掴んでいた腕を切った。
いや、正確には“線”を通した。

「ぬ———————!?」
引き下がる怪物。
その前に事は済んでいた。
ヤツが自身の腕が断たれたと気が付く前に、返す刃で、その心臓を突いたからだ。
————無論、そこがヤツの“点”である。
□七夜の森
 ……思えば。
三度だとかなんとか制限をつけてみた所で、コイツが俺の死ならば抵抗できる筈がなかったのだ。
それが凌げた。
所詮、コレは俺が抱く死の具現を借り受けただけの虚像にすぎなかったからだ。
そうしてコレの一撃を凌げば凌ぐほど俺のイメージは弱体化していき、ついにはこんな、愚にもつかない三流に成り下がってしまった訳である。

「な———————ぜ」
「……ふん。何故もくそもあるかよ」
消えていく。おそらくは一時の物だろうが、それでも死は消えていく。
「単純な話だ。————本物は、こんなものじゃなかったんだよ」
……それも皮肉な話か。
俺が思い描いたこれ以上はないという死のイメージでさえ、あの赤い瞳には太刀打ちできないという事なのだから。
「……もう消えろ。ヤツと戦うことがあるとしたら、それはこんな所でじゃない。いいか、二度とその姿でこの世界に現れるな……!」
 
 ナイフを走らせる。
いつぞやの解体に迫るほどの煌きを見せて、ソレは、バラバラに分割されて消失した。
□七夜の森

「————————っ、と」
どたん、と体が地面に倒れこむ。
「っつう……そういえば腹、なかったんだっけ」
これだけの傷だと朝を迎えて振り出しに戻るより、死亡して振り出しに戻るほうが先だろうか。
「……しまらないなあ。今回こんなんばっかりだ」
はあ、と誰にするのでもない愚痴をこぼす。

……まあ、それもこれでおしまいだと思う。
一時的、緊急用の応急手当みたいなものだろうけど、とにかく“死”は排除したんだ。
□七夜の森
 視界の隅では、ひょっこりと立ちあがってトコトコと近づいてくる黒猫の姿がある。
……ほら、これで解決。
この世界が壊れる事はなくなって、あとはあの子と話をすれば全てが終わる。
「————————」
ああ、けど今はまともに話せそうにない。
だから、とりあえずはまた明日。
君が住み着いたあの場所で、ばんざいと喜びあうのも悪くはないだろうから————
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