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ぼくのコドモ時間23

时间: 2019-12-05    进入日语论坛
核心提示:ピーコの羽根マツムラさんちのタケちゃんのところには、ウサギがいました。ウサギは菜っぱの束の中で時々ピョコピョコと動くだけ
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ピーコの羽根

マツムラさんちのタケちゃんのところには、ウサギがいました。ウサギは菜っぱの束の中で時々ピョコピョコと動くだけで、あとは鼻をムズムズさせたり、思い出したように菜っぱを食べたり、ウンコをしたりしました。
オミさんのコウちゃんちにはサンペイがいました。サンペイはオスのキジネコで、大福くらいの短いしっぽをつけたデブでした。うちの庭の椿の木の下あたりを、便所に決めてしまったらしくて、必ずそこでオシッコをするので、コラッ! とかシッシッとか言っておどかすのですが、決してとちゅうでやめたりしないで、迷惑そうにこっちを振り向いて、し終わると、ゆうゆうと去っていきます。ずうずうしいネコだ。と、うちの大人、お父さんとお母さんは言っていました。
コンノさんのオバちゃんはコドモがいないので、マサコっていうスピッツを飼っていました。コンノさんはマコちゃん、マコちゃんといって、スピッツのマサコをかわいがりましたが、マサコはいつも吠えてばっかりで、ちっともなついてくれない犬でした。
オミさんのコウちゃんのうちには、鳥小屋があって、ニワトリとチャボが、全部で五羽くらいいました。ニワトリはタマゴを産むので飼っていると言ってました。五羽もいるのでニワトリには名前はついていませんでした。
マツムラさんちのウサギにも名前はついていなくて、名前をつけようとしたころには死んでしまいました。ウサギは水を飲むと死んでしまうと言っていたので、きっとうっかり水を飲んでしまったのだろう、とボクは思って、なんだかおそろしいような気がしたのでした。「水を飲んだら死んでしまう」なんておそろしい話じゃないですか。
タナベさんのミエコちゃんちは、ボクのうちのすぐとなりでした。タナベさんのうちには、ヒヨコから大きくなったニワトリがいて、それは、ピーコという名前でした。ヒヨコの時の名前だからピーコであります。ピーコはでも、大きくなったのでコッコ、コッコとか、コケッコケッとかと鳴くようになっていて、追っかけるとたいそういっしょうけんめいに逃げるので、コドモは時々ピーコをおどかして、あわててバタバタ逃げるピーコをからかったりしていました。
線路土手に遊びに行く時や、カンケリや鬼ごっこの時に、タナベさんちの、道みたいな庭をつっきっていきますが、そんな時は必ずピーコに声をかけたり、足をバタバタッといわせてピーコがおどろくのを見て喜んだりしていたのでした。なにしろ、ピーコは一羽っきりでしたからタナベさんちの庭で放し飼いになっていて、ココッとかココココとか時々鳴きながら、トットットッと歩いたり、トットッと戻ったり、いつも、ちょっとオドロイたような顔で、そこらをほっついていたんでした。
その日、ボクはタナベさんちと垣根で仕切られてる裏庭、というより台所への通路になっている裏の空き地で釘さしをして遊んでいたんでした。�釘さし�は、あまり小石のまじっていない土のやわらかいところで、地面に振り下ろすように釘を投げてさす遊びで、ふつうは何人かでやるんですが、一人でトレーニングをすることもできます。その日はだからトレーニングをしていたんでしょう。
ボクは小学校の二年生か三年生だったと思います。釘をさしては抜き、釘についた土をしごき落とし、また釘をさすと、穴と穴をつないで渦巻き状の軌跡を引いていく、っていう一人っきりの作業に夢中になっているところを、時ならぬ羽音と異様に大きなニワトリの鳴き声がしてビックリしました。と、白い小さな羽根がそのへんをフワフワ飛んでいて、長靴をはいて、カーキ色の半ズボンにランニングのマエダさんがピーコをぶらさげて、仁王立ちに立っていました。そばには石油缶でつくったコンロがあって、上に大きな鍋がかけてあります。中にグツグツお湯が煮たっているのが見えました。
マエダさんはミエコちゃんのお父さんではないが、まァお父さんのような人です。マエダさんはいまではもう、おとなしくなってしまったピーコを、そのお鍋のお湯の中に、ザブリと入れると、こんどはそれを引き上げて、羽根をズンズンむしりとるんでした。
ボクはポカンと口をあけて、そこにしゃがんで、その一部始終をずっと見ていたんでした。まな板が出されて、それがさばかれていくところ、水道で水洗いされてるところや、最後に、そこらに散らかった羽根をホーキで掃いて、チリトリでとるところまで、最後の最後まで見届けていたんでした。
「ミエコォ、今日はミズタキだよ」とおばさんの声がして、これ、ご近所におすそわけしておいで……というのを聞いたころは、もう夕方に近く、薄暗くなっていたでしょうか、ボクは、何やら釘で地面に絵を描きながら、先刻こっちまで飛んできた、白い小さな羽毛をじっと見ているんでした。
「まァ、これはこれは、どうもあいすみません、こんなにいただいちゃって、ホントにどうもありがとうございます」と、母・タカコさんの感謝してる声が、表の玄関のほうから聞こえます。ボクはマキの束の上に座って、なんだか黙ってそこにしばらくいたようですね。
「ごはんだよー」っていう声を聞いて、そのまま台所のほうから座敷へ上がっていった。
「なに、いままでどこに行ってたの……早く手洗ってきなさい、ゴハンだよ」とタカコさんが言いました。
「あ、おニクだ! トリニクだね」と姉のチカコが言いました。家族が唱和していただきますをしたあとも、ボクは黙ったままでした。トリニクには手を出さないで、おしんこや、ひじきなんかを食べていたと思います。お父さんが湯気のむこうからききました。
「どうした? トリニクきらいか? ノブヒロ」
ボクは長い沈黙をやぶって言いました。
「でも、これトリニクじゃないよ、ピーコだよ、これピーコだよ」
この時、うちの家族がどんな顔をしていたか、ボクは覚えてないです。あるいはおこられたかもしれないし、無視されたかもしれないが、とにかく覚えてない。なんだか塗りのはげたチャブ台の縁なんかが思い浮かんでくるだけです。
その時ボクが、どんな気持だったのか、もう、よく思い出せないんですね。〈ピーコが死んで悲しい〉とかっていうような、ハッキリした気持じゃなかったことはたしかですね、もっとボンヤリした複雑なものでした。
ぼくはそれ以来、ずいぶん長いことトリニクがニガテでした。とくに羽根をむしったあとの鳥肌がニガテでした。しかし、それはどうということではない、と思ってます。そんなことはあの時に感じていたこととぜんぜん見合っていない、と考えています。いわばピーコがトリニクになるまでを見届けていたことを、ボクはとっても大事なことだったと思ってるんです。
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