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笑う茶碗43

时间: 2019-12-05    进入日语论坛
核心提示:まだまだ若いツモリ「オジサン、ボーシが落ちましたョ」とオバサンが言った。地下鉄の車内である。私は降りるところだったので、
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まだまだ若いツモリ

「オジサン、ボーシが落ちましたョ」
とオバサンが言った。地下鉄の車内である。私は降りるところだったので、立ち上がりながら、
「あー、どこかのオジサンがボーシを落としたな」
と思って出口の方へ歩いていった。すると今度はオジサンの声で、
「|オジサン《ヽヽヽヽ》!!」
と大声に言うのだ、お前のことだ! というニュアンスで強調されている。ふと見ると足元に、私の毛糸のボーシが落ちているのでヒョイと拾いざま、
「オジサンとはオレのことか?!」と気がついたのだった。
「どうも、おそれいります」
と、私は落とし物の注意をしてくださったオバサンとオジサンにお礼をしながらそそくさと地下鉄を降りたのだった。降りて思わず笑ってしまった。
私はどうも、心の底では自分をオジサンと思っていなかったらしいのだ。テヘヘである、なんだかなァどーも、である。
私はいま、五六歳である。あと三月たてば五七だ。どこをどうひっくり返したってオジサン以外ではありえないのに、本心ではオジサンと思っていないとは、どういうことなのだろう。
もうかれこれ、一〇年は前のことかと思うけれども、山手線に乗っていると、前の座席に座った、七〇歳に手がとどこうという、お婆ちゃんが二人、お喋りをしていた。
「アンタねぇ、こないだもーう、失礼しちゃうのよ。アタシが荷物持って、ドアんとこでこう立ってたらサ、もしもしおばあさんどうぞこちらにって、こーいうのよォ」
「あ、らまー」
「ねえー、ヒドイじゃないの?」
「ほんとにねー」
と二人でフンガイしているのだが、意味がわからない。荷物を持って立ってる年寄りに、席をゆずろうっていうカンシンな若者の、どこがヒドイのかしばらく聞いていると、つまり「おばあさん」と呼んだのが失礼にあたっていたのだった。
私が思い出したのは、この一〇年前のおばあさんのことで、つまりは私は、まるでおばあさんのようではないか?! と思うと笑うしかないのだった。
白髪の坊主頭、膝の上に置いてある毛糸のボーシのことをすっかり忘れて、駅についたからってヒョイと立ち上がり、それが落ちても気がつかない。
「オジサン、ボーシが落ちましたョ」
とだれかが教えても、|マダ《ヽヽ》気がつかないので、わかるように大声で、スタッカートで言ってやる。
「オ・ジ・サ・ン!!」
お前、お前だ、お前以外いないだろ! 気づかずにボーシうっちゃってくようなオジサンは!!
ところがオジサンは、いつもオジサンと言われつけていないのである。オジサンはコドモがいないから、コドモの友達もいない、親戚にメイもオイもいるのだが、メイもオイもオジサン、オバサンに近くなっていて、オジサンをオジサンと呼ばない。
近所にコドモがいないし、コドモから話しかけられることもない。八百屋に行かないし、魚屋で買い物もしない。
コンビニでは会話がない。オジサンはどこからどうみてもオジサンだけど、オジサンと呼ばれたことがないのであった。
それで、まごついた。まるで、
「おじいさん!!」
と呼ばれたような気分なのだった。
自宅では、ゴハンツブをこぼしたり顔につけたままにしていたりする時に
「おじいちゃん、おじいちゃん!!」
と呼ばれることがある。
「ダメじゃない、こぼしちゃさァ」
とヨメに叱られるわけだ。物忘れのはなはだしい時も、呼ばれる。
「もしもし、おじいちゃん!! しっかりしてくださいよ」のように。
が、言う方も言われる方も、冗談だと思っている。
ところが、見ず知らずの他人様から、
「もしもし」
「ちょっと」
「あの、そこの人」とかじゃなく、
「オジサン……」とすんなり断言されたのみならず、
「|オ《ヽ》・|ジ《ヽ》・|サ《ヽ》・|ン《ヽ》(お前だよボケ)」と決定されると、やっぱりちょっとショック! だったらしい。
たしかに、私が他人であったなら、私は、オジサンだ。オジサン以外の何者でもない。おねえさんでもないし、おとうさんでもない。社長、でもないし、お坊さん、でもない。神父さまじゃないしお殿様でもない。おすもうさんでもないし、教祖様でもない。とすれば、
「おじさん」しかない。
だが、しかないと自分で結論してしまえば、やはり少しばかりさみしいのだった。
「おれは……」
おじさん以外の何者でもないんだ……と、思いっきりつぶやいてしまうのだった。
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