私の女友達は何かコトが起こるといっせいに電話をかけあって、大騒ぎになるということを前回書いた。「貴花田・りえ婚約」で大騒ぎになった矢先、またもコトが起きたのである。
アメリカ大統領にクリントン氏が当選した夜、うちの電話は鳴りっぱなし。「ウチダテサンの女友達って、政治にもご関心があって偉いのねえ」などと感心しないで頂きたい。話はこれからである。
「ちょっとォ、牧子サーン。よかったわねえ。クリントンが当選して」
「何で? 私、知りあいじゃないわよ」
「何言ってんのよ。クリントン夫人の名前、ヒラリーって言うのよ。ニュースでヒラリーって言うたびに、誰だって『ひらり』を思い出すわよ。『ひらり』を見たことない人だって一回くらい見てみようかと思うわよ」
「そんなこと思う?」
「思うわよ。誰だって思うわよ」
どう考えても誰も思いそうにないが、彼女は自信たっぷりに電話を切った。すると、すぐまた別の女友達から電話が鳴った。
「ヒラリーとひらりって、とても偶然とは思えないわ。アナタ、クリントンの勝利を確信して夫人の名前を調べてたの?」
「まさかァ!」
「そうよねえ。でもサ、日本テレビでもTBSでもフジでもヒラリー、ヒラリーって言って『ひらり』の宣伝してくれてるようなもんだわ。これで視聴率六〇パーセントくらいいくかもよ」
ホントにシロウトさんは言うことがデカくて泣けてくる。しばらくしたらまた鳴った。
「ちょっとォ、牧ちゃーん」
「アータもヒラリーのこと?」
「そ。今サ、友達と話してたんだけど、クリントンの当選で一番得をしたのは、NHKと明治製菓よね」
「何で明治製菓が出てくるの?」
「知らないの? クリントンの娘の名前、チェルシーっていうのよ」
「あッ、明治のキャラメルの名前」
「そうなのよ。今サ、ずっとしゃべってたの。森永製菓とか雪印提供のニュースでは、絶対に娘の名前を言わないんじゃないかって」
「ねえ、アータたちってそんなことずっとしゃべってたの?」
「そうよ。ライバル企業にとっては死活問題だもん。じゃあね。お休み」
私は頭が痛くなってきた。娘がチェルシーだからといって、死活問題というほどのものでもないと思うのだが。
ヒラリーとチェルシー問題が一段落した数日後、再び電話が鳴り始めた。ちょうど、私も電話をかけようと思っていたところである。
「ねえ、クリントンのことだけど」
「私もクリントンのことで電話をしようと思ってたのよ」
「きっと同じことよ。さっきもしゃべってたんだけど、彼がカッコいいってことでしょ」
「そうなのよォ。どの週刊誌見てもすごくカッコいいのよ」
「みんな週刊誌見てショックで、ずっと電話で嘆いてるのよ」
「それで週刊誌の発売と同時にまた、電話がふえたわけだ」
「そうよ。ねえ、大統領や首相ってその国のイメージアップにもつながるんだもの、容姿って大切だと思うのよ」
「私だってそう思ってるわよ」
「何か日本の首相って、男のオバサンみたいなのばっかりがなるのよね。割烹着《かつぽうぎ》が似合いそうなのばっかり」
「佐藤栄作はすてきだったけどね」
「中曾根さんは眉《まゆ》の形に問題があったけど、身長が高かったからレーガンと並んでも、まあ見劣りしなかったし」
「私、ハンサムとは思わないけど、吉田茂とか池田|勇人《はやと》はやっぱり風格があったと思うのよ。世界の檜舞台《ひのきぶたい》に出しても恥しくない容姿だったと思うわ」
「うん。とりあえず政治思想は置いといて、容姿だけでいうとホントに暗くなるわ。日本にだってクリントンに負けないくらいの若い政治家がいるのにねえ」
「誰がいる?」
「石原慎太郎は?」
「ちょっとマバタキが多いけど、笑顔は悪くない」
「新井|将敬《しようけい》」
「カッコいいけど、セクシー度からいったらクリントンとは勝負にならない」
「小泉純一郎」
「ん。悪くない。でもセクシーっていったら橋本龍太郎の方が上かも」
「そうね。小柄だけど許せるわ。日本新党の細川さんはどうかって、さっき話してたの」
「政見放送のテレビでは今ひとつだった。でもスタイリストがついて洋服から髪型まで一変させればいいかもしれないわ」
「あとホラ、昔、女性厚生大臣だった中山マサさんの息子で郵政大臣だった人、中山……何ていったっけ?」
「あ、あの人は容姿抜群。日本人離れしたハンサムよ」
「一般人の日本の男ってすごくすてきになってるんだもの、やっぱりあんまりカッコ悪いのは人目にさらしたくないわよねえ。外電で世界中に写真が流れるんだし」
あっちからこっちから電話が入り、政治家の容姿について私たちは延々と話しあった。政治家はまず国を立派に治めることが第一であり、内憂外患にも凛々《りり》しく対処して頂かないと困る。がしかし、「日本の顔」として容姿にも気配りして頂かないと困る。それは生まれもった目鼻だちという意味ではなく、いい政治家は、やはり姿形に気品が出てくるという意味も含めての「容姿」である。