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愛してると言わせて34

时间: 2019-12-07    进入日语论坛
核心提示:フランス語合宿パリに着いて一週間がたつが、私は昨日、フランス語を教えてくれている女子大生アストリッドの実家に泊まりに行っ
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フランス語合宿

パリに着いて一週間がたつが、私は昨日、フランス語を教えてくれている女子大生アストリッドの実家に泊まりに行ってきた。
私はフランス語はABCもわからず、パリに着いて初めて、ゼロからアストリッドに習っている。当然、大騒ぎである。それなのに、彼女は軽やかに英語で言った。
「私の実家に一泊してよ。パパとママと弟がいるから、みんなでおしゃべりすればマキコのフランス語の実践になるし、遊びがてら来てよ」
実践も何も、一回だけレッスンを受けた後であり、ABCも満足に言えない。家族みんながフランス語を使う中で、私はどういう態度で過ごせばいいのか。考えれば気が重くなるが、一言もしゃべれぬ東洋人の来客に気を使うのは、彼女の家族の方だろう。が、アストリッドはニコニコと誘ってくれる。私は「遊びがてら」に乗って、大胆にも一泊させて頂くことにしたのである。
朝九時、私とアストリッドはサンジェルマン駅から地下鉄に乗った。彼女の実家は地下鉄と快速電車を乗り継いで、サンジェルマン駅から約一時間ほどの郊外にある。地下鉄に乗るや、アストリッドは私に言った。
「マキコ、レッスンしましょう」
オイオイ、まだ朝の九時だよ! と言いたくてもそんなフランス語が口から出てくるわけもない。私はフランス語の絵本を開きながら、地下鉄の中で礼儀正しく講義を受けた。
「コレハ魚デス。コレハ花デス」
よりによって、とんでもないハンサムな男の人が、隣りの座席に座っている。そしてニヤニヤと笑って私のフランス語を聞いている。私は絵本をめくりながら、さり気なく日本語で言った。
「私は水戸泉が趣味なの。アータなんかに笑われたって平気なんだから。体重一九〇キロ以下は男じゃないわ」
大和《やまと》撫子《なでしこ》の微笑《ほほえ》みで言ったので、ハンサム男はほめられたと思ったらしい。とろけるような笑みを私に向けた。どこの国でも、ハンサム男というのはうぬぼれが強い。
郊外の駅で降りると、今度はバスに乗る。アストリッドは地下鉄の切符もバスの切符も、全部私にフランス語で買わせる。実家に着いた時にはいい加減くたびれ果てて、ひと眠りしたくなっていた。
が、地獄はこれからであった。家族は留守で、私とアストリッドの二人きりである。彼女は英語で言った。
「今から絶対に英語を使わないでね。ここにいる間は、すべてフランス語よ」
そう言われても、私は「コレハ花デス」しか言えないんだってば。
「マキコ、何か飲む? コーヒーとお茶とコカコーラがあるわ」
もちろんフランス語であるが、「コーヒー」とか「お茶」くらいは聞きとれる。時計は朝の十時半である。それから昼すぎまで、もう息もつけぬほどレッスンである。おかげで上達したの何のって。と言ってもせいぜい、
「コレハ私ノ帽子デス。アレハ母ノ上着デス」
くらいのものだが、ABCすらわからなかった私にしてみれば、ほとんどフランスを制覇したような気分である。
ランチを食べる頃、アストリッドの弟が帰ってきた。レミイという名の彼は、水戸泉が好きな私から見ても、みごとに美しい少年であった。十六歳だというが、映画「ベニスに死す」に出てきた美少年そのものである。彼は英語を勉強している最中とかで、さかんに私に英語で話しかけてくる。私は英語も全然うまくないが、それでもフランス語ばかり聞かされている耳には、何とわかりやすいことか。
「午後からは町の大聖堂を見に行きましょう」
アストリッドが言った。私は「大聖堂」というフランス語の、「カテドラル」を耳にキャッチし、外出するんだなとわかった。これでしばらくは休める。この言葉ほど嬉しかったことはない。が、ここからがもっと地獄であった。
町を歩くとカフェがある。アストリッドは私に言う。
「カフェに入ったつもりで、コーヒーをひとつ頼む言葉を言ってみて」
しばらく行くと、今度は駐車場がある。彼女は車を指さして私に聞く。
「これは花ですか?」
私は「花なわけねーだろ。見りゃわかんじゃねーか」と言いたいのをグッとこらえて、言う。
「イイエ、花デハアリマセン。コレハ車デス」
立派な大聖堂の奥には、美しいフランス庭園があった。私と彼女は、並んでベンチに腰かけた。赤やら黄色やら、色とりどりの花々が咲き乱れている。これでやっと休めると思いきや、彼女は「赤」「黄」「紫」などと色の名前を私に発音させる。「赤」は「ルージュ」と日本人はカナをふるが、発音は全然違い、そう簡単に言えるほどナマやさしくはない。
夜は公認会計士のパパと、超美人のママと、美少年の弟と、全員で夕食を頂いたのだが、パパに皇太子の結婚のことを聞かれた。どうもテレビのニュースでやっていたらしい。「テレビジョン」と「マサコ」という言葉だけはしっかりとキャッチできた。日本語ならいくらでも言えるが、フランス語である。私が答えたのは、
「マサコかしこい。マサコ美人」
ああ、我ながら泣けてくる。しかし、突然の東洋人を心からあたたかく迎えてくれて、最高の一夜であった。
ところが翌朝も八時四十五分からレッスン、私はこれは「遊びがてら」に名を借りた「フランス語合宿」だと、やっと気づかされたのである。
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