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愛してると言わせて35

时间: 2019-12-07    进入日语论坛
核心提示:和食の夢パリは連日、とても不安定なお天気が続いている。だいたいが毎日のように雨なのだが、時おり雨雲が切れて、明るい春の陽
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和食の夢

パリは連日、とても不安定なお天気が続いている。だいたいが毎日のように雨なのだが、時おり雨雲が切れて、明るい春の陽が射してくる。そうなると雨あがりの街は本当にきれいで、柔らかな新芽がふいたマロニエの街路樹などは、息を飲む美しさである。
そんな雨あがりの午後、私はサンジェルマン通りに面したカフェで、この原稿を書いていた。ガラス張りの窓辺の席なので、雨あがりの街が見え、道行くパリジャンやパリジェンヌが見え、いくらながめていてもあきない。
お昼になると、私は白ワインとフランスパン、それにハンバーグを頼んだ。昼間からワインが飲めるのも外国ならでは……である。私はグラスを傾けながら、あかず街をながめていた。
四月中旬の今、日本人観光客は非常に少ない。ほとんどいないと言ってもいいくらいで、モンマルトルでも、サンジェルマンでも、シャンゼリゼでも、日本人に会うことはめったにない。ワインを飲みながら街を見ていても、日本人は一人も通らない。
その時、初めて東洋人らしき男の人が一人歩いて来た。背が高く、帽子をかぶっているが、どうも日本人らしい。
「あ、日本人だ。しばらくぶりに見たわ」
と思っていたら、その日本人が、カフェの窓辺から見ている私に気づいて立ち止まった。そして、びっくりしたように口が、
「ウチダテサン!」
と動いた。同時に私も店内で叫んでいた。
「あッ! 山崎さん!」
こともあろうに、彼は浅野ゆう子さんのマネージャーだったのである。私は以前に一度お目にかかっただけだが、窓ごしに大喜びで手招きした。
「入ってきて! お茶しましょう!」
山崎さんは驚いてカフェに入ってきて、私の隣りに腰をおろした。
「イヤア、びっくりした。日本人に全然会わないのに、こんなところで内館さんに会うとは」
ゆう子さんが仕事でパリに来ていることは聞いていたが、まさかサンジェルマンの通りすがりに、山崎さんが私を見つけるとは思ってもみなかった。私はフランス語合宿にアゴを出した直後で、ペラペラと日本語が話せるのにホッとし、一度しか会ったことのない山崎さんなのに嬉しくてたまらない。
その時、オーダーしていたハンバーグが運ばれてきた。ちょっとナイフを入れただけで、私は食べるのをあきらめた。ハンバーグがレアだったのである。表面をサッと焼いただけで、中は真っ赤なナマである。私はステーキでもシャブシャブでも、ナマはまったく受けつけない。ほんの少しでも赤味があるとダメである。ステーキの場合は必ず焼き方を指示していたが、ハンバーグは甘く見ていた。
が、一口も食べないのも腹が立ち、無理に食べてみた。しかしやっぱりダメである。すると、山崎さんが時計を見て立ち上がった。
「僕はこれで。まだここにいますか?」
「ん。もうしばらくね。サヨナラ」
山崎さんは出て行ったが、二十分ほどたったらゆう子さんと一緒に戻ってきた。私はハンバーグを一口食べただけで下げてもらい、何か別のものをオーダーしようと思っていたところであった。山崎さんは店に入ってくるなり、私に聞いた。
「あのハンバーグ、まさか全部食べないでしょう?」
私は「読まれていたか」と思い、苦笑して答えた。
「ダメ。一口だけ」
「でしょう。そばで見ていて、ずい分肉がナマで、赤いなァと思っていたんです。だから昼めし、食べ直さないかと思って戻ってきたんだけど」
ゆう子さんも隣りで言った。
「今から中華を食べようとしてたんです。ご一緒しませんか、前にも行った店ですけどすごくおいしいんですよ。エビワンタンとか色々あるし」
言葉を最後まで聞かずに、私は立ち上がっていた。「エビワンタン」と聞いただけで嬉しくなってくる。
サンジェルマン教会近くにあるその中華料理店は、小さな店だが混んでいた。見ると客は圧倒的に中国人が多い。誰しも行きつくところは、母国の味なのだろう。
私は生肉とブルーチーズ、それにミルクだけはダメだが、外国旅行で和食が欲しくてのたうつことはまずない。だからどこに行ってもその国のものを食べる。エジプトやギリシャでは独得の香辛料に少々参ったが、頑張ってその国のものを食べ通した。それも日本人向けの味つけをする一流レストランなどではなく、その国の人たちが行くような大衆食堂で食べることが多い。それは決してやせ我慢しているわけではなく、せっかく外国旅行をする以上和食を食べては意味がないと思うからである。
と、私が偉そうに述べると山崎さんは言った。
「僕はダメ。どこに行っても和食がないと全然ダメです」
「そりゃ私だって和食が好きよ。でも叫びたいほどじゃないわ」
「僕はその国のものも食べるけど、やっぱり和食がいいなァ。今朝も、ゴハンに味噌汁《みそしる》におしんこに、それとシャケの焼いたのと海苔《のり》とトロロと……」
「ウワァ! 山崎さんやめて! それ以上言わないでェ!」
やっぱり私は叫んでいた。偉そうなことは言うものではない。今夜はおしんことトロロの夢を見そうだ。
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