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愛してると言わせて37

时间: 2019-12-07    进入日语论坛
核心提示:感動の成田空港一か月ぶりに日本に帰って来た。イヤァ、日本はいい。やっぱりいい。何しろ日本語が通じる。日本に帰る前日、パリ
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感動の成田空港

一か月ぶりに日本に帰って来た。イヤァ、日本はいい。やっぱりいい。何しろ日本語が通じる。
日本に帰る前日、パリのホテルで荷作りしていると電話がなった。取るとパリで友達になった日本人女性からである。彼女の夫はオペラ座の近くで免税店を経営している。電話の向こうで、彼女は言った。
「牧子さん、明日は空港までどうやって行くの?」
「ホテルでタクシー呼んでもらうの」
「荷物、多いんでしょう?」
「ん……。ノミの市でたくさんガラクタを買っちゃったから結構あるけど、何とかなるわ」
「ねえ、うちのお店の男の子をホテルに送りこむわよ。彼を車で行かせるから、空港まで送ってもらって」
ゴールデンウィーク中であり、免税店は超多忙の時なので私は幾度も断った。が、彼女は、
「私の厚意を素直に受けてよ。日本に帰った時は私がお世話になるから」
と言い続ける。私は涙が出る思いで、その厚意をうけることにした。
そして翌日。ホテルのロビーに、彼女の店の男の人が来てくれた。これが何とフランス人である。店には日本人の従業員がたくさんいたので、私は頭から日本人が来てくれるものと思いこんでいた。
「ボンジュール、マダーム」
彼はにこやかに言った。そして私が挨拶を返すより早く片目をつぶって、カタコトの英語でつけ加えた。
「ボクハ英語ヲ話セマセン。フランス語シカ話セマセン」
青くなったのは私である。ホテルから空港までは道がすいていても四十五分はかかる。私の英語は小学生並みだが、それでもフランス語よりはずっと意志が通じる。彼が英語を話せないと聞いて、私は頭がクラクラしてきた。フランス語しか話せない男と、日本語しか話せない女が、二人きりで四十五分間もどうやって間をもたせればいいのか……。
クラクラする頭を抱えながら、とにかく私は助手席に座った。
ああ……ひたすら沈黙である。お互い、絶対に口を開けない。もうひたすらの無言。行けども行けども無言。恋人でもないのに見つめあってニッコリするのも妙だし、私は窓に張りついて外の景色を見ていた。
ところがこともあろうに渋滞に巻きこまれてしまった。車はビタッと止まって動かない。私たちの口はもうずっとビタッと止まって動かない。さすがに息苦しくなって、私は英語で言った。
「私はパリにいる一か月間、女子大生にフランス語を習ってたのよ」
彼はあいまいに笑う。やっぱり通じてないらしい。私はおかまいなしにフランス語の単語を並べた。
「ボンジュール、ボンソワール、メルシー」
彼も沈黙から救われてホッとしたのだろう。
「スバラシイ! マダーム」
フランス語でそう言って拍手などしてくれる。何しろビタッと車が止まっているのでハンドルから手をはなしても全然平気なのである。今度は彼が日本語で言った。
「コンニチハ。サヨウナラ。アリガトウ」
今度は私が、
「まあ、すばらしいわ。ムッシュー」
などと日本語で叫んで手を叩《たた》く。そしてお互いにニッコリと見つめあう。が、後が続かない。もう全然話すことがない。車はビタッと動かない。ボンジュールとコンニチハで四十五分ももつものではない。再びの沈黙である。
私は覚えている限りのフランス語を思い出してみたが、こんな場で使用に耐えるものではないのである。何しろ「コレハ花デス」「コレハ私ノ帽子デス」の類である。こんなことを言うくらいなら、黙っていた方がマシかもしれないと思い、私はまたじっと黙りこくった。彼も一切口を開かない。
車は全然動かず、私たちは黙って前を見ている。お互いに相手が気まずいだろうと思うから、ついチラッと見合う。そうすると必ず目が合う。反射的に二人してフニャーと笑う。私はとうとう恥も外聞もかなぐり捨てて、対向車を指さしてフランス語で叫んだ。
「アレハ車デス」
彼は心の中で「バカ、当たり前だろうが」と思っているであろうに、「スバラシイ! マダーム」と微笑《ほほえ》む。いい人である。
やっとドゴール空港に着いた時は、二人とも万歳を三唱したい気分であった。彼は税関手続から搭乗手続までフランス語ですべて仕切ってくれ、私が搭乗口に消えるまで、ずっと見送って手を振ってくれた。言葉は全然通じなかったけれど、何だか胸の奥があったかくなるのを私は感じていた。もしかしたら、言葉が通じないからこそ一生懸命に、態度や目で厚意を示そうとする彼だけに、胸があったかくなっていたのかもしれない。
成田空港に着き、タクシーに乗ると運転手さんが話し始めた。
「今日はあったかいけど、昨日あたりまで寒くてねえ。ゴールデンウィークは毎日雨っすよ。ま、春のお天気はわかんないやね。突然夏みたくなったりもするからねえ」
感動した。こんなに難しい日本語が私は全部理解できて、あげく返事までしているのである。
日本語さえ通じれば、私はもう何も望まない。一か月のパリ休暇で、私はまた一段と地味な女になった。
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