私はこと花に関しては、猛烈にケチである。花が好きで、花が大事で、花だけはどうしても無駄に扱えない。
「独身の女はね、花と男は絶やしちゃダメよ」
いつもキザっぽくこう言ってはばからない以上、私の部屋には男はともかく、花はまず絶えたことがない。
が、花というのは高いのである。もちろん自分でも買うし、頂くこともあるが、高いだけに最大限長持ちさせようとする。それに生きているものなので、少しでも息があると何とか延命を考え、絶対に捨てられない。
先日、タモリさんの「笑っていいとも」に出演した時、思いがけないほどたくさんの花を頂いた。スタジオに並んでいるアレンジメントやロビー花を見ながら、私は本番生放送ということも忘れ、口走っていた。
「タモリさん、この花、全部持って帰ります。私」
客席からドウッと笑いがきて、タモリさんもあっ気にとられて言った。
「これみんな持って帰るんなら、トラックを頼まなきゃダメですよ」
「でも、もったいないから持って帰ります」
「こんなに置くとこあるの?」
「マンションのロビーとか……」
そして、私は本当に全部持ち帰ったのである。パチンコ屋さんの開店祝いのような花輪は紙製なので置いてきたが、他は全部持ってきた。巨大なロビー花からは、カトレアとかバラとか、できる限りを抜いて抱いた。プレスマネジメントをやってくれている万里子が、
「牧チャン、みっともないからやめてよ」
と袖を引っぱったが、知っちゃいない。私は「笑っていいとも」のスタッフ三人に助けてもらって、すべてをタクシーに積みこんだ。運転手さんがびっくりして、
「お客さん、座るとこありますか」
と言ったが知っちゃいない。私は花のすき間に何とか座りこんだ。マンションに着くや、すぐに管理人室にかけこみ、叫んだ。
「お花があるの。手伝って下さーい」
管理人の奥さんも花好きで、それにテレビを見ていたので、すぐに巨大な手押し車を押してタクシーのところまで飛び出してきてくれた。
女優の松下由樹さん、富田靖子さんからのみごとなアレンジメントは、マンションのロビーに飾られた。管理人の奥さんはとろけそうに喜んで、
「ロビーがパアッと明るくなるわァ」
と何度も言ってくれる。私は手押し車に他のすべてを積み、自分の部屋まであがった。ここからが大仕事である。花を長持ちさせるためにやらねばならぬことがたくさんある。
私はまずバスタブに冷たい水を張った。普段、お風呂に入る時と同じくらいの量の水を張る。そして井沢満さんが贈ってくれた黄色いバラ五十本をその水の中に漬《つ》ける。これは花首までバラの全身を漬けるのである。「びっくり水」という言い方をするらしいが、私は「花の行水」と呼んでいる。こうして三十分から一時間、冷たい水に漬けておくと、これが信じられないほど長持ちする。だまされたと思ってやってみて欲しい。行水はバラによく効くというが、私はバラだけでなく、花びらが極端に弱い花以外はほとんど行水をさせている。水あげが悪くてクタクタした花でさえ、ウソのようにピンとなる。
バラを行水させている間、今度はアレンジメントの花かごのチェックである。花かごにはオアシスと呼ばれる緑色のスポンジ状のものが置かれ、水をしみこませてある。それに花を突きさしてアレンジしているのが多い。切り花は温度があがると弱るので、オアシスの周囲に氷を置く。
それがすむと洗面台に水を張って、百本以上もある切り花の茎を、水の中でナナメに切る。そして花びんに水と氷を入れ、そこにいける。以前、長持ちさせるには砂糖を入れるといいとか、ほんの少し食器洗いの洗剤を入れるといいと聞き、試してみたが氷が一番いいようである。
そして何日かたって、花が元気がなくなってきたら、花首だけを切って茎を捨てる。大きなガラス鉢に冷たい水を入れ、またも氷を入れ、そこに花を浮かべる。こうするとまた、二、三日は長く楽しめる。
以前はドライフラワーにこって、枯れる寸前に花を逆さ吊《づ》りにしたこともあった。が、実家にいた時に、私が自分の部屋から出てきた瞬間、弟が叫んだのである。
「ワッ! 化け物が出てきたと思った。オイ、花の逆さ吊りだけはやめてくれよ。お前、ホントにあばら屋で、包丁といでイッヒヒって笑ってるババアみてえに見えるぞ」
そう言われてやめた。当時は結婚適齢期の最中にあり、なかなか結婚できないのはイッヒヒのせいかもしれないと思ったのである。ま、イッヒヒをやめても結婚できずにいるので、あまり関係なかったかもしれぬ。
やはり生きている花は、最大限長く美しく、ナマのままで楽しむのが一番いい。私は仕事もやらずに花の長持ちに手をかけるので、どこかのCMではないが「花の命は結構長い」のである。
しかし、さすがに「笑っていいとも」で頂いた花の量は半端ではなく、私は疲れ切って自分自身にまで手がかけられず、その夜はそこらにあるハンドクリームか何かを顔に塗って寝てしまった。こういうことをしていると「女の命は結構短い」のである。