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愛してると言わせて46

时间: 2019-12-07    进入日语论坛
核心提示:日独安全タダ論ある日、女友達の買い物につきあった。彼女は気に入った服が見つかり、ショーケースの上にバッグを置いて私に言っ
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日独安全タダ論

ある日、女友達の買い物につきあった。彼女は気に入った服が見つかり、ショーケースの上にバッグを置いて私に言ったらしい。
「試着してくるから、ちょっとバッグ見ててね」
ところが私にはそれが聞こえなかったのである。私も靴を見るのに夢中で、彼女がショーケースの上にバッグを置いたことさえ気付いていなかった。私はバッグをそこに置いたまま、店内のあちこちを歩き始めた。
やがて試着した彼女が出てきて、似合うの似合わないのとさんざん話し、それから続けざまに彼女は三着を試着した。私は彼女がバッグを試着室に持って入ったものと思いこみ、彼女は私がバッグを持っていてくれるものと思いこんでいた。店は都心の大通りに面しており、入れかわり立ちかわり客が入ってくる。かれこれ三十分以上もかけて、彼女は一着を選んだ。そして私に言った。
「バッグ、ありがとう」
驚いたのは私である。察して彼女も青くなった。すぐにショーケースの前に走ると、バッグは置かれた時のままにあった。二人でドーッと力が抜けた。何しろショーケースは出入口のすぐ近くにあり、バーゲンの時期なので客でごった返している。いつなくなっても全然不思議はない。私はそのままの状態で置かれていたバッグを見ながら、パリでの出来事を思い出していた。
この四月、私は一か月ほどパリにいたわけだが、その時、パリに住む日本人たちからさんざん注意されたのである。
「貴重品には気をつけてね。日本人は『安全と水はタダ』っていう意識があるから困るの。確かに日本は治安がいいし、水道の水が飲める。でもここは日本じゃないの。安全と水はお金を出して買う国なの。パリだけじゃなくて、アメリカだってイタリアだってそうよ。注意してね」
そして、同じように何人もの日本人に言われた。
「安全がタダって思ってるのは日本人とドイツ人くらいだろうな」
そしてある昼時、私とプレスマネジメントをやってくれている万里子は、
「ねえ、ラーメン食べたくない?」
となったのである。「ラーメン」というのは、思い立ったら我慢ができない食べ物である。私たちはすぐにパリ市内の小さなラーメン屋さんに入った。
私たちが座ったのは出入口のすぐ横の席だった。私たちの席から順に、奥に向かって三つの四人掛け席が並んでいた。そして私たちの席以外の二つは空席だった。
しばらくすると外国人が五人入ってきた。夫婦二組と男の人が一人の計五人である。そして、夫婦二組は一番奥の席に、余った男の人はその隣りの、つまり私たちの横のテーブルに座った。
「外国人もラーメンが好きなのね」
万里子と話したので、ハッキリと覚えている。それからほんの三十秒か一分かたっただろうか。ラーメンに箸《はし》をつけた私たちのところに、日本人店員が走って来た。
「今、隣りのテーブルに座った男を知りませんかッ」
ふと見ると、男は消えていた。それと同時に夫婦二組の一方の、貴重品を入れたバッグが消えていたのである。被害者は「安全はタダ」と思っている同胞、ドイツ人夫婦であった。すぐに警官が来た。夫婦は顔面|蒼白《そうはく》で、まったく血の気がなかった。それもそのはずで、警官に答えている言葉に私たちも完全に食欲を失っていた。
「バッグの中には貴重品が全部入っています。パスポート、現金、キャッシュカード、それに今日帰るので二人分の航空券……」
すべてである。根こそぎ盗まれたのである。飛行場に行く前に軽いランチを……と思った矢先の被害であったのだろう。日本人店員は私たちに聞いた。
「どんな男でしたか」
「覚えていません。五人連れの外国人だとばかり思っていましたので」
私たちはそう答えるしかなかった。それくらい、男は夫婦二組と連れのように密着して、自然に入ってきたのである。男はフランス人だったのかもしれないが、チラと見ただけでは私には区別もつかなかった。警官は夫婦と日本人店員に言った。
「たぶん、店に入る前からマークしていたと思います。旅行者はすぐにわかりますから、後を尾《つ》けて、あなたたちが店に入る時、連れのように一緒に入ってきたんでしょう」
話のようすでは、ドイツ人妻は椅子に座るや、バッグを椅子の背に引っかけたらしい。犯人はそれを見ると同時に立ち上がり、サッとバッグを持って逃げてしまったのだろう。たぶん、夫婦四人はメニューを見るのに夢中だったのだと思う。
ほんの一分かそこらの出来事だというのが、私たちには信じられなかった。日本人店員が私たちに言った。
「注意して下さい。そんなバッグの置き方は危ないですよ」
私も万里子も四人掛けのあいている椅子に、バッグを置いていたのである。そういう置き方も、椅子の背に引っかけるのも、日本ではごく普通のことである。日本も犯罪が増えてはいるが、やはりまだまだ安全である。
私はショーケースの上に残っていた友達のバッグをみながら、「安全はタダ」のドイツ人夫婦が、パリのすべてを嫌いにならないといいが……と、ふと思っていた。
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