「自分」を構成するもの
くすん。またもや原稿が遅れて、『Gainer』の少年編集者と友人とがしを泣かせている私。きっと小井編集長も、草葉の陰で悲しんでらっしゃるに違いないわ。小井編集長、こないだ私、編集長に連れていっていただいた新宿の「吉祥」の前を、ある男の子と一緒に通りましたの。その日もすでに締め切りを過ぎてたような気もするけど、その子とせつないブルースを聞いて、甘い夜を過ごしてしまいましたわ。ああっ、うそ、うそ、うそよそんなにぶたないで。迷わず成仏なさって、お願い。しかし一人でやってると、
「編集長、殺すな!」
という突っ込みが聞こえて来ないのでさみしい。
さて、年末の真っ最中だけど、みんな、漫画のネームが出来ないからと言って一人で飲み過ぎて二日酔いしたりしてないかしら? ホホホホ……(私じゃないもん、とがしだもん)。こないだ大脳の特番のための取材に来たテレビ関係の人が言ってたけど、お酒を毎日毎日沢山飲んでると、大脳が縮んでおつむが弱くなってしまうんだって。うっわー、私だよそりゃ。それでなくても若年性アルツハイマーと言われてるのに。飲むと覚えてないんだよねえ。こないだも気づいたら知らない家で寝てる私を、知らない男の子が、
「よみうりランド行くって言ってただろ、遅れるぞ」
って言って起こしてくれてたし、その前は知らない男の子のマンションのフローリングの床の上に毛布いっぱいかけられて寝てて、周りはなぜかティッシュの山だったし、またその前は、気づいたら知らない男の子に美容院で頭洗ってもらって、
「どこかかゆいところございませんか?」
って聞かれてるところだったしなあ。そのうち気づいたら保津川下りの真っ最中だったり炭鉱で石炭掘ってたりするんじゃないかと思うと、もー怖くて怖くて。やはりお酒の飲み過ぎはいけないわね。気をつけよう。
「よみうりランド行くって言ってただろ、遅れるぞ」
って言って起こしてくれてたし、その前は知らない男の子のマンションのフローリングの床の上に毛布いっぱいかけられて寝てて、周りはなぜかティッシュの山だったし、またその前は、気づいたら知らない男の子に美容院で頭洗ってもらって、
「どこかかゆいところございませんか?」
って聞かれてるところだったしなあ。そのうち気づいたら保津川下りの真っ最中だったり炭鉱で石炭掘ってたりするんじゃないかと思うと、もー怖くて怖くて。やはりお酒の飲み過ぎはいけないわね。気をつけよう。
ところでテレビと言えば最近、
「結婚や恋愛に夢が持てないぞ、どうしましょ。男が女を甘やかすから悪いのよ、いいえ女がわがままなのよ、いや実はその逆なのかもしれないわ」
のようなテーマで呼ばれて行くことが多い。これ、少し前は女性の仕事について、そのまた少し前はセクシュアル・ハラスメントについて、だったんだけどね。年末年始をひかえて、なんだか沢山のお金を使って女の子をもてなす男の子がいるらしいとか、その夜一緒に遊んでたわけでもないのに、女の子に電話で呼び出されると車で駆けつけて家まで送ってあげる男の子がいるようだとか、そういう噂からテーマが出てるらしいんだわ。
私も話を聞いたばかりの頃は、
「そういう男の子って実在すんのお?」
ってそればかり考えてたけど、もう、なんか今では、そういう男の子が実在しようが増殖してようがどうでもよくなっちゃった。それは逆に、夫でもステディでもない男に多額のプレゼントをもらって平気だったり、何かをさせることだけが目的で男の子を呼び出すのが平気だったりする女の子が実在するかどうかってことでもあるんだけどさ、結局は、
「こういうやつ、一匹いたら見えないところにあと三十匹はいるはず」
というゴキブリ勘定で話が広がっちゃってるんだもん。そんなこと、本気にしてたらきりがないじゃん。
情報処理能力がトホホであるという自分のおつむを棚にあげるようだけど、私、自分の目で見たことじゃないと信じないようにしてんの。もひとつあと、好きな人の言うことは、信じる。私にとって情報は、「人からもらうもの」。誰だかよくわかんない人が匿名で書いてる文章とか、読む気しないや。新聞も読まないし、地理や歴史は丸出だめ子だ。歴史ものの漫画描いてるけど、もちろん原作付き。南方熊楠《みなかたくまぐす》って人の漫画なんだけど。そのクマグスが死んでから五十年経った記念の行事に、荒俣宏さんや中沢新一さんや神坂次郎さんら豪華メンバーの中、何にも知らないのに呼んでもらっちゃってね。
「クマグスは素晴らしい人ですね。内田さんはどんな思い入れを持ってお描きになっていますか」
なんて聞かれて、
「いえ、その別に……嫌いな人だとは思わないけど……会ったことないし……」
とまぬけな返事で質問者を困らせたりなんかして。そうなるのはわかってたから、原作者と二人羽織して出たいってNHKの人に言ったんだけど、だめだったのよね、あーあ。まっ、いいか。中沢さんに芸者遊び教えてもらって楽しかったし。
話を戻して、つまり何でも女の子の言いなりになるように見える男の子ってのは、
「こら、お前には自分がないのか。周りの人間の評価だけで自分を決めるのか」
なんて言われちゃうんだろうけども、でもさー、「自分」って、何にもないところからわいて出てくるものじゃなくて、じっさい「周りの人間(もちろん家族も含む)の評価のカタマリ」だよう。その中には、愛のある評価も、冷たい評価も混ざってるんだろうけど、
「私はこういう人間だ」
と考えるときは、その他人の評価のカタマリの中から、まっいいか、と思えるものを採用して組み立てるわけでしょ。だからさ、そのときに、雑誌の意見とかテレビで言ってることとか、よく知らない人の意見まで混ぜちゃうと、ややこしいことになるんじゃないかなあと思うんだ。いくら口が悪くても、自分が会って話してきた人たちだけの意見で、自分を組み立てないと、どんどん自分が拡散してって、わけわかんなくなっちゃう。そうすると、当然恋愛とか、やりにくくなっちゃうよね。
「こういう恋愛する人がいい」
っていう雑誌なんかの意見まで自分の中に入れ始めると、だんだん何がほんとに自分にとって気持ちいいもんなのかわかんなくなってきちゃうと思うもん。
だから、傷つくのをこわがんないで、目の前に、
「あなたが好きよ」
ってなりふりかまわず言ってくれる人間がいたら、心を開きなさい、ベイビー。傷つけあうのも、楽しいわよん。
「結婚や恋愛に夢が持てないぞ、どうしましょ。男が女を甘やかすから悪いのよ、いいえ女がわがままなのよ、いや実はその逆なのかもしれないわ」
のようなテーマで呼ばれて行くことが多い。これ、少し前は女性の仕事について、そのまた少し前はセクシュアル・ハラスメントについて、だったんだけどね。年末年始をひかえて、なんだか沢山のお金を使って女の子をもてなす男の子がいるらしいとか、その夜一緒に遊んでたわけでもないのに、女の子に電話で呼び出されると車で駆けつけて家まで送ってあげる男の子がいるようだとか、そういう噂からテーマが出てるらしいんだわ。
私も話を聞いたばかりの頃は、
「そういう男の子って実在すんのお?」
ってそればかり考えてたけど、もう、なんか今では、そういう男の子が実在しようが増殖してようがどうでもよくなっちゃった。それは逆に、夫でもステディでもない男に多額のプレゼントをもらって平気だったり、何かをさせることだけが目的で男の子を呼び出すのが平気だったりする女の子が実在するかどうかってことでもあるんだけどさ、結局は、
「こういうやつ、一匹いたら見えないところにあと三十匹はいるはず」
というゴキブリ勘定で話が広がっちゃってるんだもん。そんなこと、本気にしてたらきりがないじゃん。
情報処理能力がトホホであるという自分のおつむを棚にあげるようだけど、私、自分の目で見たことじゃないと信じないようにしてんの。もひとつあと、好きな人の言うことは、信じる。私にとって情報は、「人からもらうもの」。誰だかよくわかんない人が匿名で書いてる文章とか、読む気しないや。新聞も読まないし、地理や歴史は丸出だめ子だ。歴史ものの漫画描いてるけど、もちろん原作付き。南方熊楠《みなかたくまぐす》って人の漫画なんだけど。そのクマグスが死んでから五十年経った記念の行事に、荒俣宏さんや中沢新一さんや神坂次郎さんら豪華メンバーの中、何にも知らないのに呼んでもらっちゃってね。
「クマグスは素晴らしい人ですね。内田さんはどんな思い入れを持ってお描きになっていますか」
なんて聞かれて、
「いえ、その別に……嫌いな人だとは思わないけど……会ったことないし……」
とまぬけな返事で質問者を困らせたりなんかして。そうなるのはわかってたから、原作者と二人羽織して出たいってNHKの人に言ったんだけど、だめだったのよね、あーあ。まっ、いいか。中沢さんに芸者遊び教えてもらって楽しかったし。
話を戻して、つまり何でも女の子の言いなりになるように見える男の子ってのは、
「こら、お前には自分がないのか。周りの人間の評価だけで自分を決めるのか」
なんて言われちゃうんだろうけども、でもさー、「自分」って、何にもないところからわいて出てくるものじゃなくて、じっさい「周りの人間(もちろん家族も含む)の評価のカタマリ」だよう。その中には、愛のある評価も、冷たい評価も混ざってるんだろうけど、
「私はこういう人間だ」
と考えるときは、その他人の評価のカタマリの中から、まっいいか、と思えるものを採用して組み立てるわけでしょ。だからさ、そのときに、雑誌の意見とかテレビで言ってることとか、よく知らない人の意見まで混ぜちゃうと、ややこしいことになるんじゃないかなあと思うんだ。いくら口が悪くても、自分が会って話してきた人たちだけの意見で、自分を組み立てないと、どんどん自分が拡散してって、わけわかんなくなっちゃう。そうすると、当然恋愛とか、やりにくくなっちゃうよね。
「こういう恋愛する人がいい」
っていう雑誌なんかの意見まで自分の中に入れ始めると、だんだん何がほんとに自分にとって気持ちいいもんなのかわかんなくなってきちゃうと思うもん。
だから、傷つくのをこわがんないで、目の前に、
「あなたが好きよ」
ってなりふりかまわず言ってくれる人間がいたら、心を開きなさい、ベイビー。傷つけあうのも、楽しいわよん。