雨が降るとお前は家を出ていく、と指摘されたのは五年ほど前だったろうか。あれまあ、そう言われればそうかもしんないわ、と少し驚いた。そりゃあたしにはちょっとばかし放浪癖があるけど、誰だって雨の日は外出したがらないものだし、自分だって人並みにそうだとその時までは思ってたのよね。
水や魚や両生類や爬虫類だって、みんなが好きなんだと思ってた。私だけでなく、子どもはみんな池でびしょぬれになってオタマジャクシをすくってたじゃない。どこの家だって、金魚くらいは飼っているじゃない。日本にはこんなに沢山水族館があるじゃない。だから今でも自分が特別に水に入れ込んでるとは、あまり思ってない。お魚仲間もいっぱいいるし。
でもいるのよね、たまにえらく珍しがる人が。事務所に来て、
「わあ。これって、シーラカンスなんですかあ?」
とか聞いたりして。あのなあ、知らねえんだったら「何ですか」って聞けよ、と内心思いつつ、何度でも同じことを教えてあげてる私。そんな日は、ふと思い出すこともある。
私は子どもの頃、ひもを付けて首から吊るす、プラスチックのでっかいおもちゃのロケットに、トカゲの子どもを入れて持ち歩いていたことがあった。トカゲの子どもは背中が青くてとても綺麗だ。いいもの見せてあげるね、と私がロケットのふたを開けて差し出した時の幼い女友だちの驚いた顔。
池袋西武のペットショップで、マネージャー(男)と一緒にタイワンサンショウウオを買ったとき、お店の人に、
「好きなの選んでいいよ」
と言われて、
「わーい、それじゃね」
と水槽に手を入れた私の腕を、思わずはっしと掴んだ彼の大きな手。
事務所の求人を見て面接に来て、水槽の中のアフリカのカエルと目が合って、回れ右して帰った女の子。
まったく失敬な。まるで私が猟奇な人みたいじゃん、冗談じゃないよ。でも、さすがに、
「わあ。いっぱい魚飼ってるんですねえ。変わった魚がいるー。あっ、でも普通の金魚も飼ってんですねー。あ、トカゲもコオロギと一緒に暮らしてるー」
なんて、転がるような声で言われると、金魚は肉食魚のエサで、コオロギはビッグヘッドイグアナのエサだよとは言いにくい、とほほ。
まてよ。ということはもしかしてエイリアンの人形を三体も持ってたり、持ってるレーザーディスクのほとんどがホラーだってのも……いや、これ以上考えるのは止めよう。
これって、人を丸裸にして走らせるような企画だなあ。美意識かあ。あたしにもそんなもんあったのかな。あたしは、水のことを美しいものだと思っているのだろうか。そうなのかも知れない。水っけのある人も好きだしな。水商売ぽいという意味でなく、たとえば汗をよくかく人。手の濡れている人。私は体の水はけが良過ぎる体質で、髪も、肌もとても乾く。だからかしら、冬にはしょっちゅう静電気で痛い目に遇ってる。運動しないせいもあるけど、汗もほとんどかかない。玉になって顔をつたうことなんて、一年に一度あればいいほう。そうだね、水を出している人が好き。ちょっと隠微な言い方になったね。
でもさ、水族館って、メディテーションのための場所でしょ。恋愛の展開にも役立つし。子どものものだと思ってる人がたまにいる。地方のタクシーの運転手の人とかね。現実として受けとめてはいるけど、苦手だな。これも美意識のうちかもね。
「わあ。これって、シーラカンスなんですかあ?」
とか聞いたりして。あのなあ、知らねえんだったら「何ですか」って聞けよ、と内心思いつつ、何度でも同じことを教えてあげてる私。そんな日は、ふと思い出すこともある。
私は子どもの頃、ひもを付けて首から吊るす、プラスチックのでっかいおもちゃのロケットに、トカゲの子どもを入れて持ち歩いていたことがあった。トカゲの子どもは背中が青くてとても綺麗だ。いいもの見せてあげるね、と私がロケットのふたを開けて差し出した時の幼い女友だちの驚いた顔。
池袋西武のペットショップで、マネージャー(男)と一緒にタイワンサンショウウオを買ったとき、お店の人に、
「好きなの選んでいいよ」
と言われて、
「わーい、それじゃね」
と水槽に手を入れた私の腕を、思わずはっしと掴んだ彼の大きな手。
事務所の求人を見て面接に来て、水槽の中のアフリカのカエルと目が合って、回れ右して帰った女の子。
まったく失敬な。まるで私が猟奇な人みたいじゃん、冗談じゃないよ。でも、さすがに、
「わあ。いっぱい魚飼ってるんですねえ。変わった魚がいるー。あっ、でも普通の金魚も飼ってんですねー。あ、トカゲもコオロギと一緒に暮らしてるー」
なんて、転がるような声で言われると、金魚は肉食魚のエサで、コオロギはビッグヘッドイグアナのエサだよとは言いにくい、とほほ。
まてよ。ということはもしかしてエイリアンの人形を三体も持ってたり、持ってるレーザーディスクのほとんどがホラーだってのも……いや、これ以上考えるのは止めよう。
これって、人を丸裸にして走らせるような企画だなあ。美意識かあ。あたしにもそんなもんあったのかな。あたしは、水のことを美しいものだと思っているのだろうか。そうなのかも知れない。水っけのある人も好きだしな。水商売ぽいという意味でなく、たとえば汗をよくかく人。手の濡れている人。私は体の水はけが良過ぎる体質で、髪も、肌もとても乾く。だからかしら、冬にはしょっちゅう静電気で痛い目に遇ってる。運動しないせいもあるけど、汗もほとんどかかない。玉になって顔をつたうことなんて、一年に一度あればいいほう。そうだね、水を出している人が好き。ちょっと隠微な言い方になったね。
でもさ、水族館って、メディテーションのための場所でしょ。恋愛の展開にも役立つし。子どものものだと思ってる人がたまにいる。地方のタクシーの運転手の人とかね。現実として受けとめてはいるけど、苦手だな。これも美意識のうちかもね。