新宿の駅ビルで買い物をしていたら、鼻歌が聞こえてきて思わずそっちを見た。ヘッドフォンをしたある女性が、けっこう大きな声でフンフンと歌っているのだ。彼女は、ハイウエストのスカートとボレロの、はやりの形のグレーのスーツを着ていた。前髪をかなり太いカチューシャで上にあげ、その後ろをポニーテールにして、その根元には、ピンポン玉ほどもあるプラスチックの玉を二つも付けている。
このピンポン玉大プラスチック球二個付きの髪飾りは、売っているところだけはよく見るのだが、つけている人を見たのは初めてだ。あまりに飾りの玉が大き過ぎて、何か特にそういう趣向の時にしか使えそうになく思われた。子どもがつけるには重すぎるだろうし。
しかしその人は、その上に太いカチューシャまでつけ、まわりの人に聞こえる声で鼻歌まで歌っているのであった。その状態と、ハイウエストのグレーのスーツの似合わなさ加減は、ほとんど芸術といってもいいくらいで、なんだか私は感動してしまったのだ。
今はひとに「ダサい」と指さされないだけの格好なら、しようと思えばいくらでも出来る。都内には、「ここですべてをそろえさえすれば、絶対におしゃれに失敗することはありません」的なお店がいくらでもある。そういう所へ行くと、おしゃれな格好をした人がいっぱい歩きまわっていて見ているだけなら面白い。
でもその人たちは、どういうことが好きな、どういう人物なんだろうという興味を持てないような人たちなのだ。それになぜかみんな香水くさくてかなわない。あの香水、もし会社でもつけていたら周りはたまらないと思うんだけど、会社を出てからつけるのかしら。退社後にまでにおいが残るように、朝は死ぬほどリンスのにおいをさせてる人もいるけど、よっぽどもてないのね、って思っちゃう。
もっとあのピンポン玉の女性のように堂々としてほしいものです。