漫画家というと、「とにかくしめ切りに追われているもの」だと思っている人がいる。以前、あるテレビ番組の人が、私のバンドのライブを撮るという打ち合わせに来たとき、「前日からずっと仕事して、寝ないでライブハウス行ったりするわけですよね」と当然のように言うので驚いてしまった。
そんなことしてたら、どっちの仕事も続かなくなると思いませんかと説明すると、「週に何本もしめ切りがあって、ほとんど寝ない生活してらっしゃると思ってたのに」とがっかりしている。まったく「困ったちゃん」な人である。
しかし、そういうふうに言ってる人がいるから、信じる人もいるのかもしれない。寂しい人ほど忙しいと言いたがるものだ。あまりわかりやすくしてくれちゃ困るわ。普通のお勤めだって、いくら八時間労働と言っても、内容はさまざまでしょう。ああ、今日はなんにもしなかったなあ、という日から、びっしり仕事した日まで。漫画家だって同じだよう。
でもこれも相対的なもんで、ひまだと思われるようなことを続けてすると、へんちくりんな仕事が来ちゃったりするの。だから、相手によって言い方がついかわっちゃうんだよん。優しい気持ちで「お忙しいでしょう」と言ってくれるひとにはつい「いやあ、そうでもないですよう」なんて言ったそばから、へんな仕事を依頼してきた人に「時間ないもん」と言っちゃったりなんかして。
でも、へんな仕事頼んでくる人って、「そんなへんな仕事、やだ」と言っても聞いてくんないもんなんです。「こんなテーマなんてへんだ、というそのお考えを書いて下さればいいんです」なんて言い返されちゃって、禅問答に突入。そこでやっと、ああこの人はページ埋まれば何でもいい人だったんだ、と気づいたりね。
でも受けた仕事は、がんばる。受けたのも自分なら、しめ切りを決めたのも自分。ぐちの種にするのは、ちょっと反則ね。