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旅路89

时间: 2019-12-30    进入日语论坛
核心提示:    14太平洋での日米の戦いは、この昭和十七年を境として一つの転機を迎えていた。国民にはその真実は固く隠されていたが、
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    14

太平洋での日米の戦いは、この昭和十七年を境として一つの転機を迎えていた。
国民にはその真実は固く隠されていたが、六月のミッドウェー海戦、ソロモン海戦で日本海軍は主力である航空母艦四隻を一度に失い、ガダルカナルでは制空権を失い、補給の道を断たれての苦闘半年のあげく、二万数千の陸軍部隊のほとんどが殪《たお》れ、残った一部は撤退という最悪の事態を迎えた。
大本営は、これを退却とは言わず、転進と称したが、ソロモン群島でも、ニューギニヤ方面でも日本軍は一足一足押し返されていた。
その頃《ころ》、岡本良平の所属する鉄道第九連隊はタイのバンコックに上陸し、タイとビルマの国境を越える、いわゆる泰緬《たいめん》鉄道建設に苦闘していた。
山越え約四百|粁《キロ》余りの技術的にもまったく不可能に近いような地域の鉄道建設が、空中測量による地図によって、遮二無二進められて行った。
なにしろ熱帯のジャングルをきりひらいての仕事である。雨期には連日のスコールで、ジャングルがすっぽり大きな沼のようになってしまう。そうなると、もはや機関手も保線手もない、良平も膝《ひざ》まで水につかりながら枕木《まくらぎ》を運び、レールを敷設した。
もちろん、疲労や病気でたおれる者が続出した。それでも工事は夜を日についで敢行されたのである。
何故《なぜ》このような難工事を、多大の犠牲をはらってまで行なわなければならなかったかというと、海軍がミッドウェー海戦に敗れて後、インド洋の海上輸送が困難になったため、どうしてもタイとビルマとをつなぐ鉄道が必要になったのだった。
軍は無理を承知で苛酷《かこく》なスケジュールの実行を要請し、鉄道隊はただ夢中で、この突貫工事にぶつかって行った。
そんな良平のところへ、故郷の留守宅から便りが来た。長男の辨吉からの手紙である。
『お父さん、元気ですか、僕たちもみんな元気です。毎日、お母さんの手伝いをしながら、一生懸命勉強しています。雪子姉さんはお国のためだからと、工場へ勤労奉仕に行っています。近頃《ちかごろ》はみんなあまり兄弟|喧嘩《げんか》をしません、喧嘩をすると、お母さんが、そったらことでは戦地へ行っとるお父さんが心配するよと叱《しか》るからです。お父さんが出征してから生れた邦夫も元気です。早く、お父さんに逢《あ》わしてやりたいと思います。僕らはお父さんの顔を知っているから、思い出したいときはいつでも思い出せるけれど、邦夫はお父さんの顔を知らんのでかわいそうだと思います。僕も早く大きくなってお父さんたちの手伝いがしたい、みんなでいつもそう話し合っています……』
良平は手紙を読みながら、思わず涙をこぼした。妻や子のことを考えたせいでもあるが、彼はふと今は亡き父、新平のことを想い出したのだった。
(あんなに孫の顔を見たがっていたお父《とう》に、一目だけでも今の子供たちを見てもらいたかった……あんまり沢山の子が居るんで、おったまげるかもしんねえがなあ……)
しかし、良平は内地の事情を知ったら、或《あるい》はこの空想を撤回したかもしれなかった。
昭和十八年二月、国鉄は全国旅客列車運転の大縮減を断行した。
特急かもめは廃止され、つばめ大阪打切り、主要幹線の急行廃止、熱海《あたみ》、伊東《いとう》行は小田原《おだわら》で打切りとなったし、北海道でも、客車のダイヤが削減された。
線路も枕木も老朽化《ろうきゆうか》しても交換できず、その上、軍需物資輸送に酷使された。
もし、新平|爺《じい》さんが生きていたら、どんなにか危ながり、鉄道のために歎《なげ》き哀《かな》しんだことだろう。しかし、最早《もはや》、そんな平和時の常識の通用する時代ではなくなっていた。
とにかく一発でも多くの弾丸を、一機でも多くの飛行機を前線へ送り込むために、国民のありとあらゆる総力が結集されて行った。
雄一郎のところの秀夫も、次第に汽車での通学が不便になり、三郎と同じように旭川中学の寄宿舎へ入った。
そして、夏、有里がひそかに恐れていた日が遂にやって来た。
室伏雄一郎の軍属出征である。
上司よりその通達を受けると、雄一郎は直ちに、日頃《ひごろ》から世話になっている人々に挨拶《あいさつ》をして回った。
その間に、有里は家の中の荷物を整理して、いつでも引っ越せる用意をはじめた。
「あれっ、もう荷物片したのかね……」
岡井よし子がそれを見て、あきれたように眼を瞠《みは》った。
「そんなに慌てて引っ越しせんでもいいのに……まだ後任の助役さんが引っ越して来たわけではなし……」
「でも、官舎ですから、主人が居なくなったらいつかは出なければなりませんもの……」
有里はとっくに覚悟は出来ていた。
徴兵検査にこそ合格しなかったものの、夫の年齢や体格からいっても、いずれは軍属か兵隊にとられるものと思っていたのだ。
しかし、いざとなると、やはり有里はうろたえた。そんな気持の捨て場に困り、荷物の整理をはじめたというのが正直なところだったかもしれない。
よし子にも、そうした有里の心の動揺は通じたのだろう。
「ねえ、もしよかったら、あたしのところへ一緒に住もうよ、うちの人も是非そうするようにって言ってるし……」
しきりにすすめた。
「ありがとうございます……」
「ねえ、ほんとに気兼することないんだよ、同じ鉄道員なんだから……困った時はおたがいさまだよ……ご主人にもよく相談して……ね、そうするといいよ」
「はい……」
有里は黙って頭を下げた。
ほんとうに、なんと礼を言ってよいかわからぬくらい、有里にはよし子の言葉が嬉《うれ》しかった。
「したら、あたし、夜に又うちの人と来るからね……」
よし子が帰って行くとすぐ、隣りの部屋から雄一郎が出て来た。彼は挨拶まわりをすますと、すぐ部屋にとじこもり、何か遺書のようなものを書いていたらしかった。
「岡井さんの奥さんの話は聞いたよ……お前どうする……」
「ええ……」
有里は考えながら、夫に茶をいれて出した。
「尾鷲《おわせ》へ帰っているのが一番いいのでしょうけれど……秀夫の学校のこともありますしねえ……千枝さんのところへとも思ったんですけど、あそこも手狭でしょうし、第一、秀夫が寄宿舎から帰ってくるのに遠すぎるような気がするんです……」
「したら、当分お言葉に甘えて岡井さんの厄介になるか……そのうち富良野か旭川にでも家を借りることにして……」
「そうですねえ……とりあえずそうさせて頂こうかしら……」
「うん……」
雄一郎も頷《うなず》いた。しかし、そのまま二人は黙りこんでしまった。これから先のことを思うと、つい、気持が沈みがちになる。
雄一郎がふと口をひらいた。
「俺たち、結婚して何年になるかなあ……」
「今年で十八年ですわ……」
有里はすぐに答えた。つい先刻、数えてみたばかりだったのだ。
「十八年か……長い年月だが、なんだかあっという間に過ぎてしまったような気がするなあ……」
「ええ……そうなんです、私もさっきそう思ったんです……」
「おい、ちょっと手を出してみろよ……その……右手の方だ……」
「右手……」
有里は言われるままに右手を出した。すると雄一郎の手がのびて来て、彼女の右手をしっかりと掴《つか》んだ。そして、いつも有里がしている中指の指貫《ゆびぬき》をスッとはずした。
「これ、もらって行くよ……」
「あら……どうして……」
「いつもはめてたろ、嫁に来てからずっと……これをはめて、いつも縫い物していたろ……」
「あなた……」
有里はじっと雄一郎を見詰めた。見詰めているうちに、なんだかジンと胸の奥が熱くなるのを感じた。
「今日、挨拶《あいさつ》まわりをして来たが、お前のことはとうとう駅長にも誰《だれ》にも頼むと言えなかった……いや、わざと言わなかったんだ……」
「わかっています、あなた……あなたのお帰りになる日まで、私、誰にも迷惑をかけないように、秀夫としっかり生きて参ります……」
「すまん……」
「あなた、どうぞしっかりお国の為に働いて来て……」
「うん……」
妻の使い古した指貫を胸に抱いて、雄一郎は出発して行った。
有里はとうとう最後まで、涙を見せずに夫を送り出した。しかし、その有里の、本当は必死で哀《かな》しみに耐えている、胸のうちを一番よく知っているのも雄一郎だった。彼もまた、ちょっと目には冷めたいと思えるくらい、妻にいたわりや慰めの言葉をかけなかった。
それでいて、二人はお互に相手の哀しみや、いたわりの心を充分理解し合っていたのである。それは言葉などでは到底表現し得ぬ、繊細な夫婦の感情の交流だった。
若くて、まだ不器用な時代には、恋は表面にギラギラと燃えていた。結婚し、生活を共にして、一緒に喜び苦しみをわかち合った今では、互に相手を恋うる気持はずっと心の奥の方に沈んでいた。が、その強さに於てはそれは昔とすこしも変るところはなかった、それどころか、前よりもいっそう強く、きめこまかにさえなっていたのである。
だが、そうした微妙な気持のやりとりは、まだ秀夫にはわからなかった。
雄一郎を乗せた列車が遠く走り去ったとき、秀夫がいきなり母の手を引っ張って走り出した。大勢の見送り人たちの群から離れ、秀夫は有里を無人踏切の上まで連れてくると、自分はいきなり突っ伏して、線路に耳を押しつけた。
「母さん、聞えるよ……父さんの乗った汽車の音……早く、早く、聞いてごらん……」
「秀夫……」
有里もすがりつくように冷めたい線路に耳を押し当てた。
確かに秀夫の言うように、ゴトン、ゴトン……、なにか巨大な生命の鼓動のような、鈍い、重量感のある響きが伝わって来た。
「ね、母さん、聞えるだろう……」
「ええ……聞える……」
「まだ聞えるよ……」
「ええ、まだ聞えているわ……」
銀色に長く光る線路は、ゆるやかにカーブを描きながら夕張の連山の中に消えていた。
そして、その上に、まぶしいくらい澄みわたった青い空があった。
有里の心の中で、張りつめていた糸がプツンと切れた。
夫との別れの哀しみが、急に有里の胸に大きくふくれ上って来た。
有里は線路に頬《ほお》を押しつけたまま、遠のいて行く列車の音にじっと耳をすませた。
「行ってらっしゃい、あなた……きっと生きて戻って来てくださいね、お願い……」
先刻プラットホームでは言えなかった言葉を、声にならない声で叫んだ。
「秀夫と私のことを考えて……絶対に死なないで帰って来てください……」
いつの間にか涙が頬を伝い、冷たい線路を濡《ぬ》らしていた。
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