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旅路99

时间: 2019-12-30    进入日语论坛
核心提示:    24それから五日間くらい、啓子は秀夫によそよそしくしていた。秀夫が声をかけても、逃げるように自分の部屋へ這入《はい
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    24

それから五日間くらい、啓子は秀夫によそよそしくしていた。
秀夫が声をかけても、逃げるように自分の部屋へ這入《はい》ってしまったり、食事の時に顔を合せても、恥かしそうに、そっぽを向いている。
だが、その五日が終ると、啓子はけろりとして、又、元の快活な女の子に戻った。
前と同じように、秀夫に腕ずもうを挑んだり、丸太の上をとび跳ねたりする。
けれど、そうした子供っぽい動作の中に、どうかすると時折、はっとするほど娘らしさが匂《にお》い立つことがあった。
そうした啓子の変化に、秀夫は敏感に気がついた。気がついた時、彼の中にも、彼自身はっきりとは意識しない、啓子に対する或《あ》る感情がひっそりと育ちかけていた。
それは、秀夫と啓子が前からの約束で、須賀利《すがり》の大伯父《おおおじ》の家へ遊びに行った日のことである。
中里家では、弘子がみちを相手に、かなりはげしい口調で最近の秀夫と啓子のことを問題にしていた。
「そら、お母はんの目から見たら、二人は子供に見えるかも知れへんけど、世間の人は二人を子供あつかいしてへん……子供や子供や思うて安心してるさかい、つまらん噂《うわさ》立てられるんや」
「そやかてお前、あの子たちはまだ十八に十四や、二人の仲がおかしいやなんて、言う人の方がよっぽどおかしいわ」
「十四いうたかて、啓ちゃんにはもう一人前のしるしがあったそうやないの……まして、秀夫ちゃんは十八でしょう、十八歳の男いうたら、もう、それこそ何もかも一人前や、あの年頃《としごろ》の子は、カッとするとなにをしでかすか知れたもんやないわ」
「阿呆《あほ》らし、秀夫はそんな不良やない……啓子と秀夫はきょうだいのように仲良うしとるだけや、つまらん事いわんとき」
「うちが言うてるのやおへん、世間の人が言うてますのや」
ちょうど、みちの薬を持ってきた有里に、今度はその鋒先《ほこさき》を向けた。
「有里、あんたもあんたやで……年ごろの女と男をたった二人っきりで須賀利へ遊びにやるなんて、危険やないの」
「えっ……」
有里は不意をつかれて面くらった。
「でも……二人は従兄妹《いとこ》同志だし……」
「従兄妹同志やったら、おかしなことにはならんという保証がどこにあるの」
「おかしなことって……?」
「従兄妹同志やったら、尚更、気をつこうてやらなあかんやろ、従兄妹同志の結婚は、産まれてくる子に悪い影響があるって昔からいうやないの」
「そんなことどうでもよろし……」
みちが腹立たしそうに吐き捨てた。
「それやったら、お母はんは、二人を結婚させるおつもりですか」
「結婚やなんて……二人はまだ、そんな間柄やないやないか」
「そうですよ、お姉さん、気のまわしすぎですよ」
「そう……二人がそない言うのなら、うちはもう何にも言わん……」
弘子はひらき直った恰好《かつこう》で、頷《うなず》いた。
「あとになって、何が起っても、うちは知らんえ」
有里はちょっと不安になった。
「お姉さん、二人のことが世間で噂《うわさ》になっているって、本当ですか」
「嘘《うそ》だと思ったら、自分で行って聞いてみるとええわ、中里家には、はやばやと曾孫《ひまご》が生れるかも知れんて……浜のほうじゃ、寄るとさわるとそない言うてるそうや」
「曾孫が生れる……」
さすがに、みちは顔色を変えた。
「そんな阿呆《あほ》な……」
しかし、事の重大さに、みちもようやく心配になりだした。
「有里……万が一にも間違いはないと思うけど……念のため、今夜にでも秀夫によく注意しておいたほうがええな。啓子には幸子から注意させるさかい……」
「はい……」
秀夫のことを疑う気は毛頭なかったが、そのような噂を立てられないようにすることは必要だと思った。
その頃、秀夫と啓子は伯父の家の舟を漕《こ》ぎだして遊んでいるうちに、ちょっとしたはずみで顛覆《てんぷく》させてしまい、二人とも濡《ぬ》れねずみで浜辺へたどりついて、服を火で乾かしている最中だった。
「そやから言わんことやないわ、カッターは漕げても、小舟は漕げんのや」
「馬鹿《ばか》、お前が怖がって立ち上ったのがいけないんだ……動かなけりゃ、ひっくり返りゃしなかったんだぞ……」
「負け惜しみ言ってるわ」
「つべこべ言わずに火をもせよ」
「寒いわ、十月の海やもん……北海道でなかったのが、せめてものなぐさめやわ」
「ちぇッ、口ばっかり達者だな」
秀夫が怒ったような顔をすると、
「ねえ、秀兄ちゃん、寒くない……?」
今度は機嫌をとるように、おずおずした口調で言った。
「寒くなんかないよ」
「北海道はもっと寒いって言いたいんでしょう」
「忘れたな、北海道の寒さ……随分帰らんもん……」
「もう雪が降ってる?」
「山はそろそろ白くなるな」
「北海道へ帰りたい?」
「そりゃア帰りたいさ」
「でも、大阪の高等学校へはいるんでしょう」
「どうせ受験するなら、北海道で受験したいよ」
「そんなに帰りたいの……」
「そりゃアそうさ、故郷だもの」
「故郷……」
「といっても、家もなし、行くあてもなしってところだけどな」
秀夫がぼんやり呟《つぶや》いたときだった。突然、それまでの会話の調子とは無関係に、
「秀兄ちゃんの意地悪……そんなに帰りたいのなら、早くお帰り……」
啓子が叫んだ。
「啓ちゃん……」
秀夫は吃驚《びつくり》して啓子を見た。
「早よう、お帰り……啓子のことなんか放っといて……さっさと北海道へ帰ったらええんや……」
「おい、啓ちゃん……」
「好かん……意地悪……意地悪……意地悪……」
啓子は泣きそうな顔で、手にした小枝で秀夫の肩を何度も叩《たた》いた。
秀夫は叩かれても、別に痛いと感じなかった。それどころか、啓子が自分との別れを哀《かな》しんでくれているということで、ジンと胸がしびれるような感動さえおぼえた。そんな啓子の気持を、秀夫はいじらしいと思った。
しかし、それはあくまでも、少年と少女の淡い感情だった。
兄と妹のような馴《な》れであり、親しみにすぎなかった。
けれど、二人をとりまく大人たちは、そうしたデリケートな若者の心を理解する余裕がなかった。ちょうど、終戦の混乱期で、大人たちの気持がすさんでいたし、まだ、男女の交際というものに、世間が鵜《う》の目|鷹《たか》の目になる時代でもあったのだ。
そして、いつの時代でもそうであるが、大人が強圧的に出れば出るほど、若者たちはそれに反抗した。反抗することによって、自分たちの潔白を証明するつもりのようだったし、悪くないのだから、態度を変える必要はないといった姿勢を示した。
だが、それはあくまでも表面的な姿勢にすぎず、内面では二人ともひどく傷ついていたのである。
「あんた、あんまり秀夫ちゃんと二人きりで町を歩いたりしたらあかんて、お母ちゃんに言われたやろ……」
裏の畑で花を摘みながら、秀夫の来るのを待っているらしい啓子を見付けて、弘子は早速きめつけた。
「なんで、お母ちゃんの言うこときけんの……」
すると、啓子は逃げだすかと思いのほか、叔母《おば》をにらみつけた。
「叔母さん、なんで秀兄ちゃんと二人でいたらいかんのです?」
「つまらん噂《うわさ》になったら、あんたに傷がつくからや」
「つまらん噂ってなんです?」
「啓子ちゃん……なんや、その口のききよう……」
「うちら、なんもやましいことしてへん……第一、秀兄ちゃんとうちとは従兄妹《いとこ》同志や、従兄妹同志が一緒に歩いてどこがいかんの」
「従兄妹かて、男と女や、人の噂にのぼったら困るのはあんたでっせ」
「かめしまへん、噂する人にはさせておいたらええのや」
「そうは行かしまへん、嫁入り前の娘に傷がつくのをみすみす放っておかれますかいな」
「傷って、なんです?」
「ええとこへ、嫁に行けんようになるんや」
「うちは平気や、そないな事で嫁に行けんのやったら、嫁になんか行かんもん」
「啓子ちゃん……」
「叔母さん、叔母さんこそつまらん噂たてとるんと違いますか……叔母さんは昔、秀夫ちゃんのお父さんと結婚する筈《はず》やったのやろ」
「啓子ちゃん……そないなこと誰《だれ》に聞いたんや」
「誰でもええわ、叔母さん、ほんまに好きやった人のところへ嫁に行かれんかったさかい、それで、うちと秀夫ちゃんの仲ようしてるのが妬《ねた》ましいんやね」
「なに言うてるの、阿呆《あほ》らしい、誰がそないなこと言うたんや……」
弘子は顔色を変えていた。
「さ、啓子ちゃん、誰がそんな阿呆らしいこと言ったんや、はっきりと言うてみ……」
「うちが考えたんや」
「嘘《うそ》つき……」
「嘘やない……叔母さんは妬ましいんや、うちが羨《うらやま》しいんや、そやさかい、意地悪言うてんのや」
「啓子ッ……」
しかし、啓子は軽く弘子の腕をはずし、栗鼠《りす》のような敏捷《びんしよう》さで逃げて行った。
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