釣り上げし岩魚の下の前穂高 眉峰
「イワナは足で釣れ」と、いわれるくらい、この釣りは滝や岩棚をのぼり、まだ誰も釣っていない川上、そう、海抜にして九百メートル以上の山の渓流に入っていかなければなりません。
イワナは用心深い魚で、物音を立てたり、太陽を背にして釣ってもダメ、人影が流れに写っただけでも、さっと岩陰に隠れてしまいます。それこそ「音なしの構え」で釣らなければならないところに、イワナ釣りのむずかしさがある——と、いわれるゆえんです。
『大言海』には「谷川の岩穴に棲む魚」と、記されていますが、もしイワナのナを魚の意だとしますと、その名まえはイワナの習性を、よく捉えております。
同じ川魚仲間の棲息地域を、下流から遡《さかのぼ》ってみますと、ボラ・ハゼ・コイ・フナ・ウグイ・オイカワ(ヤマベ)、アユ、ヤマメ(アマゴ)の順になり、そして、いちばん上流の奥の院に鎮座しているのがイワナです。別名アマゴ(雨子)、またはアメマス(雨鱒)といわれますが、アメマス(本名ヤマメ)の稚魚ではなく、また、ヤマメはイワナの稚魚でもありません。「ヤマメの親魚である」と、漁師たちがいっているマスは、イワナとは同族ではあっても、全然別の品種です。
イワナは、一月頃から三月頃まで食味がよく、とくに塩焼きにするとおいしい。味は、ちょっとヤマメに似ていますが、ヤマメのほうが時季には脂が多く、時として、イワナよりも美味です。しかし、産卵期や、その直後には脂肪分を失って、これが同一の魚かと思えるほど、いちじるしく味が落ちます。それにひきかえ、イワナはさほど脂肪分に恵まれないため、産卵期に入っても、味は変らず、この時季のものでしたら、ヤマメにまさるとも劣らない味を持っています。
「イワナは足で釣れ」と、いわれるくらい、この釣りは滝や岩棚をのぼり、まだ誰も釣っていない川上、そう、海抜にして九百メートル以上の山の渓流に入っていかなければなりません。
イワナは用心深い魚で、物音を立てたり、太陽を背にして釣ってもダメ、人影が流れに写っただけでも、さっと岩陰に隠れてしまいます。それこそ「音なしの構え」で釣らなければならないところに、イワナ釣りのむずかしさがある——と、いわれるゆえんです。
『大言海』には「谷川の岩穴に棲む魚」と、記されていますが、もしイワナのナを魚の意だとしますと、その名まえはイワナの習性を、よく捉えております。
同じ川魚仲間の棲息地域を、下流から遡《さかのぼ》ってみますと、ボラ・ハゼ・コイ・フナ・ウグイ・オイカワ(ヤマベ)、アユ、ヤマメ(アマゴ)の順になり、そして、いちばん上流の奥の院に鎮座しているのがイワナです。別名アマゴ(雨子)、またはアメマス(雨鱒)といわれますが、アメマス(本名ヤマメ)の稚魚ではなく、また、ヤマメはイワナの稚魚でもありません。「ヤマメの親魚である」と、漁師たちがいっているマスは、イワナとは同族ではあっても、全然別の品種です。
イワナは、一月頃から三月頃まで食味がよく、とくに塩焼きにするとおいしい。味は、ちょっとヤマメに似ていますが、ヤマメのほうが時季には脂が多く、時として、イワナよりも美味です。しかし、産卵期や、その直後には脂肪分を失って、これが同一の魚かと思えるほど、いちじるしく味が落ちます。それにひきかえ、イワナはさほど脂肪分に恵まれないため、産卵期に入っても、味は変らず、この時季のものでしたら、ヤマメにまさるとも劣らない味を持っています。