さるやんごとない御方が、政争の渦に巻き込まれ、已《や》むなく都落ちされ、山陰のとある漁師のいぶせき賤《しず》が伏屋に辿り着かれ、食を求められたところ、「貧しきこととて、なんのおもてなしもできませぬが……」と、塩ごはんを仕かけ、作りおきの干カマスを焼いて、むしり身とし、浜で取れたわかめを火取ってもみほぐし、炊き上げたごはんにまぜ合わせ、手作りのおむすびにして差し出しました。
慣れない旅の疲れと空腹に、思わず手掴みで召し上がられた。そのような|いわれ《ヽヽヽ》を持つ「つまみの御料」は、京都御所の行事食として伝承されて来たと、聞き及びます。
カマスはからだが細長く、円筒形をしていて、とがった頭、大きな口、しかも下唇が長く受け口で、鋭い犬歯を持った精悍《せいかん》な面構えの魚です。主に太平洋沿岸の南日本に棲み、種類としては、アカカマス、アオカマス、ヤマトカマスなどがありますが、わたくしたちの手に入るおなじみのものはアカとアオのカマスです。しろうとには、ちょっと判別しにくく、いくぶん褐色の強いほうが前者で、黄味の多いのが後者です。漁獲から見ますと、春から夏にかけて獲れるのはアオが多く、秋から初冬にかけてはアカが多く獲れます。しゅんもアオカマスは夏、アカカマスは冬となっています。関西では夏から秋のものを好み、東京では冬の魚です。
生きのよいものなら、塩焼きやフライにしますが、水気の多い魚ですので、一塩の生《なま》干しにすると、「カマスの焼き食い一升飯」のことわざのとおり、こたえられないうまさで食が進みます。
焼くときには、皮目のほうから火にかざし、身で焼き上げ、狐色にこんがり焼き目のつくくらいの頃合いが食べ頃。熱々のうちにどうぞ。
慣れない旅の疲れと空腹に、思わず手掴みで召し上がられた。そのような|いわれ《ヽヽヽ》を持つ「つまみの御料」は、京都御所の行事食として伝承されて来たと、聞き及びます。
カマスはからだが細長く、円筒形をしていて、とがった頭、大きな口、しかも下唇が長く受け口で、鋭い犬歯を持った精悍《せいかん》な面構えの魚です。主に太平洋沿岸の南日本に棲み、種類としては、アカカマス、アオカマス、ヤマトカマスなどがありますが、わたくしたちの手に入るおなじみのものはアカとアオのカマスです。しろうとには、ちょっと判別しにくく、いくぶん褐色の強いほうが前者で、黄味の多いのが後者です。漁獲から見ますと、春から夏にかけて獲れるのはアオが多く、秋から初冬にかけてはアカが多く獲れます。しゅんもアオカマスは夏、アカカマスは冬となっています。関西では夏から秋のものを好み、東京では冬の魚です。
生きのよいものなら、塩焼きやフライにしますが、水気の多い魚ですので、一塩の生《なま》干しにすると、「カマスの焼き食い一升飯」のことわざのとおり、こたえられないうまさで食が進みます。
焼くときには、皮目のほうから火にかざし、身で焼き上げ、狐色にこんがり焼き目のつくくらいの頃合いが食べ頃。熱々のうちにどうぞ。