現代に伝わる禁忌習俗のなかに、屋敷内に植えることを忌《い》む樹木や草花があります。びわなどもその一つで、「びわの木は植えたひとが死なないと実がならない」といい、縁起のわるい木とされ、今でも寺院などに植えられています。
六月も中旬をすぎると、東京方面には九州長崎産のびわ、茂木種が出回りはじめます。茂木種は、江戸末期、長崎の茂木町に住む三浦喜平次の妹で、おしをという女性が、奉公先の長崎代官所に、中国領事から代官にと贈られた|びわ《ヽヽ》があまりにも見事だったので、その種子をもらい受け、自家の畑にまいたのがはじまり、といわれます。この時期には千葉県産の楠種が顔を出し、少し遅れて茂木種よりも大粒の田中種も顔を見せはじめます。甘味がうすく、楠種よりは味が劣ります。
枇杷買ひて夜の深さに枇杷匂ふ 汀女
ふだん家で食べるものは、箱詰のものより、粒が少々不揃いでも、籠詰のものが、概して味がよいようです。それというのも、よく熟《う》れたものを箱詰にすると、果皮が黒ずみ、売れなくなるおそれがあるので、どうしても未熟なものがあるからです。あれこれ細工するよりも、びわは冷蔵庫で二、三時間冷やして、生で食べるのがおいしく、甘味と酸味が渾然《こんぜん》一体となって、うま味を形づくり、果肉の口当りが、びわのだいご味をかもし出してくれます。
お買いになるときは、濃いオレンジ色をした、形のふっくらしたもので、うぶ毛に似た繊毛のあるものを選ぶこと。日時が経つにしたがってびわは果肉が締まって固くなり、外側がテカテカ光ってきます。皮を剥《む》いたとき、身が裂けたりするものは、鮮度のいちじるしく落ちた証拠。
枇杷の種一つ畳をつめたくす 雨町
六月も中旬をすぎると、東京方面には九州長崎産のびわ、茂木種が出回りはじめます。茂木種は、江戸末期、長崎の茂木町に住む三浦喜平次の妹で、おしをという女性が、奉公先の長崎代官所に、中国領事から代官にと贈られた|びわ《ヽヽ》があまりにも見事だったので、その種子をもらい受け、自家の畑にまいたのがはじまり、といわれます。この時期には千葉県産の楠種が顔を出し、少し遅れて茂木種よりも大粒の田中種も顔を見せはじめます。甘味がうすく、楠種よりは味が劣ります。
枇杷買ひて夜の深さに枇杷匂ふ 汀女
ふだん家で食べるものは、箱詰のものより、粒が少々不揃いでも、籠詰のものが、概して味がよいようです。それというのも、よく熟《う》れたものを箱詰にすると、果皮が黒ずみ、売れなくなるおそれがあるので、どうしても未熟なものがあるからです。あれこれ細工するよりも、びわは冷蔵庫で二、三時間冷やして、生で食べるのがおいしく、甘味と酸味が渾然《こんぜん》一体となって、うま味を形づくり、果肉の口当りが、びわのだいご味をかもし出してくれます。
お買いになるときは、濃いオレンジ色をした、形のふっくらしたもので、うぶ毛に似た繊毛のあるものを選ぶこと。日時が経つにしたがってびわは果肉が締まって固くなり、外側がテカテカ光ってきます。皮を剥《む》いたとき、身が裂けたりするものは、鮮度のいちじるしく落ちた証拠。
枇杷の種一つ畳をつめたくす 雨町